Ⅱ 目覚め
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──寒い。
最初に感じたのは、それだった。
頬に触れる、湿った土の冷たさ。
指先に絡みつく草。
どこか遠くで、鳥の鳴く声がする。
「……ん……」
少女は、ゆっくりと目を開いた。
ぼやけた視界の向こうにあったのは、見知らぬ天井──ではなかった。
木々だった。
幾重にも重なった枝葉の隙間から、白い朝の光が差し込んでいる。
「…………?」
身体を起こそうとして、全身に激痛が走った。
「っ……!」
息を呑む。
腕も、脚も、胸も。
どこが痛いのか分からないほど、身体中が痛かった。
服はところどころ破れ、乾いた血と泥で汚れている。
それでも少女は震える腕で地面を押し、どうにか上半身を起こした。
「ここ……」
掠れた声が出た。
知らない場所だった。
木。
草。
土。
朝靄。
それ以外には何もない。
少女は辺りを見回した。
誰もいない。
「……誰か……」
返事はない。
「誰か、いませんか……?」
さっきより少しだけ大きな声。
それでも返ってくるのは、木々が風に揺れる音だけだった。
胸の奥が、急にざわついた。
何かがおかしい。
自分はどうして、こんなところにいるのだろう。
そもそも──。
「…………」
少女は自分の胸に手を当てた。
自分は。
「……わたし……」
誰?
その疑問が浮かんだ瞬間、頭の奥に鋭い痛みが走った。
「っ……!」
両手で頭を抱える。
何かを思い出そうとした。
けれど。
何もない。
昨日のこと。
家族のこと。
住んでいた場所。
ここへ来るまでのこと。
そして──自分の名前。
何ひとつ、出てこない。
まるで頭の中だけを真っ白に塗り潰されたようだった。
「名前……」
少女は呆然と呟いた。
「わたしの……名前……」
知らない。
自分の名前すら、分からない。
怖い。
その感情だけは、はっきり分かった。
少女は自分の身体を確かめるように腕を抱きしめる。
そのとき。
首筋に、微かな痛みを感じた。
「……?」
指先で触れる。
そこには、古い傷のような違和感があった。
自分では見ることができない。
だから少女は知らない。
その場所に刻まれている数字を。
──024。
かつて少女が名前ではなく番号で呼ばれていた、その痕跡を。
「…………」
風が吹いた。
少女は小さく身体を震わせる。
その瞬間だった。
頭の奥に、一瞬だけ何かが走った。
白い部屋。
割れるガラス。
赤い光。
誰かの叫び声。
そして──。
『──024!』
「……っ!」
少女は息を呑んだ。
「今の……」
誰?
誰の声?
もう一度思い出そうとする。
けれど、映像はすぐに霧の向こうへ消えてしまった。
代わりに胸の奥だけが、どうしようもなく苦しくなる。
悲しい。
理由なんて分からないのに。
大切な何かを失ったような気がして。
少女の目から、ぽろりと涙が落ちた。
「……なんで……」
自分でも分からなかった。
なぜ泣いているのか。
誰を想って泣いているのか。
少女は知らない。
自分を庇って命を落とした少女がいたことを。
この森に少女を運んだ研究長がいたことを。
そして、あの場所で交わした約束を。
──もし誰か一人だけ外へ出られたら。
──皆の分まで生きよう。
その言葉さえ、今の少女には届かない。
それでも。
少女は涙を拭った。
ここに座っていても、何も分からない。
誰かを探さなければ。
自分が誰なのか。
なぜここにいるのか。
何があったのか。
少女は木の幹につかまりながら、ゆっくりと立ち上がった。
脚が震える。
一歩。
また、一歩。
裸足に近い足で、湿った土を踏みしめる。
どこへ行けばいいのかなんて分からない。
それでも少女は歩き始めた。
最初に感じたのは、それだった。
頬に触れる、湿った土の冷たさ。
指先に絡みつく草。
どこか遠くで、鳥の鳴く声がする。
「……ん……」
少女は、ゆっくりと目を開いた。
ぼやけた視界の向こうにあったのは、見知らぬ天井──ではなかった。
木々だった。
幾重にも重なった枝葉の隙間から、白い朝の光が差し込んでいる。
「…………?」
身体を起こそうとして、全身に激痛が走った。
「っ……!」
息を呑む。
腕も、脚も、胸も。
どこが痛いのか分からないほど、身体中が痛かった。
服はところどころ破れ、乾いた血と泥で汚れている。
それでも少女は震える腕で地面を押し、どうにか上半身を起こした。
「ここ……」
掠れた声が出た。
知らない場所だった。
木。
草。
土。
朝靄。
それ以外には何もない。
少女は辺りを見回した。
誰もいない。
「……誰か……」
返事はない。
「誰か、いませんか……?」
さっきより少しだけ大きな声。
それでも返ってくるのは、木々が風に揺れる音だけだった。
胸の奥が、急にざわついた。
何かがおかしい。
自分はどうして、こんなところにいるのだろう。
そもそも──。
「…………」
少女は自分の胸に手を当てた。
自分は。
「……わたし……」
誰?
その疑問が浮かんだ瞬間、頭の奥に鋭い痛みが走った。
「っ……!」
両手で頭を抱える。
何かを思い出そうとした。
けれど。
何もない。
昨日のこと。
家族のこと。
住んでいた場所。
ここへ来るまでのこと。
そして──自分の名前。
何ひとつ、出てこない。
まるで頭の中だけを真っ白に塗り潰されたようだった。
「名前……」
少女は呆然と呟いた。
「わたしの……名前……」
知らない。
自分の名前すら、分からない。
怖い。
その感情だけは、はっきり分かった。
少女は自分の身体を確かめるように腕を抱きしめる。
そのとき。
首筋に、微かな痛みを感じた。
「……?」
指先で触れる。
そこには、古い傷のような違和感があった。
自分では見ることができない。
だから少女は知らない。
その場所に刻まれている数字を。
──024。
かつて少女が名前ではなく番号で呼ばれていた、その痕跡を。
「…………」
風が吹いた。
少女は小さく身体を震わせる。
その瞬間だった。
頭の奥に、一瞬だけ何かが走った。
白い部屋。
割れるガラス。
赤い光。
誰かの叫び声。
そして──。
『──024!』
「……っ!」
少女は息を呑んだ。
「今の……」
誰?
誰の声?
もう一度思い出そうとする。
けれど、映像はすぐに霧の向こうへ消えてしまった。
代わりに胸の奥だけが、どうしようもなく苦しくなる。
悲しい。
理由なんて分からないのに。
大切な何かを失ったような気がして。
少女の目から、ぽろりと涙が落ちた。
「……なんで……」
自分でも分からなかった。
なぜ泣いているのか。
誰を想って泣いているのか。
少女は知らない。
自分を庇って命を落とした少女がいたことを。
この森に少女を運んだ研究長がいたことを。
そして、あの場所で交わした約束を。
──もし誰か一人だけ外へ出られたら。
──皆の分まで生きよう。
その言葉さえ、今の少女には届かない。
それでも。
少女は涙を拭った。
ここに座っていても、何も分からない。
誰かを探さなければ。
自分が誰なのか。
なぜここにいるのか。
何があったのか。
少女は木の幹につかまりながら、ゆっくりと立ち上がった。
脚が震える。
一歩。
また、一歩。
裸足に近い足で、湿った土を踏みしめる。
どこへ行けばいいのかなんて分からない。
それでも少女は歩き始めた。