A tesoro mio
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その日以来、雲雀恭弥は変わった。
ドン・ボンゴレですら滅多な事では入室を許されぬ彼の私室に母子を招き入れ生活を共にし始めたかと思うと、仕事の合間には子を抱き長い廊下の窓から外の景色を眺めさせ、夜泣きをするならばバルコニーで風にあて。
初めから飛ばすと持ちませんよ──骸の揶揄いも綺麗に受け流して良き父親として潤と代わる代わる我が子の世話に明け暮れていたのだ。
現在休暇中の者達の穴を埋めるべく誰もが忙しくしていたのが幸いした。雲雀恭弥に妻子が出来た、この驚愕のニュースはまだ誰にも知られる事無くボンゴレは静かなもの。およそ二週間後綱吉達が帰還して来ればそうも行かなくなるだろうが。
「あ…」
通常勤務を続けるルイが少し早目の昼食に行こうとした所で、ばったり雲雀とその妻子と出くわした。もう今日分の仕事は終えたのか、ポロシャツにジーンズと見るからにオフの雲雀が子を抱き、ハイブランドらしき華やかなワンピースを身に纏った潤は色鮮やかなマザーズバッグを肩にキャリーケースを引いている。大きめのバッグからちらり覗くミルクケース。
彼らはあの後すぐに婚姻届を提出したらしい。潤曰く「あの人の気が変わらない内に私がさっさと出して来ました」らしい。
「お出掛け?」雲雀に問うと「そう」素っ気無く視線を逸らされてしまう。
あの日以降雲雀が医務室を訪れる事はぱたりと無くなった。潤への配慮なのだろう。例え特別な仲で無くとも、夫が必要以上に他の女性と関わるのは気分の良いものでは無いだろうから。
以前聞いた話では雲雀の両親の関係は円満そのもので子の雲雀を深く愛していたと思われる。それが家族の有るべき姿として雲雀の中に存在し、息子の為に役割を完璧に演じなければと考えているのかも知れない。或いは生涯の伴侶となった事で潤に持つべき感情を持ったのかも。
この人はもう、他人の夫で父親なのだ──
ズキリと痛む胸は無視して「行ってらっしゃい。荷物重そうだけど気を付けて下さいね」笑顔を潤に向けると彼女は「ええ」今日は淡いフェアリーピンクに色付いた唇をにこりと笑わせた。ルージュ一つで随分印象が変わるものだ…ぼんやりそんな事を思った。
「ねぇキョーヤ、先生にはこれからもお世話になるんだからそんな無愛想にしちゃダメじゃない」
「雨李の事はもう頼んでる。早くして」
「あらそう。…先生、御免なさいね。感じ悪くて」
「気にしないで」
何故あなたが謝るの?夫の非は夫婦の連帯責任というわけ?新婚早々ご立派な事で──湧き出す皮肉めいた感情は曖昧に笑って誤魔化して。
「出掛けるって言っても軽くドライブしてホテルに一泊なんですけどね。また誰かさんが熱中症になっても困るし。ね~ぇ?」
聞き流せれば良いのに、ああ駄目だ、潤の口が開く程に腹の底から何かが暴れ出す。もう良い、早く行ってくれ。
「あ、そうだ。先生本当なら今休暇中なんですよね?良ければ御一緒されません?この人の車紫外線対策完璧ですし、先生のお肌も大丈夫だと思いますよ」
引っ叩きたくなった。にこにこ笑う潤に悪意なんて無いのに。暇を持て余しているルイを気遣ってくれただけなのに。それも折角の家族旅行に誘ってくれるなんて素晴らしい優しさで。それなのにこんなにも。
「ありがとう潤さん。けど家族水入らずの所お邪魔出来ませんから。ごゆっくり」
精一杯の笑顔で手を振ると即座に医務室へ逆戻り。
もう食欲などすっかり消え失せてしまっていた。
しかしその一時間後。
「んー、美味しい!」
ルイは今パレルモ郊外のジェラテリアに居る。カラフルな屋根付きのテラスにてキンキンに冷えたジェラートを口に運んでいる。ピスタチオとマンゴーの2フレーバーに生クリームをたっぷり乗せて、オッドアイの美しい男と向かい合って。
「美味しいですねぇ。この店はココナッツが有名ですが、やはり僕はチョコレートが一番です」
小さなテーブルを挟んで座る骸の前にはチョコレートとミックスベリーの2フレーバー、こちらにも山盛りの生クリーム。
「ここココナッツが有名なの?早く言ってよ!…あーマンゴー止めてココナッツにすれば良かった…」
「おやおやマンゴーが泣きますよ。それだって美味しいでしょう?」
「そーだけど」
あの後医務室に戻りぼんやりしていたルイを骸が誘い出したのだ。
“暇そうですね。こっちは仕事片付きましたし、少し出ませんか?”
雲雀の車が完璧な紫外線対策というならば骸の愛車も同様。だからルイは一つ返事でこうして天敵太陽の降り注ぐ外へと飛び出して来た。僅かな時といえど夏を楽しむ為につばの広いストローハットを目深に被り、肌を防護するクリームをいつもより丹念に塗って。
やはり気分転換には外出が一番だとつくづく実感する。よそ行きコーデでお洒落に着飾り外気に触れ車窓から流れる景色を眺めていればそれだけで、気分は自然に上向きとなっていた。相手が骸という遠慮の要らない存在だったのも大きいだろう。
「ね、そのチョコレートがすごく気になる…」
「クフフ、そうでしょう。最高ですよ。一口どうぞ」
「ん、美味しーい!ピスタチオいかが?…あ、グロス付いちゃったごめん」
「構いませんよ。マンゴーも下さい」
互いにスプーンで食べさせ合っては浮かぶ至福の表情。見目麗しい男女がきゃいきゃいとドルチェをシェアする様に周囲の視線が集まるが、二人の気に止まる事はない。見られるのは慣れているのだ。
が、其処で骸はふとある気配に気付いた。
「…おや。御家族でお出掛けですか?」
君本当に丸くなりましたねぇ、気色悪いくらいに。振り向いたオッドアイが捉えたのは、何とも冷ややかな表情で彼らを見据える雲雀、抱っこ紐で眠る子を抱え汗の滲む額を拭う潤だった。