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「夢姫、朝だよ」
「んー、あともう少し…」
「だーめ!」
ばっさりと布団をはぎ取ったのはヒロ君で
「うぅ…なんでお休みの日にヒロ君に起こされるの…」
「この長期連休を使って
ナガノにリョコウ?
「夢姫はそっか、いらないかー」
そう言ったヒロ君はあたしに布団をかけてきて
「い、行く!」
「じゃあ支度しておいで」
「待っててよ?」
「当り前だろう?」
支度をした後、お兄ちゃんも今日は休みみたいでまだ家の中にいて珍しく新聞を読んでいたけど
「じゃあゼロ。夢姫と旅行に行って来るな」
「気を付けろよ?」
「あぁ」
家を出て、ヒロ君と一緒に電車で来ること数時間
「ここ?」
「あぁ。それと」
「久しぶりだな景光」
「あぁ、久しぶり」
知らない男の人はヒロ君と普通に話しをしていたけど、あたしは怖くてヒロ君の後ろに隠れると
「おや、随分と」
「あぁ、兄さんにも紹介しとこうかなと思ってね」
「紹介?」
「昔、ゼロを紹介した時に一緒に小さな子を紹介しただろ?」
「そうだが」
「その妹が彼女だよ。ただ男の人…というか初対面の人に関してはこうなっちゃうんだけどね」
「そうか」
しゃがんでくれた男の人は
「初めまして」
「は、はは…ハジメマシテ」
「そう堅くならなくとも。景光の兄です」
「お兄さん…?」
「あぁ。話しただろ?長野に兄貴がいるって事」
「言ってたけど」
「その兄貴だよ」
ヒロ君の後ろから見てみるけど、やっぱり怖くてすぐに隠れてしまったあたしに驚きを隠せていないのだろうというのが現状だ
「だが随分と」
「よく誘拐とかされるから、そういうのも関係してるのかもしれないけど」
「ほう」
「ヒロ君…」
「どうかした?」
「おなかすいた」
その言葉に驚きを隠せないのはヒロ君だろう。普段から『お腹がすいた』なんてあたしは言わないからだ
「夢姫の食べたいって言ってたお蕎麦にでもしようか」
「いいの?」
「もちろん」
わーい、信州そばーー!
「随分と」
「もうすぐ誕生日だから早めに来たんだ。夢姫の学校の休みに合わせて取って来たけど、電車の中で「信州そば食べてみたいなぁ」って言ってたから」
「初めてか」
「あぁ。乾麺をゆでるくらいしかしないからなー。普段は」
「そうか」
ヒロ君がお兄さんの車の助手席に座ってしまったもんだからあたしは大人しく後部座席だ
そして兄弟の会話についていけていないのも事実だ
「そうだ。その前に少しより道をするが」
「夢姫もいいか?」
「え?あ、はい」
ヒロ君とお兄さんの車に乗って来た場所は森の中に建てられた古い大きなお屋敷で
「でっかーい…」
「『希望の館』そう呼ばれていたそうですが」
「希望の館?」
「えぇ。ですがそう呼ばれていたのも3年前までで」
3年前まで?
「3年前に女が1人館の倉庫で哀れな遺体で見つかってからは、この土地の方にはこう呼ばれているらしいんですよ。『希望ならぬ、死亡の館』だと」
「…っ」
車から降りてヒロ君の腕にしがみついていると、なんの躊躇もなく入っていくヒロ君のお兄さんとヒロ君。そしてヒロ君について行くあたし
お兄さんがヒロ君に見せて来た写真の枚数は6枚
「6人住んでいたんですか?」
「えぇ」
「イラストレーターの明石周作さんに俳優の翠川尚樹さん。小説家の小橋葵さんに、ファッションデザイナーの山吹紹二さん、CGクリエイターの百瀬卓人さん、最後にミュージシャンの直木司郎さんです」
「でもなんでドアの入り口に色紙を張った後があるんですか?」
「何かと色で分けていたそうですよ」
色で分けていた?
