財前くんと待ち合わせ
いつも見てるブログ。
「先輩」ってタイトルの、変な写真のせてたり、ただのきれいな風景だったり、めちゃくちゃおしゃれな音楽について書いてたり、記事を書いてる本人の人間性は全然つかめなかったり。
でもこの感性を持ってる人ってどんな人なのかなって、ずっと気になってた。
ある日、ブログで薦められていた音楽を聴いてみるとすごく良くて、思わず感想メールを送ったら、意外にもすぐコメントが返されてきた。
……それがはじまり。そこからちょこちょこやり取りするようになって、気になってるインディーズバンドの話になって、「CD持ってるし貸そか」って連絡がきた。
のが、一週間前。
そして待ち合わせの日が、本日。
わたし、ただいまピンチですー……。
(ほんまに来るんかなあ)
まだ初夏だけど、駅前に射す日差しはもう真夏のそれと同じで、シャツの内側が早くも汗ばんでくる。
(どんな人なんやろ)
携帯が振動して、画面に通知が表示されている。
〈着きました。〉
どきどきしてきた。打ち間違えないように、返信をする。
〈コンビニの前に立ってます。〉
〈りょーかいっす〉
〈どんな服ですか?〉
〈白Tに黒ズボン。黒リュック〉
と、顔を上げれば、近くにそれらしき男の子がやってくる。
「あのう」
声をかけるも、返事がない。よく見るとイヤホンをしていた。
わかるように、目の前に移動すると、彼は気づいてイヤホンを取った。
「……ぜんざいくん、ですか?」
「……ども」
この日はじめて会う、年下の男の子。
「じゃあ財前やから、ぜんざい言うてたんやね」
「そ。……どっか寄っていきます?」
「あ、タワレコ行きたいです」
「ええっすよ、俺も行こ思てたし」
「……」
「何すか?」
「敬語じゃなくてええよ」
「……おおきに」
(けっこうドライな感じなんや。私、期待はずれやったんかな…)
私と「ざいぜんくん」は、並んで歩いた。
年下だけど、大人っぽい雰囲気がある。
ふつうにかっこいいな……
CDショップに着くと、互いに好きなアーティストの話をしあった。
財前くんはちゃんと話を聞いてくれるし、自分の考えも伝えてくれる。(ボケも拾ってくれる!)
話し方ドライだけど、表面がそうなだけで、感情は別なのかもしれない。この子。
「これ、めちゃ良い」
視聴コーナーで私がそう伝えると、
「どれ?」って覗きこんでくる。
「えっと…………」
「どれ」
「どれだっけ……」
「なんでやねん」
だって、急に近くなるから。
「これ好き」
そう言って全然知らないアーティストのCDを教えてくれる。
「持ってるし、また聴きたかったら言うて」
それは……また会ってくれるということなのかな。
店を出てすぐのところに、テイクアウト専門のドリンクショップがあった。
「あれ飲みたい」
新作!と書かれたスムージーを指して私は言う。
「ぜんざい味……」
「あれ、財前くんも頼むん?」
「うん」
二人並んで、渡されたカップを受けとる。
「写真撮ってええ?」
財前くんは私に尋ね、スムージーを持つ私の手元を携帯のカメラで撮った。
「ブログ載せるん?」
「……のせへん」
「えっなんで」
「こっち載せよ」
そう言うと自分の手(とスムージー)を撮る。
「匂わせせん人?」
「なにが匂うねん」
スムージーがなくなるまで、街をぶらぶら歩いた。
私は夕方から用があって、長くはいられないと事前に伝えていた。腕時計を見ると、そろそろ帰らなくてはいけない時間になっていた。
「電車何分?」
財前くんがまた、覗きこんでくる。どきどきしてしまう。
「半のやつに乗れたらベストかな?」
「ほな駅いこ」
「財前くんちから、わりと遠いよねここ」
「別に思わんかったけど」
「ありがとね、来てくれて」
そんなことを話しながら、気持ちゆっくり歩いたけど、思っていたよりもずっと早くに待ち合わせた駅に着いてしまった。
「これ」
財前くんがリュックから取り出したのは、ショップの袋……に入ったCD。
「返すんいつでも大丈夫やから」
「ありがと」
「……ほな」
財前くんは、駅とは反対の方向を向く。
「ここから乗っていかんの?」
「俺、JRで来たんすわ」
なんと。わざわざこっちの駅まで送ってきてくれたのか。
「まってまって」
「?」
私はかばんの中から、小さな紙袋を取り出した。
「これ、近所のお店のやつなんやけど…今日のお礼に」
中にはクッキーが入っている。
「ええのにそんなん」
財前くんは、そう言いつつ袋を受け取ってくれた。
「またお返しするわ……おおきに」
(わらった!)
少しだけだけど、向けてくれたほほえみ。
(笑うとかわいい)
「財前くん……また遊べる?」
ちょっと驚いたような顔をしてから、彼は答えた。
「…いつでも」
帰りの電車の中で、また携帯電話が振動する。メッセージを開くと、
〈今日はおおきに。楽しかった〉の文字。
(…………ずるいこれは)
顔が赤くなっていくのが止められないまま、私は何度もそのメッセージを見返した。
財前くんと待ち合わせ
────────────────
*ざいぜんくん、無意識に律儀そうだ!
