KISEKI series fan fiction
The Destination of Secret Heart
今世紀最大の一大事だ。
オレンジ色の西日が差し込む、放課後の教室。
目の前にいるのは先輩であり期間限定の同級生、クロウ・アームブラスト。
──リィンはどういう訳か、その彼に迫られていた。行儀悪いが机の上に座らされる形になっており、逃げ場がない。
「ク、クロウ……ッ!? 何をして……ッ!」
応答はない。突如ネクタイを掴んで引っ張られ、目と目が合う。
(ち、近い……!)
精悍な顔が近づいてきて、思わず心臓がドクンと跳ねる。
「リィン」
クロウはリィンの頬を撫で、名前を呼ぶや否や──
──おもむろに唇を重ねた。
「!? ん、んん……ッ」
一度目は軽く触れるだけ。二度目は角度を変えて啄むように。三度目は……唇を舐められ、驚いて口を開いた瞬間に舌を入れられた。
引っ込めた己の舌を絡め捕られ、歯列から上顎を擽られるうちに、ぞくぞくと快感が湧き上がってくる。
「ん、っふ……、ぁ」
身体から力が抜けていく。
何度も口内を弄ばれ、ようやく解放された時には腰の力が抜け、崩れ落ちる寸前でクロウに支えてもらっていた。
「ク、ロウ」
どうしてだろう。
鼻先が掠れそうなほど近づいているのに全く不快感は感じない。それどころか今までにないくらい、心臓がどくどくと脈動する。
鋭い光を湛えた紅耀石のような双眸に、金の夕日を反射して輝く髪からほのかに漂う香水の香りに、胸が苦しくなる。
(何だ、この感じ……)
もしかして自分は、クロウの、こと、──
──ドンッ!
そこまで考えて、思考がパンクした。
咄嗟にクロウを突き飛ばし、教室の外へ飛び出す。
(俺、一体、なに考えて……!)
顔が熱い。きっと真っ赤になっていることだろう。
夕暮れの少し冷たい風が心地よかった。
──その時は、知る由もなかった。
クロウの正体も、抱えてきた重すぎる過去も、こうして迫ってきた真意も。
身を引き裂くような、永遠の別離の悲しみも。
***
それから紆余曲折を経て二年もの時が過ぎ、二人の間には“悪友”兼“相棒”だけでなく、“恋人”という新たな肩書きが加わっていた。
「──そういや学院生時代、リィンに迫ったこともあったな……八月くらいのことだったか」
休日の昼下がり、クロウの家にて。茶を一口啜り、クロウが思い出したように呟く。
「うっ……。あの時はすまない、反省してるよ」
あれは確か、ガレリア要塞での実習が終わったあとのことだった。
教室でぼんやりしていたクロウに声を掛けて、一、二言他愛のない話をしていたら唐突に迫られ……キスされたのだ。
びっくりして何も考えられなかったとはいえ、さすがに突き飛ばしたのはやりすぎだったと思っている。
「クク、なんでお前が謝るんだか」
「え?」
きょとんとしていると、ポンと頭に手を置かれて。
「──俺はな、あん時、幻滅されるって思ってわざと迫ったんだ。学院でお前と過ごすうちに気づけばお前に相当入れ込んじまってて、これ以上近くにいたら解放戦線の活動に支障が出るって考えたから」
髪を梳くように撫でながら、クロウは自嘲気味に笑う。
「クロウ……?」
「後悔はなかった。お前は俺の傍に居ちゃいけない存在だと思ってたし、当時の俺にとっちゃ鉄血の首を捕ることが最優先事項だったからな。──お前の純粋な仲間としての信頼を、自分勝手な都合で滅茶苦茶にしたんだ。……酷え奴だろ?」
「! そんなことない!」
咄嗟に反応してしまって。クロウの表情が一瞬、驚いたようなそれに変わるのが分かった。
「滅茶苦茶になんかなってない。むしろあの時は……その、ドキドキしたというか……恥ずかしくなって逃げてしまったけど……」
「お、オイ、リィン……」
呆気に取られているクロウの、無防備な唇に触れるだけの口づけを落としてやる。
「──とにかく、幻滅なんてしないし、酷い奴だなんて思ったりもしない。クロウが過去に何を思って、どんなことをしてきたのだとしても、俺がクロウを愛してることは絶対に変わらないよ」
まっすぐにクロウの目を見つめる。
時間にすると一秒にも満たないのであろう沈黙の後、先に目を逸らしたのはクロウだった。
「……ったく、お前はいつもいつもこっ恥ずかしい事を平気で抜かしやがって……」
口元を手で覆ったクロウの顔は耳まで赤く染まっていて。それを見た瞬間、ハッと我に返る。
「……あっ……、~~!」
「って、今気づいても遅えっつーの……」
ボンッと顔が熱くなった。いくら感情的になっていたとしても、これは恥ずかしすぎる。
「わ、忘れてくれ……」
俯いて、手で顔を覆う。
「悪いがそいつは出来ねえ相談だなあ」
しかしその手は呆気なく取り払われ、気づけば抱き締められていた。
「わっ、ク、クロウ!?」
頬にチュッとキスをされる。
「へへ……仕返し成功ってな」
そう言って、クロウはパチンとウィンクを決める。
さっきまでのほの暗い表情はどこへやら。
いたずらが成功した子供のような無邪気な笑顔に、なんだか可笑しな気持ちになってきて。
「ははっ……」
きらきらと輝く銀灰の髪に指を通す。
同じように髪を撫で、頬に触れるクロウの手の感触を感じながら、蕩けるようなキスをした。
──ふとした瞬間に心を擽る甘酸っぱい感情も、記憶の片鱗がちらつくたびに血を流す悔恨でできた傷痕も。
温かで優しい感情も、すべて貴方が教えてくれた。
今世紀最大の一大事だ。
オレンジ色の西日が差し込む、放課後の教室。
目の前にいるのは先輩であり期間限定の同級生、クロウ・アームブラスト。
──リィンはどういう訳か、その彼に迫られていた。行儀悪いが机の上に座らされる形になっており、逃げ場がない。
「ク、クロウ……ッ!? 何をして……ッ!」
応答はない。突如ネクタイを掴んで引っ張られ、目と目が合う。
(ち、近い……!)
