恋の犠牲者はどちらか
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出来るならもう来ることは避けたかった神室町。それでも渋々訪れたのは、来るまでずっと待ってるだなんて圧をかけられてしまったから。
「早速だけど、どうして真島さんと別れることになっちゃったの?」
挨拶も早々に切り出されたその話題。まぁ、ここに呼ばれた時点でそうだろうとは思ってたけど。とある居酒屋で、私にとっては神室町ならではのメンバーが揃っている。
秋山さんがどこか納得のいかない表情で私に問いかければ、周りの桐生さんと花ちゃんも同様の視線を私へと向けた。冴島さんだけはあまり表情が変わらないようにも見える。
「……それはまぁ、私達の問題ですから」
彼と別れた理由を述べよ。
解答、顔もスタイルも身体の相性も良くてゴムつけなくてもさせてくれる最高の女と出会ったから。
そんなの説明しなきゃならないのかと、気が進まずに素っ気ない答えをしてしまった。適当なことを言ってはぐらかすことも出来たかもしれないけど、別れたってことを私は誰にも言ってない以上吾朗さんから聞いてるのだから、話に矛盾が生まれてそこを言及されるのもそれはそれでと思ってしまった結果である。
「ところが、そうもいかなくなっちゃったんだよねぇ」
「なんでですか?」
「それで昨日、最終的に殴り合いになっちまってな」
「……は?」
秋山さんと話していれば、今度は桐生さんが訳の分からないことを言い出した。最終的に殴り合い……?
目をぱちくりさせていれば秋山さんも「そ。だから俺達も無関係じゃなくなっちゃったの」と、やはり話が見えないんですけど。
「ほら、昨日ってもともとみんなで集まろうって言ってた日でしょ?」
「はい。私は参加しなかったけど……」
そう、言葉のとおり、もともと昨日は神室町のみんなと飲み会の予定だった。いや、その会自体は予定通り開かれていた。私が急遽「欠席します」と花ちゃんに連絡しただけで。だって吾朗さんもいるんだから。先日あんなかたちで別れたというのに、楽しく飲み会しましょうはちょっと私には無理だもの。
するとそこで、どうやら何かがあったらしい昨夜の話が始まった。
「あれ、ナマエちゃんいないんスか?」
「兄さん、ナマエは今日どうしたんだ?」
「なんやお前、珍しく今日は一人なんか」
いつも吾朗さんと一緒に飲み会に混ぜてもらっていて、それでここにいるみんなと仲良く話せるようになった。それもありいつも二人で参加するのが当たり前になっていたからか、昨日は珍しく私がいないことに秋山さん桐生さん、そして冴島さんと、お店にやって来るなりその都度吾朗さんはそう問われていたらしい。
「ったく、なんやねん。どいつもこいつもナマエナマエって。アイツとはもう別れたで」
「「「は?」」」
そこでその場の会話が止まり、賑やかな雰囲気が一変して静寂が流れたとか。
で、しーんとなった時間のあと、秋山さんや桐生さんが「えっと……嘘でしょ?」「おい、嘘だろ?」とおそるおそる声を上げる。
「嘘ついてどないすんねん」
「いや、だって、何で!?」
「兄さん、あんなに大事にしてたじゃねぇか」
「なんでって、飽きたから別れたな」
「飽きたからって、えぇ!?」
「それこそ嘘だろ?」
「だから、なんでこないなことで嘘つかなアカンのや」
吾朗さんがあまりに平然と返答していたのがより信じられない状況に拍車をかけ、周りのみんなの方が焦りと戸惑いで落ち着かなくなってしまうばかりで。
そんな周囲の様子に呆れながら吾朗さんは続けて口にした。「要らなくなったから捨てる、それのどこが問題なんや」と。
「そんな騒ぐことかいな。だいたい、どこにでもいるようなカタギの女やで。倦怠期乗り越えてどうのこうのするほどの女でもないやろ」
その辺りから、秋山さんと桐生さんの顔つきが変わったらしい。
「おい、アンタそれ本気で言ってんのか」
「本気やから別れたんやろが」
「飽きたとか捨てるとか、流石に言葉が酷すぎません?」
「じゃあお前等は揃って要らないモンもわざわざ手元に置いとくんか。整理整頓っちゅう言葉も知らんとはのぅ。ダラダラ関係続けながら他の女に手ェ出すよりええやないか、むしろ誠意しかあらへんやろ」
