運命だと思う
シンジュクの街中、夜になってよりはっきりした建物の明かりが少しずつ減っていく。
だんだん暗くなる街でふらふらとおぼつかない足であるいてみれば、何もないところでつまづく。
いや、二次会辞めてよかった。
一軒目にしていつも以上に飲み過ぎた私は、コンクリートに膝を打ち少し冷静さを取り戻した。
擦りむいた膝をハンカチで押さえてそのまま座る。普段気をつけているのに今日はどうしてこんなに飲んだのだろうか。別にやけ酒ではない、ムシャクシャすることもない。
痛む膝は止血だけして、そのままコンクリートに寝そべった。
どーせこの時間だ、人通りもそこまで多くない。こんな女がねてたって、ただの酔っぱらいくらいにしか思われないだろう。
膝を立てようとするがヒールが心地悪く、靴を脱いですぐそこの川に思い切り投げた。
ジャボンという音を聞きながら目を閉じる。もう帰るのが面倒だ、このまま寝てしまえ。
既に正気の沙汰ではなかった私はそのまま落ちた。
それからどれほど寝ていたか分からない。ふいにペチペチと頬を軽く叩かれて私は目を覚ました。まだ酔いが回っている上、寝起きで視界はぼやぼやとしていた。起き上がって見渡すと、ぼんやりと赤い髪とスーツケースだろうか?黒い服の人がいた。どうやらこの人に起こされたらしい。
ぼぅとその人を見ていると、その人が困ったように喋りだした。
「え、えっと…倒れてたのかと思って…」
気弱な声で、しかし心配してくれているのがわかる。イカツイ人じゃなくてよかったと思って、私は再び横になって目を閉じた。
その人の慌てるような声が聞こえるがその時の私は眠気に勝てない、冷静な判断が出来ない。そんな状態だった。
2どめ、今度は自分で目を覚ます。目の前は夜の真っ暗な空でも朝の明るい空でもない、質素な天井。
あれ、自分で帰ったか?記憶がない。
上体を起こす。今度ははっきりした視界で周りを見渡した。ここは自宅ではない。
別室からなにか話し声が聞こえてくる。そちらへ向かい、耳をそっとすます。
「~独歩ちん、あの子これ食べるかな???」
「…俺に聞かれても…でも先生が二日酔いなら胃にやさしいものをって言ってたな…」
「ん~、じゃあひふみん特製おじやで決まり~!!」
そんなに会話が聞こえてきて、サーっと顔から血の気が引くのがわかった。私は見ず知らずの人様に大迷惑をかけたのだろう。
あの、と声をかけると片方がサッとスーツを羽織った。
「おや、お目覚めかい子猫ちゃん」
さっきと違う口調でとびきりのイケメンスマイルを向けてくる。
「…具合はどうですか」
もう一人が気弱に聞いてくる。この人もまた美人で…しかし目には隈がくっきりとしていた。
「い、いや。その…私多大なる迷惑をかけてしまったみたいで…すみません」
赤い髪に気弱な喋りかた…うっすらと思い出した。多分この人が気をきかせてくれたのだろう。一度起こしてくれたというのに…また寝るとかとんでもなく厄介なことをしてしまったなぁと心の底から反省する。
「むしろ、こんな家に連れ込んで…すみません…どこかのホテルとかに連れてった方がよかったですよね…やっぱ自分の家に連れ込むとか、どうかしてますよね…」
「ハハハ、なんとかなったんだしいいじゃないか独歩くん。これから朝食を作るから是非とも食べて行ってくれ、子猫ちゃん。」
「え、いやそんな悪いです」
手を振って後ずさると、二日酔いの呪いでくらりとバランスを崩し壁に手をつく。
慌てた赤い髪の彼が駆け寄って支えてくれる。すみませんと言って支えを受ける。
どうしてあんなに飲んじゃったかなぁ…
「もう少し寝てた方が…朝食後で持っていくから…」
「そうだね。そんなおぼつかない足では帰せないよ。」
この状態で遠慮できる筈もなく、もう少し休ませて貰うことにした。彼がそのまま布団まで連れて行ってくれて助かった。思った以上にひどい二日酔いだ。