「彼等の共通点は色なので」
「共通点が色ってなかなかないだろ」
「そう思っているのだが、明石には『赤』翠川には『緑』と色がついているのも事実だよ」
はへぇ
2階に上がると既に来ていた人たちがいて
「賢に見えんと欲してその道を以てせざるは猶ほ排卵事を欲して之が門を閉づるが如し…」
お兄さんの前に居るのは
「ちょっと怖い…」
「大丈夫だって」
だって怖いものは怖いのだ。左目?に痣があって右手には杖を突いているのだ
「おい、お前!」
「へ?」
「天下の名探偵を電話で呼びつけず自ら迎えに行った所までは良しとしましょう。だが、今の毛利探偵に対する君の言動は無礼極まりない。古い友人として恥ずかしく思いますよ勘助君…」
「何しに来やがった!?所轄は引っ込んでろ!」
お兄さんと怖い人が話している中
「ヒロ君ヒロ君」
クイクイと洋服を引っ張ると
「どうかした?」
「今の言葉って」
「三国志に出てくる人物の言葉だよ。夢姫ってばそう言ったたぐいのものは苦手だね」
「無理」
「あれ?確かポアロにいる安室さんの妹さんですよね?」
「え?はい」
「大和警部と話している男の人とお知り合いなんですか?」
「あたしじゃなくて、翠君の方が」
「え?」
「そうだな、楓のが安室の方で名乗るのなら俺もそうしようか」
やった!
「翠川翠です。透の方からはポアロで楓と話してくれる友人が出来たと喜んでいたよ」
「いえいえ、そんな…!」
「これからも楓と仲良くしてやってくれると俺達も助かる」
「「え?」」
「色々あって氷帝に入れちゃったからさ」
「そうなんですね」
「ねーちゃんはなんで氷帝に入ったの?色々って言ってるけど」
びくっとしたあたしにヒロ君が気付かないはずがない。それだけの付き合いがあるのも事実だ
「楓はね氷帝に入る前は普通の公立の小学生だったんだよ」
「へ?そうなの?」
「うん」
「でもさ俺達が警察学校時代に透と楓の両親も離婚してね。楓の親権は両親がどちらも取らなかったんだよ」
「え?じゃあ」
「今は透の戸籍に入ってるよ。しっかりと妹としてね。でもそれだけで済むなら公立でも良かったんだけど、楓はよく学校帰りに誘拐されてね。それで公立よりも設備やカメラがしっかりしている学校を探して氷帝に途中から入れさせたんだ」
「途中から?」
「そう、氷帝の幼稚舎、つまり小学4年生の途中にね」
「なんでそんな中途半端な…」
誘拐犯や犯罪者はね、対象の家族を狙って来たりする人たちもいる。それが年の離れている人間ならなおの事。あたしはその対象の格好のえさに過ぎないからと
「でもそれだけじゃないんだよ」
「「それだけじゃない?」」
「君たちにも教えるつもりは無いからさ。誰にも教える気はない。これは俺と透だけが知って居ることだから」
そう言ったのは陣平君達にも言っていないという事。陣平君達にも言わない事なんてそうそうない
「そうなんですね」
「でも高校生ですよね?部活とかって」
「入ってないよ?帰宅部」
「それは部活じゃないな?」
「うん。だから翠君がお仕事お休みの日にお料理教えて貰ってたりもする」
「え?そうなんですか?」
「そうだな」
こっちに来る前に教えて貰ったのはコロッケとクリームコロッケを教えて貰ったばかりだ
「でもなんで今日は安室のにーちゃんは一緒じゃないの?」
「楓の学校の休みに合わせて俺も透も取ってるよ。だけどずっと家にこもってばかりもつまらないだろ?だから、ちょっとの息抜きと思って長野に旅行に来たんだ」
「へぇ」
「兄さんが所轄で、その所轄の管轄だとは思わなかったけどな」
「「お兄さん?」」
「あぁ」
「でも松田刑事が別の男の人と一緒に旅行だなんて許したよね?」
「あぁ、松田?知ってるよ。今回のこの旅行の話」
「え?知ってるの?」
「うん知ってる。だって『コイツが一緒なら大丈夫だろ。気を付けて行ってこい』だけだよ?」
嘘だろ。って顔をしたコナン君と蘭ちゃん
「因みにお兄ちゃんも翠君も聞いているので本当の事です」
「マジか」
普通もう少し心配してくれてもいいんじゃないかとあたしは思っているんだけど
そんな中
「何ぃ!?そいつは本当か!?」あぁ、分かった。こっちはこっちで確かめてみる!」
何かあったのかなぁ?
「ど、どうしたの?勘ちゃ…大和警部!」
「どうもこうもねぇ!その扉の内側についてた指紋とあの赤色についてた指紋…てっきり害者である明石周作の指紋だと思ったが…」
思ったが?
