キラキラ
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ゆらゆら、照明を反射してキラリ光るグラスに琥珀の液体が揺らめく。
助手席に乗り込んでさぁ出発という所で、あろう事かルイの腹は盛大な空腹音を鳴らした。最悪だと隣の様子を伺ったが、雲雀は気にした風も無く。
夕食まだなの?丁度良い、付き合ってよ。
そう言った雲雀に連れて来られたのは近くの薄暗いエノテカ。店内は閑静な現在のパレルモにしては比較的賑わっていて、お喋りに勤しむ客でそれなりに騒がしい。
「あの…」
沈黙に耐えかね口を開けば炭酸水を煽っていた雲雀が視線を寄越す。彼もこれから食事の予定だったのだろうが、何故飲まないのに敢えてのエノテカ?思いはしたが聞く勇気は無い。
「どうもありがとうございました。…覚えて頂けてるとは思いませんでした」
「君は優秀だったからね」
「はぁ…」
駄目だ、会話が続かない。元来率先して喋るのは苦手な性分なのだ。
まぁしかし何と見事な眉目秀麗ぶりだろう。時間を止められるならばいっそ心ゆくまで見惚れていたいくらいには。十年前も随分と整ったかんばせをしていたけれど。と、ふとその頃の面影が甦る。
踊るように軽やかに不良共を這い蹲らせた最強の風紀委員長。
“大丈夫かい?”
そう言って手を差し伸べてくれた姿は当時のルイには紛れも無いヒーローそのもので。力で人を捩伏せる理不尽な嫌悪すべき人種、それだけだったイメージとのギャップにルイの胸は今迄に無い感情で溢れ返った。
あれは、恋と呼ぶものだったと思う。
その後彼が卒業して並盛を出て行く迄遠目から見つめ続けた翻る学ラン、鋭い横顔、凛然とした佇まい。その全てが今でもキラキラと色付いている。
「…どうしたの?」
ふと我に返れば怪訝な表情。いけない、しゃんとしなければ。所詮過去は過去。自分がそうであるように、きっと彼だって。今目の前に居るこの人は自分が惹かれて止まなかった並中風紀委員長とは別の人で、むしろそれが自然な形なのだから。
「すみません、ちょっとボーッとしてて…それより飲まないんですか?」
「僕に飲酒運転勧める気?すごい度胸だね」
「え、違…だって、」
イタリア、特にここいらでは飲酒運転の規制など有って無いようなもの。何せ水代わりにワインを飲む国民性、経済の影響を考慮して厳罰化されないのだと言う話だ。けれど彼は。
「僕がそれに乗じる理由は無いな。お国柄だし噛み付く気にならないだけ」
至極当然とばかりに返され、驚く程急速に沈み行く心を感じた。
成程、この人の根底は何一つ変わってはいない。変わらないままで折り合いを知る大人へと成長を遂げたわけだ。決して諦めでは無く、あくまで確固たる“自分自身”を持って。
御立派な事じゃないか。無意識的に顔は皮肉に歪み、おずおず片手に触れていたグラスを一気に煽る。
「噛み付く気にならない、ですか⋯。今でも風紀取り締まってらっしゃるんですね。…お仕事は何を?」
「聞かない方が良いんじゃない?君こそもう医師免許は取ったの?」
「えぇ、まぁ」
剥奪されましたけど。何て言えるか。言ってたまるか。それは最早自尊心が故の敵意。空のグラスにドボドボと手酌でプロセッコを注ぎ再び空にする。
あぁ美味い、上質なワインなど実に半年ぶり。捨て鉢な気分で遠慮は止めだと胸に抱えた天秤が瞬速で傾く。支払い?そんなもの知った事か──
結果。
「… 明日仕事じゃないだろうね?」
横向けにテーブルに突っ伏しへらへら笑う女と呆れ顔の雲雀。
「勿論お休みですよー。今日も明日も明後日も、ずーっとずーーっっと」
「へぇ。夏季休暇?ドクターにもあるんだね」
「まさかー…私今ねぇ、」
人生の休暇中なんですよ、先輩。だらりと顔を上げグラスを傾ける。既に注ぎ手の雲雀によって炭酸水にすり替えられている事にすら気付いてはいない。
「それってつまり?」
「わぁ、聞いちゃいます?つまり、つまりー…」
完全に前後不覚に陥っていた訳では無い。この時点では未だ僅かながら判断力は残っていた、と後になって思う。
が、その時のルイには後々の心の平穏なんかよりずっと、現状こんなにも充実していると見える人に格差を突き付ける事でたった一時でも後ろめたさを感じさせてやりたい、そして自分自身をとことんまで貶めてやりたい──そんな自虐的な欲求が勝ってしまっていたのだ。
助手席に乗り込んでさぁ出発という所で、あろう事かルイの腹は盛大な空腹音を鳴らした。最悪だと隣の様子を伺ったが、雲雀は気にした風も無く。
夕食まだなの?丁度良い、付き合ってよ。
そう言った雲雀に連れて来られたのは近くの薄暗いエノテカ。店内は閑静な現在のパレルモにしては比較的賑わっていて、お喋りに勤しむ客でそれなりに騒がしい。
「あの…」
沈黙に耐えかね口を開けば炭酸水を煽っていた雲雀が視線を寄越す。彼もこれから食事の予定だったのだろうが、何故飲まないのに敢えてのエノテカ?思いはしたが聞く勇気は無い。
「どうもありがとうございました。…覚えて頂けてるとは思いませんでした」
「君は優秀だったからね」
「はぁ…」
駄目だ、会話が続かない。元来率先して喋るのは苦手な性分なのだ。
まぁしかし何と見事な眉目秀麗ぶりだろう。時間を止められるならばいっそ心ゆくまで見惚れていたいくらいには。十年前も随分と整ったかんばせをしていたけれど。と、ふとその頃の面影が甦る。
踊るように軽やかに不良共を這い蹲らせた最強の風紀委員長。
“大丈夫かい?”
