桜が散る頃に
「無理に決まってんだろ!?そこまで言うならお前が行けよ!」
「イケメンにはイケメンをって言うだろ?」
そんなことわざあってたまるか!そもそも俺はイケメンでもなんでもないし。ただでさえ人と話すのが苦手な俺が初対面の相手に話しかけるだと?!無理に決まってる。どうせ「この人誰だ?」ていう反応が返ってくるに違いないのに!なんてダラダラ考えていた俺は気づかなかった。練習を終え体育館の入り口に向かって来ている祐希に。友達が「来たぞ!」なんて言って俺の背中を押すもんだから俺は突然の事に反応できなくて、必然的に祐希の目の前に立つ状態に。な、なんか言わなきゃ。でもなんて?俺のこと知ってる?少し話があるんだけどいいかな?でもちょっと馴れ馴れしいよな。と目を白黒させながらいると、
「もしかして…柳田さんですか?」
と鈴のような高くて優しい声が耳に響く。えっ待って、今俺のこと呼んだ?嘘、知ってんの俺のこと。フォームだけ参考にしてるって聞いたからすっかり俺の名前なんて知らないもんだと…。
「あれ…?違うかな?人違いかな?でもすごく似てるし…。」
「はっ、ご、ごめん!俺のこと知ってるなんて思わなくて、びっくりしちゃって。」
「そうでしたか…。あの…柳田さんはどうしてここに……?」
「石川君をスカウトしようと思って来たんだけど…。もう、決まってるの…かな…?」
「あっえっ…と、そうですね…ある程度は決めました。中央大学に行こうと思ってて…。」
「へ、へぇ〜そうなのか。強豪じゃん…。流石だね。」
「い…いえ、そんな事ないです。」
「………。」
「………。」
きっ、気まずい。石川君ってテレビと雑誌でしか見た事なかったから分からなかったけど、意外と大人しいんだな。声も高いし小さいし。予想外すぎる展開に頭が追いつかなくて、何か言わなきゃ、と分かってはいるけれども話題がないから話すこともない。
「あっ……あの…。」
「はっはい!…何でしょう?」
「おr…僕、柳田さんのフォームを参考にしたんです。本当に綺麗に飛ぶ人だなって思ってて。おかげで俺どんなボールでも打てるようになりました。」
「えっ…あっ…どうも…?」
「まさか会えると思ってなかったのでおr…僕嬉しいです。憧れの人だからこそ、楽しみにしてます。一緒にプレーできること。次に会う時は全日本で…お互い頑張りましょう。」
「えっ…あっ…はい。……え?」
「じゃあおr、僕これで失礼します。」
祐希は自分の言いたかった事が全て言えて満足したのか俺の横をすり抜けて外で待っていた仲間と帰っていく。その間俺は一歩も動かず思考停止状態。だって…彼、最後なんて言った?楽しみにしてる?何を?一緒にプレーできる事?どこで?全日本?だって俺は別に、バレーボールにそんな特別な感情は抱いてなくて、大学を卒業したらやってもやらなくてもいいくらいに思っていたから…。そんな考えをしている最中に脳裏によぎるのは彼の何も汚れていない白く澄んだ純粋な眼差し。あんな…あんな思いも眼差しも向けられるのは初めてで戸惑ってしまう。
「……い!…おい!大丈夫か!マサ!」
「あっ……うん、ちょっとびっくりしちゃって……。」
「まぁ、無理もないわな。人とあんまり関わりを持たないお前が突然、どこの馬の骨なのかも分かんねぇ奴に"綺麗"なんて言われたら取り乱すに決まってるし。でもさ、どうだったよ!やっぱあんな端正な顔立ちの男が目の前にいたらドキドキするもん?」
「……う。」
「ん?なんだよ?」
「帰ろう。帰って寝よう。スカウトは失敗だったって監督に伝えとく。これから春季リーグも始まる。気、引き締めていこう。」
「お、おう!」
友達を他所に俺は一人でずんずん帰路についていく。後ろから「待てよー!!」と呼ぶ声が聞こえてはいるけれども頭の中は霧が霞んでいくように正常に働かない。俺はその時何も考えられないくらい混乱していたんだと思う。それでも彼の、俺を見据えた時のあの、嬉しそうな、無邪気な顔は頭の中に浮かんでは消え、消えては浮かんできて。風呂に浸かっても。テレビを見ても。寝ようとして布団に入った瞬間まで彼は出てくる。石川祐希。第一印象は"変な奴"。それで終わればどんなに良かったか。思えばこの時から俺はもう手遅れだったのかもしれない。祐希という名の毒に侵されてしまっていたんだ。そして、決定打となるのは、あの日…日本代表に初選出され顔合わせとして収集された日。凍えるように寒かった日。俺はその時に自覚し、後悔する事になる。
決して実るはずのない苦しく切ない甘い恋を。
