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約束通りに一週後、祝言は盛大に行われた。突然の話ではあったが雲雀の影響力は絶大だ。各方面の要人、偉人、又何処で聞き付けたのかこれにこじつけ是非挨拶をと舌舐めずりした者達が其方此方から押せ寄し屋敷はごった返り。黒曜としてもこれで町が救われると涙を流した老若男女が二人の門出を祝福しに大勢集まった。
生来の群れ嫌いの雲雀では有るが所帯を持った事実を知らしめる絶好の機会として、愛想良くとはとても言えぬも大人しく祝言の間に着坐し三々九度の盃を嫁と交わし合った。
本人の希望通り呉服商に大急ぎで仕立てさせた四季の花の婚礼衣装に身を包んだルイはとても綺麗だった。角隠しの下輝かんばかりの美貌を俯き気味に微笑む彼女に皆一様に嘆息し、盃を煽ったその真白い喉がゆるりと酒を嚥下して行く艶やかな様を食い入るように見つめていた。
饗膳を終えた後銘々に酒と会話を楽しんだ客人達が帰宅の途に着く。静まり返った部屋に居るのは今や新郎新婦とシャマル、草壁のみ。式の間中遠い目でルイを見守っていたシャマルがそっと俯いたままの彼女の肩を抱擁する。会話は無い。互いに瞳と瞳で何かを伝え合い、それから彼も腰を上げ去って行く。雲雀とすれ違い様「くれぐれも大事にしてあげて下せーよ」彼らしい雑な口調に愛娘への溢れる思慮を忍ばせて。
「…さぁ奥様お疲れでしょう、お召し替えの準備が出来ております。あちらへ」
俯き畳に座したままのルイに草壁が声を掛ける。ゆっくりと立ち上がった彼女、角隠しから覗く頬は微かに朱が差し踏み出した足は如何にも覚束無い。三々九度の酒に酔ってしまったようだ。二、三歩進んではぐらり、傾ぐ身体をすぐ側に居た雲雀が支えようと腕を伸ばした瞬間。
バシッ!
響く激しい音。触れかけた手をルイが勢い良く払いのけたのだ。咄嗟の事に息を飲む草壁。驚きに目を剥いて彼女を見ると、俯いたままの顔、固く結ばれた唇。
「……、」
何と言えば良いのか分からない。ルイはやはりこの婚姻は望んでいなかったのだ。式の間中ずっと、本当に幸せそうに笑んでいたから。一週の内に心に折り合いを付けたのかもと感じていたのだが如何やら希望的観測に過ぎなかったらしい。随分と酷いやり口だったから当然と言えば当然だが。
しかしこれは。
恐怖を覚えつつ払われた方の雲雀に目を遣ると、意外や意外。彼は僅かに眉間に皺を寄せていたもののすぐに軽く息を吐いて踵を返した。
「哲、着替えたら屋敷中案内してあげな。後は頼んだよ」
「へ、へい…」
落ち着いたものだ。平常の彼ならばとうにギラリと光る銀灰の獲物で打ち据えていただろうに。退室して行く雲雀の後ろ姿にホッと安堵の息を零してフラつき壁に凭れるルイを着替えの部屋へ促す。
財団の屋敷は途轍もなく広い。長い廊下をルイに合わせゆっくりと歩きながら彼女の務めを説明する。曰く、雲雀の身の回りの世話について。
朝は基本的に彼が起きるまで物音を立てず寝かせておく事。掃除洗濯は毎日丁寧に、その際部屋の左奥に据えられている箪笥には決して手を付けない事。屋敷を空ける日も多いが指示の無い限りは朝昼夜毎食用意しておく事。
「敷地は広いですが恭さんの私的な空間は奥の三室、その他に関しては私共で致しますのでどれ程荒れていても知らぬ顔で結構です」
「…はい」
「奥様のお務めは恭さん個人の衣食住の世話のみですから、空いた時間はどうぞ御自由にお過ごし下さい。…ただし」
壁に寄り掛かりながらも自らの足で前に進むルイを振り返ると遠慮がちに続ける。
