恋の犠牲者はどちらか
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「朝までいてくれるんじゃないの?」
「今度埋め合わせするわ、すまんな」
「まだ帰りたくないよ、ねぇゴローちゃん!」
「仕方ないやろ、仕事や。またな、ほれ、詫びに受け取ってくれや」
ホテルを出て早々に捕まえたタクシー。帰りたくないと喚く女を無理矢理押し込み、それでも黙らないため札束を握らせれば、女は渋々帰っていく。
タクシーが走り出したところでまた舌打ちをして、とりあえず事務所にでも戻るかと方向を変えたとき。すぐそこの距離に、こちらを不思議そうに見ている桐生がいるではないか。
うわ、めんどくさ。咄嗟に脳内に過ったのはそんな感情だ。
「新しく女が出来たとは聞いてたが、今の女がそうなのか?」
「あぁ? そんなんちゃうわ」
「違うのか!?」
あ、まずい。そういうことにしておくべきだったかと後悔してもすでに遅かった。色々と苛々することが重なりすぎてつい繕うことを忘れ、投げやりながらも正直に答えてしまったではないか。
こうなると、本当に面倒なことになるのだろう。
「じゃあ、本命とは別の女ってことか? アンタ、またそうやって」
「なぁ、桐生チャン」
躊躇いなく訊いてくるところがコイツの厄介な所だなと思いながら、話を遮って桐生に向き合う。不思議そうな顔のまま「何だ?」と口にした目の前の男に、一言。
──喧嘩しようや。
神室町内のとある路上でいいだけ殴り合った後、男二人が大の字で倒れながら呼吸を整えている……なんて滑稽な状況か。
通り過ぎる人間も厄介ごとに巻き込まれたくない精神からか、何も言わずにそそくさと通り過ぎていく。まぁ、この町でいいだけ喧嘩してきた俺等にはそんな周囲の様子など今更ではあるが。
「今日はやけに荒れてるな、兄さん」
ひとまず起き上がっては、適当な場所に腰を下ろし二人揃って煙草を咥えて。するとそんな声が横から聞こえたものだから、鼻で笑いながら返事をする。
「お前は相変わらずすぎて、もう逆に安心してまうわ」
「なぁ、アンタ……何考えてるんだ?」
「あぁ? そんなん、寝ても覚めてもナマエのことしか考えとらんな」
溜まった苛立ちをぶつけるかの如く喧嘩をした後だからか、どこかスッキリしたようにすんなりとその言葉が出てきた。
「でも、女が出来たんだろ? かなり入れ込んでるっていう話じゃねぇか」
「ヒヒッ、そんな女がホンマにおったら、ナマエのことばっかり考えんで済むんやろなぁ」
「……じゃあ、いないのか?」
本当にズカズカと物事を聞いてくる男だと思いながらも、何も言わずにいれば肯定と捉えたらしい。
「お前の周りにおらんか、顔も身体も抜群な女。おったらぜひ紹介してほしいモンやな」
「よく言うぜ、その気もないクセに。だからさっきの女も『仕事だ』なんて言って帰したんだろ?」
で、そういうところに限っては何故か気が回るのだからやはり面倒でしかない。
さっきの女とだってその気がなかった訳ではないものの、やはりナマエじゃない女を抱いても残るのはやけに虚しい気持ちや違和感だけだと痛感した。朝までいられるだなんて言っておきながらも、早々に仕事だと理由付けをして今に至るのだ。
「なんでそんなやり方してまで離れなきゃならねぇんだ? 想い合ってるのに、どうして」
「ハッ、グダグダ言うとるお前かて俺と同じ側やろな。この状況になったら多分、やり方は違えど結果的には同じことするんちゃうか」
そう言えば隣の男は不服そうに「なに?」と口にしたものの、その後にわかりやすく黙り込んだことからあながち見当違いでもないらしい。
「……アイツの周りにあったはずの色んなモン、俺が奪っとるやろ。このままやと、ホンマに何も残らんくなってまう」