「ついてたのは高明…お前と一緒に死体を発見したお前の部下の刑事の指紋だったってよ!!」
へ?ヒロ君を見ると
「きっとその刑事さんは刑事になりたての身。初めての死体発見に興奮していろいろなものに不用意に触ったって所かな」
「そうでしょうね」
へー…
「じゃあ死体を確認したのはその新米刑事と2人で?」
「えぇ。別の事件の聞き込みを終えた後の車中でこの館に寄ってくれと私が頼んだんです」
「兄さんが頼むだなんて珍しいな?」
「ここの倉庫の前に花を供えたいとね…」
「お花?」
「あ、言い忘れてたけど大和警部とこの諸伏警部は3年前に倉庫で亡くなった葵さんと同級生でね」
「「ど、同級生!?」」
あたしと毛利さんが驚いていると
「えぇ。立ち寄ったのは丁度彼女の命日。花を供えて帰る際にあの割られた窓の下に絵の具類が散乱しているのを見つけ、不審に思い、呼び鈴を鳴らしても返事がなく玄関の鍵が掛かっていなかったので部下と共に入ったら部屋に閉じ込められていた遺体を発見したんです。…しかし、散乱していた絵具には被害者の指紋がついていたと聞きましたが…」
「あぁ、1つ残らずな。だが、部屋のノブとスプレーに付いていたのはお前の部下の指紋だけだったってわけだ」
「それはまさに『雪中の筍』…なかなか興味深い」
せっ…?
「翠くん、翠くん」
ヒロ君の洋服をクイクイと引っ張ると
「ん?」
「『雪中の筍』ってなぁに?」
「あぁ。言葉の通り雪の中の筍の事だよ。筍が出るのは春。だから中国ではありえないことが起こる時とか得難いものを得るときとかに『雪中の筍』を使ったりもいするんだ。戻ったら透にも教えてもらうといいよ」
「やだ。お兄ちゃんスパルタだもん」
「それは否定しない」
「でもなんであり得ないって」
「分かりませんか?被害者はこの部屋に閉じ込められていた。普通外に出ようとして扉のノブに手を掛けるでしょう?話を聞いている限りだと壁を赤く染めたスプレー缶にも被害者の指紋がついているハズでしょうから」
「あぁ。閉じ込めた張本人はこの部屋に戻って来てねぇようだしな!」
ヒロ君のお兄さんの車に毛利さんとコナン君も乗せると言う話になったが
「申し訳ありませんが、私は今日は弟とそのお客様を乗せていまして」
「「弟!?」」
毛利さんのお父さんと大和警部と言われた人が揃って驚いた声を出したものだからヒロ君の後ろに隠れると
「あらら」
「じゃあ先に俺と楓は散歩でもしながら宿に戻るよ」
「後で荷物だけ届けよう。夕飯は彼女希望の信州そばにでもしましょう」
わーい!っお蕎麦ーー!
「じゃあ君たちもあまり無茶をしないようにな」
「「え?」」
「透からよく事件に遭遇しているって聞いているけどな?」
「あ、はい」
ヒロ君と一緒に外に出ると
「すずしーーっ」
「冬に来なかっただけ良かったな?」
「うん!」
その日の夜
「え?」
ヒロ君?
「兄さんが?嘘ですよね?はい、はい。分かりました。すぐに向かいます」
電話を切ったヒロ君は
「夢姫、悪いんだけど直ぐに出られる支度を出来るか?」
「え?うん」
部屋着から朝着て来た服に着替えると来たのはお兄さんに連れて来られた館で
「ここ?」
「あぁ」
すでに燃え始めていて
「こ、高明…」
「あの中にいるんならもう…」
「そ、そんな!」
大和警部がその中に入ろうとしていて
「申し訳ありませんが、楓を見ておいてもらえると助かります」
「え?」
「なんか子守を頼んでる人みたいじゃん」
「そんな物だろう?」
走って裏口の方に行ったヒロ君を見ていると
「ねぇ」
「うん?」
「よくあの人にも安室のにーちゃんにも楓って呼ばれてるよね?だけど、松田刑事や萩原刑事たちからは夢姫って呼ばれてるのは何で?」
「こ、コナン君!」
「あぁ、いいですよ毛利さん」
「でも!」
「コナン君。警察組織にはね?本当は家族にも言っちゃいけない。そんな部署があるんだよ」
「え?」
「そんな部署…」
あたしの言った部署を
「もうご存じですよね?昔、捜査一課にいらっしゃった毛利さんなら」
「え?」
「なんで」
「なんで俺が捜査一課だって知ってる」
「あたしの婚約者様は現・捜査一課の人間。そして目暮警部の部下でもありますよ」
「何?」
「それに翠君は、陣平君の同期でもあり。そんな部署の人間ですよ。あたしの実兄も」
「「実兄?」」
「お前、まさか」
そんな中で戻って来てくれたヒロ君はお兄さんを連れて帰って来てくれている
「悪い夢姫」
「大丈夫だよ?