「…様々な危険などを防ぐ為、敷地外へのお出掛けは禁じさせて頂きたいのです。不自由だとは存じますが、如何しても必要な時は私が付き添いますので何卒御了承下さい」
ルイは俯けていた顔を上げ草壁を見つめたが、ややあって低く呟いた。
「…本当に」
「はい?」
「女と言うのは何処の国でも生き辛いものですね」
女、それも雲雀恭弥の妻ともあろう女が夫を他所に享楽に耽るなど外聞が悪いにも程があると。いと気遣わし気な言葉に内包された行間を正確に読んだのであろう彼女は無感情に静かに皮肉を吐き棄てた。或いは諦めだったのかも知れない。
「…奥様 」
何れにせよ痛む胸を押さえ草壁はそっと目礼をすると、合間にある浴室を案内しがてら着替えの間を目指した。
夜更け過ぎ。肌触りの良い綿布団に横たわり寝付けずにいたルイは、静まり返った部屋の襖が開く音にビクリと身を震わせた。畳を擦る足音。枕元の洋燈が照らし出す薄明かりの中見上げた顔は──
「…何、寝てたの」
黒い浴衣を身に纏った、本日付けで夫となった男だった。
一言呟いたきり無言で上掛けを捲り布団に入り込む身体、しゅるりと解かれる伊達締め。
ルイは仰向けのまま動かない。半襟が開かれ真白い胸元が暴かれようと節くれ立った手が素肌を滑ろうと、僅かに震える唇を結び目を閉じるばかり。その手が内股に潜り込んで来た時初めてぐっと顔を俯け身を強張らせた。
「怖い?」
そっと頬に触れる手はひんやりと冷たい。違う、そう言うように一度だけ横に振られる首。その首筋に唇を落とし甘噛みする。意外に豊かな乳房を揉もうが淡い桜色の先端を舐ろうが一切の反応を示さないルイの身体をそれでも一通り丹念に愛撫すると、掌を秘部に伸ばし──細い腕がぐっと雲雀の肩を押す。
「大丈夫だから」
やんわりとその腕を解かせ中指で花裂を撫で上げる。幾度か往き来させ内部に潜り込ませようとするものの乾き切った其処は異物を拒む。第一関節まで侵入した所でルイが身動ぎ眉を顰めた。痛むのだろう。
「…すぐ慣れるよ」
つっけんどんな言葉とは裏腹な柔らかい口調。ゆっくり挿入しそっと差し引きする指も彼女の身体を慮る優し気なもので、決して強引に進めるつもりは無いようだった。ルイは半顔を枕に押し付けたままで只々瞼を瞑り耐えている。
いよいよ両の手が脚を広かせ雲雀が自身を秘口に当てがったその時、ぐいっ!先程とは比較にならぬ強い力が彼の身体を押し返す。僅かに眉を寄せた雲雀が小さな溜息を吐きつつそのまま続けようとすると。
「嫌っ!」
突如として暴れ出す細い身体。
「嫌っ…止めて!やだ、やだ!!」
やだっ!半狂乱で叫びながらその腕は雲雀の顔を叩き引っ掻き、ジタバタもがく脚は四方八方を蹴り付ける。とばっちりを受けた洋燈が畳を転がって行く。
グッ!此処で初めて雲雀が力を込めて彼女の細顎を掴み強引に自分の方を向かせた。見下ろす鋭い双眸、温度を感じさせぬ声音。ゆっくりと、低く。
「経緯が如何あれ、君は自分の意志で此処に来た」
そうだろう?問われたルイは強い力で顔を固定されたまま只々彼の灰青の瞳をギッと睨み付ける。
「全て飲んだ上での決断だったんじゃないの」
尚も表情を変えないルイに雲雀は再度溜息を吐いた。
「知っての通り黒曜の再興には既に着手してある。君は逃げないと信じたしあの村の現状を見るに一日でも早い方が良いと判断した、これは僕の誠意だ」
「……」
「失礼な言い方だけど後ろ盾が有る訳でも無い一人の女を迎えるには随分と莫大な代償を払ったつもりだよ。そして事はもう動き出している…分かるね?」
