恋の犠牲者はどちらか
Name Change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ああだこうだと話していても、結局のところもう彼の気持ちが冷めてしまった以上、どんなに考えても無駄だろう。私の話を聞いた彼等もどうしたってそれで納得するしかない事態に、これ以上深く話を掘り下げることも出来なくなった様子であった。
「でも、残念です。せっかく皆さんと仲良くなれたのに……」
「もう! これでナマエちゃんともお別れになんてならないんだから!」
「そうだな。兄さんと別れたからって、お前との縁も切れるってワケじゃねぇ」
花ちゃんと桐生さんの言葉に、秋山さんや冴島さんも頷いてくれるのは素直に嬉しかった。たとえ吾朗さんの彼女でなくなっても変わらずにいてくれることが、私にとってどれだけ有り難いことか。だって、あの人と別れたのなら彼等とももう他人ですだなんてそんなのは淋しいから。
「じゃあ今日はせめて、みんなでパーッと遊んじゃうのも良いんじゃない?」
「たまにはそれも良いな。どうだナマエ、俺も付き合うぜ」
すると秋山さんが突然そんな提案をする。わざわざ私のために気を遣ってくれているのだろう。それに甘えてしまっていいのかわからず返事に戸惑っていれば、桐生さんも同意したことから「それなら、みんなでカラオケにでも行きましょうよ!」と、花ちゃんも乗り気になる。冴島さんも「せやな、たまにはええか。お前もどや」と声をかけてくれて、立て続けにみんなが頷いていく流れから、私もこんなときくらいじゃないとみんなで騒ぐような機会もないしと首を縦に振ることにした。
お店である程度しゃべって過ごした後に、じゃあ次はカラオケへとみんなで店を出る。夜の神室町もいいだけ見慣れたはずなのに、吾朗さんと別れてしまうとどうしてか不思議と余所余所しく感じてしまう。それは、この町=吾朗さんのいる場所という認識が心に根付いているからだと思う。
別れた今となっては、来てはいけないところに来てしまった感覚。
「あ……」
花ちゃんとともに後方を歩いていれば、突然進むことをやめた男性陣を不思議に思いながら私達も足を止める。秋山さんが何かに気付いた声を上げ、でも体格の良い彼等の後ろでは前方が見えない。そこで少しだけ頭を傾けて見てみれば、隙間から見覚えのある姿が見えてしまう。
「なんやお前等、今日も揃っとんのかいな。毎日暇やのぅ」
その声だけならなんてことはない、いつも楽しく話していたときのような、少し砕けて話す吾朗さんのものだった。でもそう口にした後、彼等の隙間から私の姿が見えたのだろう。
互いの視線が一瞬交わったと思えば、そこで彼は表情を変えた。私を見て、口の端を上げて笑う。でもその笑顔はまるで「悪役」の者が浮かべるような悪い顔だ。笑っているのに冷たくて、怖くて、離れたくなるような、なのに動けない。
「ほう、そういうことかいな」
何が「そういうこと」かわからないまま、一歩一歩こちらへ……いや、むしろ「私」へと近付いてきては、あの日のようにまた冷たく見下ろしてきた。
今となってはもう別れた人であるそんな彼が、こうして私の目の前にやって来る理由なんてないはず。「ちょっと、真島さん?」「おい、兄さん」と声を上げる周りなどお構い無しに口を開く。
「お前はええのぅ。フラれた方は悲劇のヒロインやもんな。そんで、フッた俺はすっかり悪者や」
まさしく悪者、悪役、そんな言葉が相応しい笑みを崩さないまま。
「フラれたーって言いながら泣くだけで、みーんなこうして心配してくれるんだからなぁ。ヒヒッ、男の一人や二人ならそれで引っかけられるんちゃうか? 良かったのぅ」
まるで嘲笑うかのように告げられて、でも込み上げる感情が怒りなのか悲しみなのかよくわからなくて。
それだけ言い残して、立ち竦む私のもとから変わらない足取りですれ違って行くそんな彼を、当然振り返ることなど出来ない。そしてただただ茫然としているだけの私に、みんなが心配そうに寄ってくるけれど……まさに今言われてしまった言葉がこの状況に当てはまってしまうようで。
私が言葉をなくしているこの状況に、みんながこうして気にかけてくれる。そんな私に脳内でもう一度彼が囁くのだ、良かったのぅって。
そんなつもりでここにいるんじゃないし、そんなことを望んで彼等と会っているわけじゃないのに。頭の中でそんな言い訳を、誰に対してしているのだろう。
「ごめんなさい、やっぱり今日は帰ろうかな。明日も仕事だし」
だから無理矢理な笑顔を貼り付けて、声のトーンも明るいものを意識的に出して。
「今日は皆さん、わざわざ話を聞いてくれてありがとうございました。またそのうち、あらためて遊びましょう!今日はこれで失礼しますね」
「あ、ナマエちゃん!」
花ちゃんの呼び止める声を背に受けながら、でも足を止めることなく神室町を出た。そしてその帰り道に、また泣いてしまうんだ。ああ、やだな。また一人めそめそと泣くことになるだなんて。フラれたあの日も散々泣いたというのに、まだまだ涙は枯れないらしい。
まるで別人のような言動とともに、フラれたことで泣き喚けば男を引っ掛けられるだろうだなんて、どうしてそんなことを言われなければならないのだろう。彼には、私がそんなことをする女に見えているのかな。それに私への気持ちがなくなったのは仕方ないにしても、だからってあの言葉は必要あった?