「そうか」
「どういう事ですか?」
「この子は君たちがよく知って居る安室透の実の妹だよ。それだけの時間と年数を過ごしてるからね」
「お前、まさか警視庁の公安だって言うのか」
「あぁ。そうですよ。でも妹1人放っておくわけにもいかないので妹にも基本的には学校以外では偽名を使ってもらっていますよ」
「へぇ…じゃあいつか言ってた『夢姫』って言うのが本当のお名前なんだね」
「えぇ。でももういいよね?ヒロ君。ここで偽名使わなくても」
「そうだな」
そして目の前に来たのは容疑者である男の人達で
「ひ…」
「大丈夫だよ。俺はちゃんとここにいるから」
警察病院に入院してもらうらしいお兄さんの付き添いにあたしと長野県警の上原さんがついていて
「そう言えば、あなた諸伏警部の弟さんの彼女?」
「ち、違いますっ」
慌てて違う事を説明すると
「なんだ。諸伏警部の弟さんの彼女かと思ってたのに」
「え?」
「だってほらよく知ってる口ぶりと会話だったじゃない?」
「あー…そう…ですね」
「ん?」
「ヒロ君とあたしの実兄が同じ年で幼なじみなんです。なので幼い頃からずっと一緒にいるのが当たり前になっちゃってるんです。それにあたしの事情が複雑になった時に、兄があたしと一緒に生活をすると言ったときに、火事が出来なかった兄と幼いからとさせてもらえなかったあたしのために今もまだ一緒に生活をしてくれているんです」
「そうなの」
「はい。自分の家の味も知らないままに育ったあたしにとって、ヒロ君の作ってくれるご飯が家庭の味になるんです」
「そう」
ヒロ君が入り口で手招きをしてくれているのが分かると席を離れてヒロ君の所へ行く。
「ヒロ君?」
「こんなことになっちゃったけど、ゼロが今からなら迎えに来れるってそう言ってるけど、どうする?松田たちも夢姫の事心配してくれてるみたいなんだ」
帰れば陣平君達の傍にいられる。でもそうすればせっかく長野まで旅行に連れてきて貰ったのがもったいない事になっちゃう…
「ううん帰らないよ」
そう首を横に振って拒否をすると
「いいのか?」
「せっかく長野に来たのに、旅行もしないで帰るの勿体ないもん」
「なら夢姫は先に旅館に戻れるね?」
「え?」
なんで旅館?
「夢姫の食べたいと言っていたお蕎麦はしっかりと食べさせてあげる。でもちょっと今から危険な事をするから」
「ヒロ君は大丈夫…なんだよね?」
「問題ないよ」
そう言ってくれるヒロ君は本当に何もない時によくその言葉を使う
「なら、待ってる」
「あぁ」
旅館まで戻って来て旅館でお茶を飲みながら窓を開けて外の景色を眺めていると
「ただいま」
「おかえりなさい」
本当にあっと言う間に戻ってきたヒロ君
「じゃあ少し遅いけど、ここで夕飯を食べて、明日兄さんに美味しいお蕎麦屋さんに連れて行ってもらおうか」
「うん!」
翌朝、のんびりと過ごしてヒロ君と散歩しながら長野県警に行くとヒロ君のお兄さんも丁度よく出て来ていて
「さすがだな景光。時間通りだ」
「まぁね。夢姫も目当ての信州そばが食べたくていろいろと見ていたようだしね」
「そうか。では行きましょうか」
ヒロ君のお兄さんの車に乗って連れてきて貰ったお蕎麦屋さんの信州そばが美味しくて
長野から帰る時に
「ごちそうさまでした。また長野に連れてきて貰おうと思ってます」
「それはぜひ」
「助かったよ兄さん。夢姫のリフレッシュも俺のリフレッシュも出来て満足だった」
「それは良かった。これから長旅だろうが気を付けて帰るように」
「はい」
「あぁ」
お兄さんと別れてヒロ君の運転で戻ってきたあたしたち
「おかえり」
「ただいまー!」
「随分と満足できたようだな」
「お昼に信州そばをたらふく食べてたからな」
「あー…成程。食べたいと言っていたものが食べられて満足した感じだな」
「そういうことだ」
「お兄ちゃん」
「ん?」
「明日陣平君達いるかな?」
「どうだろうな?」
明日の朝はお兄ちゃんと一緒だ。陣平君とケンちゃんのお土産は警視庁で渡すしかないということだ
「そうだ、お兄ちゃんのお土産は此れなんだー」
「ありがとう。こんどあいつ等もさそってこれを開けようかヒロ」
「そうだな」
その日の夜にその会話が有言実行されることをあたしは知らない。
そして程遠くない日程で再び長野に行くことも
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