それでも暫し睨み付けていた紅玉の瞳は、やがて光を喪いそっと瞼が閉じられた。同時にぱたりと投げ出される両の腕。雲雀が押さえ付けていた顔を解放し白い身体に覆い被さる。
そのまま、糸の切れた操り人形の冷え切った身体を暴いた。
其れが、二人の初めての夜だった。
生来の群れ嫌いの雲雀では有るが所帯を持った事実を知らしめる絶好の機会として、愛想良くとはとても言えぬも大人しく祝言の間に着坐し三々九度の盃を嫁と交わし合った。
本人の希望通り呉服商に大急ぎで仕立てさせた四季の花の婚礼衣装に身を包んだルイはとても綺麗だった。角隠しの下輝かんばかりの美貌を俯き気味に微笑む彼女に皆一様に嘆息し、盃を煽ったその真白い喉がゆるりと酒を嚥下して行く艶やかな様を食い入るように見つめていた。
饗膳を終えた後銘々に酒と会話を楽しんだ客人達が帰宅の途に着く。静まり返った部屋に居るのは今や新郎新婦とシャマル、草壁のみ。式の間中遠い目でルイを見守っていたシャマルがそっと俯いたままの彼女の肩を抱擁する。会話は無い。互いに瞳と瞳で何かを伝え合い、それから彼も腰を上げ去って行く。雲雀とすれ違い様「くれぐれも大事にしてあげて下せーよ」彼らしい雑な口調に愛娘への溢れる思慮を忍ばせて。
「…さぁ奥様お疲れでしょう、お召し替えの準備が出来ております。あちらへ」
俯き畳に座したままのルイに草壁が声を掛ける。ゆっくりと立ち上がった彼女、角隠しから覗く頬は微かに朱が差し踏み出した足は如何にも覚束無い。三々九度の酒に酔ってしまったようだ。二、三歩進んではぐらり、傾ぐ身体をすぐ側に居た雲雀が支えようと腕を伸ばした瞬間。
バシッ!
響く激しい音。触れかけた手をルイが勢い良く払いのけたのだ。咄嗟の事に息を飲む草壁。驚きに目を剥いて彼女を見ると、俯いたままの顔、固く結ばれた唇。
「……、」
何と言えば良いのか分からない。ルイはやはりこの婚姻は望んでいなかったのだ。式の間中ずっと、本当に幸せそうに笑んでいたから。一週の内に心に折り合いを付けたのかもと感じていたのだが如何やら希望的観測に過ぎなかったらしい。随分と酷いやり口だったから当然と言えば当然だが。
しかしこれは。
恐怖を覚えつつ払われた方の雲雀に目を遣ると、意外や意外。彼は僅かに眉間に皺を寄せていたもののすぐに軽く息を吐いて踵を返した。
「哲、着替えたら屋敷中案内してあげな。後は頼んだよ」
「へ、へい…」
落ち着いたものだ。平常の彼ならばとうにギラリと光る銀灰の獲物で打ち据えていただろうに。退室して行く雲雀の後ろ姿にホッと安堵の息を零してフラつき壁に凭れるルイを着替えの部屋へ促す。
財団の屋敷は途轍もなく広い。長い廊下をルイに合わせゆっくりと歩きながら彼女の務めを説明する。曰く、雲雀の身の回りの世話について。
朝は基本的に彼が起きるまで物音を立てず寝かせておく事。掃除洗濯は毎日丁寧に、その際部屋の左奥に据えられている箪笥には決して手を付けない事。屋敷を空ける日も多いが指示の無い限りは朝昼夜毎食用意しておく事。
「敷地は広いですが恭さんの私的な空間は奥の三室、その他に関しては私共で致しますのでどれ程荒れていても知らぬ顔で結構です」
「…はい」
「奥様のお務めは恭さん個人の衣食住の世話のみですから、空いた時間はどうぞ御自由にお過ごし下さい。…ただし」
壁に寄り掛かりながらも自らの足で前に進むルイを振り返ると遠慮がちに続ける。
「…様々な危険などを防ぐ為、敷地外へのお出掛けは禁じさせて頂きたいのです。不自由だとは存じますが、如何しても必要な時は私が付き添いますので何卒御了承下さい」
ルイは俯けていた顔を上げ草壁を見つめたが、ややあって低く呟いた。
