A tesoro mio
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「変わりは無いですか?」
コードレスのドライヤーで濡れた髪を乾かしながら戻って来た骸は持参していたらしいルームウェアに着替えていた。端からこうなる事を予見していたようだ。遠くの方でゴウゴウと洗濯機の回る音が聞こえる。
「勝手に洗濯させて貰いましたよ」
「お構い無く」
何度掛け直してあげてもすぐに蹴脱いでしまう酔っ払い達にめげること無く再び毛布を掛けてあげながらルイは一つ大きな欠伸を溢した。
「寝てて良いですよ。何かあれば起こしますから」
「大丈夫。ね、お茶淹れてくる」
珈琲か紅茶か問われ紅茶と即答する骸にルイは少し嬉しそうな顔で自室に入って行った。共に紅茶派なのだ。数分後ルイが湯気を立てるカップを持ち戻って来ればすぐにベルガモットのフルーティな香が部屋に広がった。
「落ち着きますねぇ」
「ねー」
しみじみと温かな紅茶を楽しみながら静かな時が過ぎる。聞こえて来るのは酔っ払い達の鼾と山本の喃語じみた寝言だけ。時折ふははと不気味な笑い声が響いてルイを笑わせる。
暫く二人は無言で特段心配の無さそうな彼らの様子を眺めていたが、不意に骸が口を開いた。
「如何ですか。此処での生活は」
ルイは楽しいよと返す。
「みんな、あなたに聞いてた人のまんま」
愚かな程優しいツナにぶっきらぼうだけど面倒見の良い獄寺君、陽気で呑気な山本君と群れ嫌いの雲雀さん、極限に騒々しい了平さん、やる気ゼロのランボ。
今は自室で睡眠中のランボを除く一人一人を見つめながら目を細め呟くルイ。柔らかな笑みの中にほんの少しの寂しさを織り交ぜて。
「ツナ、あなた達二人の事すごく気にしてた。怖くて変人だけどどうか上手くやってくれって。心配なんだね」
ルイが可笑しそうに話す二人というのが骸と雲雀を指している事は明白。フンと鼻を鳴らす骸。
「だから愚かだと言うんですよ。ドン・ボンゴレという立場に沿ぐわない甘さだ」
「だから頑張っちゃうんだ」
「冗談でしょう?僕が動くのは僕自身の為ですよ」
捻くれた物言いだがルイは知っている。この屈折した男が殊の外綱吉を気に掛けている事を。綱吉を侮蔑する数々の言葉を聞いて来たけれど、その中には確かに温度が感じられたから。
この六道骸に人としての感情を与えた男。与えたというより呼び醒ました、というべきか。大空の特性をそのまま体現したかのような全てを包み込む優しさ。一月にも満たない付き合いだが、ルイは綱吉に怒りも悲しみも憎しみすらも全てを受け入れ浄化する、何処までも温かな強さを感じ取っていた。その彼が、そして彼を慕う者達が築くこの場所はとてもとても─
「居心地が良い」
「はい?」
「ここは、すごく居心地が良いよ」
そうですか。返しながら骸には二次会で陥った思考の沼が蘇る。
「ボンゴレはどうするのでしょうね。笹川京子を伴侶に迎えるのか手放すのか」
「うん?」
「僕はね、」
振り向きざまにルイを見つめて。
「もし未来を共に歩むならば君かクロームが良い」
骸がこのように突飛な発言をするのは珍しく、ルイは首を捻ってしまう。
「今日、居心地の良い場所というのを考えたんです。その時にそう思いました」
「そう」
「これは、依存だと思いますか?」
「……」
吸い込まれそうな美しいオッドアイが映し出す淀んだ自嘲にルイは暫し言葉を詰まらせた。やがて自分の手を骸の手にそっと重ね、長い睫毛を伏せた。
沈黙が落ちる。
「…やめましょう」
そう言ったのは骸。すみません、僕も酔ってるみたいです、と茶を濁すように視線を外した骸にルイはゆるりと首を振る。
「気楽で良いかもね、お互いに。私だって—…」
しかし骸は重ねられたままの手をやんわり解いて。
「戯言ですよ。忘れて下さい」
半覚醒している脳に届くやり取りを、いつしか目を覚ましていた雲雀は目を瞑ったまま、只じっと聞いていた。