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退屈な家事に勤しむルイの元へ分厚い医学書の山が届いたのは、それから一週後の事。

「正規の医師免許、取ると良い」

「は……?」

目を白黒させるルイに雲雀はこう言った。僅かに視線を外して、何処と無く罰が悪そうに。

「見事な蘇生術だった。最先端の技術を持つ人材を、私情で縛り付けるのは──…誰の得にもならない愚かな行為だと思ったんだ」

それは、つまり。

「…私、医者に戻って良いんですか?」

「うん」

「冗談でしょう?」

「まさか」

そんな、まさか。その時の感情を何と表現すれば良いのだろう。信じられない、本当に?
嬉しい。
嬉しい、嬉しい、嬉しい!
何故?どうして?否、彼は言った。自分から医の道を取り上げる事は愚かな行為だと。それはつまり自分が、従属する飾りの女では無く医師として、一人の対等な人間としての生を認められたという事──

湧き立つ胸に思わず座っていた足が弾みを付けて立ち上がる。ルイよりずっと背の高い目の前の人に、伝えたい思いは沢山あるのに言葉にならなくて只々見つめるばかり。

ジーージジーー…

蝉は今日も喧しい。沈黙の中、先に口を開いたのは雲雀。

「大前提として君は第一に僕の妻だ。家の事は今まで通りに」

「ええ、勿論」

「今後は妻として社交の場に帯同して貰う事も考えているから、学校には通わせてあげられないよ。いいね?」

即ち独学で何とかしろと。ルイの学んだ西洋医学と現在この国に普及しているそれは随分と似て非なる物。正直得る物など殆ど無いと言って良い程に遅れているそれを、試験対策の為だけに学ぶ。しかし今のルイにとって、それは決して無駄な事には思えなかった。

溢れる喜びに喉が詰まり上手く音が出せやしないが、それでも、それでも。

「ありがとう、ございます」

掠れ声に一つ頷いた雲雀がくるりと踵を返す。

「安全を考慮して外に勤めさせる訳には行かない。この敷地内──そうだね、離れを診療所に使うと良い。君の合格までには改装しておこう」

そしてちらりとルイを振り返って、実に高慢に。

「不正とは言え実際に患者を診ていた元医者だ。一度でも不合格なんて体裁の悪い真似は絶対に許さないよ」

挑発するが如く口角を上げてみせると、返事も聞かずさっさと歩み去る。万感の思いを込めて、その後ろ姿に深く腰を折った。

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