「…本当に」
「はい?」
「女と言うのは何処の国でも生き辛いものですね」
女、それも雲雀恭弥の妻ともあろう女が夫を他所に享楽に耽るなど外聞が悪いにも程があると。いと気遣わし気な言葉に内包された行間を正確に読んだのであろう彼女は無感情に静かに皮肉を吐き棄てた。或いは諦めだったのかも知れない。
「…奥様 」
何れにせよ痛む胸を押さえ草壁はそっと目礼をすると、合間にある浴室を案内しがてら着替えの間を目指した。
夜更け過ぎ。肌触りの良い綿布団に横たわり寝付けずにいたルイは、静まり返った部屋の襖が開く音にビクリと身を震わせた。畳を擦る足音。枕元の洋燈が照らし出す薄明かりの中見上げた顔は──
「…何、寝てたの」
黒い浴衣を身に纏った、本日付けで夫となった男だった。
一言呟いたきり無言で上掛けを捲り布団に入り込む身体、しゅるりと解かれる伊達締め。
ルイは仰向けのまま動かない。半襟が開かれ真白い胸元が暴かれようと節くれ立った手が素肌を滑ろうと、僅かに震える唇を結び目を閉じるばかり。その手が内股に潜り込んで来た時初めてぐっと顔を俯け身を強張らせた。
「怖い?」
そっと頬に触れる手はひんやりと冷たい。違う、そう言うように一度だけ横に振られる首。その首筋に唇を落とし甘噛みする。意外に豊かな乳房を揉もうが淡い桜色の先端を舐ろうが一切の反応を示さないルイの身体をそれでも一通り丹念に愛撫すると、掌を秘部に伸ばし──細い腕がぐっと雲雀の肩を押す。
「大丈夫だから」
やんわりとその腕を解かせ中指で花裂を撫で上げる。幾度か往き来させ内部に潜り込ませようとするものの乾き切った其処は異物を拒む。第一関節まで侵入した所でルイが身動ぎ眉を顰めた。痛むのだろう。
「…すぐ慣れるよ」
つっけんどんな言葉とは裏腹な柔らかい口調。ゆっくり挿入しそっと差し引きする指も彼女の身体を慮る優し気なもので、決して強引に進めるつもりは無いようだった。ルイは半顔を枕に押し付けたままで只々瞼を瞑り耐えている。
いよいよ両の手が脚を広かせ雲雀が自身を秘口に当てがったその時、ぐいっ!先程とは比較にならぬ強い力が彼の身体を押し返す。僅かに眉を寄せた雲雀が小さな溜息を吐きつつそのまま続けようとすると。
「嫌っ!」
突如として暴れ出す細い身体。
「嫌っ…止めて!やだ、やだ!!」
やだっ!半狂乱で叫びながらその腕は雲雀の顔を叩き引っ掻き、ジタバタもがく脚は四方八方を蹴り付ける。とばっちりを受けた洋燈が畳を転がって行く。
グッ!此処で初めて雲雀が力を込めて彼女の細顎を掴み強引に自分の方を向かせた。見下ろす鋭い双眸、温度を感じさせぬ声音。ゆっくりと、低く。
「経緯が如何あれ、君は自分の意志で此処に来た」
そうだろう?問われたルイは強い力で顔を固定されたまま只々彼の灰青の瞳をギッと睨み付ける。
「全て飲んだ上での決断だったんじゃないの」
尚も表情を変えないルイに雲雀は再度溜息を吐いた。
「知っての通り黒曜の再興には既に着手してある。君は逃げないと信じたしあの村の現状を見るに一日でも早い方が良いと判断した、これは僕の誠意だ」
「……」
「失礼な言い方だけど後ろ盾が有る訳でも無い一人の女を迎えるには随分と莫大な代償を払ったつもりだよ。そして事はもう動き出している…分かるね?」
それでも暫し睨み付けていた紅玉の瞳は、やがて光を喪いそっと瞼が閉じられた。同時にぱたりと投げ出される両の腕。雲雀が押さえ付けていた顔を解放し白い身体に覆い被さる。
そのまま、糸の切れた操り人形の冷え切った身体を暴いた。
其れが、二人の初めての夜だった。