今思えば、別に大した女やなかったわ。
ヒヒッと笑いながらハッキリそう口にしたことで、とうとう秋山さんと桐生さんが反発することになる。
「あの、もうその辺にしてくれません? 俺からすれば大事な友達の一人なんですけど」
「俺もダチを悪く言われるのは黙ってられねぇ」
「ほう、珍しいのぅ。それやったら表に出よか? 二人まとめてでええで。そのかわり、俺が勝ったら俺の前で金輪際アイツの名前出すなや」
それで花ちゃんが仕事で遅れてやって来たときには、店外で三人の喧嘩が始まってしまっていたとか。二人のその気持ちは有り難いのだけど、だからってなにしてるの……。
「あ、みなさーん!ナマエちゃん今日、急遽来られなく……って、ちょっと、どういうことですか!?」
花ちゃんの言葉も聞こえないほど白熱してしまったその喧嘩を、最終的に止めたのはある程度まで静観していた冴島さんだった。「そろそろええ加減にせぇや」と口にしては、三人のなかに堂々と割って入ってひとまずはその場を落ち着かせる。
「お前ら、いっぺん落ち着いたらどや。それに真島、お前も煽りすぎや」
それで一応事態は収まったものの、さすがにその後は飲み会を仕切り直してとはいかなかった様子。そのまま昨日は解散になり、でも納得のいかない彼等は今日私を呼び出したという。
「俺も桐生さんも、真島さんが君のことをそんなふうに言うのがやっぱり信じられなくてさ」
「それで本当のところ、実際はなにがあったんだ?」
「本当のところと言われても……」
ていうか、誠意しかないとかそんなの本当に思ってないだろう。だってそれなら普通、きちんと別れてからその女と関係を持つものではないのか。先に手を出してその女が気に入ったから別れろって、そんなのどこが誠意?
二人は「あれは俺等の前だから建前でああいう態度とってるってことじゃないの?」と、なにやら裏があるだろうと思っている。私のことも心配してくれているからこそ、あんな風に言われたままじゃあ友人として放っておけない、せめて納得のいく理由がきちんと知りたいってことらしい。
「残念ながら、裏もなにもないです。まるっきり同じようなこと……いや、ある意味もっと酷いことかも」
「もっと酷いこと、だと?」
「はい。顔もスタイルも身体の相性も良い女が現れたから別れろって。おまけにピル飲んでるからゴム無しでもヤれて最高なんですって!」
私の乱雑に吐き捨てたその言葉に飲み物を吹き出しそうになる人、表情が固まる人、眉を顰める人と様々なリアクションのなか、表情を変えなかった冴島さんが「ぴるって何や」「避妊薬ですよ」と、秋山さんとそんな会話をしながら。
ていうかなんなの、本当。ゴムつけるのがそんな嫌だったとでもいうの? エチケットみたいなモンでしょ、自分だってキッチリ用意してたじゃん。なんで今更……そんなことで簡単に捨てられるほどの存在だったなんて。情もなにもなく、いつものトーンで「もう興味が無くなった」って、まるで用済みだと言わんばかりに。
「よほど入れ込んでるみたいですよ。私とのこれまでを帳消しにするためならお金を積んでも構わないそうですし。だから、やっぱり皆さんにお話したとおりなんだと思います。本当にそのまま、私のことはもう……」
私だって、もしかしたら何か事情があるのかもとか、どこか信じられないような気持ちもあったけれど……私が言われたことも彼等が聞いていることも同じなのだ。ましてや嘘の嫌いなあの人のこと、本当に裏などないだろう。
考えてみれば、これまでが奇跡だったんじゃないかな。あんな素敵な男性が長いこと隣に居てくれていたなんて。そろそろ身の程を知れってお告げなのかも。
「だから、もうどうしようもないですよね」
私への好意が消えてしまったのなら、もうなにも出来ない。なんだかんだで結局、あの人が彼等に言ったように「好きじゃないなら一緒にいる必要がない」と、それはその通りなのだから。まだ何かしらの事情がある場合の方がなんとかなったのかもしれないとすら思う。
現実はシンプルな話で、単純に私より良い女が彼を颯爽と奪っていった。そういうことだ。
