A tesoro mio
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「…何の真似だい」
今や隠す必要も無い。ぼふりと病床に寝転がり剣呑な目で潤を睨むと彼女は口元に手を当てクスクス笑みを零す。
「何のって事も無いでしょう?再会の世間話」
「スパイの過去と共に品性まで捨て去ったのかな君は。大体喋るなって合図して来たのは──」
「やけに怒るのね。何か不味い事でもあったのかしら」
クスクス、クスクス。世の男の目にはさぞ魅惑的に映るだろうが今の雲雀にとってこの笑いは腹立たしい事この上無いもので。
「看病は要らないよ。そいつも元気だし出て行ってくれる」
「巻き込まないで下さい。僕は重体です」
あからさまな嘘を吐く骸を睨み付ける。安静にしていればもうこれ以上どうと言う事も無い癖に。
「じゃ君は第二医務室で看て貰えば良い。そのベッド動くだろ、そのまま運ばれて行きなよ。おやすみ」
シャッと軽快な音を立てカーテンを閉める。が、潤によってすぐに開かれてしまう。
「ダーメ、私が先生に怒られちゃうじゃない。まだ空気遮断は禁止。熱中症舐めてるわね」
「本物のナースみたいな事言うね」
「本物のナースだもの…って言ってもまだ見習いだけど」
「もういい。率直に聞くよ」
何故ナースなどに転身したのか、そして何故勤務先にボンゴレを選択したのか。鋭い視線を送れど暖簾に腕押し、潤は胡散臭い笑みのまま。
「スパイなんて女がいつまでも続けられる仕事じゃないのよ。もうスリルからは足を洗って平穏に生きてみたくなったの。けどどう足掻いたって今更完全な白になんて戻れやしないでしょう?」
過去は消えずに何時までも纏わりつくもの。彼女の持つスキルや情報は必ず物騒な輩を惹き付けるし、それを振り払うにはボンゴレという巨大組織所属のステータスは確かにうってつけではある。この屋敷で勤務をしていれば物理的に身を守れるメリットもある。平穏に生きたくなった──その言葉が本心ならば、まぁ納得は行く。
沈黙した雲雀の頬を、彼女の手がゆるりと撫でる。
「それにね。あなたみたいな人囲うファミリーなんだもの。きっとボスは噂以上に寛大なんだろうと思ってたってのもあるわ」
「僕は囲われちゃいないよ。べたべた触らないで」
「冷たいわねぇ、相変わらず…」
黙って動向を伺っていた骸がふと口を挟む。
「関係を持った女性への対応としては随分ぞんざいですねぇ」
ギロリ目を細めて威嚇して来る雲雀を受け流し、骸は潤の麗らかな容貌を見上げ口角を上げて見せた。
「兼ねてより彼のビジネス相手の女性方に伺ってみたかったんですが…一言目には咬み殺す、二言目の前には手が出ている、この男のどこがそんなに魅力的なんでしょう?」
いとも純粋な疑問を装った投げ掛けの中に“ビジネス相手”の女性“方”。潤はあくまでも雲雀の沢山居る遊び相手のうちの一人でしかない事実の強調。性の悪さが滲む問いにもやはり潤のポーカーフェースは崩れない。
「さぁ。女で無ければ理解出来ないんじゃないかしら?あなたにも居るわよね、“ビジネス相手”。あなたのお相手達はあなたをどう評するのかしら、六道さん」
「おやおや。食えない方だ」
彼女は既に骸の身辺事情をある程度掴んでいる模様。きっと他の人間に対しても同様なのだろう。成程、かなり優秀なスパイで機転も利き、性格の方はまた随分と性悪らしい。自分が言えた義理では無いが。
それはそれとして…
先程のルイの様子がどうにも引っ掛かる。男女間のあれこれなど彼女ならば静観で済ませる所だろう。何故あんなにも刺々しい態度を。あれではまるで、ルイは…
“女性で無くては理解出来ないのでは?”
潤の言葉が脳内でリフレインする。まさか、まさか。ルイに限って。
──否、早とちりは良くない。
考え過ぎだ。もしかすると露骨に性的な匂いを目の前で振り撒かれたのが不快だったのかも知れない。そうだ、ルイならばその線も充分に有り得る。
混迷する思考に一筋の希望を見出すもやはり懸念は燻り続ける。クリスマスにも思った事だがルイが恋をするならばそれはそれで構わないのだ。けれど、それはきっと彼女の胸にしまい込んだ爆弾を刺激して精神を掻き乱す。
一度、話してみましょうか。
騒つく胸を押し込めて、眼前で繰り広げられる冷淡男と性悪女の応酬をぼんやりと眺めていた。
一時間程してルイが帰って来た。不機嫌はどこへやらいつもの笑顔が戻っている。
「ねぇ、喉乾いた。水分足りない」
ルイの帰還と共に纏う空気ががらりと変わる雲雀。現金なものだと骸の唇から呆れの息が漏れる。潤からの看護は一切拒み終始ピリピリしていた癖に。ここまで露骨だと潤はさぞかし気分の悪い事だろうと冷やかし半分の一瞥をくれるも、完全に無視される。つまらないと肩を聳やかしたが、ルイと入れ替わりに出て行こうとした潤が不意に雲雀を振り返り。
「あ。私がボンゴレに来た理由ね、もう一つあるの…て言うよりこっちが大事なんだけど」
「へぇ、何」
「私実は三ヶ月前に出産して可愛い息子がいるのよね」
突然の告白。出産…?だが同時に合点が行く。母親として生きていくにはフリーのスパイなんて当然不向き──不向きどころかとんでもない誤りだ。それに、“今更白には戻れない”ならばボンゴレという頑強な城は子を安全に育て守る為には正にお誂え向きではないか。
ようやく全てが飲み込めて頷く雲雀。
「それはどうもおめでとう。で、その息子は?」
「信用のおける施設に預けてるわ。実際過ごしてみてどんな所か判断出来るまで連れて来られないでしょ?幾ら良いファミリーだと聞いていてもマフィアなんだし」
「まぁそうだね」
「けれど、本当に信頼出来る場所だって分かったからね。明日にでも引き取りに行って来るわ。そろそろ相手にも会わせなきゃならないし…」
雲雀が首を捻る。黙って会話を聞いていた骸とルイも然りだ。
「相手というのは…ここに父親が居るという事で?」
問い掛ける骸にくすりと微笑む潤。
そして、投下されるとんでもない爆弾。
「えぇ、キョーヤ。あなたが父親よ」