KISEKI series fan fiction
アーティフィー
“黄昏”が終わって半月が経ったころ、リーヴスでは街の人々の協力を得てトールズ第Ⅱ分校がようやく再開された。
とは言っても一部の同僚は戦争の後始末のため一時的に教官職を離れており、残ったメンバーで何とかやりくりしている現状なのだが。
それでも、皆と一緒にリーヴスに戻ってこられたことが単純に嬉しいのだ。
「よっ、リィン」
「うわっ」
放課後、職員室で書類の整理をしていると、突然何者かに肩に寄りかかられた。
横を向くと、そこにいたのは濃紺の学生服を着た悪友兼相棒。
「クロウか……何の用だ? あとせめて学院の中では教官と呼んでくれ」
「へいへい」
クロウはリィンの手元の書類をじっと見つめている。
“黄昏”の後しばらく話し合った結果──その詳細は長くなるので割愛するが──クロウは半年ほどトールズ第Ⅱ分校に生徒として編入することになった。
クラスはⅦ組特務科。リィンの担任するクラスだ。
初めはトワやスタークがいるという理由でⅨ組主計科に入ることになっていたが、旧Ⅶ組の強い要望でⅦ組への編入が決まったのだ。
「……ったく」
「えっ?」
クロウはリィンの手元の書類と机に山積みになった書類を交互に見つめ、一つ溜め息をつくと──リィンから書類の束を取り上げた。
「!? 待て、何のつもりだ!?」
「こんなん明日で良いだろーが」
取り上げた書類を机に置くと、次はリィンの手を強く握り締める。
「トワ、リィン教官借りてくぜ」
「えっ? あ、うん、了解っ」
「トワ先輩!? ……ちょっと、クロウ!」
リィンの制止も聞かず、クロウは手を繋いだまま走り出した。
(速い……!)
下手に振り解こうとしたら転ぶ可能性がある。リィンは仕方なく、クロウに付いていくのだった。
***
「はぁ、はぁ……」
半ば強引に連れ出される形でやってきたのは、街の郊外にある楓の木々が生い茂った広場。
手を放され、勢いで前のめりになったところをベンチに座らされた。
「お疲れー。全速力の俺に合わせられるたぁ、なかなかやるじゃねーか」
クロウはどこか他人事のように悪戯っぽく笑う。こっちは全力疾走させられたというのに、ひどい話である。
(でも、こんな風に全力で走ったのって久しぶりだな……)
最近は専ら学院の再建に忙しくて、日中はずっと校舎に引きこもっていたのだ。熱くなった全身で浴びる涼風が心地良い。
(……って、そうじゃない!)
早く分校に戻らなければ、と立ち上がろうとするが、ポンと肩に置かれた手に阻まれた。
「──お人好しは悪いことじゃねえが、抱え込みすぎんのも考えもんだぜ?」
「えっ……」
隣に座っていたクロウはどこか困ったような表情でこちらの顔を覗き込んでいたが、すぐにふいっとそっぽを向いてしまった。
(……心配、してくれたんだな)
クロウは一見お調子者に見えて、その実思慮深い。
学院から強引に連れ出したのも、気負わせないためだったのだろう。
その分かりづらい優しさに触れるたび、もどかしいような嬉しいような不思議な気持ちになる。
クロウの目線を追って空を見上げると、雲ひとつ無い秋晴れで。
茜色の夕陽を受けて一面に広がる紅葉がステンドグラスのように輝いている。
「綺麗だな」
「……だな」
「今日はありがとう」
「……」
クロウは黙り込んでしまった。
だがそれもいつものことだ。もしかすると思った以上に照れ屋なのかもしれない。
「……ふふ」
座面に置かれたクロウの手に自分の手を置く。
風に揺られた枝から赤い楓の葉が重なった手の上にひらりと舞い降りてきた。
“黄昏”が終わって半月が経ったころ、リーヴスでは街の人々の協力を得てトールズ第Ⅱ分校がようやく再開された。
とは言っても一部の同僚は戦争の後始末のため一時的に教官職を離れており、残ったメンバーで何とかやりくりしている現状なのだが。
それでも、皆と一緒にリーヴスに戻ってこられたことが単純に嬉しいのだ。
「よっ、リィン」
「うわっ」
放課後、職員室で書類の整理をしていると、突然何者かに肩に寄りかかられた。
横を向くと、そこにいたのは濃紺の学生服を着た悪友兼相棒。
「クロウか……何の用だ? あとせめて学院の中では教官と呼んでくれ」
「へいへい」
クロウはリィンの手元の書類をじっと見つめている。
“黄昏”の後しばらく話し合った結果──その詳細は長くなるので割愛するが──クロウは半年ほどトールズ第Ⅱ分校に生徒として編入することになった。
クラスはⅦ組特務科。リィンの担任するクラスだ。
初めはトワやスタークがいるという理由でⅨ組主計科に入ることになっていたが、旧Ⅶ組の強い要望でⅦ組への編入が決まったのだ。
「……ったく」
「えっ?」
クロウはリィンの手元の書類と机に山積みになった書類を交互に見つめ、一つ溜め息をつくと──リィンから書類の束を取り上げた。
「!? 待て、何のつもりだ!?」
「こんなん明日で良いだろーが」
取り上げた書類を机に置くと、次はリィンの手を強く握り締める。
「トワ、リィン教官借りてくぜ」
「えっ? あ、うん、了解っ」
「トワ先輩!? ……ちょっと、クロウ!」
リィンの制止も聞かず、クロウは手を繋いだまま走り出した。
(速い……!)
下手に振り解こうとしたら転ぶ可能性がある。リィンは仕方なく、クロウに付いていくのだった。
***
「はぁ、はぁ……」
半ば強引に連れ出される形でやってきたのは、街の郊外にある楓の木々が生い茂った広場。
手を放され、勢いで前のめりになったところをベンチに座らされた。
「お疲れー。全速力の俺に合わせられるたぁ、なかなかやるじゃねーか」
クロウはどこか他人事のように悪戯っぽく笑う。こっちは全力疾走させられたというのに、ひどい話である。
(でも、こんな風に全力で走ったのって久しぶりだな……)
最近は専ら学院の再建に忙しくて、日中はずっと校舎に引きこもっていたのだ。熱くなった全身で浴びる涼風が心地良い。
(……って、そうじゃない!)
早く分校に戻らなければ、と立ち上がろうとするが、ポンと肩に置かれた手に阻まれた。
「──お人好しは悪いことじゃねえが、抱え込みすぎんのも考えもんだぜ?」
「えっ……」
隣に座っていたクロウはどこか困ったような表情でこちらの顔を覗き込んでいたが、すぐにふいっとそっぽを向いてしまった。
(……心配、してくれたんだな)
クロウは一見お調子者に見えて、その実思慮深い。
学院から強引に連れ出したのも、気負わせないためだったのだろう。
その分かりづらい優しさに触れるたび、もどかしいような嬉しいような不思議な気持ちになる。
クロウの目線を追って空を見上げると、雲ひとつ無い秋晴れで。
茜色の夕陽を受けて一面に広がる紅葉がステンドグラスのように輝いている。
「綺麗だな」
「……だな」
「今日はありがとう」
「……」
クロウは黙り込んでしまった。
だがそれもいつものことだ。もしかすると思った以上に照れ屋なのかもしれない。
「……ふふ」
座面に置かれたクロウの手に自分の手を置く。
風に揺られた枝から赤い楓の葉が重なった手の上にひらりと舞い降りてきた。