恋の犠牲者はどちらか
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「すみません、お待たせしちゃいましたね」
「気にせんでええ。お疲れさん」漢字
それからは、時々吾朗さんが私の仕事終わりに迎えに来てくれるようになった。迎えの車に乗せてもらい走り出す景色。以前よりも顔を合わせる頻度が増えたことは嬉しいことで、でも急にどうしてかと尋ねてみる。
「俺の女っちゅう立場を狙う命知らずもおるかもしれんからな。ちゃーんと護衛つけなアカンやろ」
「護衛、ですか」
話の流れから何やら物騒な内容になるのかと少し身構えてみれば、でも口にしている当の本人は何やら楽しそうに言うのだ。
「せやで。そういうことにしておけば、堂々と隣におれるしな」
悪戯な笑みで告げられたことは、つまり護衛というのは建前で一緒にいてくれるための口実だと。職権濫用にはならないのか気にかかるものの、その話を前にしても西田さんは穏やかに笑ってるから問題ないのかな。
そして到着したのはお馴染みの神室町。彼とともに並んで歩き、予約されている居酒屋の個室へ。そのドアを開けた吾朗さんの横にいる私を見るなり、大きな声で「良かったああーー!!」と言いながら出迎えてくれたのは花ちゃんだ。
「この目で二人が一緒にいるところを見られて、これで本当に本当に安心したんだからっ!」
「うん、心配かけてごめんなさい、ありがとう」
嬉しさのあまり私の両手を取り、ぶんぶんと上下に振りながら涙ぐむ彼女。すると横から「花ちゃんの力でそんなことしたら、ナマエちゃん腕外れちゃうでしょ」なんて秋山さんが言ってくる。
「酷いです社長、私か弱いんですからそんなことにはならないです!」
「あぁ、うん。そういうことにしておこうか」
「そういうことにしなくてもそうなんです!」
と合流するなり早々、二人の軽快なやり取りが繰り広げられる。そして吾朗さんの横に着席して、いつもの見慣れたメンバーに囲まれて。「仲直りを祝して乾杯!」なんて言われてしまえばちょっと照れ臭くなってしまう。
「あ、せや金貸し! ワシにホラ吹いたの許しとらんからな!」
「でも、おかげで本当のことが言えたんでしょう? あれがなかったら真島さん、ずーっと嘘ついたままだったし」
吾朗さんと秋山さんの会話に心当たりがあるらしい谷村さんが「え……もしかして、あの時考えた設定で本当に真島さん騙されたんですか!?」と、やや驚きながら口にした。
その言葉が気になり「設定って?」と尋ねてみれば、どうやら極悪ホストの設定をあの日の昼間にアルプスにてみんなで考えたとかなんとか。
「最低だと思うエピソードをいくつかみんなで出し合って、箇条書きで書いてたの」
「でも『さすがにこんな絵に描いたような悪い男だと、逆に嘘っぽくないですか?』って俺は言ったんですけど……」
「ところが全然。真島さんてば疑う余地もなくブチギレて、怒鳴り散らかしたと思ったら電話切られたんだから」
花ちゃんと谷村さんの言葉に、してやったりな笑みでそう話す秋山さん。
「どうせ言い出したんはお前やろ? ホンマお前いっぺん殴ったるからな!」
「まぁまぁ兄さん。俺だって兄さんの立場なら騙されてたと思うぜ」
「そんなフォロー今いらんねん!」
「真島にとってその話が嘘かホンマかより、お前が無事かどうかの方がよっぽど大事なことやったんやな」
「おい兄弟、お前も何適当なこと言うとんのや」
「どこが適当なんや、図星やろが」
今日の吾朗さんは、常に誰かしらにツッコミを入れ続けて忙しそう。
でもこんな賑やかな時間をまたこうして彼と、そしてみんなと過ごせることが、素直に嬉しくてたまらない。