こうすれば、ああすればと、それで解決出来るようなことなんかじゃない。その人がいる限り、私がなにをしようともう戻って来ることなどないのだから。
「早速だけど、どうして真島さんと別れることになっちゃったの?」
挨拶も早々に切り出されたその話題。まぁ、ここに呼ばれた時点でそうだろうとは思ってたけど。とある居酒屋で、私にとっては神室町ならではのメンバーが揃っている。
秋山さんがどこか納得のいかない表情で私に問いかければ、周りの桐生さんと花ちゃんも同様の視線を私へと向けた。冴島さんだけはあまり表情が変わらないようにも見える。
「……それはまぁ、私達の問題ですから」
彼と別れた理由を述べよ。
解答、顔もスタイルも身体の相性も良くてゴムつけなくてもさせてくれる最高の女と出会ったから。
そんなの説明しなきゃならないのかと、気が進まずに素っ気ない答えをしてしまった。適当なことを言ってはぐらかすことも出来たかもしれないけど、別れたってことを私は誰にも言ってない以上吾朗さんから聞いてるのだから、話に矛盾が生まれてそこを言及されるのもそれはそれでと思ってしまった結果である。
「ところが、そうもいかなくなっちゃったんだよねぇ」
「なんでですか?」
「それで昨日、最終的に殴り合いになっちまってな」
「……は?」
秋山さんと話していれば、今度は桐生さんが訳の分からないことを言い出した。最終的に殴り合い……?
目をぱちくりさせていれば秋山さんも「そ。だから俺達も無関係じゃなくなっちゃったの」と、やはり話が見えないんですけど。
「ほら、昨日ってもともとみんなで集まろうって言ってた日でしょ?」
「はい。私は参加しなかったけど……」
そう、言葉のとおり、もともと昨日は神室町のみんなと飲み会の予定だった。いや、その会自体は予定通り開かれていた。私が急遽「欠席します」と花ちゃんに連絡しただけで。だって吾朗さんもいるんだから。先日あんなかたちで別れたというのに、楽しく飲み会しましょうはちょっと私には無理だもの。
するとそこで、どうやら何かがあったらしい昨夜の話が始まった。
「あれ、ナマエちゃんいないんスか?」
「兄さん、ナマエは今日どうしたんだ?」
「なんやお前、珍しく今日は一人なんか」
いつも吾朗さんと一緒に飲み会に混ぜてもらっていて、それでここにいるみんなと仲良く話せるようになった。それもありいつも二人で参加するのが当たり前になっていたからか、昨日は珍しく私がいないことに秋山さん桐生さん、そして冴島さんと、お店にやって来るなりその都度吾朗さんはそう問われていたらしい。
「ったく、なんやねん。どいつもこいつもナマエナマエって。アイツとはもう別れたで」
「「「は?」」」
そこでその場の会話が止まり、賑やかな雰囲気が一変して静寂が流れたとか。
で、しーんとなった時間のあと、秋山さんや桐生さんが「えっと……嘘でしょ?」「おい、嘘だろ?」とおそるおそる声を上げる。
「嘘ついてどないすんねん」
「いや、だって、何で!?」
「兄さん、あんなに大事にしてたじゃねぇか」
「なんでって、飽きたから別れたな」
「飽きたからって、えぇ!?」
「それこそ嘘だろ?」
「だから、なんでこないなことで嘘つかなアカンのや」
吾朗さんがあまりに平然と返答していたのがより信じられない状況に拍車をかけ、周りのみんなの方が焦りと戸惑いで落ち着かなくなってしまうばかりで。
そんな周囲の様子に呆れながら吾朗さんは続けて口にした。「要らなくなったから捨てる、それのどこが問題なんや」と。
「そんな騒ぐことかいな。だいたい、どこにでもいるようなカタギの女やで。倦怠期乗り越えてどうのこうのするほどの女でもないやろ」
その辺りから、秋山さんと桐生さんの顔つきが変わったらしい。
「おい、アンタそれ本気で言ってんのか」
「本気やから別れたんやろが」
「飽きたとか捨てるとか、流石に言葉が酷すぎません?」
「じゃあお前等は揃って要らないモンもわざわざ手元に置いとくんか。整理整頓っちゅう言葉も知らんとはのぅ。ダラダラ関係続けながら他の女に手ェ出すよりええやないか、むしろ誠意しかあらへんやろ」
今思えば、別に大した女やなかったわ。
