国都くんで100のお題

『光る』

「しっかり球の芯を捉えるイメージをしろ!バットは最後まで振り抜け!」

 整然と並ぶバッティングケージの後ろで、コーチが打撃音に負けじと声を張った。バッティング練習を割り当てられた部員は、ひたすら飛んでくる白球を打ち込んでいる。
 ある者はコーチにアピールをしようと過剰に張り切り、ある者はスランプから振り抜けず、ある者は機械のように淡々と打ち。
 そんな中、国都の入ったケージだけは、異質な熱量に包まれていた。
 漆黒の瞳が、ピッチングマシンを鋭く捉えている。千分の一秒すら刻むような集中力が、白球の発射をまだかと睨みつける。
 
 ——フッ、フッ、フッ。

 規則正しく繰り返される、獣じみた呼吸。バットのグリップを強く握りしめると、国都の黒いバッティングヘルメットが、太陽の直射を反射する。

 瞬間、マシンから白球が撃ち出された。

 150キロのストレートが、18.44メートルの先から襲い来る。プロの投手ですら一握りしか出せない球速を、しかし国都はその目で捉える。
 優れた動体視力と過集中が、白球の速度を殺す。ホームに近づく瞬間を目掛けて右脚を踏み込み、身体を強く捻り、張り詰めた腕の筋肉でバットを振り抜く。
 
 ——キンッッ!!

 他のバッティングケージとは一線を画す、一際強い打球音が鳴った。
 国都の両手に、かすかな痺れが走る。だが真芯を捉えた確かな感触を得て、国都は打球の行く先を目で追う。

 青く抜けるような空に、使い古された白球が高く速く舞い上がる。遠ざかっていくそれは、まるで小さな白い月のようにも思えた。

 月が、太陽と重なる。ギラギラと燃える、太陽の光輪に灼かれて光る。

 白く、白く、刹那の輪は輝く。

 それを見上げながら、国都は近づく最後の大会を想った。
 高校に入って三度目の夏。主将としてチームを任され、最後に挑む試合。国都にとっての集大成が、あと少しでやって来る。

 己を育ててくれた場所、信頼する仲間たち。
 選手として、人として成長へと導いてくれた全てに敬愛を込め、国都は誓う。
 このチームを優勝に導き、必ず甲子園の頂点に辿り着いてみせる、と。

 白球が、太陽の輪に溶ける。
 握りしめた国都の指先は、迷いなく未来を掴む熱に燃えていた。



あとがき
今日のテーマは「光る」で、ミッションは「三人称視点」。バッティング練習で打った球が、太陽と重なって光ったように見える、という状況をメインにしました。

以前「美しき世界に愛を込めて」でも少し書きましたが、スポーツのスピーディーな動きって文では表現しづらいんですよね。文という受信テンポの遅いフォーマットと、躍動感って相性よくない気がいつもしてて…まぁこの話自体、スポーツの良さを見せるものではないのでいいんですけど。

三人称にしたことで、昨日の一人称と比べると心情表現1割くらいになったかな。いつも濃くしすぎなので火力調節できるようになりたいな…
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