こうして泣いているのだって、別に悲劇のヒロインを気取りたいわけでもない。みんなの気を引きたくてフラれたなんて言ってまわるつもりもない。それなのに、どうして。好きな気持ちが冷めたどころか、それを通り越して嫌いにでもなったのだろうか。あんなことをわざわざ伝えてしまいたくなるくらいに。
そんなことをどれだけ考えても、覚えている限りでは嫌われるようなことをしてしまった心当たりも……そもそもフラれてしまう心当たりもやっぱりなくて、思い返しても楽しかったことや嬉しかったことばかりしか浮かばない私は所謂お花畑脳というやつなのかもしれない。
だって記憶の中の彼は、本当に本当に大好きな彼ばかりなんだもの。ああすれば、こうすれば、そんな考えは無意味だと思っていたけれど、やっぱり考えれば考えるほどどうしてこうなってしまったのだろうという気持ちが拭えない。
もっと隣にいたかった、もっと一緒にいたかった。じゃあそのために、私はどうしたら良かったの。何をどう頑張れば良かったの。やっぱり本音はそれであって、気持ちが離れたのなら仕方ないなんて、そんな聞き分け良くいられないんだ。
「でも、残念です。せっかく皆さんと仲良くなれたのに……」
「もう! これでナマエちゃんともお別れになんてならないんだから!」
「そうだな。兄さんと別れたからって、お前との縁も切れるってワケじゃねぇ」
花ちゃんと桐生さんの言葉に、秋山さんや冴島さんも頷いてくれるのは素直に嬉しかった。たとえ吾朗さんの彼女でなくなっても変わらずにいてくれることが、私にとってどれだけ有り難いことか。だって、あの人と別れたのなら彼等とももう他人ですだなんてそんなのは淋しいから。
「じゃあ今日はせめて、みんなでパーッと遊んじゃうのも良いんじゃない?」
「たまにはそれも良いな。どうだナマエ、俺も付き合うぜ」
すると秋山さんが突然そんな提案をする。わざわざ私のために気を遣ってくれているのだろう。それに甘えてしまっていいのかわからず返事に戸惑っていれば、桐生さんも同意したことから「それなら、みんなでカラオケにでも行きましょうよ!」と、花ちゃんも乗り気になる。冴島さんも「せやな、たまにはええか。お前もどや」と声をかけてくれて、立て続けにみんなが頷いていく流れから、私もこんなときくらいじゃないとみんなで騒ぐような機会もないしと首を縦に振ることにした。
お店である程度しゃべって過ごした後に、じゃあ次はカラオケへとみんなで店を出る。夜の神室町もいいだけ見慣れたはずなのに、吾朗さんと別れてしまうとどうしてか不思議と余所余所しく感じてしまう。それは、この町=吾朗さんのいる場所という認識が心に根付いているからだと思う。
別れた今となっては、来てはいけないところに来てしまった感覚。
「あ……」
花ちゃんとともに後方を歩いていれば、突然進むことをやめた男性陣を不思議に思いながら私達も足を止める。秋山さんが何かに気付いた声を上げ、でも体格の良い彼等の後ろでは前方が見えない。そこで少しだけ頭を傾けて見てみれば、隙間から見覚えのある姿が見えてしまう。
「なんやお前等、今日も揃っとんのかいな。毎日暇やのぅ」
その声だけならなんてことはない、いつも楽しく話していたときのような、少し砕けて話す吾朗さんのものだった。でもそう口にした後、彼等の隙間から私の姿が見えたのだろう。
互いの視線が一瞬交わったと思えば、そこで彼は表情を変えた。私を見て、口の端を上げて笑う。でもその笑顔はまるで「悪役」の者が浮かべるような悪い顔だ。笑っているのに冷たくて、怖くて、離れたくなるような、なのに動けない。
