embrace
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
相変わらず如何なる愛撫も意味をなさぬ女の体。けれど今宵はいつもとは違う。はぐれていた心がやっと正しく出会えたから。
絶え間無い口付けはルイにあえかな官能をもたらし、直接的な性感を知らずとも花弁の奥から甘やかな蜜をしとどに溢れさせ愛しい男をいとも容易く呑み込んだ。付き纏っていた侵入の痛みに臆する事無くその時を迎えれば、互いに見つめ合い秘めたる想いを溶け合わせるようにまた唇を重ねる。
紛れもない幸福だった。
緩やかな律動にゆらゆら揺れながら夢心地の頭がぼうっと感じるは体を隔てる薄布のもどかしさ。雲雀はいつも浴衣を着たまま。この人に触れたい、温度を素肌に感じたい。半ば無意識的に手を伸ばして合わせられたままの彼の衿元を開こうとして…けれど、女がこのようなのははしたない事だろうか。ふと我に返り綺麗なかんばせを見上げれば、ずっと穏やかだった人の瞳がにわかに色を変えて行く。乱雑な手付きで自身の纏う全てをそこらに放り投げ、ついでにルイの肩に引っかかったままの長襦袢も剥ぎ取って、豹変に驚く間も無く体勢を変えられ後ろから勢い良く突き上げられる。奥の奥まで、強引に捩じ込むようにして。
「んっ!」
突然の圧迫感に呻きが漏れる。一寸の隙間も無く背に密着し、逞しい両の腕でルイを拘束するかの如く抱き締める男から伝わるは圧倒的な支配か熱情か。どちらでも構わなかった。屈服など吐き気を催していたのに、今この瞬間この人にならば、全てを喰らわれて本望。このような激しい衝動が自らに眠っていたなんて。しかし理屈では無いのだ。この男の熱にこじ開けられた凶悪な迄の興奮と悦楽が、脳から滅茶苦茶な指令を飛ばしてどうしようもない。思考など放棄して全てを本能とこの人に委ねる。
「っあ、」
内側を蹂躙する質量が徐々に肥大して行くのが分かる。硬く熱く膨れ上がったそれが激しく中を擦り上げ、痛い程に抱きすくめられ、耳元に感じる雲雀のいつになく荒い吐息が堪らなくルイの胸を乱した。男のものがこんなに大きくなるなど知らぬ。初めての感覚に精神を走り抜ける戦慄にも似た疼き。この人も良くなっているのだ。歓喜と恍惚の狭間で身悶えした時、顎先を半ば強引に振り向かせられ唇に噛み付かれる。無理な姿勢を今この体は従順に受け入れ不思議と痛くもない。
「はっ…!」
息遣いに混ざる雲雀の掠れ声が耳元で繰り返され脳を犯す。もっと、と願う。もっと聴かせて欲しい。もっとその吐息を私に吹き込んで、おかしくさせて。愛しくて愛しくて気が狂う。
「、あ…」
突き上げられながら、何だか体が奇妙なふうに痺れて行く。酷く力が入っているのにどこか抜けてしまって、何が起こっているのだろう。普通でないのは分かる。彼の熱を全身に感じながら、止める間も無く、ああ、いけない、目の前が、頭の中が真っ白になって無の旅路をふわふわ漂い出した。だめ、怖い!だめ…!だけどももう声が出ない。止められない、為す術がない。
やがて全てが一点に集約され、
爆ぜる。
「———っ……」
どのくらいだっただろう、不思議な空間に居たのは。その後に訪れたのは凄まじい解放の虚脱感。意図せず止まっていた息が一気に零れ出る。
「ッハーッハーッ…はぁ〜…」
何も考えられない。ぐたりと褥に倒れ込みたいのに体をきつく抱く腕はそれを許さず尚も獰猛な律動を繰り返しては酷い音を上げる。
「きょ、やさん…や、もう、はぁー、は、アッ!」
「ああいいね。もっと啼いて。聴かせて」