「イケメンにはイケメンをって言うだろ?」
そんなことわざあってたまるか!そもそも俺はイケメンでもなんでもないし。ただでさえ人と話すのが苦手な俺が初対面の相手に話しかけるだと?!無理に決まってる。どうせ「この人誰だ?」ていう反応が返ってくるに違いないのに!なんてダラダラ考えていた俺は気づかなかった。練習を終え体育館の入り口に向かって来ている祐希に。友達が「来たぞ!」なんて言って俺の背中を押すもんだから俺は突然の事に反応できなくて、必然的に祐希の目の前に立つ状態に。な、なんか言わなきゃ。でもなんて?俺のこと知ってる?少し話があるんだけどいいかな?でもちょっと馴れ馴れしいよな。と目を白黒させながらいると、
「もしかして…柳田さんですか?」
と鈴のような高くて優しい声が耳に響く。えっ待って、今俺のこと呼んだ?嘘、知ってんの俺のこと。フォームだけ参考にしてるって聞いたからすっかり俺の名前なんて知らないもんだと…。
「あれ…?違うかな?人違いかな?でもすごく似てるし…。」
「はっ、ご、ごめん!俺のこと知ってるなんて思わなくて、びっくりしちゃって。」
「そうでしたか…。あの…柳田さんはどうしてここに……?」
「石川君をスカウトしようと思って来たんだけど…。もう、決まってるの…かな…?」
「あっえっ…と、そうですね…ある程度は決めました。中央大学に行こうと思ってて…。」
「へ、へぇ〜そうなのか。強豪じゃん…。流石だね。」
「い…いえ、そんな事ないです。」
「………。」
「………。」
きっ、気まずい。石川君ってテレビと雑誌でしか見た事なかったから分からなかったけど、意外と大人しいんだな。声も高いし小さいし。予想外すぎる展開に頭が追いつかなくて、何か言わなきゃ、と分かってはいるけれども話題がないから話すこともない。
「あっ……あの…。」
「はっはい!…何でしょう?」
「おr…僕、柳田さんのフォームを参考にしたんです。本当に綺麗に飛ぶ人だなって思ってて。おかげで俺どんなボールでも打てるようになりました。」
「えっ…あっ…どうも…?」
「まさか会えると思ってなかったのでおr…僕嬉しいです。憧れの人だからこそ、楽しみにしてます。一緒にプレーできること。次に会う時は全日本で…お互い頑張りましょう。」
「えっ…あっ…はい。……え?」
「じゃあおr、僕これで失礼します。」
祐希は自分の言いたかった事が全て言えて満足したのか俺の横をすり抜けて外で待っていた仲間と帰っていく。その間俺は一歩も動かず思考停止状態。だって…彼、最後なんて言った?楽しみにしてる?何を?一緒にプレーできる事?どこで?全日本?だって俺は別に、バレーボールにそんな特別な感情は抱いてなくて、大学を卒業したらやってもやらなくてもいいくらいに思っていたから…。そんな考えをしている最中に脳裏によぎるのは彼の何も汚れていない白く澄んだ純粋な眼差し。あんな…あんな思いも眼差しも向けられるのは初めてで戸惑ってしまう。
「……い!…おい!大丈夫か!マサ!」
「あっ……うん、ちょっとびっくりしちゃって……。」
「まぁ、無理もないわな。人とあんまり関わりを持たないお前が突然、どこの馬の骨なのかも分かんねぇ奴に"綺麗"なんて言われたら取り乱すに決まってるし。でもさ、どうだったよ!やっぱあんな端正な顔立ちの男が目の前にいたらドキドキするもん?」
「……う。」
「ん?なんだよ?」
「帰ろう。帰って寝よう。スカウトは失敗だったって監督に伝えとく。これから春季リーグも始まる。気、引き締めていこう。」
「お、おう!」
友達を他所に俺は一人でずんずん帰路についていく。後ろから「待てよー!!」と呼ぶ声が聞こえてはいるけれども頭の中は霧が霞んでいくように正常に働かない。俺はその時何も考えられないくらい混乱していたんだと思う。それでも彼の、俺を見据えた時のあの、嬉しそうな、無邪気な顔は頭の中に浮かんでは消え、消えては浮かんできて。風呂に浸かっても。テレビを見ても。寝ようとして布団に入った瞬間まで彼は出てくる。石川祐希。第一印象は"変な奴"。それで終わればどんなに良かったか。思えばこの時から俺はもう手遅れだったのかもしれない。祐希という名の毒に侵されてしまっていたんだ。そして、決定打となるのは、あの日…日本代表に初選出され顔合わせとして収集された日。凍えるように寒かった日。俺はその時に自覚し、後悔する事になる。
決して実るはずのない苦しく切ない甘い恋を。
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