その言葉の意味を、きっと隣の男はわかっているはずだ。俺とは違う形で、これまで色々とナマエの話を聞いているはずなのだから。
「ナマエは、奪われたなんて思っちゃいねぇよ」
「アイツがどう思っとるかより、その事実が俺には問題やねん」
「でもその事実なんかよりも、アンタと一緒にいられなくなったことの方が傷付いてるぞ?」
「そんなん、悲しいのは最初だけや。じきにちゃんと忘れる」
そのときが来たとして、俺も忘れることが出来ているのだろうかなんてぼんやり考えてみながらも、きっとナマエ以上に俺の方が切り替えは下手なんじゃないかと……そう考えれば、つい自嘲気味な笑みが漏れる。
「俺には、兄さんがナマエを忘れられるとは思えねぇが」
「なにわかったような口聞いとんのや」
「兄さんが俺と同じ側だってんなら、そうだろうなと思っただけだ」
鈍いのか鋭いのか、もう厄介で面倒でしかない。そのはずなのに、今になってナマエの言っていたことの意味がわかるような気がする。とある飲み会の帰り、いつもより少し飲み過ぎて酔った彼女が、ぽろっと溢したあの言葉。
本音で話せる人間がいることが、どれだけ気が軽くなり有り難い存在であるか。
「だとしても、アイツが幸せになるんやったら、俺一人くらいどうとでもなったるわ」
「なんとなく、なんだが……」
「あぁ?」
「アンタら二人には、一緒にいてもらいてぇって思っちまうんだ」
「……まぁ、外野はなんとでも言えるやろな」
「……本当に、もう無理なのか? せめてその気持ちだけでも伝えたらどうなんだ? ナマエに誤解されたままで、兄さんだって」
「無理やな」
真っ直ぐこっちを見てくる隣の男の視線と合わせないまま、それでもハッキリと否定する。
本当の気持ちがどうのなんて、もうそんな事態ではなくなっているのだ。そして数時間前の出来事を思い返しては、また胸が痛くなる。
「残念ながら、もう手遅れや」
***
「すまねぇな。俺一人じゃあ、どうしたらいいか……」
「なるほど。まぁ、そんなことじゃないかとは思ってましたよ。ねぇ、花ちゃん」
「そうですよ! こんなのおかしいなって、ずーっと思ってたんですから!」
深夜に真島と喧嘩をした桐生が、秋山や花とともに喫茶アルプスに居るのは同日の昼のことだった。
「このままじゃあ兄さんはともかく……ナマエは何も知らないまま、ただ傷付ついただけになっちまう」
お節介だと知りながらも、やはり真島の本心を聞いてしまったからにはどうにか出来ないものかと……だか、かといって桐生一人で上手い立ち回りが出来る訳でもない。
「それは確かに。あぁそうそう。実は、これからもう一人来ることになってるんですけど……あ、噂をすれば」
秋山がそんなことを口にしたその時にカランと入口の音を鳴らしやってきたその人物は、こちらも神室町ではお馴染みの人物である。
「ったく、警察をなんだと思ってるんですか、秋山さん」
「谷村、今日はどうしたんだ?」
「桐生さんからも言ってくださいよ、警察は探偵じゃないって」
「探偵?」
桐生が「真島のことで相談したいことがある」と秋山に連絡した際に、本日この時間にこの場所を指定してきたのは秋山だ。どうやらそれは、谷村ともこのタイミングで会うためだったようである。それはともかく、桐生には谷村の言っている意味がいまいちわからないようであった。
「秋山さんから言われたんです。真島さんが女と歩いてたら教えてくれって」
「だって君、よくこの町ブラブラしてるでしょ?」
「今じゃ、絶対秋山さんの方がブラついてると思いますけど」
「で、一応聞くけど……入れ込んでる女なんていた?」