「やっ、アッ…くるし、苦しい、きょうやさん!んっ」
もう限界だった。肉体は悲鳴を上げているのに、なのに離さないで欲しいなどと思っている。滑らかな頬にぼろぼろ零れ出した涙をぺろり舐め上げた雲雀の腕が殊更強くルイを抱きはっきりと強張った。同時に彼の雄が一回り大きくなって。
「くっ…」
一際強く突き上げて低く呻いた男の苦悶にも似た声が、表情が。それはもう大層男臭くも婀娜っぽく鮮やかにルイの脳に刻まれた。ああ、なんて綺麗。そうか、この人はこんなふうに…
初めてまじまじと見た彼が気を遣る様は不可思議で、どこか可愛らしくさえあった。
鍛え抜かれた腹の筋肉が幾度か引き攣るのを感じながら、荒い息を整える雲雀の胸に頬を寄せた。満ち足りた思いに互いにぼうっとしていると、とろとろ抗えぬ眠気の波が押し寄せて来る。
何か話さなければ…けれど今はこの至福と体温だけを感じていたい。それもお互い様。そうしてどちらからともなく優しい抱擁に身を任せ目を閉じたのだった。
翌朝。
何だろう、良い匂いがする。とてもぬくくて気持ちが良い。起きたくない。…駄目だ起きなければ。少しの葛藤を引き摺り身を起こしたルイは隣の男の寝顔に思わず笑みを零した。
本当にこの人は眠っていると無垢な幼子だ。僅かに開いた唇からすやすや可愛らしい寝息を立てて。流麗で凛と引き締まった容貌を崩さぬ普段からは、そして昨晩の雄々しい野性からは想像も付かぬ程にあどけない。
我が身に起こったあの白の凝縮されるような現象は、きっとあれが女の官能の頂きなのだろう。体の快楽を伴わずして引き起こされるとは驚きだったけれど信じられなくはない。愛しいこの人の熱に当てられて気がどうかしていたのだから。
思い出せば羞恥と多幸感に頬が染まる。朝から何を考えているのだとぬくい褥から立ち上がり、僅かに乱れた上掛けを雲雀の肩口まで掛け直してあげて部屋を後にしようと足を踏み出した。その時。
「あ…」
とぷり、温かい何かが下の方から溢れ出して大腿を伝った。月のものが来てしまったようだ。染みになってしまう、いけない。慌てて自室へ戻って手ぬぐいを探し長襦袢の裾を持ち上げると。
「?」
目を凝らして見つめる。太股を汚していたのは赤い鮮血ではなくとろりとした白濁。帯下にしては結構な量だからきっとこれは雲雀が放ったもの。重力で漏れ出して来ているのだろう。しかしこんな事今までに一度も無かったのに…首を傾げながら拭き取っていると、ふと思い当たる。
昨晩の苦しい程の圧迫。感じた事のなかった質量と熱、吐精の呻き。
「……!」
点と点が線で繋がるように気付いてしまった。あの人は昨晩やっと、初めて自分の中で。
込み上がるどうしようもない切なさと喜びと。幾度も体を繋げて来た。その度適当な頃合いを見計らっては切り上げて来たに違いない。君じゃ気なんて遣れないの一言を飲み込んで、さも達したふうを装って。
“君の良くなってる顔を見るのが良いんだよ”
そう言っていた通りに、彼が求めていたものは、彼を昂らせるものは、体よりもずっと…
手拭いを持ったままぎゅうと自分を抱いた。雲雀に抱かれた心ごと自分で抱き締めた。躰という上っ面の器を掻い潜り、ようやく本当の番となれた気がした。
その日の晩もルイは薪の補充を忘れたと言って雲雀の部屋を訪ねた。その次の晩は新たな言い訳を考え付く前に雲雀が寒いから来てよと迎えに来た。その次の晩は雲雀の帰宅より先に布団に入って待っていた。その次の晩からは当然のように雲雀の部屋で二人身を寄せ合って眠った。
凍てつく冬が終わり新緑の芽吹く季節が来ても、寝室を分けようとはどちらも言い出さなかった。