国都『黒い花』

へし折られ、叩きつけられ、砕け散り。
 あの日地に伏した誇りは、微塵の破片となって僕の土壌を覆い尽くた。

 シニア時代の監督が言った。
「国都。お前はスターになる逸材だ」
 シニア時代の仲間が言った。
「国都がいればウチのチームは最強だよ」
「国都が打ってくれるから、安心して投げられるんだ」
「俺達とは才能が違うよな」
「四番もチームのキャプテンも、国都以外考えられないよ」

 皆が、口を揃えて言った。

「国都が一番凄い」と。

 だが真に優れていたのは僕じゃなかった。
 清峰葉流火と、要圭。
 宝谷シニアの有名バッテリーである彼らと対峙し、完膚なきまでに抑えられたあの瞬間、僕の中で何かが壊れ、何かが生まれた。

 微塵の破片は、種子になる。

 圧倒的敗北と屈辱を示された邂逅は、忌避すべき苦い記憶になるかと思いきや、僕の中でむしろ奇妙な憧れと執着になっていった。そして時間が経てば経つほど、その想いは強さを増していった。

 種子は僕の奥底に根を張り、芽吹いていく。

 彼らとの対戦を終えた日から、僕の意識は劇的に変わった。
 足りない。
 何もかもが足りない。
 貪欲が燃え盛り、僕は寝食を忘れそうになるほど野球へと打ち込んだ。どんな練習をしていようと、頭の片隅にはいつだって彼らが居た。
 ーーー彼らならどうするか。
 バットを握ると、いつも浮かぶ問い。
 その問いに答えを出すため、僕は一心不乱に素振りをした。
 足元にすら及ばなかった過去の僕を、この一振りで、この一振りで、殺す。
 積み重ねたものは嘘をつかない。届かないというのは、ただ足りていないだけだ。今まで努力だと思っていたものは、努力ではなかったのだ。

 この一振りで、この一振りで、僕は回生する。
 
 不思議だった。
 清峰葉流火と要圭に出会ったあの日から、僕は。
 人生で一番、野球が楽しいと思っていた。

 執着の芽は育っていく。あの日の敗北を、挫かれた誇りを、彼らへの複雑な憧れを糧として。
 土壌は黒く。
 萌芽した芽の色も黒く。
 やがて咲くその花もまた、黒。
 真っ直ぐに育っていくこの想いは、いつか大輪の花となるだろう。そうして咲き誇った花は、いつか再び出逢う彼らへと手向けよう。

「ーーー要くん、清峰くん」

 僕は、ずっとその時を待っている。
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