そう秋山が谷村に訊ねれば「一応ってなんですか」「いやぁ、実は桐生さんから大体の事情聞いちゃってさ。なんとなく結果が見えちゃってるんだよね」「うわ、人のこと使っておいて酷いなぁ」などと言い合いながらも、渋々谷村は話を続ける。
「秋山さんから二人が別れたって聞かされた時は半信半疑でしたけど、確かにこの間、真島さんがナマエちゃんとは別の女と一緒にいるところを見ましたよ。ただまぁ、入れ込んでるって言われると微妙というか……あらゆるハイブランドの紙袋を大量に抱えた女をタクシーに乗せてるところでしたね。女は『買い物だけ!?』って不満そうでしたし、見た感じじゃあ彼女って雰囲気には思えなかったですけど」
あくまで俺の主観ですけどねと、谷村がそう付け加えながら説明すれば、やっぱりかと他の三人も同意した。そして桐生も自身の目撃した光景を伝えれば、「俺が見たのは金髪のショートで、桐生さんが夜に目撃したのは茶髪のロングだし……まぁ別人でしょうね。そうなると、これといって特定の女はいないんじゃないですか?」との結論に至る。
入れ込んでる女はいないのかの問いに真島は否定も肯定もしていなかったが、あの時の雰囲気から桐生の「いないだろう」という推測がほぼ確信へと変わっていく。
「でも、それがわかったところでどうするっていうんです? どんな理由であれ、少なくとも真島さんは別れたいワケですし」
「それならそれで仕方ないですけど、ナマエちゃんを理不尽に傷付けたままはちょっと……」
谷村の言葉に花が不満気にそう呟けば、そうだなぁと秋山も何やら考え始める。そしてしばらくして「あれ? 今日ってそういえば、さっき話してた……」と、花に何やら確認をしたならば「さっき? え、もしかして花火大会のことですか? 突然それがどうしたんです?」と、前後の繋がりが不明な話の流れに秋山へと視線が集まる。そんな周りを他所に、秋山は一人何かを閃いたのか顔を上げた。そして……
「真島さんだって俺達に嘘ついてたワケだし、俺達も多少なら許されますかね?」
「今度埋め合わせするわ、すまんな」
「まだ帰りたくないよ、ねぇゴローちゃん!」
「仕方ないやろ、仕事や。またな、ほれ、詫びに受け取ってくれや」
ホテルを出て早々に捕まえたタクシー。帰りたくないと喚く女を無理矢理押し込み、それでも黙らないため札束を握らせれば、女は渋々帰っていく。
タクシーが走り出したところでまた舌打ちをして、とりあえず事務所にでも戻るかと方向を変えたとき。すぐそこの距離に、こちらを不思議そうに見ている桐生がいるではないか。
うわ、めんどくさ。咄嗟に脳内に過ったのはそんな感情だ。
「新しく女が出来たとは聞いてたが、今の女がそうなのか?」
「あぁ? そんなんちゃうわ」
「違うのか!?」
あ、まずい。そういうことにしておくべきだったかと後悔してもすでに遅かった。色々と苛々することが重なりすぎてつい繕うことを忘れ、投げやりながらも正直に答えてしまったではないか。
こうなると、本当に面倒なことになるのだろう。
「じゃあ、本命とは別の女ってことか? アンタ、またそうやって」
「なぁ、桐生チャン」
躊躇いなく訊いてくるところがコイツの厄介な所だなと思いながら、話を遮って桐生に向き合う。不思議そうな顔のまま「何だ?」と口にした目の前の男に、一言。
──喧嘩しようや。
神室町内のとある路上でいいだけ殴り合った後、男二人が大の字で倒れながら呼吸を整えている……なんて滑稽な状況か。
通り過ぎる人間も厄介ごとに巻き込まれたくない精神からか、何も言わずにそそくさと通り過ぎていく。まぁ、この町でいいだけ喧嘩してきた俺等にはそんな周囲の様子など今更ではあるが。
「今日はやけに荒れてるな、兄さん」
ひとまず起き上がっては、適当な場所に腰を下ろし二人揃って煙草を咥えて。するとそんな声が横から聞こえたものだから、鼻で笑いながら返事をする。