「なんかあったら、言っていいので…」
「何から何までありがとうございます…」
こんな道路で寝てたやつになんて親切な人なんだと申し訳なさと感謝で心がいっぱいになる。
「あの…名前聞いてもいいですか?」
そっと布団をかけてくれながら聞かれる。隠すことも何もないのでそのまま自分の名前を答える。
「あなたの名前も…聞いていいですか…?」
するとすぐ、観音坂独歩と一言いう。少し後に、さっきあっちにいたのは一二三ですと付け足して軽く微笑まれた。
その破壊力に私はやられてしまった。美人で…気弱で…困ったように微笑むとかこれは反則だ…
自分の立場は分かっているのだが、どうしてもこの人ともう少し話たいと思ってしまう。同時に、去ろうとした彼の袖を掴んでいた。
「あっ…と、すみません、なんでもありません…」
我に返ってすぐに顔を背けた。自分はこんな優しくされてすぐ惚れちゃうような人だっただろうか…その単純さに溜息がでる。
すると後ろからギィと音がなった。何の音だろうと振り替える。その音はどうやら観音坂さんが今どこからか取り出してきた折り畳み式の椅子を開く音だったようだ。
なんだろうかと凝視していると、それに気付いた観音坂さんが答える。
「眠くないなら…話でもしませんか…?」
彼が気を使ってくれたのか、本心からなのかは分からないが私はその申し出が嬉しくて、是非と答えた。
それから朝食ができるまでの30分。それが短いと感じるほどに話をすることができた。
仕事のこと、上司のこと、この前の飲み会のことや、趣味など初対面ならではの会話までかなり話がはずんだ。
そして話していくうち、彼が結構な社畜であり、あの麻天狼の一人だということがわかった。まさか、シンジュクの代表チームだったなんて…私はそんな人になんて迷惑を…
しかし彼はとても優しくて
「君じゃなかったら…ここまでしない…いや、そんなこといわれても気持ち悪いよな…」
「いえ、そんな…嬉しいです」
そんなふうに何度も迷惑じゃないと言ってくれた。その傍ら、私はもう後戻りできないほどに彼が好きになっていた。
会ったばかり、しかも迷惑を受け止めてくれるイケメン…この時間が終わらないでほしいと切実に思った。
しかし当然終わりはやってくる。
朝食を食べ終わり、歩けるほどに回復した。流石にこれ以上長居するわけにはいかなかった。彼らがどんなにもう少し休んでいいと言えど、所詮は介抱してもらっただけの迷惑厄介女。すぐに立ち去らなくては…
リビングで、洗い物をしている一二三さんにお礼をいって別れる。観音坂さんは道の分かるところまで着いてきてくれた。
「ほんとに赤の他人なのに迷惑かけちゃって…すみませんでした。」
もう何度目だかも分からないが、謝罪をせずにはいられなかった。ようやく回り始めた頭が冷静に冷酷に物事を処理していくうちに、あまりにも私は図々しい人だと思った。
「ほんとに…迷惑じゃないから…」
そう言ってくれる観音坂さんに感謝し、駅へと向かう。
「…そのこんな出会いだけど…家に連れ込むようなやつだけど…また会ってくれたら嬉しい…なんて、俺みたいなやつがおこがましいよな…」
歩きながら、観音坂さんはそう口にして忘れてくれとうつむいた。しかし、私にとってはこれはチャンスで、嬉しいだけだった。
忘れますなんて言う訳がない。
「こんな迷惑女ですけど…私ももっと話したいなぁ…なんて」
思いきって連絡先交換しませんか?と言ってみると、彼が驚いたように、こっちを見ている。あ、やっぱり冗談でいわれたのかな?まずったかな?
そう思ったのもつかの間、観音坂さんがポケットから携帯を取り出した。
ま、まさかのOK?慌てて私も携帯を取り出して番号を交換する。
絶対連絡しよう、帰ったらすぐに…隣を見ると観音坂さんは携帯の画面を見て心なしか嬉しそうにしていた。
私の番号、喜んでくれてる?
