伝奇パロ『愛縁奇縁』
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白花邂逅
朝日がまだ山の影に隠れる時間に、眞城はバスを降りた。目の前には、深い緑に包まれた山の入り口が広がっている。祖母の屋敷は、この先の山道を進んだところにあるらしい。
眞城はリュックの肩紐を握り直し、大きく息を吸った。
「……よし」
失くした護り石を探すこと。
そして、祖母の屋敷を確かめること。
それが今日の目的だ。
まずは元々の目的だった祖母の屋敷を目指した眞城は、山道を歩き始めてすぐに、胸の奥がざわめくのを感じた。
(……この道、初めてのはずなのに……)
どこか、懐かしい。
既視感――。不思議な感覚に包まれながらも、眞城は迷うことなく自然と足を進めている。
ーーどうしてだろう。俺は、この景色を知っている気がする。
霧がかかったような薄明けの山道を進んでいると、突如として視界が開けた。
そこには、無数の木々が避けるように拓かれた一帯があった。まるで何かに守られるように、ぽっかりと空いた空間。
そして、その中心にそびえるのは、一本の大木。
「……これは」
ーー槐 の木。
白い花を満開に咲かせ、風に乗って静かに散っていく。
ーーまるで、呼ばれているような気がした。
眞城は、無意識に足を踏み出していた。まるで何かに誘われるように、槐の木へと近づく。
ゆっくりと手を伸ばし、その幹に触れようとした――その時。
「触れん方がええで」
唐突に、聞き慣れない関西弁の声が響いた。
柔らかな訛りの制止が、まるで夢から覚ますように眞城を現実へ引き戻す。
眞城は驚き、慌てて振り向いた。
来た道の向こうから、ひとりの青年が歩いてくる。
国都とは、また違う雰囲気の男。
薄陽の光を受けて、うっすらと青く光る白銀の髪。片側だけ長い前髪は右目を隠し、残る左の涼やかな瞳には、どこか妖しげな光が宿っている。
その姿はどこか神秘的だ。人間のようでいて、人間離れしているようにも見える。
「……誰ですか?」
槐の木に伸ばしかけた手をそっと下ろし、警戒を隠しながら問うと、青年は微笑みどこか楽しそうに言った。
「俺は桐島秋斗いうんや。この辺にずっと気ままに住んどる男や」
「……ずっと?」
「せやなぁ。もう長いことここにおるで」
「でもそれ、関西弁ですよね?」
眞城が何気なく問うと、桐島と名乗る男はクスリと笑う。
「生まれは大阪なんやけど、こっちに移ってきてもう長いんや」
「ああ、そういうことですか」
納得しながらも、眞城は緩々と解けていく警戒心を感じた。
国都のような堅苦しさや威圧感はない。軽い冗談さえ言いそうな気さくで柔らかい桐島の雰囲気は、どこか話しやすさを感じる。
槐の花が、ひらりと舞う。
眞城が見上げると、桐島は側に歩み寄り、一緒になって槐の木を見上げる。
「ここら一帯は神域でな。禁足地なんや」
「……禁足地?」
桐島は眞城をまっすぐ見つめ、軽く肩をすくめた。
「この槐の木はただの木やない。この辺一帯を守る御神木や」
眞城は、再び槐の木を見つめた。
白い花がゆっくりと風に踊る。
舞い散る花びらは、まるで葬送だ。
ーー確かに、この木はただの木ではない気がする。しかし、それが”守る”とは、一体どういう意味なのか。
「そんくらい大事な木やから、気軽に触れん方がええで」
「……それは知りませんでした。教えてくれてありがとうございます」
「そんな礼なんていらんって。律儀やな」
風が、小さな渦を巻いた。ふんわりと花の甘い香りが二人を包んだ瞬間、桐島がぼそりと呟いた。
「……ええにおいやな」
「え?」
反射的に、眞城が槐の木を見上げる。
白い花は一層風に乗って散り、空気には柔らかな香りが漂っている。
「確かに、いいにおいですね」
花びらが舞うのを見ながら、眞城はうっとりと呟く。桐島はそんな眞城を見つめながら、微かに微笑んだ。そのさりげない笑みに、眞城はほっとする。
しかし―― 眞城は気づいていなかった。
桐島の言葉が、槐の花ではなく眞城自身に注がれていることを。
