A tesoro mio
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「アッ、アッ!ぁンッ…ア───!」
明るい照明が照らし出す高級ホテルの一室、絶え間無く響く甲高い女の啼き声。乱れた金髪、汗みずくの肌、真紅のルージュ。激しく首を振り善がり狂う女の上で、雲雀は只々快楽を追い求めていた。
セックスは気持ちが良い。気持ちが良い事は好きだ。只、この耳を劈く喧しい声は如何にか成るまいか。
予告無く自身を引き抜き女の肉感的な身体を乱雑に裏返す。痛い!非難の声は知らん顔でグイッと腰を抱えると勢い良く突き上げ、勢いのままに絶頂を駆け抜けた。
「アナタッてホント乱暴で身勝手」
使用済みの避妊具をゴールドネイルの指先で弄びながら、女──ヴァネッサ・ローレンがぼやいた。
「女には優しくしろって習わなかったの?まぁそんなトコが良いんだけど」
「男女平等なら昨日習ったばかりだよ。それさっさと捨ててくれない」
溜まった液体で先端の膨らんだコンドームをつついたりつまんだりを繰り返しているヴァネッサに雲雀は露骨に眉を顰める。セックスは気持ちが良い。気持ちが良い事は好きだ。
しかし事後というのは如何してこうも不快なのだろう。あちこちに纏わり付く粘着質な体液、柔らかな女の身体の感触、耳に残る生臭い嬌声。全てに表現し難い嫌悪感を覚えてしまうのだ。
「勝手な割に毎度毎度律儀よねぇ。何の為にピル飲んでるのか分かんないじゃない」
「知らないよ。飲もうが飲むまいが僕には関係無い」
「自分はしっかり避妊してるから責任取る気は無いって?可愛気も隙も無いガキねー」
「ガキに責任取れって?三十路のババアが怖い事言うね」
飲み干したミネラルウォーターの瓶を苛立ち紛れに乱雑にゴミ箱に投げ入れる。未だコンドームを手にしたままのヴァネッサからそれを奪い取りティッシュに包むとそれもゴミ箱へ。
憤慨する彼女は無視してさっさと身なりを整えながら、それで?と今日此処へ来た目的へと話を促す。
「雰囲気も何も無い。だからガキだってのよ」
煙草に火を付けぶちぶち溢しながら器用に着替え出すヴァネッサ。シルクのインナーに入り込んだ見事な金髪を鬱陶しそうに払い赤い唇をにやりと笑わせる。
「マルチェロとウェルナーは繋がってるわよ。何と実の兄弟。取引は諦めた方が賢明ね」
表向きは基地外じみた演技と美貌で世を魅了するトップ女優、此方の世界では腕利きの情報屋ヴァネッサ・ローレン。顧客は厳選しているらしく彼女の裏の顔が明るみに出る事は無い。
三年前にひょんな事で出会ったこの女はその瞬間に雲雀を大層気に入り、大変有益な情報と引き換えに肉体を求めて来た。それ以来取引という形で彼女との関係は続いている。
他のビジネス相手とも似たようなものではあるが。
「そう。残念だな」
セクシーなタイトワンピースにぴしりとジャケットを羽織り、得た情報に肩を落とす雲雀に投げキスを送るヴァネッサ。
「とっても良かったわ。また遊んでね」
颯爽と踵を返す彼女を視線で見送り、雲雀は一つ小さな溜息を吐いた。
セックスは気持ちが良い。気持ちが良い事は好きだ。けれど。幾ら身体が性感の高まりを覚えていようと意識は酷く冷静で、肉欲に塗れる自分を馬鹿馬鹿しいと嘲笑う。身体と心は別物とは良く言ったものだ。
無いなら無いで構わない。だが機会があれば断りもしない。雄の本能的欲求とは面倒なものだとうんざりしながら腕時計に目をやり、一時間後に控えた商談に向かって頭を切り替えた。
翌日の夜更け前。鳴り響くアラームで目を覚ましたルイはもう朝か、と苦痛の息を吐いた。今日から仕事でローマに出向く事になっている。一週間強の滞在を予定しているがあくまで患者の予後次第、多少長引く可能性も考え自分が不在の間の勤務は抜かり無く手配していた。
起きたく無いなぁ。
ぼんやりした頭で愛おしい毛布から這い出ると冬の冷たい空気が身に染みる。
昨夜は何と無く憂鬱な気分で寝付きが悪く、あまり睡眠時間が取れなかった。昼間ふと知ってしまった情報の所為だと感じては居たけれど、どうしてそれが睡眠に支障をきたす程の問題になっているのかルイには良く分からなかった。雲雀への落胆はそんなに大きなものだったのだろうか。何故。
何にせよそれはルイの勝手な感情だと理解していたので彼にはきちんと非礼を詫びるつもりでは居たのだが、結局昨日はその姿を見る事は無く終わった。謝礼は幾分先になってしまいそうだ。
シルクのガウンとスリップドレスを脱ぎ捨てバスルームに向かう。今日は難しい手術が入っているのだ、気を引き締めないと。ぐっと上げた顔は既に毅然とした医師のそれだった。