Short story
Name Change
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鍵を開けて室内に入り、部屋の電気をつけながら、控えめにただいまの一言。誰もいないのなんてわかっていながら、なんとなくぼそっと口にしたそんな声は、やはり誰もいない空間に響くだけだ。
昼間に届いたメッセージによれば、今日も帰りが何時になるかわからないから、夜ご飯は不要だって。だから、手元にぶら下げている買い物袋の中身は、自分の簡単な夜ご飯のみ。
入浴して着替えやスキンケアも終えて、ダイニングテーブルに自分の食事を並べる。彼と一緒に過ごしている広くて綺麗な部屋も、こうもずっと毎日一人では、そろそろ寂しくなってくる。
仕方がないこととはいえ、最近は特にすれ違いな生活だと思う。朝起きれば隣で彼が眠っていて、起こさないよう気をつけながら私は出勤する。
でも、別に喧嘩をしているとか、そういうことではないから。日中は当たり前に連絡を取り合うけれど、ここ数日はずっと「夜ご飯はいらない」っていう知らせが来る。そして、私が帰宅したよと連絡を入れれば、「遅くなるから先に寝てていい」とのメッセージがパターン化している。
起きて帰りを待っていたいなという思いはあるのに、彼より朝が早い私は、遅い帰宅を待つあいだにどうしても眠気に負けてしまう。遅くに帰ってきた彼も、きっと私を起こさないよう気をつけながら就寝しているのだろう。
それでも明日、私はお休みだから。久しぶりに、きちんと顔を合わせて「おかえり」って言いたいなぁと、今夜は彼を待つことにした。明日の朝は「行ってらっしゃい」って、久しぶりに見送ることができるんだなって、今はそれすら待ち遠しく思えてしまうほどだった。
「……ナマエ。おーい、ナマエ」
聞き慣れた声が耳に届いて、ぼんやりする頭を働かせる。微睡むような視界や感覚。あぁ、私は眠ってしまっていたのかと気づいたのは、目覚めた場所がリビングであったことから。
そうだ、彼におかえりって言いたくて……どうやら、そのままリビングで寝落ちしてしまったようだ。
「ん……吾朗さん?」
「珍しいな、こんな所で寝とるの」
「お疲れ様です、お帰りなさい」
「おう、ただいま」
眠気混じりでありながら、久しぶりに伝えられたお帰りなさい。いや、それよりも、電話やメッセージではなく、顔を見て会話を交わすということを久しぶりにしたような気がする。
「なんや、『ただいま』なんて久しぶりに言うた気がするわ」
「私も、吾朗さんに『お帰り』って言いたくて、待ってようと思ったんです。まぁ、寝ちゃってましたけど」
「無理せんでええのに」
そう言いながら、吾朗さんが軽く私の頭を撫でる。あぁ、そんなのも久しぶりだなぁと思ったそのとき、「せや! 聞いてくれや!」と、急にぱあっと輝く笑顔を見せた。なにか仕事でいいことでもあったのかな。
「俺な! 明日、休みになったんやで!」
「え……」
「西田が休んでもええって言うてきてな!」
「ほ、本当にっ!?」
「おう!」
彼の弾むような声と、ヒヒッと無邪気に笑う表情。その言葉が私の願望ではなく、きちんと現実のことなのだと実感させられて、急に込み上げる喜びで声が興奮気味になる。
明日はてっきり、一人で過ごしながら彼を待つんだとばかり思っていたから。まさか、彼もお休みになるなんて……それって、つまり、一緒に過ごせるということ……?
「明日は、久しぶりにナマエと一緒におれるで!」
言わせたんじゃないのかな、大丈夫かな。そんなこと、今はもう考えることはできない。
「なぁ、明日どないする?」と、まるで少年のようなキラキラした眼差しでそう尋ねる彼。
でも、私も、遠足を楽しみにする子どもみたいにな気持ち。明日が楽しみで仕方がなくなってしまったから、人のこと言えないなと思う。
「じゃあ、あの……まずは、二人でゆっくり朝ごはんを食べたいです!」
「ヒヒッ、それもそうやな」
思わぬ朗報にすっかり目が冴えてしまった。どうしよう、このあと、また眠れるかな。そんな嬉しい悩みまで出てくるとは。
「ナマエは、もう寝るんやろ?」
「吾朗さんは?」
「俺もいろいろ済ませて寝るで」
「じゃあ、待ってる」
「わかった」
そう言うなり、吾朗さんはリビングから場所を移した。そのとき、なんとなく視線を移した自分の電話のディスプレイには、新着のメッセージが一件。
「お願いがあります。親父がナマエさんと休みを合わせるために、ここ数日ちゃんと仕事をしたので、明日は一緒に過ごしてあげてください」
寝ている間に届いていたのは、西田さんからのそんな言葉だった。すっかり高揚してしまった気持ちはそのまま「わかりました」と返事を送りつつ、西田さんから届いた文面に再度目をやる。
私と、休みを合わせるため……もしかして、ここのところ毎日忙しそうにしていたのって、明日のためだったのかな。
