A tesoro mio
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それは、綱吉達と同年代と思しき若い女性だった。
結い上げられた銀白色の髪に赤い瞳、きちりとした淡色のワンピース。全身が発光しているようにすら見える肌の白さ。
突然のこの不可思議な侵入者は一体何者。誰もが呆気に取られそう思った。
コッコッコッ!
高いヒールが床を打つ軽快な音で綱吉はハッと我に返り颯爽と歩く女を目で追う。向かった先は──
「Chao,リボーン!」
「Chao,ルイ」
飛び込んで来た小さな肩を緩く抱擁するリボーン。どういう事だ。困惑する綱吉の頭は、しかし即座に答えを弾き出す。てっきり男だとばかり思っていた後任ドクター、実はこの女がそうなのだろうと。
「久しぶりだな、ルイ。引き継ぎは終わったのか?シャマルはどーした」
「もう行っちゃった。引き継ぎは滞り無く」
そうか、と返すとリボーンは自分達を見つめている面々に向き直りニヤリと笑ってみせた。
「紹介するぞ。こいつがシャマルの後任のルイだ。若ぇが腕は確かだから安心して命預けてくれて構わねぇ」
「ルイです。当面はDr.シャマルの代理を務めさせて頂きますので、どうぞ宜しくお願いします」
至って常識的な挨拶。はきはきと言葉を紡ぐ様は活力を感じさせたし、ダラダラ喋らず端的に纏めたあたりは要領が良く明朗な人格を伺わせる。
ただ…
綱吉は何となく思う。
にこにこ微笑む彼女は穏やかそのものであるが、何故か油断出来ない感じがする。澄んだ赤い瞳は決して冷たくは無いのだけれど、何処か読めない。何を感じどう考えているのかその感情を映さないのだ。この瞳を綱吉は知っている。そう、中学生の頃から常に自分と共に在った──
ちらりと傍らのヒットマンを見遣る。瞬間、この男の黒と女の赤が重なりぞっと背筋が凍る感覚が走り抜けた。
「し、知り合いだったんだ」
間違い無く彼らには何らかの関係があると超直感が告げている。それは一体。
「こいつがまだガキの頃シャマルが女の尻追っ掛けて地球の裏側まで行っちまってな。暫く俺が預かって面倒見てたんだぞ」
「お前が?」
「ああ。だから一応暗殺術も仕込んじゃ居るがこいつの本業じゃねぇ。そこは期待すんなよ」
「……」
命を救う医者を志す子供に暗殺術を仕込む必要性とは。いちいち突っ込みはしないが、彼女の纏う雰囲気の謎は理解出来た。彼女、恐ろしい事にリボーンのヒットマンとしての流儀を色濃く受け継いでいるのだろう。男も女もクソも無い、碌でもない世界だ本当に。
しかし一先ずそれはそれとして。
「すみません自己紹介もせずに。えっと、俺が一応10代目…ボス…の沢田綱吉です」
自らをボスと名乗るのは気が引けつつも、続けて獄寺、山本、了平、そして幹部達を紹介して行き最後に言葉を付け加える。
「突然の事で凄く迷惑掛けてしまってると思うんですけど、今ファミリーには確実な腕を持ったドクターを必要とする人が沢山居るんです。どうか宜しくお願いします」
誠意を込めて深々と頭を下げるとルイは力強く微笑んだ。
「尽力します」
その声は自信と誠実さに溢れ頼もしく、感じも良い。一つ胸に突っかえていた事をやんわり告げてみよう…そんな気分になってしまった。
守護者達はその立場上、特別に重要且つ難易度の高い危険な任務を遂行しなければならない。故に怪我の頻度も重傷度も高くなってくる。医者と患者、両者の軋轢を避けるにはあらかじめ性格的な予備知識はあった方が良いと思うのだ。
特に…特筆すべきはある二人の男のやたら涼しい顔。
「すいません、ルイさん。せめて守護者には全員きちんと紹介しておきたかったんだけど今バタバタしてて…実はうちには今居る山本と獄寺くんと了平さんの他に四人の守護者が居て、……」
綱吉が続けたい言葉は皆にはあまりに分かり易く、リボーンは喉を鳴らし山本は苦笑い。獄寺に至っては思い出すのも忌々しいとばかりに眉間に皺を寄せている。
「何?」
周りの空気に訝し気なルイ。彼女に余計なプレッシャーを与えたくは無いが、伝えておかなければ。
「その守護者の内、クローム髑髏って女の子とランボって言う牛柄の子供はまだまともで問題ないんだけど……あと二人、六道骸って奴と雲雀恭弥って人が…ちょっと何かこう、変わってるっていうか」
「変わってる、ねぇ」
「ちょっとだけか?」
ふと雑音が入るが知らない振りで。
「ちょっとだけですよ。ほんとちょっとだけ、失礼な言動があるかも知れないけど…二人共無駄に強くて理屈通んないっていうか、言うだけ無駄っていうか、幻覚掛けられて海に沈められかねないっていうか咬み殺されるっていうかとにかく危ないから何かあっても逆らわずぐっと堪えて後で好きなだけ俺に当たってくれていいから!」
理不尽でも恐怖を感じてもちゃんとあの人達も診てあげて下さいそして自分の身を守って下さいお願いします!!
話している内に感情が昂ぶり、余計なプレッシャーを与える大声と共にぶちかまされた盛大な土下座。
「10代目!あんな奴らの為に10代目がそこまでする必要なんて欠片も有りません!顔を上げて下さい!」
「、努力します…!」
「ブフッ!」
駆け寄り吠える獄寺、一歩後退るルイ、顔に片手を当てがい吹き出すリボーン。何とも言えぬ空気が室内を支配した。
「やっちゃったよ~…」
執務室に戻るなり頭を抱える綱吉。
霧と雲に会った際は恐らく避けられないであろう衝撃を和らげる為の説明だったというのに、あれではてんで逆効果ではないか。
「だってなぁ…」
彼らはその能力の高さ故、特に厄介な仕事を回してしまっているのが現状。
代替わりしたばかりの不安定なボンゴレファミリーを今尚イタリアン・マフィアのトップに君臨させているのは彼らの暗躍による所が大きい。それ程の実力派故、適材適所と言えば聞こえは良いが、采配を行う綱吉としては彼らに甘えてしまっている事も重々承知している。
今現在だって先の抗争の疲労の癒え切らぬ彼らに別件の任務に当たって貰っているのだ。当然対価は払っているとはいえ、綱吉には彼らの身体はいつでも心配の種。
だからこそ新任ドクターには、彼らが気軽に医務室へ出入りし充分に休養出来る、その様な関係性を築いて欲しいと願ってしまう。その為には彼らの気質を理解して貰う事、それが大前提のように思えて。
今骸はロシアへ、雲雀はクロームと共にコロンビアへ向かっている。
ヒバリさんも骸も大丈夫かな…クロームは、きっとヒバリさんが無茶しないよう上手くコントロールしてくれてるだろうな…
防弾ガラス張りの窓から覗くはまるで綱吉の心を映したかのような曇天。遠い空の下任務遂行に尽力してくれているであろう仲間達を思いそっと溜息を吐いた。
何はともあれ、こうしてボンゴレファミリーは新たなドクターを迎える運びとなったのだった。