「先輩」ってタイトルの、変な写真のせてたり、ただのきれいな風景だったり、めちゃくちゃおしゃれな音楽について書いてたり、記事を書いてる本人の人間性は全然つかめなかったり。
でもこの感性を持ってる人ってどんな人なのかなって、ずっと気になってた。
ある日、ブログで薦められていた音楽を聴いてみるとすごく良くて、思わず感想メールを送ったら、意外にもすぐコメントが返されてきた。
……それがはじまり。そこからちょこちょこやり取りするようになって、気になってるインディーズバンドの話になって、「CD持ってるし貸そか」って連絡がきた。
のが、一週間前。
そして待ち合わせの日が、本日。
わたし、ただいまピンチですー……。
(ほんまに来るんかなあ)
まだ初夏だけど、駅前に射す日差しはもう真夏のそれと同じで、シャツの内側が早くも汗ばんでくる。
(どんな人なんやろ)
携帯が振動して、画面に通知が表示されている。
〈着きました。〉
どきどきしてきた。打ち間違えないように、返信をする。
〈コンビニの前に立ってます。〉
〈りょーかいっす〉
〈どんな服ですか?〉
〈白Tに黒ズボン。黒リュック〉
と、顔を上げれば、近くにそれらしき男の子がやってくる。
「あのう」
声をかけるも、返事がない。よく見るとイヤホンをしていた。
わかるように、目の前に移動すると、彼は気づいてイヤホンを取った。
「……ぜんざいくん、ですか?」
「……ども」
この日はじめて会う、年下の男の子。
「じゃあ財前やから、ぜんざい言うてたんやね」
「そ。……どっか寄っていきます?」
「あ、タワレコ行きたいです」
「ええっすよ、俺も行こ思てたし」
「……」
「何すか?」
「敬語じゃなくてええよ」
「……おおきに」
(けっこうドライな感じなんや。私、期待はずれやったんかな…)
私と「ざいぜんくん」は、並んで歩いた。
年下だけど、大人っぽい雰囲気がある。
ふつうにかっこいいな……
CDショップに着くと、互いに好きなアーティストの話をしあった。
財前くんはちゃんと話を聞いてくれるし、自分の考えも伝えてくれる。(ボケも拾ってくれる!)
話し方ドライだけど、表面がそうなだけで、感情は別なのかもしれない。この子。
「これ、めちゃ良い」
視聴コーナーで私がそう伝えると、
「どれ?」って覗きこんでくる。
「えっと…………」
「どれ」
「どれだっけ……」
「なんでやねん」
だって、急に近くなるから。
「これ好き」
そう言って全然知らないアーティストのCDを教えてくれる。
「持ってるし、また聴きたかったら言うて」
それは……また会ってくれるということなのかな。
店を出てすぐのところに、テイクアウト専門のドリンクショップがあった。
「あれ飲みたい」
新作!と書かれたスムージーを指して私は言う。
「ぜんざい味……」
「あれ、財前くんも頼むん?」
「うん」
二人並んで、渡されたカップを受けとる。
「写真撮ってええ?」
財前くんは私に尋ね、スムージーを持つ私の手元を携帯のカメラで撮った。
「ブログ載せるん?」
「……のせへん」
「えっなんで」
「こっち載せよ」
そう言うと自分の手(とスムージー)を撮る。
「匂わせせん人?」
「なにが匂うねん」
スムージーがなくなるまで、街をぶらぶら歩いた。
私は夕方から用があって、長くはいられないと事前に伝えていた。腕時計を見ると、そろそろ帰らなくてはいけない時間になっていた。
「電車何分?」
財前くんがまた、覗きこんでくる。どきどきしてしまう。
「半のやつに乗れたらベストかな?」
「ほな駅いこ」
「財前くんちから、わりと遠いよねここ」
「別に思わんかったけど」
「ありがとね、来てくれて」
そんなことを話しながら、気持ちゆっくり歩いたけど、思っていたよりもずっと早くに待ち合わせた駅に着いてしまった。
「これ」
財前くんがリュックから取り出したのは、ショップの袋……に入ったCD。
「返すんいつでも大丈夫やから」
「ありがと」
「……ほな」
財前くんは、駅とは反対の方向を向く。
「ここから乗っていかんの?」
「俺、JRで来たんすわ」
なんと。わざわざこっちの駅まで送ってきてくれたのか。
「まってまって」
「?」
私はかばんの中から、小さな紙袋を取り出した。
「これ、近所のお店のやつなんやけど…今日のお礼に」
中にはクッキーが入っている。
「ええのにそんなん」
財前くんは、そう言いつつ袋を受け取ってくれた。
「またお返しするわ……おおきに」
(わらった!)
少しだけだけど、向けてくれたほほえみ。
(笑うとかわいい)
「財前くん……また遊べる?」
ちょっと驚いたような顔をしてから、彼は答えた。
「…いつでも」
帰りの電車の中で、また携帯電話が振動する。メッセージを開くと、
〈今日はおおきに。楽しかった〉の文字。
(…………ずるいこれは)
顔が赤くなっていくのが止められないまま、私は何度もそのメッセージを見返した。
財前くんと待ち合わせ
────────────────
*ざいぜんくん、無意識に律儀そうだ!
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