そう言って手を差し伸べてくれた姿は当時のルイには紛れも無いヒーローそのもので。力で人を捩伏せる理不尽な嫌悪すべき人種、それだけだったイメージとのギャップにルイの胸は今迄に無い感情で溢れ返った。
あれは、恋と呼ぶものだったと思う。
その後彼が卒業して並盛を出て行く迄遠目から見つめ続けた翻る学ラン、鋭い横顔、凛然とした佇まい。その全てが今でもキラキラと色付いている。
「…どうしたの?」
ふと我に返れば怪訝な表情。いけない、しゃんとしなければ。所詮過去は過去。自分がそうであるように、きっと彼だって。今目の前に居るこの人は自分が惹かれて止まなかった並中風紀委員長とは別の人で、むしろそれが自然な形なのだから。
「すみません、ちょっとボーッとしてて…それより飲まないんですか?」
「僕に飲酒運転勧める気?すごい度胸だね」
「え、違…だって、」
イタリア、特にここいらでは飲酒運転の規制など有って無いようなもの。何せ水代わりにワインを飲む国民性、経済の影響を考慮して厳罰化されないのだと言う話だ。けれど彼は。
「僕がそれに乗じる理由は無いな。お国柄だし噛み付く気にならないだけ」
至極当然とばかりに返され、驚く程急速に沈み行く心を感じた。
成程、この人の根底は何一つ変わってはいない。変わらないままで折り合いを知る大人へと成長を遂げたわけだ。決して諦めでは無く、あくまで確固たる“自分自身”を持って。
御立派な事じゃないか。無意識的に顔は皮肉に歪み、おずおず片手に触れていたグラスを一気に煽る。
「噛み付く気にならない、ですか⋯。今でも風紀取り締まってらっしゃるんですね。…お仕事は何を?」
「聞かない方が良いんじゃない?君こそもう医師免許は取ったの?」
「えぇ、まぁ」
剥奪されましたけど。何て言えるか。言ってたまるか。それは最早自尊心が故の敵意。空のグラスにドボドボと手酌でプロセッコを注ぎ再び空にする。
あぁ美味い、上質なワインなど実に半年ぶり。捨て鉢な気分で遠慮は止めだと胸に抱えた天秤が瞬速で傾く。支払い?そんなもの知った事か──
結果。
「… 明日仕事じゃないだろうね?」
横向けにテーブルに突っ伏しへらへら笑う女と呆れ顔の雲雀。
「勿論お休みですよー。今日も明日も明後日も、ずーっとずーーっっと」
「へぇ。夏季休暇?ドクターにもあるんだね」
「まさかー…私今ねぇ、」
人生の休暇中なんですよ、先輩。だらりと顔を上げグラスを傾ける。既に注ぎ手の雲雀によって炭酸水にすり替えられている事にすら気付いてはいない。
「それってつまり?」
「わぁ、聞いちゃいます?つまり、つまりー…」
完全に前後不覚に陥っていた訳では無い。この時点では未だ僅かながら判断力は残っていた、と後になって思う。
が、その時のルイには後々の心の平穏なんかよりずっと、現状こんなにも充実していると見える人に格差を突き付ける事でたった一時でも後ろめたさを感じさせてやりたい、そして自分自身をとことんまで貶めてやりたい──そんな自虐的な欲求が勝ってしまっていたのだ。