精悍な顔が近づいてきて、思わず心臓がドクンと跳ねる。
「リィン」
クロウはリィンの頬を撫で、名前を呼ぶや否や──
──おもむろに唇を重ねた。
「!? ん、んん……ッ」
一度目は軽く触れるだけ。二度目は角度を変えて啄むように。三度目は……唇を舐められ、驚いて口を開いた瞬間に舌を入れられた。
引っ込めた己の舌を絡め捕られ、歯列から上顎を擽られるうちに、ぞくぞくと快感が湧き上がってくる。
「ん、っふ……、ぁ」
身体から力が抜けていく。
何度も口内を弄ばれ、ようやく解放された時には腰の力が抜け、崩れ落ちる寸前でクロウに支えてもらっていた。
「ク、ロウ」
どうしてだろう。
鼻先が掠れそうなほど近づいているのに全く不快感は感じない。それどころか今までにないくらい、心臓がどくどくと脈動する。
鋭い光を湛えた紅耀石のような双眸に、金の夕日を反射して輝く髪からほのかに漂う香水の香りに、胸が苦しくなる。
(何だ、この感じ……)
もしかして自分は、クロウの、こと、──
──ドンッ!
そこまで考えて、思考がパンクした。
咄嗟にクロウを突き飛ばし、教室の外へ飛び出す。
(俺、一体、なに考えて……!)
顔が熱い。きっと真っ赤になっていることだろう。
夕暮れの少し冷たい風が心地よかった。
──その時は、知る由もなかった。
クロウの正体も、抱えてきた重すぎる過去も、こうして迫ってきた真意も。
身を引き裂くような、永遠の別離の悲しみも。
***
それから紆余曲折を経て二年もの時が過ぎ、二人の間には“悪友”兼“相棒”だけでなく、“恋人”という新たな肩書きが加わっていた。
「──そういや学院生時代、リィンに迫ったこともあったな……八月くらいのことだったか」
休日の昼下がり、クロウの家にて。茶を一口啜り、クロウが思い出したように呟く。
「うっ……。あの時はすまない、反省してるよ」
あれは確か、ガレリア要塞での実習が終わったあとのことだった。
教室でぼんやりしていたクロウに声を掛けて、一、二言他愛のない話をしていたら唐突に迫られ……キスされたのだ。
びっくりして何も考えられなかったとはいえ、さすがに突き飛ばしたのはやりすぎだったと思っている。
「クク、なんでお前が謝るんだか」
「え?」
きょとんとしていると、ポンと頭に手を置かれて。
「──俺はな、あん時、幻滅されるって思ってわざと迫ったんだ。学院でお前と過ごすうちに気づけばお前に相当入れ込んじまってて、これ以上近くにいたら解放戦線の活動に支障が出るって考えたから」
髪を梳くように撫でながら、クロウは自嘲気味に笑う。
「クロウ……?」
「後悔はなかった。お前は俺の傍に居ちゃいけない存在だと思ってたし、当時の俺にとっちゃ鉄血の首を捕ることが最優先事項だったからな。──お前の純粋な仲間としての信頼を、自分勝手な都合で滅茶苦茶にしたんだ。……酷え奴だろ?」
「! そんなことない!」
咄嗟に反応してしまって。クロウの表情が一瞬、驚いたようなそれに変わるのが分かった。
「滅茶苦茶になんかなってない。むしろあの時は……その、ドキドキしたというか……恥ずかしくなって逃げてしまったけど……」
「お、オイ、リィン……」
呆気に取られているクロウの、無防備な唇に触れるだけの口づけを落としてやる。
「──とにかく、幻滅なんてしないし、酷い奴だなんて思ったりもしない。クロウが過去に何を思って、どんなことをしてきたのだとしても、俺がクロウを愛してることは絶対に変わらないよ」
まっすぐにクロウの目を見つめる。
時間にすると一秒にも満たないのであろう沈黙の後、先に目を逸らしたのはクロウだった。
「……ったく、お前はいつもいつもこっ恥ずかしい事を平気で抜かしやがって……」
口元を手で覆ったクロウの顔は耳まで赤く染まっていて。それを見た瞬間、ハッと我に返る。
「……あっ……、~~!」
「って、今気づいても遅えっつーの……」
ボンッと顔が熱くなった。いくら感情的になっていたとしても、これは恥ずかしすぎる。
「わ、忘れてくれ……」
俯いて、手で顔を覆う。
「悪いがそいつは出来ねえ相談だなあ」
しかしその手は呆気なく取り払われ、気づけば抱き締められていた。
「わっ、ク、クロウ!?」
頬にチュッとキスをされる。
「へへ……仕返し成功ってな」
そう言って、クロウはパチンとウィンクを決める。
さっきまでのほの暗い表情はどこへやら。
いたずらが成功した子供のような無邪気な笑顔に、なんだか可笑しな気持ちになってきて。
「ははっ……」
きらきらと輝く銀灰の髪に指を通す。
同じように髪を撫で、頬に触れるクロウの手の感触を感じながら、蕩けるようなキスをした。
──ふとした瞬間に心を擽る甘酸っぱい感情も、記憶の片鱗がちらつくたびに血を流す悔恨でできた傷痕も。
温かで優しい感情も、すべて貴方が教えてくれた。