そう気づけば、いっそう吾朗さんに対する愛しさが溢れて、自分の顔が緩むのがわかる。
どうしよう。やっぱり今夜、嬉しくて眠れないんじゃないかな。
昼間に届いたメッセージによれば、今日も帰りが何時になるかわからないから、夜ご飯は不要だって。だから、手元にぶら下げている買い物袋の中身は、自分の簡単な夜ご飯のみ。
入浴して着替えやスキンケアも終えて、ダイニングテーブルに自分の食事を並べる。彼と一緒に過ごしている広くて綺麗な部屋も、こうもずっと毎日一人では、そろそろ寂しくなってくる。
仕方がないこととはいえ、最近は特にすれ違いな生活だと思う。朝起きれば隣で彼が眠っていて、起こさないよう気をつけながら私は出勤する。
でも、別に喧嘩をしているとか、そういうことではないから。日中は当たり前に連絡を取り合うけれど、ここ数日はずっと「夜ご飯はいらない」っていう知らせが来る。そして、私が帰宅したよと連絡を入れれば、「遅くなるから先に寝てていい」とのメッセージがパターン化している。
起きて帰りを待っていたいなという思いはあるのに、彼より朝が早い私は、遅い帰宅を待つあいだにどうしても眠気に負けてしまう。遅くに帰ってきた彼も、きっと私を起こさないよう気をつけながら就寝しているのだろう。
それでも明日、私はお休みだから。久しぶりに、きちんと顔を合わせて「おかえり」って言いたいなぁと、今夜は彼を待つことにした。明日の朝は「行ってらっしゃい」って、久しぶりに見送ることができるんだなって、今はそれすら待ち遠しく思えてしまうほどだった。
「……ナマエ。おーい、ナマエ」
聞き慣れた声が耳に届いて、ぼんやりする頭を働かせる。微睡むような視界や感覚。あぁ、私は眠ってしまっていたのかと気づいたのは、目覚めた場所がリビングであったことから。
そうだ、彼におかえりって言いたくて……どうやら、そのままリビングで寝落ちしてしまったようだ。
「ん……吾朗さん?」
「珍しいな、こんな所で寝とるの」
「お疲れ様です、お帰りなさい」
「おう、ただいま」
眠気混じりでありながら、久しぶりに伝えられたお帰りなさい。いや、それよりも、電話やメッセージではなく、顔を見て会話を交わすということを久しぶりにしたような気がする。
「なんや、『ただいま』なんて久しぶりに言うた気がするわ」
「私も、吾朗さんに『お帰り』って言いたくて、待ってようと思ったんです。まぁ、寝ちゃってましたけど」
「無理せんでええのに」
そう言いながら、吾朗さんが軽く私の頭を撫でる。あぁ、そんなのも久しぶりだなぁと思ったそのとき、「せや! 聞いてくれや!」と、急にぱあっと輝く笑顔を見せた。なにか仕事でいいことでもあったのかな。
「俺な! 明日、休みになったんやで!」
「え……」
「西田が休んでもええって言うてきてな!」
「ほ、本当にっ!?」
「おう!」
彼の弾むような声と、ヒヒッと無邪気に笑う表情。その言葉が私の願望ではなく、きちんと現実のことなのだと実感させられて、急に込み上げる喜びで声が興奮気味になる。
明日はてっきり、一人で過ごしながら彼を待つんだとばかり思っていたから。まさか、彼もお休みになるなんて……それって、つまり、一緒に過ごせるということ……?
「明日は、久しぶりにナマエと一緒におれるで!」
言わせたんじゃないのかな、大丈夫かな。そんなこと、今はもう考えることはできない。
「なぁ、明日どないする?」と、まるで少年のようなキラキラした眼差しでそう尋ねる彼。
でも、私も、遠足を楽しみにする子どもみたいにな気持ち。明日が楽しみで仕方がなくなってしまったから、人のこと言えないなと思う。
「じゃあ、あの……まずは、二人でゆっくり朝ごはんを食べたいです!」
「ヒヒッ、それもそうやな」
思わぬ朗報にすっかり目が冴えてしまった。どうしよう、このあと、また眠れるかな。そんな嬉しい悩みまで出てくるとは。
「ナマエは、もう寝るんやろ?」
「吾朗さんは?」
「俺もいろいろ済ませて寝るで」
「じゃあ、待ってる」
「わかった」
そう言うなり、吾朗さんはリビングから場所を移した。そのとき、なんとなく視線を移した自分の電話のディスプレイには、新着のメッセージが一件。
「お願いがあります。親父がナマエさんと休みを合わせるために、ここ数日ちゃんと仕事をしたので、明日は一緒に過ごしてあげてください」
寝ている間に届いていたのは、西田さんからのそんな言葉だった。すっかり高揚してしまった気持ちはそのまま「わかりました」と返事を送りつつ、西田さんから届いた文面に再度目をやる。
私と、休みを合わせるため……もしかして、ここのところ毎日忙しそうにしていたのって、明日のためだったのかな。
そう気づけば、いっそう吾朗さんに対する愛しさが溢れて、自分の顔が緩むのがわかる。
どうしよう。やっぱり今夜、嬉しくて眠れないんじゃないかな。