A tesoro mio
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翌日正午、軽い頭痛と共に目を覚ましたルイの目にはいつか見た景色が映し出された。自分の部屋より高い天井、振り子の壁掛け時計、必要最低限の物しか置かれていないすっきりした空間。雲雀の私室だ。
清潔な良い匂いのするベッドから身を起こし部屋の主を探すが見当たらない。出掛けているようだ。
「あー…やっちゃったぁー…」
ぐちゃぐちゃになった編み込みシニヨンを解きながら絶望の溜息が漏れる。いっそ全て忘れてしまえていれば良かったのに。色々失礼な言動を取った上とんでもない単語まで口走り、挙げ句の果てにはおぶわれたままの寝落ちと来た。穴があったら入りたい気分だ。
「怒ってるかなぁ…」
眠りに就く直前、また遊んでくれる?そんな事を尋ねた。雲雀は何と返したのだろう。答えを聞く前に意識が沈殿してしまった。ただ暗転して行く視界の中、彼の口元が僅かに笑みを浮かべていたのをルイの目は確かに捉えていた。
何だかんだで優しい男だと思う。
部屋の鍵を探す為とはいえ人の鞄を無断で漁るのは憚られたのか、こうして自分の部屋に運びベッドに寝かせてくれた。それまでの経緯を顧みれば、夜間でも解放している第一医務室の病床に放り出されていても可笑しくはなかったというのに。
手櫛で髪を整えてからベッドを降りる。御丁寧にも外されヘッドボードに置かれていた薔薇のヘアコサージュを手にしながら、何か礼をしなければ、そんな事を思った。
「あれ?京子ちゃん、ハルちゃん」
一旦自室に戻りシャワーを浴びた後少し遅めの昼食を摂りにリストランテへ赴けば、綱吉に獄寺に山本、そして彼女達の姿があった。
「ルイちゃん先生!お久しぶりです〜!」
にこにこ笑うハルと京子。どうして彼女達が此処にいるのかは綱吉が説明してくれた。大学の休みとは随分長いらしい。
京子の隣に座らせて貰いながら、以前のテロ事件を思い出す。あの後彼女達はトラウマにならなかったのだろうか。あの時は大変忙しく事後のメンタルケアなど出来なかった。
嫌な夢に悩まされてはいないだろうか。
楽しそうに過ごしている手前いちいち穿り返すのは憚られて言葉にはしなかったけれど、再度此処に来ている事自体が答えなのかも知れない。だとすれば、彼女達はなんて強いのだろう。
「お前今日休みだよな。何で居んだ?」
不思議そうな山本に寝坊しちゃったと返せば獄寺が飲み過ぎか?ニヤリ笑った。
「姉貴と飲んでたんだろ?あの店どーだった?アルバっつったか」
「良かったよお洒落で。けど内装とかメニューとか全体的に女性向けって感じだったから男の人には微妙かも知んない」
ファミリーの人間関係を円満に保つ為時折酒の席を設けるのも獄寺の仕事の範疇。その為の新店リサーチだろうと思い受けた感覚を率直に伝えれば、すかさず入る横槍。
「良いんだよ。獄寺はツナと笹川が楽しめりゃそれで」
「え!?お、オレは別に…!」
「…私は、…」
たちまち茹でダコのように真っ赤になる両片思いの二人は何とも微笑ましい。そうして取り留めのない雑談を続けていると、早々に料理が運ばれて来た。アクアパッツァに温かいリボッリータ。このリストランテの料理はとても美味しい。たちまち空腹感を覚えスプーンを手にする。
「美味し…」
幸せな気分で頬張りながら、ふと尋ねてみる。
「ね、雲雀さん知らない?」
彼に会って昨夜の事を謝らなければ。もしかして此処に居るかもと思い探して見たのだが見当たらなかった。すると獄寺がうんざりといった顔で。
「あいつ出てくの窓から見えたわ。ありゃ多分仕事と言う名の…」
「何?」
山本が何やら慌てた様子でバッおまっ!と制止。しかしその前に視界に入ってしまった。獄寺の男にしては繊細な手、その形の良い小指がぴっと立てられていたのを。
あぁ、成程。
「わ、そーなんだ」
返しながらも何なのだろう、この腹部にぞわりと湧き上がって来た不快感は。彼がビジネス相手と称した女達と関係を持っている事はとっくに知っていたのに。
昨夜彼には惚れている人が居ると聞いたからかも知れない。その人に対しては随分と奥手なようだったから、何と無く純情で潔癖な所のある男、そんな風にハードルを上げてしまっていたのだろうか。
“あなたの好きな人が裸で誘惑して来たらどうする?”
その問いに、逃げる、と口走った雲雀。そんな可愛い事を口走った男がそれから一日も経たずに何処ぞの女と生々しい行為に至っている。そこに落胆と嫌悪感を覚えたのかも知れない。
「えー?何ですか?」
「財団の方の仕事だよ。余計な事は知らねー方が良い」
意味が伝わらなかったのだろう首を傾げるハルと京子に獄寺がしれっと返すのを眺めながら、ルイは瞬間的な食欲の減退に持ったばかりのスプーンを器の中で搔き回す。
「何か用だったのか?」
「いーの。別に大した事じゃないから」
「そっか、じゃいーけど。なぁ、ヒバリと言えばさ」
山本にちょいちょいと手招きされ耳を近付けると、不思議な事を言われた。曰く、あいつもしかしてお前の事好きなんじゃねーの?お前に対しては妙に当たりが柔らかい気がする、と。
「まさか」
雲雀が惚れているのはヒステリックに笑う冷たい目の女だ。そしてその癖に平気で他所の女と遊べるどうしようもない男じゃない。
そう言いたいのを堪えて、拒否する胃に無理矢理スープを流し込んだ。