A tesoro mio
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「ちょっとお手洗い行ってくるわね」
「うん」
ほんのり頰を染めたほろ酔いのビアンキが席を立つ。相槌を打ったルイの頰もまた朱がさしている。アルコールに弱いルイはカクテルを二杯程飲んだだけで既に身体がカッカと火照るのを感じていた。
普段は職業柄飲酒を控えているが、明日は休みを取っているので今日は気にせず飲もうと決めていた。といっても後一、二杯が限度なのだけれど。ほろ酔い気分は嫌いでは無いし女性同士での会話は楽しい。ビアンキが戻って来るのを待ちながら機嫌良く鼻歌を口ずさんでいると。
「お、ルイ?」
良く聞き馴染んだ声が聞こえてきて振り返る。
「あれ。ディーノ」
「偶然だなー」
顔を赤く染めてすっかり酔っ払っている風体のディーノがカラカラ笑いながらルイの向かいに腰を下ろした。少し痩せたような感じがするのは気のせいだろうか。
戻って来たビアンキがディーノの隣に座り一人で何してるの、と尋ねる。
「ん?一人じゃねーよ。今な「他人に迷惑掛けるなバカ馬」
ディーノの声を遮るこれまた馴染みのある声が聞こえ、直ぐさま伸びて来た手がディーノの腕を掴む。この低くて落ち着いた声は。
「雲雀さん?」
呼び掛けると振り返った雲雀は少し驚いたような顔。まさかこんな所で会うとは思わないだろう。彼の頰は何時も通りに白いままで完全に素面のようだが。
腰をずらし隣を空けながら「二人で飲んでたの?」聞けば露骨に面倒そうに「この人の愚痴に一方的に付き合わされてただけ」と。
ディーノが愚痴だなんて珍しい。大人しく愚痴に付き合う雲雀はもっと珍しい。この二人の関係性は良く分からない。
「何かあったの?」
正面に居るディーノに向き直ると彼は一瞬視線を泳がせ、それから一つ頷き口を開いた。
「こりゃアレだな。女の意見も聞いとけって神の采配だ。…他に漏らさねーでくれよ」
一頻り話を聞き終えるとビアンキが難しいわね、と真面目腐った顔でグラスを揺らした。カラン、氷が澄んだ音を立てる。
「それでもやはり断るべきだと思うわ。自分に気持ちの無い相手にそうと知らず結婚されるなんて、耐えられないもの」
「んーやっぱそーだよなぁ…ルイ、お前はどう思う?」
「えー」
アルコールが回りふわふわする頭で何とか言葉を探すルイ。
「縁談は断る。ピアニストの事も忘れる。次の人見つける?」
「だーからそれが出来る程簡単な気持ちじゃねんだって!おめーが俺だったとしても無理だろーが!」
「良く分かんない。ただ生物学的には恋愛感情なんて持って3、4年なんだし、だったら条件優先…」
オイオイオイ。まじまじとルイを見つめるディーノ、そしてビアンキ。
「…えらくドライだが…、おめーまさか、恋した事ねーのか?」
ピクリ、雲雀の身体が一瞬固まった事に気付く者は居ない。ルイは「無いなぁ、したいとも思わない」即答すると洒落た硝子皿に盛り付けられたチェリーを桜色に潤う唇に放り込み、ふにゃりと笑った。
「酔っちゃった。この悩みはもうビアンキにお任せだよね」
どのくらい経っただろう。
雲雀は頬杖を付き加熱する二人の討論を眺めていた。よもや自分は何の必要も無い訳だがそれでも席を立たないでいるのは、隣で御機嫌にしているルイが居るからだ。彼女はとても重い所まで発展した話にうんうん頷いたりグラスに酒を注いでやったりしてこの状況に応じている。
ぼんやり眠くなり始めた頭に突如響く大きな声。一歩進んでは二歩下がる話にルイが「永久ループ」突っ込みを入れた瞬間ディーノがキレたのだ。
「るっせーな!分かんねー奴はあっち行ってろ!シッシッ!!」
「はー!?」
かなり酔っ払っているらしいディーノに雑な扱いを受け叫ぶルイ。とは言っても互いに兄妹弟子故の遠慮の無さを自覚しているようで、気を悪くした様子は無い。上気した頰で両手を軽く上げやっちゃったとジェスチャーしながら雲雀の方を向く。
「邪魔だって」
「…君だいぶ酔ってるね」
ディーノ達にはもう既に此方の事は目に入っていないらしい。ならばこっちはこっちで好きにさせて貰おう。ふんわり座り心地の良い椅子から立ち上がる。
「ん?トイレか?」
流石に気付いて振り返るディーノに帰ると宣告しルイの腕を引く。
「ほら行くよ」
んー?生返事ながらも言われるままに腰を上げるルイ。「何処連れてってくれるの」へらりと笑う。
「帰るんだよ酔っ払い。どっか行きたいの?」
「明日休みですよ?や・す・み!!」
そうか、ルイは休前日は堪能したいタイプなのか。
分かったから取り敢えず出るよとその身体を狭いボックス席から引っ張り出し、ちらりとビアンキに目配せする。
「後よろしく」「OK、任せて」視線だけでそんなやり取りを交わしルイの手を引いて踵を返した。が。
店を出ようとした所でカウンターに座る男と目が合い驚く。またしても良く知った顔に会おうとは思わなかった。
「恭さん!」
特徴的な髪型は今日も相変わらず。数ヶ月ぶりに会う部下はすっかり赤らんだ顔で、だが明朗な口調で雲雀の名を呼んだ。
「哲?来るの来週って言ってなかった?」
「へい。それがロマーリオが悩みがあると言うのでちょっと早目に…今手洗いに行ってますが」
ディーノが悩んでいる状況でその腹心の部下もとは、また妙な巡り合わせだと思う。
そう、相槌を打つより早く草壁の視線が雲雀の隣で首を傾げているルイに向けられる。草壁が息を飲むのが分かった。初めて彼女を目にした時自分もまた同じ反応をしてしまった事を思い返しながら、ボンゴレの医者とだけ説明した。ルイは顎に手を当て何やら考え込んでいる。
「あー…何だっけ…ううん…」
「何?」
「えーと…、」
「だから何?」
「……あ、リーゼント!リーゼントの草壁さんですね!」
パンッと手を打ち合わされる手。そう言えば彼女には彼の事を軽く話したような気がする。思い出すきっかけがリーゼントとはこれまた何とも。
「え、あの…」
「酔ってるから無視して。普段は優秀なんだけどね」
「はぁ…」
ちらちらと自分達を交互に見る草壁はきっと「どういった御関係で?」とでも聞きたいのだろう。自分は単なる酔っ払いに親切にするような人間ではない。ルイの手前面倒な話に発展する前に切り上げた方が良いと判断し、「奥に跳ね馬もいるよ」とだけ言ってその場を後にした。