「お前は相変わらずすぎて、もう逆に安心してまうわ」
「なぁ、アンタ……何考えてるんだ?」
「あぁ? そんなん、寝ても覚めてもナマエのことしか考えとらんな」
溜まった苛立ちをぶつけるかの如く喧嘩をした後だからか、どこかスッキリしたようにすんなりとその言葉が出てきた。
「でも、女が出来たんだろ? かなり入れ込んでるっていう話じゃねぇか」
「ヒヒッ、そんな女がホンマにおったら、ナマエのことばっかり考えんで済むんやろなぁ」
「……じゃあ、いないのか?」
本当にズカズカと物事を聞いてくる男だと思いながらも、何も言わずにいれば肯定と捉えたらしい。
「お前の周りにおらんか、顔も身体も抜群な女。おったらぜひ紹介してほしいモンやな」
「よく言うぜ、その気もないクセに。だからさっきの女も『仕事だ』なんて言って帰したんだろ?」
で、そういうところに限っては何故か気が回るのだからやはり面倒でしかない。
さっきの女とだってその気がなかった訳ではないものの、やはりナマエじゃない女を抱いても残るのはやけに虚しい気持ちや違和感だけだと痛感した。朝までいられるだなんて言っておきながらも、早々に仕事だと理由付けをして今に至るのだ。
「なんでそんなやり方してまで離れなきゃならねぇんだ? 想い合ってるのに、どうして」
「ハッ、グダグダ言うとるお前かて俺と同じ側やろな。この状況になったら多分、やり方は違えど結果的には同じことするんちゃうか」
そう言えば隣の男は不服そうに「なに?」と口にしたものの、その後にわかりやすく黙り込んだことからあながち見当違いでもないらしい。
「……アイツの周りにあったはずの色んなモン、俺が奪っとるやろ。このままやと、ホンマに何も残らんくなってまう」
その言葉の意味を、きっと隣の男はわかっているはずだ。俺とは違う形で、これまで色々とナマエの話を聞いているはずなのだから。
「ナマエは、奪われたなんて思っちゃいねぇよ」
「アイツがどう思っとるかより、その事実が俺には問題やねん」
「でもその事実なんかよりも、アンタと一緒にいられなくなったことの方が傷付いてるぞ?」
「そんなん、悲しいのは最初だけや。じきにちゃんと忘れる」
そのときが来たとして、俺も忘れることが出来ているのだろうかなんてぼんやり考えてみながらも、きっとナマエ以上に俺の方が切り替えは下手なんじゃないかと……そう考えれば、つい自嘲気味な笑みが漏れる。
「俺には、兄さんがナマエを忘れられるとは思えねぇが」
「なにわかったような口聞いとんのや」
「兄さんが俺と同じ側だってんなら、そうだろうなと思っただけだ」
鈍いのか鋭いのか、もう厄介で面倒でしかない。そのはずなのに、今になってナマエの言っていたことの意味がわかるような気がする。とある飲み会の帰り、いつもより少し飲み過ぎて酔った彼女が、ぽろっと溢したあの言葉。
本音で話せる人間がいることが、どれだけ気が軽くなり有り難い存在であるか。
「だとしても、アイツが幸せになるんやったら、俺一人くらいどうとでもなったるわ」
「なんとなく、なんだが……」
「あぁ?」
「アンタら二人には、一緒にいてもらいてぇって思っちまうんだ」
「……まぁ、外野はなんとでも言えるやろな」
「……本当に、もう無理なのか? せめてその気持ちだけでも伝えたらどうなんだ? ナマエに誤解されたままで、兄さんだって」
「無理やな」
真っ直ぐこっちを見てくる隣の男の視線と合わせないまま、それでもハッキリと否定する。
本当の気持ちがどうのなんて、もうそんな事態ではなくなっているのだ。そして数時間前の出来事を思い返しては、また胸が痛くなる。
「残念ながら、もう手遅れや」