「ホンマにお前等は揃いも揃って、余計なことしかせんな!」
「そう言いますけど、俺達のおかげでヨリ戻せたようなモンじゃないですか」
「あぁ!? 間違っても金貸し、お前のおかげとちゃうからな!」
「それで言うなら、俺も一役買ったな」
「お前はただ喧嘩しただけやろが」
「でも、それでスッキリして兄さんも本音が出ただろ」
「え、桐生さん! 吾朗さん、なんて言ってたんですか?」
「兄さんは『寝ても覚めても「お前それ以上言うんなら喧嘩や喧嘩! 表出ろや!」
吾朗さんのそんな声は、この部屋どころかお店に響き渡っているのではと心配になるくらいで。「今日は一段と騒がしいな……」「まぁ、なんだかんだでみんな安心したんやろ」と、谷村さんと冴島さんの会話を耳にしてつい笑みが溢れる。
「これから何かあれば、素直にもっと俺達を頼ってくれていいんですよ?」
「何があってもお前には絶っ対言わん!」
「じゃあその時は、また俺が喧嘩すればいいのか?」
「って、俺はもう探偵の真似事させられるのは嫌ですからね。勘弁してくださいよ」
吾朗さんが珍しく徹底的に揶揄われている様に目新しさを覚えながら、なんとなく思うのだ。自分には何も無いような口振りをしても、結局のところ吾朗さんて、自分で思ってる以上に仲間に慕われているんじゃないかなって。ここにいる彼等や西田さん……みんなそう。
間髪入れずにああ言えばこう言うな吾朗さんは、「兄さん、あまり声を荒げると次のカラオケに響くぞ」なんて言われては「次!? なんで一晩中ずーっとお前等とおらなアカンねん!」と返すものの、「だってこの間カラオケに行けなかったの、真島さんのせいなんですから!」と花ちゃんに言われたなら返す言葉に詰まるのもまた珍しい。
いつにも増して賑やかな空間、彼等とともに過ごすこの時間はやはり私には居心地が良い。そう思っていれば冴島さんがこっそり「良かったやないか」と声をかけてくれて、私は「はい」と笑って頷くのだった。
「すみません、西田さん。こんな遅い時間に……」
「いえ、平気っスよ!」
「あぁー疲れた……ったく、相変わらず喧しい合いの手やでホンマ」
「そう言う吾朗さんもノリノリだったじゃないですか」
他人事のように喧しい合いの手だなんて言っているけれど、もちろん彼も乗り気で合いの手を入れてしっかり楽しんでいたその一人。
散々飲んで騒いでというこんな夜は久しぶりで、帰りの車ではすっかり互いに疲労が見られる。
「にしても、こないに遅くなるとは思わんかったわ」
「明日はお休みですし、たまには思い切り遊ぶのもいいじゃないですか」
「……楽しかったか?」
「はい」
「なら、まぁええか」
そうして私達を乗せた車が、次は彼の家へと走り出す。
この時の私はまだ「泊まりに行く」という感覚であったが、まさかそんな彼の家が「泊まりに行く」場所からほどなくして「帰る」場所へと変わるだなんて知る由もない。
「……なぁ、ええこと思い付いたんやけど」
「はい?」
「お前、このまま俺の所に住んだらええやろ」
「……え?」
「同棲や同棲! 一緒におれるし、また変にすれ違うくらいならお互い思ったときに思ったことを言える方がええって考えたらピッタリやろが!」
「なんか、いきなり急では!?」
「まぁ詳しいことは明日考えるとしてやな……明後日にでも組員に色々と荷物運ばせよか!」
「親父、でも明後日は幹部会があるっスよ!」
「あぁ!? どうせ大した報告もないやろ、放っとけや。だいたいナマエの住む場所以上に重要な用件なんてないやろが」
「でも親父!」
「あ、あの! 一緒に暮らしたいので、お仕事はちゃんとしてほしいなぁって……」
「……せやな。俺、幹部やからな。会議はちゃんと出なアカンな」
