A tesoro mio
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「……いや、困るんですけど…」
未だ朝日も差さない早朝に。
ボンゴレイタリア本部の執務室、上等の調度品に囲まれた室内には書類の山と徹夜明けで疲れ切った顔の沢田綱吉。そしてソファに寝転がる闇医者シャマルと入り口のドアに凭れ掛かった超一流のヒットマン、リボーン。
「しゃーねーだろ、バレちまったもんは」
鼻くそをほじりつつだるそうなシャマルが綱吉に言う。
「大体恋愛は個人の自由なんだよなぁ。それが王妃様ってだけで何で指名手配になっちまうのかねぇ」
あまりに他人事な言いざまに綱吉の堪忍袋の緒が切れた。
「ふ、ふざけんなよあんた何度目だよこういうの!これ以上ゴタゴタ起こされたら俺ほんとに過労死するからな!てかこのクソ忙しい時にいつ王妃様に手ぇ出す暇があったんだよ!!」
憤慨する綱吉にシャマルは肩を竦めへらっと軽薄な笑いを見せる。
「女口説くのに時間なんていらねーよ」
しゃあしゃあと言い放つ医者に綱吉が何事か言い掛けたが、この生来の女たらしに何を言っても無駄だと悟ったのだろう、結局その口から溢れたのはストレスをこれでもかと詰め込んだ大きな溜息だけ。
現在のボンゴレは、同盟ファミリーの裏切りにより起こった大規模な抗争の末に多大な怪我人を出していた。とうに抗争自体は収束し概ねの構成員らも回復してはいるものの、継続して最先端の医療技術の施しが必要な重傷者もいる。
シャマルの絶対的に信頼の置ける医療手腕があるからこそ予後に不安の残る者は居ない、そう思っていたのに。何と彼はこの最悪なタイミングで降り掛かった国際指名手配から逃れる為に、仕事を放棄してどこかへ姿をくらます気でいるのだ。
「患者達はどーすんだよ…あんた程の腕を持ったドクターなんてどーやって探したら……」
誰よりもファミリーを、その命を重んじる綱吉はすすき色の柔らかな髪をくしゃくしゃに掻きながら頭を抱え、情けない声を漏らす。
何ともボスの名に似つかわしく無いドン・ボンゴレの様子にシャマルはおいおいと呆れ顔。
「いつ俺が患者を放り出して高飛びするっつったよ。後任はもう依頼してある」
えっ!?驚きに大きな丸っこい目を更に大きく見開く綱吉。あまりに素直な感情の起伏。こいつは本当に変わんねぇなぁ、シャマルはしみじみそんな事を思う。中学生時代初めて会った頃の彼そのままだ。
あれから早7年、彼は心身共に随分強くなりはした。高校卒業と共に正式にボンゴレ10代目を襲名してからはより一層。
それでも尚。
ドン・ボンゴレの背負う途方も無い業と責任。誰より争いを嫌うこの男がどれ程の苦しみを内包し葛藤しながら拳を振るうのか、残酷な判断を下すのか。色々と割り切れてしまう自分の様な人間にはきっと理解し得ないのだろう。清濁併せ呑むにはこの10代目ボスは潔癖過ぎるのだ。
不思議と人を惹きつける馬鹿馬鹿しいまでの優しさとあまりに酷いダメっぷり。そのような内面を何一つ変えられぬままに、良くも悪くも成長を強いられ大層な立ち位置に登ったこの青年。彼自身が選んだ道と言えど、選ばざるを得なかった側面も大きかったとシャマルは勝手に思っている。だからこそ追っ手が差し向けられているという情報を察知し次第すぐにとびきりの後任を付けてやったのだ。医者としての責任、それと同じ位にこの頼りない常にいっぱいいっぱいの、更には先の抗争で心労がピークに達している状態のドン・ボンゴレにこれ以上の負荷を掛けるのは若干胸が痛んだので。
人間40を数えると丸くなるものだ。
「奴はこの俺様が直々に育て上げた愛弟子、何の心配もいんねーよ」
直々に…?シャマルの心いざ知らず、自信満々に告げられた言葉を反芻する綱吉は随分と訝しげだ。
「……。愛弟子だって…?」
「ああ。腕は確かだし気のいい奴だからな、オメーの癖だらけの守護者ともそれなりにやるだろうよ」
「男は診ないとか言わない?」
「言わねーよ馬鹿。命の重さは皆一緒だと叩き込んである。感謝してくれ」
省みろよなどと突っ込む代わりに綱吉は今度は安堵の息を吐いた。
天才の名を欲しいままにしたこのトライデント・シャマルがここまで言うならば腕には何の文句も無い。人格に問題が無い事が分かればそれで充分だ。
「フットワーク異常に軽い奴だからぼちぼち来んだろ。偶然近くに居て助かったわ。俺もう荷造りに入っから」
じゃーな、片腕を挙げてさっさと出て行ってしまう。
「なんて勝手な……」
「急いでんだろ。まぁ良い方に取れよ。これで男も気兼ねなく診て貰えるんだから」
家庭教師の言い分に、まぁ確かに、とは思う。怪我にしろ病気にしろ頼み込んで頼み込んでやっとの事で診て貰えるという状況には慣れているとはいえ中々手を焼いていたのは事実なのだから。
「はぁ〜、来たらみんなに紹介もしなきゃな…胃が痛いよもう」
目の前には書類の山。徹夜明けの頭は幾ら努力をしてみても回りはしない。人間は睡眠が絶対必要な様に出来ているのだ。「オレ少し寝るからな」染み付いた隈を擦る綱吉に今ばかりは恐怖の象徴である家庭教師も何も言うこと無く退室して行った。