「絶対連絡する…」
そう呟いて携帯をしまう彼がイキイキとしている。話たいって思ってくれている…それが嬉しくて自然とにやけてしまった。
「私も連絡します。新しいお友達…嬉しいです。絶対また会いましょう」
駅にたどり着いて、ここでお別れと立ち止まる。私の言葉に彼も少し嬉しそうに答えてくれた。
「俺も嬉しい…来週にでもすぐ会いたいくらいだ……はは、こんなこと言ったら離れがたい」
離れがたいって…そんなこと言って貰っていいのだろうか、道路で寝てたようなやつだぞ?でも観音坂さんはほんとに嬉しそう。離れがたい…でも、ここでひとまずお別れ。
それでもまた会えるから。
そうして私は彼に背を向けた。
だんだん暗くなる街でふらふらとおぼつかない足であるいてみれば、何もないところでつまづく。
いや、二次会辞めてよかった。
一軒目にしていつも以上に飲み過ぎた私は、コンクリートに膝を打ち少し冷静さを取り戻した。
擦りむいた膝をハンカチで押さえてそのまま座る。普段気をつけているのに今日はどうしてこんなに飲んだのだろうか。別にやけ酒ではない、ムシャクシャすることもない。
痛む膝は止血だけして、そのままコンクリートに寝そべった。
どーせこの時間だ、人通りもそこまで多くない。こんな女がねてたって、ただの酔っぱらいくらいにしか思われないだろう。
膝を立てようとするがヒールが心地悪く、靴を脱いですぐそこの川に思い切り投げた。
ジャボンという音を聞きながら目を閉じる。もう帰るのが面倒だ、このまま寝てしまえ。
既に正気の沙汰ではなかった私はそのまま落ちた。
それからどれほど寝ていたか分からない。ふいにペチペチと頬を軽く叩かれて私は目を覚ました。まだ酔いが回っている上、寝起きで視界はぼやぼやとしていた。起き上がって見渡すと、ぼんやりと赤い髪とスーツケースだろうか?黒い服の人がいた。どうやらこの人に起こされたらしい。
ぼぅとその人を見ていると、その人が困ったように喋りだした。
「え、えっと…倒れてたのかと思って…」
気弱な声で、しかし心配してくれているのがわかる。イカツイ人じゃなくてよかったと思って、私は再び横になって目を閉じた。
その人の慌てるような声が聞こえるがその時の私は眠気に勝てない、冷静な判断が出来ない。そんな状態だった。
2どめ、今度は自分で目を覚ます。目の前は夜の真っ暗な空でも朝の明るい空でもない、質素な天井。
あれ、自分で帰ったか?記憶がない。
上体を起こす。今度ははっきりした視界で周りを見渡した。ここは自宅ではない。
別室からなにか話し声が聞こえてくる。そちらへ向かい、耳をそっとすます。
「~独歩ちん、あの子これ食べるかな???」
「…俺に聞かれても…でも先生が二日酔いなら胃にやさしいものをって言ってたな…」
「ん~、じゃあひふみん特製おじやで決まり~!!」
そんなに会話が聞こえてきて、サーっと顔から血の気が引くのがわかった。私は見ず知らずの人様に大迷惑をかけたのだろう。
あの、と声をかけると片方がサッとスーツを羽織った。
「おや、お目覚めかい子猫ちゃん」
さっきと違う口調でとびきりのイケメンスマイルを向けてくる。
「…具合はどうですか」
もう一人が気弱に聞いてくる。この人もまた美人で…しかし目には隈がくっきりとしていた。
「い、いや。その…私多大なる迷惑をかけてしまったみたいで…すみません」
赤い髪に気弱な喋りかた…うっすらと思い出した。多分この人が気をきかせてくれたのだろう。一度起こしてくれたというのに…また寝るとかとんでもなく厄介なことをしてしまったなぁと心の底から反省する。
「むしろ、こんな家に連れ込んで…すみません…どこかのホテルとかに連れてった方がよかったですよね…やっぱ自分の家に連れ込むとか、どうかしてますよね…」
「ハハハ、なんとかなったんだしいいじゃないか独歩くん。これから朝食を作るから是非とも食べて行ってくれ、子猫ちゃん。」
「え、いやそんな悪いです」
手を振って後ずさると、二日酔いの呪いでくらりとバランスを崩し壁に手をつく。
慌てた赤い髪の彼が駆け寄って支えてくれる。すみませんと言って支えを受ける。
どうしてあんなに飲んじゃったかなぁ…
「もう少し寝てた方が…朝食後で持っていくから…」
「そうだね。そんなおぼつかない足では帰せないよ。」
この状態で遠慮できる筈もなく、もう少し休ませて貰うことにした。彼がそのまま布団まで連れて行ってくれて助かった。思った以上にひどい二日酔いだ。
「なんかあったら、言っていいので…」
「何から何までありがとうございます…」