「ほう、そういうことかいな」
何が「そういうこと」かわからないまま、一歩一歩こちらへ……いや、むしろ「私」へと近付いてきては、あの日のようにまた冷たく見下ろしてきた。
今となってはもう別れた人であるそんな彼が、こうして私の目の前にやって来る理由なんてないはず。「ちょっと、真島さん?」「おい、兄さん」と声を上げる周りなどお構い無しに口を開く。
「お前はええのぅ。フラれた方は悲劇のヒロインやもんな。そんで、フッた俺はすっかり悪者や」
まさしく悪者、悪役、そんな言葉が相応しい笑みを崩さないまま。
「フラれたーって言いながら泣くだけで、みーんなこうして心配してくれるんだからなぁ。ヒヒッ、男の一人や二人ならそれで引っかけられるんちゃうか? 良かったのぅ」
まるで嘲笑うかのように告げられて、でも込み上げる感情が怒りなのか悲しみなのかよくわからなくて。
それだけ言い残して、立ち竦む私のもとから変わらない足取りですれ違って行くそんな彼を、当然振り返ることなど出来ない。そしてただただ茫然としているだけの私に、みんなが心配そうに寄ってくるけれど……まさに今言われてしまった言葉がこの状況に当てはまってしまうようで。
私が言葉をなくしているこの状況に、みんながこうして気にかけてくれる。そんな私に脳内でもう一度彼が囁くのだ、良かったのぅって。
そんなつもりでここにいるんじゃないし、そんなことを望んで彼等と会っているわけじゃないのに。頭の中でそんな言い訳を、誰に対してしているのだろう。
「ごめんなさい、やっぱり今日は帰ろうかな。明日も仕事だし」
だから無理矢理な笑顔を貼り付けて、声のトーンも明るいものを意識的に出して。
「今日は皆さん、わざわざ話を聞いてくれてありがとうございました。またそのうち、あらためて遊びましょう!今日はこれで失礼しますね」
「あ、ナマエちゃん!」
花ちゃんの呼び止める声を背に受けながら、でも足を止めることなく神室町を出た。そしてその帰り道に、また泣いてしまうんだ。ああ、やだな。また一人めそめそと泣くことになるだなんて。フラれたあの日も散々泣いたというのに、まだまだ涙は枯れないらしい。
まるで別人のような言動とともに、フラれたことで泣き喚けば男を引っ掛けられるだろうだなんて、どうしてそんなことを言われなければならないのだろう。彼には、私がそんなことをする女に見えているのかな。それに私への気持ちがなくなったのは仕方ないにしても、だからってあの言葉は必要あった?
こうして泣いているのだって、別に悲劇のヒロインを気取りたいわけでもない。みんなの気を引きたくてフラれたなんて言ってまわるつもりもない。それなのに、どうして。好きな気持ちが冷めたどころか、それを通り越して嫌いにでもなったのだろうか。あんなことをわざわざ伝えてしまいたくなるくらいに。
そんなことをどれだけ考えても、覚えている限りでは嫌われるようなことをしてしまった心当たりも……そもそもフラれてしまう心当たりもやっぱりなくて、思い返しても楽しかったことや嬉しかったことばかりしか浮かばない私は所謂お花畑脳というやつなのかもしれない。
だって記憶の中の彼は、本当に本当に大好きな彼ばかりなんだもの。ああすれば、こうすれば、そんな考えは無意味だと思っていたけれど、やっぱり考えれば考えるほどどうしてこうなってしまったのだろうという気持ちが拭えない。
もっと隣にいたかった、もっと一緒にいたかった。じゃあそのために、私はどうしたら良かったの。何をどう頑張れば良かったの。やっぱり本音はそれであって、気持ちが離れたのなら仕方ないなんて、そんな聞き分け良くいられないんだ。