A tesoro mio
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凍り付いた空気の中、雲雀が、草壁がまず行おうとした事。彼らの背後でカラを抱いているエヴェリーナと寄り添う夫の保護。が。
エヴェリーナが息を飲む。その喉元には鋭いナイフが当てがわれていた。他でも無い、夫カレルの手によって。
「…そういう、事でしたか…」
ヴィゴールが絶望の声を漏らしエヴェリーナは信じられないといった顔でゆるゆる首を振る。そんな…カレル、あなたが…悲痛な呟きが響く中カレルは善人の仮面をかなぐり捨てた卑劣な表情でニヤリと歯を剥き出し喉を鳴らした。
「事は内密に運びたい、騒ぐと全員殺す」
人質を取られたままではなす術無く草壁は武器を捨て両腕を上げさせられた状態でギリリと奥歯を噛み締めた。まさか身内に謀反者が居たとは。迂闊だったと後悔しても最早後の祭りで事態は彼らの思惑通りに進みつつある。
遺産相続人をエヴェリーナ夫妻に書き換えた遺言書にルカの遺体で血判を刻印する警察官の一人を睨みつけ、それでも動きようがない。
カレル達謀反者の素性は何と終身刑の脱獄囚だという。何をどうやってルカ・アルフォンソの信頼を勝ち取ったのかは知らないがその部分も含め彼等は馬鹿では無いらしい。綿密な計画により行われた犯行の様で、如何にも隙が見つけられ無いのだ。
ちらりと隣で同じく銃を床に捨て両腕を怠そうに上げている雲雀を見遣るも不機嫌そうな顔でやはり身動きは取れない様子。
勝利を確信したのかカレルがクククと薄気味悪い笑いを漏らす。優しげだった細い目元は今や卑しい犯罪者のそれ。インテリとも取れるその風貌が余計に癪に触り草壁はかつて無い怒りを覚えた。しかし動けない、動けばエヴェリーナもヴィゴールも、産まれたばかりのカラまでもが──…
「準備は全て整った。事が外に漏れると計画が台無しだ。貴様らは全て死んでもらう…、いや。この赤子だけは生かしておいてやるが」
悠然と我が子を見下ろしながらの冷酷な言葉に草壁は耳を疑う。これが仮にも実の父親の言葉だろうか。そして此処で彼が子をもうけた意味を理解した。
盾にする気なのだ、カラを。
大人達だけであれば、どうせ全員殺されるならばと反撃に出られる可能性がある。しかし何の罪も無い小さな命があれば──?
人間の屑だ。
草壁の奥歯はもう折れてしまいそうに噛み締められている。
あなたは。エヴェリーナが絶望に喉を詰まらせた。
「その為に…その為にこの子を…?」
「エヴェリーナ、ガミガミ喧しいお前との生活は苦痛以外の何物でも無かったよ。女の分際で俺に意見出来る立場とでも思っていたのか?金の成る木と耐えていたが─…まぁ、体だけは楽しませて貰ったよ」
下卑た台詞にエヴェリーナはもう涙も無い。ぎゅうとカラを抱き締め産後のズタボロになった身体を震わせるだけ。
「まぁ、もう用済みだ。…さて」
エヴェリーナを威嚇している手とは逆の手で銃を取り出すカレル。向けられた先は。
「ワオ。僕かい」
こんな時だというのに何処か呑気な雲雀の声。
「ああ。調べは付いているぞ、ボンゴレ雲の守護者雲雀恭弥。まさかボンゴレが介入して来る偶然とは想定外だったが…問題は無い。貴様の腕を評価して真っ先に殺すべきだと判断させて貰った」
「へぇ。優秀だね」
恭さん!息を詰める草壁の脳裏に恐ろしい考えが浮かぶ。
エヴェリーナは、そしてカラは自分にとって大切な存在だ。今でも尚やはり愛しい想いの消せぬ女とその血の繋がった娘なのだから。しかし雲雀にとっては?
例え故人との約束を反故にする羽目になったとしても、所詮彼女らは他人。雲雀とて命は一つしか無いのだし、死んでまで依頼を果たす必要など無い。そこをカレルらは理解しているからこそ、今自分達が絶対的に有利なこの状況で、この場で最も厄介な存在である雲雀を真っ先に始末しようとしているのだ。
今この戦闘狂が自らの欲求を満たそうとカレルに反撃してもそれを責められる者は誰も居ない。そもそも草壁とて雲雀にこんな所でこんな男に殺されて欲しくなど無い。が、しかし…
ぐるぐるに回る頭で雲雀の動向を見守るも特に動きは見られない。何か考えが有るのか無いのか、彼は一体如何するつもりなのだろう?
ふとカレルが口を開く。視線は部屋の隅の方で壁に凭れ両腕を挙げているルイへ。
「おい、そこの医者。そう、お前だ。Dr.ルイ」
何?冷淡に吐き捨てる彼女が何を考えているのか、その表情からは読み取れない。
「お前、死に行く男に最期の娯楽を与えてやれよ」
「何それ」
脱いでしゃぶれ。卑しい命令が響く。此処でピクリと雲雀の眉間に皺が寄ったのを草壁は見逃さなかった。
「勘違いするなよ?こいつのじゃない、俺のをだ。眼前でのリアルなAV鑑賞、男にとっちゃ眼福だろう?」
くつくつ笑いながら一旦銃を構えた片手を下げ下半身を露出させるカレル。支配的な興奮からか彼の性器は大きく聳え立っており、ナイフで拘束されている隣のエヴェリーナがウッと嘔吐く。先程までは確かに自分の愛すべき夫であった筈の人物の余りの変貌振りに激しいショックを受けているのだろう。
再び雲雀に銃を向けてルイに早くしろと急かす。
ルイはふ、と小さく息を吐いてその場でバサリと白衣を脱ぎ捨てた。
「ちょっと」
酷く不機嫌な声音の雲雀を完全無視し颯爽と歩きながら器用に次々衣服を脱いで行く。ワイシャツ、インナー、スカート。
下着だけを纏った真っ白な肢体が露わになる。すらりと細く引き締まったシルエット。とんでもない流れに誰もが呆然と彼女を見つめるしかない。只一人、雲雀を除いて。彼はそれがとても不快な物であるかのように頑なに視線を逸らしている。
「誰が下着を着けていて良いと言った?」
ニヤニヤと残虐な悦楽に顔を歪めるカレルにルイはもう一つ息を吐いた。そしてチラリ背後を、雲雀を振り返る。視線を感じた雲雀がようやくそちらを向くと、彼女は僅かに唇の端を持ち上げ、こう言った。
「ね、雲雀さん。よ~く見ててね」
そしてブラジャーのホックを外そうと後ろに腕を回して──
「ヴッ…」
静かな呻きと共にカレルの身体が真っ直ぐに傾ぐ。他の者には何が起こったのか分からなかっただろう。だが雲雀の目は確かに捉えた。正確にカレルの頚動脈を打った手刀。
一瞬の隙を逃さずヴィゴールを拘束している偽警官を仕留めようとトンファーを片手に駆け出す。が、既に警官は首筋から血を吹き出させガクリと膝を着いた後。
彼の背後の扉に突き刺さっている超小型のナイフが目に入る。手刀の際にルイがもう片方の手で投げたのだろう。此方も迷う事なく頚動脈を狙っている。
──この女。
ぞくりと快感に似た興奮が雲雀の全身を襲った。が今はそれどころでは無い。草壁がエヴェリーナ母子の保護に回ったのを横目で確認してから呆気に取られ動きの取れない残党に向き直った。