こんな道路で寝てたやつになんて親切な人なんだと申し訳なさと感謝で心がいっぱいになる。
「あの…名前聞いてもいいですか?」
そっと布団をかけてくれながら聞かれる。隠すことも何もないのでそのまま自分の名前を答える。
「あなたの名前も…聞いていいですか…?」
するとすぐ、観音坂独歩と一言いう。少し後に、さっきあっちにいたのは一二三ですと付け足して軽く微笑まれた。
その破壊力に私はやられてしまった。美人で…気弱で…困ったように微笑むとかこれは反則だ…
自分の立場は分かっているのだが、どうしてもこの人ともう少し話たいと思ってしまう。同時に、去ろうとした彼の袖を掴んでいた。
「あっ…と、すみません、なんでもありません…」
我に返ってすぐに顔を背けた。自分はこんな優しくされてすぐ惚れちゃうような人だっただろうか…その単純さに溜息がでる。
すると後ろからギィと音がなった。何の音だろうと振り替える。その音はどうやら観音坂さんが今どこからか取り出してきた折り畳み式の椅子を開く音だったようだ。
なんだろうかと凝視していると、それに気付いた観音坂さんが答える。
「眠くないなら…話でもしませんか…?」
彼が気を使ってくれたのか、本心からなのかは分からないが私はその申し出が嬉しくて、是非と答えた。
それから朝食ができるまでの30分。それが短いと感じるほどに話をすることができた。
仕事のこと、上司のこと、この前の飲み会のことや、趣味など初対面ならではの会話までかなり話がはずんだ。
そして話していくうち、彼が結構な社畜であり、あの麻天狼の一人だということがわかった。まさか、シンジュクの代表チームだったなんて…私はそんな人になんて迷惑を…
しかし彼はとても優しくて
「君じゃなかったら…ここまでしない…いや、そんなこといわれても気持ち悪いよな…」
「いえ、そんな…嬉しいです」
そんなふうに何度も迷惑じゃないと言ってくれた。その傍ら、私はもう後戻りできないほどに彼が好きになっていた。
会ったばかり、しかも迷惑を受け止めてくれるイケメン…この時間が終わらないでほしいと切実に思った。
しかし当然終わりはやってくる。
朝食を食べ終わり、歩けるほどに回復した。流石にこれ以上長居するわけにはいかなかった。彼らがどんなにもう少し休んでいいと言えど、所詮は介抱してもらっただけの迷惑厄介女。すぐに立ち去らなくては…
リビングで、洗い物をしている一二三さんにお礼をいって別れる。観音坂さんは道の分かるところまで着いてきてくれた。
「ほんとに赤の他人なのに迷惑かけちゃって…すみませんでした。」
もう何度目だかも分からないが、謝罪をせずにはいられなかった。ようやく回り始めた頭が冷静に冷酷に物事を処理していくうちに、あまりにも私は図々しい人だと思った。
「ほんとに…迷惑じゃないから…」
そう言ってくれる観音坂さんに感謝し、駅へと向かう。
「…そのこんな出会いだけど…家に連れ込むようなやつだけど…また会ってくれたら嬉しい…なんて、俺みたいなやつがおこがましいよな…」
歩きながら、観音坂さんはそう口にして忘れてくれとうつむいた。しかし、私にとってはこれはチャンスで、嬉しいだけだった。
忘れますなんて言う訳がない。
「こんな迷惑女ですけど…私ももっと話したいなぁ…なんて」
思いきって連絡先交換しませんか?と言ってみると、彼が驚いたように、こっちを見ている。あ、やっぱり冗談でいわれたのかな?まずったかな?
そう思ったのもつかの間、観音坂さんがポケットから携帯を取り出した。
ま、まさかのOK?慌てて私も携帯を取り出して番号を交換する。
絶対連絡しよう、帰ったらすぐに…隣を見ると観音坂さんは携帯の画面を見て心なしか嬉しそうにしていた。
私の番号、喜んでくれてる?
「絶対連絡する…」
そう呟いて携帯をしまう彼がイキイキとしている。話たいって思ってくれている…それが嬉しくて自然とにやけてしまった。
「私も連絡します。新しいお友達…嬉しいです。絶対また会いましょう」
駅にたどり着いて、ここでお別れと立ち止まる。私の言葉に彼も少し嬉しそうに答えてくれた。
「俺も嬉しい…来週にでもすぐ会いたいくらいだ……はは、こんなこと言ったら離れがたい」
離れがたいって…そんなこと言って貰っていいのだろうか、道路で寝てたようなやつだぞ?でも観音坂さんはほんとに嬉しそう。離れがたい…でも、ここでひとまずお別れ。
それでもまた会えるから。
そうして私は彼に背を向けた。
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