((見事に手のひら返したな、この人))
「気にせんでええ。お疲れさん」
それからは、時々吾朗さんが私の仕事終わりに迎えに来てくれるようになった。迎えの車に乗せてもらい走り出す景色。以前よりも顔を合わせる頻度が増えたことは嬉しいことで、でも急にどうしてかと尋ねてみる。
「俺の女っちゅう立場を狙う命知らずもおるかもしれんからな。ちゃーんと護衛つけなアカンやろ」
「護衛、ですか」
話の流れから何やら物騒な内容になるのかと少し身構えてみれば、でも口にしている当の本人は何やら楽しそうに言うのだ。
「せやで。そういうことにしておけば、堂々と隣におれるしな」
悪戯な笑みで告げられたことは、つまり護衛というのは建前で一緒にいてくれるための口実だと。職権濫用にはならないのか気にかかるものの、その話を前にしても西田さんは穏やかに笑ってるから問題ないのかな。
そして到着したのはお馴染みの神室町。彼とともに並んで歩き、予約されている居酒屋の個室へ。そのドアを開けた吾朗さんの横にいる私を見るなり、大きな声で「良かったああーー!!」と言いながら出迎えてくれたのは花ちゃんだ。
「この目で二人が一緒にいるところを見られて、これで本当に本当に安心したんだからっ!」
「うん、心配かけてごめんなさい、ありがとう」
嬉しさのあまり私の両手を取り、ぶんぶんと上下に振りながら涙ぐむ彼女。すると横から「花ちゃんの力でそんなことしたら、ナマエちゃん腕外れちゃうでしょ」なんて秋山さんが言ってくる。
「酷いです社長、私か弱いんですからそんなことにはならないです!」
「あぁ、うん。そういうことにしておこうか」
「そういうことにしなくてもそうなんです!」
と合流するなり早々、二人の軽快なやり取りが繰り広げられる。そして吾朗さんの横に着席して、いつもの見慣れたメンバーに囲まれて。「仲直りを祝して乾杯!」なんて言われてしまえばちょっと照れ臭くなってしまう。
「あ、せや金貸し! ワシにホラ吹いたの許しとらんからな!」
「でも、おかげで本当のことが言えたんでしょう? あれがなかったら真島さん、ずーっと嘘ついたままだったし」
吾朗さんと秋山さんの会話に心当たりがあるらしい谷村さんが「え……もしかして、あの時考えた設定で本当に真島さん騙されたんですか!?」と、やや驚きながら口にした。
その言葉が気になり「設定って?」と尋ねてみれば、どうやら極悪ホストの設定をあの日の昼間にアルプスにてみんなで考えたとかなんとか。
「最低だと思うエピソードをいくつかみんなで出し合って、箇条書きで書いてたの」
「でも『さすがにこんな絵に描いたような悪い男だと、逆に嘘っぽくないですか?』って俺は言ったんですけど……」
「ところが全然。真島さんてば疑う余地もなくブチギレて、怒鳴り散らかしたと思ったら電話切られたんだから」
花ちゃんと谷村さんの言葉に、してやったりな笑みでそう話す秋山さん。
「どうせ言い出したんはお前やろ? ホンマお前いっぺん殴ったるからな!」
「まぁまぁ兄さん。俺だって兄さんの立場なら騙されてたと思うぜ」
「そんなフォロー今いらんねん!」
「真島にとってその話が嘘かホンマかより、お前が無事かどうかの方がよっぽど大事なことやったんやな」
「おい兄弟、お前も何適当なこと言うとんのや」
「どこが適当なんや、図星やろが」
今日の吾朗さんは、常に誰かしらにツッコミを入れ続けて忙しそう。
でもこんな賑やかな時間をまたこうして彼と、そしてみんなと過ごせることが、素直に嬉しくてたまらない。
「ホンマにお前等は揃いも揃って、余計なことしかせんな!」
「そう言いますけど、俺達のおかげでヨリ戻せたようなモンじゃないですか」
