国都くんで100のお題

国都くんでお題 ゆらめく

『ゆらめく』

 ——息が苦しい。
 校舎外を走り始めて五周。鼓動の圧力に早まる呼吸を抑えながら、僕は何度も深呼吸を繰り返していた。
 六月の終わりの好天。三十度の真夏日。夏はもうすぐそこまで近づいている。
 コンクリートの輻射熱が、熱い身体をさらに熱していく。炎天に茹だる頭は思考が削ぎ落とされ、空白に揺れる。
 汗に濡れた髪から雫がしたたり、額を伝って眉に落ちる。僕はそれを、目に入る前にアンダーシャツの袖で拭い払う。
 けれどそんなものは、一時凌ぎでしかない。絶えず湧き出ては視界を邪魔しようとする汗に、僕は少しだけ鬱陶しさを覚える。

 今日は瞬発力、持久力系のメニューが中心の日。ダッシュやベースランニングでかなりの距離を走った上でのこの外周十周は、その集大成だ。
 グラウンドの土とは違う、硬いアスファルトを蹴り続ける。異なる地面のコンディションに違和感を覚えながらも、校舎外の景色は、グラウンドの見慣れ過ぎた風景と違って少しだけ新鮮さがある。

 僕は、そんな景色を見るのが好きだった。

 立ち並ぶ家々、帰宅する生徒や道ゆく人たち、車道を走る車。
 校舎の外にはたくさんの人の『暮らし』が溢れていて、僕とは違う、様々な息づきを眺めることが出来るから。
 野球部のグラウンドという、広くも狭い世界の外には、こんなにもたくさんの物や人が溢れているのだと実感する。日々の全てと心血を野球に注ぐあまり、僕は、僕たちは、こんな景色を忘れそうになる。
 校舎の外にあるのは、広大で、多種多様な生き方が存在する世界。そこには、僕たち帝徳高校野球部を応援してくれる人たちの生活も根付いている。
 働く人、家庭を守る人、休む人。それぞれの日々を生きながらも、時には誰かに心を動かされ、誰かのために本気で応援する。
 普段は見えないもの、感じないものが、確かにそこに在ると感じる。陽炎のように不確かなそれが、まるで僕を励ましているように思える。
 ランニングは、練習の中でも特に辛いメニューだ。走っている間、早くバッティングをしたいと思ったりもする。
 けれどこうして周る『外』は、『内』にいるだけでは気付けない視野の広さをもたらしてくれる。そしてそれは、僕にとって、大切な視点なのだと思う。

 だから僕は走る。
 破裂しそうな肺と心臓を抱えて、僕は今日も、自分の道を走り続ける。


 見据えた道の先にゆらめく、陽炎を追いかけながら。



 あとがき

 お題は「ゆらめく」で、ミッションは「一人称視点」。国都くんで考えるなら、真夏のランニングで見る陽炎かなと思って主題にしました。陽炎を見るなら真夏の試合中でも良かったんだけど、私的に浮かんだのはコンクリートの上だったんで外周してもらうことにしました。

 意図があったわけじゃなく、自分の中の画的なものだったんですけど、結果的に内と外の視点ってとこにフォーカスできて良かったかなと思います。ただ、「ゆらめく」というお題の短文に対して、心情を詰め込みすぎているのでちょいクドめかもしれません。

 みんなの前で言わないと思うけど、国都くんってランニングとかあんまり好きではない気がしてます。というか、バッティング好きすぎて他の練習との熱量違う気がしてる。原作見てたら、やっぱ国都くんって特に打撃を買われてると思うので、守備はそんな突出して上手くはないんじゃないかなーとか。私的に国都くんの選手イメージはホームラン量産タイプ、ヒッティングも上手い外国人選手のイメージです(゚ω゚)
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