A tesoro mio
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「骸。どうしたの?」
「交代です」
ぴくり、耳が反応。交代?こいつが看病でもするというのか?ルイにツカツカ歩み寄り疲れているでしょうと彼女の頬をするり撫でる。
「たまにはリストランテでゆっくり昼食を楽しんで来ると良い。彼は逃げ出さないよう僕がしっかり見張っておきましょう」
小馬鹿にした口ぶりのこの男を咬み殺したい衝動に駆られ上体を起こすも、ルイの返事に遮られる。
「ありがと。けど点滴も検温もあるし大丈夫だよ」
これは嘘だろう。切羽詰まった容体でもある訳でも無し、点滴の時間調整も検温もどうにでもなる筈。そんな事くらい骸も分かっているだろうに尚も食い下がる。
「点滴の付け替えくらい僕にも出来ますよ。見様見真似ですけど」
「あ、出来そう」
楽しそうに笑い合う彼らは非常に不愉快だ。何が出来そうだ。人の身体を何だと思っている。立ち上がろうとした所をやはり彼女の声に遮られた。
「けどやっぱり良いよ。食事いつもシェフが此処まで運んでくれるの。もう準備してくれてるだろうから」
それにと犬猿の仲の二人を交互に見遣り。
「あなたたちは“混ぜるな危険”。でしょ?」
面白そうに言ってパソコンの電源を落とす。
「ちゃんと休憩取ってるから気にしないで。あなたこそ折角の休暇なんだからゆっくりしててよ。今日天気良いんだしジェラートでも食べに行ってくれば?」
「残念ながら今は外出する気にもならなくてね」
成程、六道骸といえどあの抗争から事後処理、息吐く間も無くロシア往訪の一連の流れは流石に堪えたらしい。雲雀とて人の事は言えないけれど。したい事は沢山有るのにこうして暇を持て余している状況が苦にならないのは、この医務室の居心地が良いのも勿論だがきっと身体が本能的に休息を求めているのだろうと思う。
少々のやり取りの後、骸はそっとルイの頬にキスを落とし退室して行った。
「ねぇ」
「何です?」
「あいつと付き合ってるの?」
機嫌を損ねてしまうだろうか、リボーンとの時のように。しかし答えは存外あっさりと返って来た。
「まさか。子供の頃からの知り合いなんです」
「子供の…?じゃあ君は」
それこそ聞いて良いのか悪いのか。一瞬逡巡したものの興味が勝る。
「エストラーネオに?」
「いえ。骸達がそこから抜け出した後にナポリで」
犬に食べられそうになったのが切っ掛けでしたね。当時を思い出したのか何処か懐かしそうに目を細めて。
「今は笑い話ですけどあの時は怖かった」
「ふぅん…」
何故この女はこんな世界で生きているのだろう。これ程恵まれた容姿に若くしてドクターとして独り立ちした才覚。望めば何にだってなれた筈だ。思えど如何せん向こう脛に傷のある者の集う社会、口にはしないでおく。生い立ちなど相手が自ら話して来ない限り聞かないのが暗黙の掟でありマナーでもあるので。
ふとルイが時計を見ておなか空いたと呟く。時刻は午後1時少し前。直にシェフが昼食を運んで来るだろう。
「夜はリストランテ行ってくれば?ああ、逃げないから見張りは要らないよ」
骸のせいで顰め面になったのがいけない。ルイはどうやら勘違いしてしまったようだ。
「そうですねぇ…ずっと人と一緒じゃ雲雀さんも息苦しいですしね」
「は?そうじゃなくて」
「気にしないで。配慮不足でした。ここ落ち着くからつい」
そう言えば彼女はずっとこの第一医務室に居て、日中は解放しっ放しのカーテンの向こうで仕事をしていた。つまりこの四日間、時折他の患者の対応時と就寝時以外はずっと一緒だったのだ。その就寝時にしろ発熱中は二時間に一度のペースでそっとカーテンを開け様子を伺いに来ていた事を知っている。木の葉が落ちる音でも目が醒めるのだ。幾ら起こさぬ様配慮してくれた所で気付かぬわけが無い。
“ すいません、起こしちゃいましたね ”
ぱちりと目を開けた自分に申し訳無さそうにした顔を思い出す。だからそれ以降は気付いていても寝たふりをしていたけれど、空気の揺らぎに漂った芳香も額の熱を確認した手のひんやりした感触も全て覚えている。
確かに息が詰まるどころか苛立ちがピークに達する状況だったのかも知れない。けれど言われるまで考えもしなかったのは迷惑などとは欠片も感じていなかったからに他ならない。それは何故か。自分は彼女の存在を心地良いものとして捉えているからだ。
彼女は身綺麗だし会話のテンポも良く退屈せずに済む。それにあの香り付きだ。寧ろ暇を持て余している現状では居てくれた方が寛げるとさえ思う。
僕は別に構わないと言おうとした所でドアが開き、シェフが昼食を運んで来た。