***
「すまねぇな。俺一人じゃあ、どうしたらいいか……」
「なるほど。まぁ、そんなことじゃないかとは思ってましたよ。ねぇ、花ちゃん」
「そうですよ! こんなのおかしいなって、ずーっと思ってたんですから!」
深夜に真島と喧嘩をした桐生が、秋山や花とともに喫茶アルプスに居るのは同日の昼のことだった。
「このままじゃあ兄さんはともかく……ナマエは何も知らないまま、ただ傷付ついただけになっちまう」
お節介だと知りながらも、やはり真島の本心を聞いてしまったからにはどうにか出来ないものかと……だか、かといって桐生一人で上手い立ち回りが出来る訳でもない。
「それは確かに。あぁそうそう。実は、これからもう一人来ることになってるんですけど……あ、噂をすれば」
秋山がそんなことを口にしたその時にカランと入口の音を鳴らしやってきたその人物は、こちらも神室町ではお馴染みの人物である。
「ったく、警察をなんだと思ってるんですか、秋山さん」
「谷村、今日はどうしたんだ?」
「桐生さんからも言ってくださいよ、警察は探偵じゃないって」
「探偵?」
桐生が「真島のことで相談したいことがある」と秋山に連絡した際に、本日この時間にこの場所を指定してきたのは秋山だ。どうやらそれは、谷村ともこのタイミングで会うためだったようである。それはともかく、桐生には谷村の言っている意味がいまいちわからないようであった。
「秋山さんから言われたんです。真島さんが女と歩いてたら教えてくれって」
「だって君、よくこの町ブラブラしてるでしょ?」
「今じゃ、絶対秋山さんの方がブラついてると思いますけど」
「で、一応聞くけど……入れ込んでる女なんていた?」
そう秋山が谷村に訊ねれば「一応ってなんですか」「いやぁ、実は桐生さんから大体の事情聞いちゃってさ。なんとなく結果が見えちゃってるんだよね」「うわ、人のこと使っておいて酷いなぁ」などと言い合いながらも、渋々谷村は話を続ける。
「秋山さんから二人が別れたって聞かされた時は半信半疑でしたけど、確かにこの間、真島さんがナマエちゃんとは別の女と一緒にいるところを見ましたよ。ただまぁ、入れ込んでるって言われると微妙というか……あらゆるハイブランドの紙袋を大量に抱えた女をタクシーに乗せてるところでしたね。女は『買い物だけ!?』って不満そうでしたし、見た感じじゃあ彼女って雰囲気には思えなかったですけど」
あくまで俺の主観ですけどねと、谷村がそう付け加えながら説明すれば、やっぱりかと他の三人も同意した。そして桐生も自身の目撃した光景を伝えれば、「俺が見たのは金髪のショートで、桐生さんが夜に目撃したのは茶髪のロングだし……まぁ別人でしょうね。そうなると、これといって特定の女はいないんじゃないですか?」との結論に至る。
入れ込んでる女はいないのかの問いに真島は否定も肯定もしていなかったが、あの時の雰囲気から桐生の「いないだろう」という推測がほぼ確信へと変わっていく。
「でも、それがわかったところでどうするっていうんです? どんな理由であれ、少なくとも真島さんは別れたいワケですし」
「それならそれで仕方ないですけど、ナマエちゃんを理不尽に傷付けたままはちょっと……」
谷村の言葉に花が不満気にそう呟けば、そうだなぁと秋山も何やら考え始める。そしてしばらくして「あれ? 今日ってそういえば、さっき話してた……」と、花に何やら確認をしたならば「さっき? え、もしかして花火大会のことですか? 突然それがどうしたんです?」と、前後の繋がりが不明な話の流れに秋山へと視線が集まる。そんな周りを他所に、秋山は一人何かを閃いたのか顔を上げた。そして……
「真島さんだって俺達に嘘ついてたワケだし、俺達も多少なら許されますかね?」