A tesoro mio
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
クリスマス休暇が終われば直ぐに年末年始、長期休暇明けの忙しなさを経てあっという間に季節は立春を迎えていた。
「あーだりー痛ぇー…」
暖かな陽射しの射し込むリストランテでは、綱吉、獄寺と共にテーブルを囲む山本が爽やかな場にそぐわぬ声を上げて腕をぐるぐる回してはぐっと上体を伸ばしてを延々と。
先日綱吉が依頼した、他ファミリーの麻薬売買の証拠を抑える為の長時間の張り込みですっかり全身凝り固まっているのだ。
「ったく情けねーな。一日二日の潜伏ごときでぐだぐだ言ってんじゃねーよ」
「そう言うけどさ、マジで身動き取れなかったのな。お前もあの場に居りゃ分かったって」
「ケッ!大した事ねーに決まってら」
やいのやいの言い合う二人を眺めつつパスタを口に運びながら、綱吉の胸はわくわくと踊っていた。二月に入り大学が休みになった京子とハルが再び此処に来るのだ。しかも今回は一ヶ月程滞在出来るとの事。昨年のバレンタインにはチョコレートを送って来てくれたが、今年は一緒に過ごす事が出来る。
テロ事件に巻き込まれたばかりだというのに臆せず来てくれる彼女らは強いとつくづく感じる。同時に深い感謝の念も。勿論此方としても安全には万全を期する為、一般の航空機は使用しない。今はリボーンが直々に自家用ジェットを使って迎えに行っている所で、今日の夜頃には着くと先程連絡があったばかり。
開放的なガラス戸の向こうの太陽に目を細め、一ヶ月間何をして過ごそうかと想いを馳せた。
「おっ居た居た恭弥、久しぶり!」
その日の夕暮れ時、守護者専用室が設けられている3Fの廊下に響く耳障りの良い声。眩しい金色に輝く髪、長い睫毛、明るい鳶色の瞳。見目麗しいキャバッローネファミリーのボスが相変わらずの快活な笑みを浮かべ廊下の向こう側から歩いて来た雲雀に声を掛けていた。
「?あなた何してるの」
「ちっと時間出来たからな。たまには飲み行かねーかと思って」
「暇だね」
「暇じゃねーよ超激務!ナターレぶりの休暇だっての!」
ぶちぶち言うディーノは確かに疲れているようだ。よく見ると優しげな目の下の薄い皮膚には隈が張り付いて、少し痩せたような感じもする。
だったらこんな所まで来ていないで休めば良いのに、とは思うがそれは彼の自由意志なのでわざわざ口には出さない。
「今日髭の人達は?」
「ん?ああ、ちょっとな…」
微妙に歯切れの悪い口調に何となく察する。部下達には聞かせられない話でもあるのだろう。良くも悪くも彼とはこの六年間で互いに勝手知ったる仲というか、妙な相互理解のようなものが出来上がってしまっている。仕事の件かプライベートな悩みか、何にせよ聞くか聞かないかは自分次第。今日の気分は。
「良いよ。泥酔しないならね」
「やばかったら止めてくれよ」
一方、最近出来たばかりのお洒落なバール、アルバでは。
「バレンタインね…」
艶っぽい唇からワイングラスを離し、ビアンキがうっそりと吐息交じりの声を漏らしていた。未だ酔ってもいない割りに頰が薄ら色づいているのは愛おしいリボーンを想っているから。向かいには熱いヴァンブリュレを啜るルイ。
リボーン繋がりで以前より交流のあった二人は、忙しい仕事の合間を縫っては度々こうしてゆっくり女子会というものを楽しんでいた。美容にファッション、トレンドの音楽や恋愛そして噂話などいつでも話題には事欠かない。時には裏社会の情報のやり取りなど空恐ろしい会話も飛び交う。
「今年は何を贈ろうかしら…」
「ビアンキが贈るの?贈られる側じゃなくて?」
「日本では女性が好きな男性にチョコレートを渡して告白する日なのよ。別にチョコレートじゃなくても構わないけれど、とにかく女性から、なの。暫く日本に居たから影響されちゃったのよね」
此処でも文化の違いか。“主旨のずれた良く分からない行事は沢山あるよ”
生真面目な印象のあるジャポネーゼは、意外と恋愛へのモチベーションが高いのだろうか。
「それにね、贈られるのも嬉しいけど自分から贈るのも素敵なものよ。愛おしい相手の喜ぶ顔を想像するだけで幸せになれるもの…」
ほうっと蕩けた顔のビアンキは確かに幸せそうだ。見ているルイの方が幸せな気分になる程度には。
「ナターレにバレンタイン。ジャッポーネは恋の国なの?私行った事無くて」
「恋のって訳では無いけれど良い所よ、平和で。銃声は聞こえないし夜に一般の女性が一人歩き出来る国なんてあそこ以外には無いんじゃないかしら」
「へぇ〜、ホントにそんな安全なんだ。誇張された情報だと思ってた」
「勿論危険な場所もあるわよ。あ、そうそう、それにホワイトデーっていうのもあってね…」
グラスを片手に、取り留めも無い話は続いて行く。
「じゃ此処で良いんだな」
夜の繁華街。色とりどりのイルミネーションが辺りを照らす中リボーンは一声掛けて愛車を停車させると、一人の男を降ろした。長いリーゼントを揺らし礼を述べる草壁哲矢。
「すみません。こんな所まで」
並盛に京子達を迎えに行った際丁度イタリアに渡る所だった草壁と偶然会い、ジェット機に同乗させて来たのだ。そのまま雲雀の所に行くのかと思いきや今日は此処パレルモ郊外でロマーリオと会うというので車で送って来た。
「気にすんな、お前には世話になってるからな」
「とんでもない、あなた方の力になっているのは雲雀ですよ」
「だからそのヒバリを上手く操縦してんのはお前だろ」
いや、そんなと慌てふためくこの愚直なまでに誠実な男をリボーンは個人的に気に入っていた。その管理能力や細かな気配りも含め是非ボンゴレに欲しい、そう思うがこの男のこの男たる所以はやはり雲雀の絶対的なカリスマあっての事なのだろうと理解もしている。主と認めた雲雀以外の人間の下になど彼はとても受け入れないだろうし、こればかりは諦めるしかない。
「まぁ何でもいーけどお前たまにはボンゴレにも顔出せよ。上等の芋焼酎用意して待ってっからな」
「は、はぁ…」
遠くに歩いてくるロマーリオの姿が見える。じゃーな。言い残してリボーンはアクセルを踏み込んだ。