ヒヒッと笑いながらハッキリそう口にしたことで、とうとう秋山さんと桐生さんが反発することになる。
「あの、もうその辺にしてくれません? 俺からすれば大事な友達の一人なんですけど」
「俺もダチを悪く言われるのは黙ってられねぇ」
「ほう、珍しいのぅ。それやったら表に出よか? 二人まとめてでええで。そのかわり、俺が勝ったら俺の前で金輪際アイツの名前出すなや」
それで花ちゃんが仕事で遅れてやって来たときには、店外で三人の喧嘩が始まってしまっていたとか。二人のその気持ちは有り難いのだけど、だからってなにしてるの……。
「あ、みなさーん!ナマエちゃん今日、急遽来られなく……って、ちょっと、どういうことですか!?」
花ちゃんの言葉も聞こえないほど白熱してしまったその喧嘩を、最終的に止めたのはある程度まで静観していた冴島さんだった。「そろそろええ加減にせぇや」と口にしては、三人のなかに堂々と割って入ってひとまずはその場を落ち着かせる。
「お前ら、いっぺん落ち着いたらどや。それに真島、お前も煽りすぎや」
それで一応事態は収まったものの、さすがにその後は飲み会を仕切り直してとはいかなかった様子。そのまま昨日は解散になり、でも納得のいかない彼等は今日私を呼び出したという。
「俺も桐生さんも、真島さんが君のことをそんなふうに言うのがやっぱり信じられなくてさ」
「それで本当のところ、実際はなにがあったんだ?」
「本当のところと言われても……」
ていうか、誠意しかないとかそんなの本当に思ってないだろう。だってそれなら普通、きちんと別れてからその女と関係を持つものではないのか。先に手を出してその女が気に入ったから別れろって、そんなのどこが誠意?
二人は「あれは俺等の前だから建前でああいう態度とってるってことじゃないの?」と、なにやら裏があるだろうと思っている。私のことも心配してくれているからこそ、あんな風に言われたままじゃあ友人として放っておけない、せめて納得のいく理由がきちんと知りたいってことらしい。
「残念ながら、裏もなにもないです。まるっきり同じようなこと……いや、ある意味もっと酷いことかも」
「もっと酷いこと、だと?」
「はい。顔もスタイルも身体の相性も良い女が現れたから別れろって。おまけにピル飲んでるからゴム無しでもヤれて最高なんですって!」
私の乱雑に吐き捨てたその言葉に飲み物を吹き出しそうになる人、表情が固まる人、眉を顰める人と様々なリアクションのなか、表情を変えなかった冴島さんが「ぴるって何や」「避妊薬ですよ」と、秋山さんとそんな会話をしながら。
ていうかなんなの、本当。ゴムつけるのがそんな嫌だったとでもいうの? エチケットみたいなモンでしょ、自分だってキッチリ用意してたじゃん。なんで今更……そんなことで簡単に捨てられるほどの存在だったなんて。情もなにもなく、いつものトーンで「もう興味が無くなった」って、まるで用済みだと言わんばかりに。
「よほど入れ込んでるみたいですよ。私とのこれまでを帳消しにするためならお金を積んでも構わないそうですし。だから、やっぱり皆さんにお話したとおりなんだと思います。本当にそのまま、私のことはもう……」
私だって、もしかしたら何か事情があるのかもとか、どこか信じられないような気持ちもあったけれど……私が言われたことも彼等が聞いていることも同じなのだ。ましてや嘘の嫌いなあの人のこと、本当に裏などないだろう。
考えてみれば、これまでが奇跡だったんじゃないかな。あんな素敵な男性が長いこと隣に居てくれていたなんて。そろそろ身の程を知れってお告げなのかも。
「だから、もうどうしようもないですよね」
私への好意が消えてしまったのなら、もうなにも出来ない。なんだかんだで結局、あの人が彼等に言ったように「好きじゃないなら一緒にいる必要がない」と、それはその通りなのだから。まだ何かしらの事情がある場合の方がなんとかなったのかもしれないとすら思う。
現実はシンプルな話で、単純に私より良い女が彼を颯爽と奪っていった。そういうことだ。
こうすれば、ああすればと、それで解決出来るようなことなんかじゃない。その人がいる限り、私がなにをしようともう戻って来ることなどないのだから。