「あぁ!? 間違っても金貸し、お前のおかげとちゃうからな!」
「それで言うなら、俺も一役買ったな」
「お前はただ喧嘩しただけやろが」
「でも、それでスッキリして兄さんも本音が出ただろ」
「え、桐生さん! 吾朗さん、なんて言ってたんですか?」
「兄さんは『寝ても覚めても「お前それ以上言うんなら喧嘩や喧嘩! 表出ろや!」
吾朗さんのそんな声は、この部屋どころかお店に響き渡っているのではと心配になるくらいで。「今日は一段と騒がしいな……」「まぁ、なんだかんだでみんな安心したんやろ」と、谷村さんと冴島さんの会話を耳にしてつい笑みが溢れる。
「これから何かあれば、素直にもっと俺達を頼ってくれていいんですよ?」
「何があってもお前には絶っ対言わん!」
「じゃあその時は、また俺が喧嘩すればいいのか?」
「って、俺はもう探偵の真似事させられるのは嫌ですからね。勘弁してくださいよ」
吾朗さんが珍しく徹底的に揶揄われている様に目新しさを覚えながら、なんとなく思うのだ。自分には何も無いような口振りをしても、結局のところ吾朗さんて、自分で思ってる以上に仲間に慕われているんじゃないかなって。ここにいる彼等や西田さん……みんなそう。
間髪入れずにああ言えばこう言うな吾朗さんは、「兄さん、あまり声を荒げると次のカラオケに響くぞ」なんて言われては「次!? なんで一晩中ずーっとお前等とおらなアカンねん!」と返すものの、「だってこの間カラオケに行けなかったの、真島さんのせいなんですから!」と花ちゃんに言われたなら返す言葉に詰まるのもまた珍しい。
いつにも増して賑やかな空間、彼等とともに過ごすこの時間はやはり私には居心地が良い。そう思っていれば冴島さんがこっそり「良かったやないか」と声をかけてくれて、私は「はい」と笑って頷くのだった。
「すみません、西田さん。こんな遅い時間に……」
「いえ、平気っスよ!」
「あぁー疲れた……ったく、相変わらず喧しい合いの手やでホンマ」
「そう言う吾朗さんもノリノリだったじゃないですか」
他人事のように喧しい合いの手だなんて言っているけれど、もちろん彼も乗り気で合いの手を入れてしっかり楽しんでいたその一人。
散々飲んで騒いでというこんな夜は久しぶりで、帰りの車ではすっかり互いに疲労が見られる。
「にしても、こないに遅くなるとは思わんかったわ」
「明日はお休みですし、たまには思い切り遊ぶのもいいじゃないですか」
「……楽しかったか?」
「はい」
「なら、まぁええか」
そうして私達を乗せた車が、次は彼の家へと走り出す。
この時の私はまだ「泊まりに行く」という感覚であったが、まさかそんな彼の家が「泊まりに行く」場所からほどなくして「帰る」場所へと変わるだなんて知る由もない。
「……なぁ、ええこと思い付いたんやけど」
「はい?」
「お前、このまま俺の所に住んだらええやろ」
「……え?」
「同棲や同棲! 一緒におれるし、また変にすれ違うくらいならお互い思ったときに思ったことを言える方がええって考えたらピッタリやろが!」
「なんか、いきなり急では!?」
「まぁ詳しいことは明日考えるとしてやな……明後日にでも組員に色々と荷物運ばせよか!」
「親父、でも明後日は幹部会があるっスよ!」
「あぁ!? どうせ大した報告もないやろ、放っとけや。だいたいナマエの住む場所以上に重要な用件なんてないやろが」
「でも親父!」
「あ、あの! 一緒に暮らしたいので、お仕事はちゃんとしてほしいなぁって……」
「……せやな。俺、幹部やからな。会議はちゃんと出なアカンな」
((見事に手のひら返したな、この人))
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