A tesoro mio
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何だろう、パレルモは案外狭いのか。動揺がルイの心中を過る中、潤が小首を傾げ骸に問う。
「お二人はもしかして…デートの途中?」
「ええ、まぁ」
「あらそれは素敵!とってもお似合いだわ」
ねぇキョーヤ、そう思わない?同意を求めた先の雲雀は、ついとそっぽを向き返事を寄越そうともしない。
「もう、機嫌悪いわね。人通りも少ないのに…」
夏のパレルモは住民がバカンスに出掛ける為基本的に閑散としている。このジェラテリアはちょっとした人気店なのでそうでも無いが街全体にはいつものような賑わいは無い。が、今回に限ってそれは無関係だろうと骸は腹の中でほくそ笑んだ。
「ルイ先生も教えて下されば良かったのに。あら、もしかして秘密のお付き合いかしら?」
「え、そんなんじゃ…」
「オープンな付き合いですよ。隠す理由などないのでね。所でこれからどこへ行かれるんですか?」
骸の返事は決して嘘ではない。良き友人としてオープンに付き合っているのだし二人で出掛ければそれを軽い気持ちでデートと称するのも普通にある話だ。けれどボンゴレに来て日の浅い潤はきっと勘違いをしてしまっただろう、恋人関係なのだと。骸も紛らわしい言い方は避ければ良いのに。
ルイが訂正をする前に潤の口が開く。
「少しドライブしてサンタアナスタシアホテルに一泊の予定です」
「ほぉ。サンタアナスタシアに」
「ええ。私は他の所が良かったのにキョーヤが絶対そこだって譲らないので…そもそも真夏にこんな赤ん坊連れ出すのだって反対だったんですけど、折角の休みだしどうしてもって言うから」
文句を言いながら随分と幸せそうな彼女。ああ、酷く息苦しい。
雲雀が選んだのだ。潤によって強引に引き摺り出されたのではなく彼が自発的に旅行の計画を立てた。そんな面倒はいかにも嫌いそうな男が。
その瞬間、骸との関係の訂正をする気は消失した。
骸さえ迷惑でなければもう勘違いされたままで良いではないか。彼は見た目良し頭良し、強くて仕事も正確無比な超ハイスペックマン、そしてルイの最大の理解者なのだから。
衝動任せに立ち上がると骸の腕をぎゅうと掴んで擦り寄って、幸せな家族へ見せ付けるようにあざといまでの上目遣いを。
「いーなぁ楽しそう。ねぇ骸、急ぎの仕事ないんだよね?私もどっか泊まりたい。ダメ?」
彼氏に甘える彼女の構図を骸がどう取ったかは分からない。しかしすぐに柔和な笑みで頷いてくれた。
「勿論構いませんよ」
「じゃどっか予約しなきゃ。空きを…ボンゴレの力で何とでもなるか。あ、オペラも観たいの、急いで!」
掴んだ腕をグイグイ引いて急かしていると、だんまりだった雲雀が突如ルイに一言。
「ねぇ。君達がいつから付き合ってたのか知らないけど…その口紅はそいつの趣味?」
「は?」
思いがけず話し掛けられ素っ頓狂な声が出る。口紅が何だ。
「全然似合ってないよ。どこの阿婆擦れかと思った」
「は…?」
一瞬何を言われたのか理解出来なかった。あばずれ。阿婆擦れ…?
「……!」
カーッと頭が沸騰して行く。いつもより濃い色のルージュ、僅かでも開放的な気分になりたくてチョイスした華やかなディープレッド。何なのだ何故突然こんな事を言われなければならない。理解が追い付かぬ内にじゃあねと立ち去ろうとする雲雀に、積もりに積もったぐちゃぐちゃの感情が爆発してしまった。その背に向かい言い返す。偽物の余裕を含ませて。
「えー…骸とデートだよ?ちょっとくらいパンチ効かせなきゃ様にならないじゃない。骸だよ?あなたと歩くんじゃあるまいし…あ、失礼」
雲雀が骸に見劣りするなんて欠片も思ってはいないけれど、今は憎らしくて堪らぬこの男を挑発したくて仕方ない。効果は充分だったらしい。振り向いたその目は剣呑に細まっている。繰り出されるだろう応酬に身構えたが、しばしルイを見つめていた雲雀は結局言葉を発する事無く溜息を一つ。それが更にルイの苛立ちを煽り一旦開いた口は最早止まらない。
「ねぇ、もしかして潤さんの口紅が変わってるのってあなたの趣味なの?」
印象的だった派手なボルドーからいつの間にか柔らかなフェアリーピンクへ変わっていた潤の唇を指摘して。
「今盛り上がってるみたいだし束縛だって美味しいんだろうけど結婚ってずっと一緒じゃない。そのうち潤さん息苦しくなって逃げちゃわないか私とっても心配」
何故こんな事を言っているのか自分でも分からない。とにかく雲雀を苛立たせたくて苛立たせたくて。ああ駄目だこの男と対峙しているとおかしくなってしまう。つかつか大股で歩み寄ってくる雲雀。目と鼻の先で見下すように見据えられる。冷ややかな瞳。
「恋愛経験も無い癖に忠告どうもありがとう。僕が変えさせたんじゃないから安心して良いよ。ああ近くで見れば見る程みっともない顔だね。相手がこんな品のないのじゃなくて運が良かったな。ていうか君さ、あれ程男は要らないだの自由が良いだの主張しといてコロッとこれなんだ。案外尻軽だったんだね」
「し、尻軽!?」
怒りの限界突破。瞬時に全身の血液が煮え滾った。気付けばルイは雲雀の涼しいかんばせに顔を突き付けついでに人差し指もビッと突き付けて、一言一言、叩き付けるように。
「ふざけないで!うっかり出来ちゃっただらしない下手くそなあなたが人様にそんなん言える立場だと思ってんの?自分の状況よーく省みてくれる!?この!女たらしの!ちゃらんぽらんのむっつりスケベの下手くそ男!!もう一回言うね!!このヘッタクソ──ングッ!」
「はい、そこまでです。流石に度が過ぎている」
割り込んで口を塞ぐ骸の大きな手。やれやれと首を振りそのままルイを引き摺り歩き出す。興奮のままに振り払おうと暴れる腕は力尽くで封じ込まれた。余裕の笑みで雲雀をちらりと振り返り。
「君はもう妻子ある身、ルイの装いがどうだろうと査定して良い立場には有りません。──他人の事よりそろそろ笑顔の一つでも覚えては?折角の家族旅行なのに奥様の顔が曇ってしまっていますよ。では」
そして返事も聞かずにその場を後にする。しばし憎々しげにそちらを睨んでいた雲雀は知らない。この下らぬ応酬を潤がどのような心情で見守っていたのか。振り返った時の彼女はもういつもの顔で「暑いわ。行きましょう」と笑っていたから。