「キミ、名前は?ここには何しに来たん?」
桐島に軽い調子で問いかけられた眞城は、一瞬戸惑いながらも、桐島のどこか親しみやすい雰囲気に安心し素直に答えた。
「俺は眞城 史哉って言います。この山に祖母の遺した家があって、それを相続することになったので、下見に来たんです」
「あぁ、確かに家がポツンと一軒あったなぁ」
桐島は顎に手を当て、思い出すように呟いた。
「知ってるんですか?」
「まぁ、こっちに住んどるからな。山の中にあるし、誰も住んどらんみたいやけど……ほな、案内したろか?」
桐島の提案に、眞城は少し迷った。
本当は一人で行くつもりだった。だが、道に自信があるわけではない。それに、国都と日が暮れる前に旅館に戻る約束もしている。早めに目的地に着いた方がいいと考えた眞城は、結局桐島の申し出を受けることにした。
「じゃあ、お願いしてもいいですか?」
頼めば、桐島はにこりと笑う。
「ええで。ほな、そこまで連れてったるわ。行こか、史哉」
自然に『史哉』と自分の名前を呼ばれ、眞城は思わず驚く。
「えっ……?」
同い年の国都とは苗字で呼び合っているのに、桐島はまるで昔からの知り合いのように距離を縮めてくる。
(こんなに気軽に下の名前で呼ばれるの、初めてかも……)
だが、少し戸惑いながらも、呼ばれることに悪い気はしなかった。
「お願いします、えっと……」
どう呼べばいいか迷い、言葉を詰まらせる。桐島はその様子を見て、微笑みながら言った。
「苗字あんま好きやないねん。名前で呼んでくれるか?」
「じゃあ……秋斗さん?」
眞城がそう呼ぶと、桐島が満足げに頷く。
「うん、それでええよ。ほな行こか」
軽やかに山道を歩き出す桐島の後ろ姿を見つめながら、眞城はふと胸の奥に違和感を覚えた。
ーー初めて会ったばかりなのに、距離が近すぎるんじゃないか?
しかしそれを深く気にするより前に、桐島は振り返り、眞城を促す。
「早よ来んと置いてくで?」
「あ、待ってください!」
そうして、眞城は桐島とともに、祖母の屋敷へと向かうのだった。
朝日がまだ山の影に隠れる時間に、眞城はバスを降りた。目の前には、深い緑に包まれた山の入り口が広がっている。祖母の屋敷は、この先の山道を進んだところにあるらしい。
眞城はリュックの肩紐を握り直し、大きく息を吸った。
「……よし」
失くした護り石を探すこと。
そして、祖母の屋敷を確かめること。
それが今日の目的だ。
まずは元々の目的だった祖母の屋敷を目指した眞城は、山道を歩き始めてすぐに、胸の奥がざわめくのを感じた。
(……この道、初めてのはずなのに……)
どこか、懐かしい。
既視感――。不思議な感覚に包まれながらも、眞城は迷うことなく自然と足を進めている。
ーーどうしてだろう。俺は、この景色を知っている気がする。
霧がかかったような薄明けの山道を進んでいると、突如として視界が開けた。
そこには、無数の木々が避けるように拓かれた一帯があった。まるで何かに守られるように、ぽっかりと空いた空間。
そして、その中心にそびえるのは、一本の大木。
「……これは」
ーー
白い花を満開に咲かせ、風に乗って静かに散っていく。
ーーまるで、呼ばれているような気がした。
眞城は、無意識に足を踏み出していた。まるで何かに誘われるように、槐の木へと近づく。
ゆっくりと手を伸ばし、その幹に触れようとした――その時。
「触れん方がええで」
唐突に、聞き慣れない関西弁の声が響いた。
柔らかな訛りの制止が、まるで夢から覚ますように眞城を現実へ引き戻す。
眞城は驚き、慌てて振り向いた。
来た道の向こうから、ひとりの青年が歩いてくる。
国都とは、また違う雰囲気の男。
薄陽の光を受けて、うっすらと青く光る白銀の髪。片側だけ長い前髪は右目を隠し、残る左の涼やかな瞳には、どこか妖しげな光が宿っている。
その姿はどこか神秘的だ。人間のようでいて、人間離れしているようにも見える。
「……誰ですか?」
槐の木に伸ばしかけた手をそっと下ろし、警戒を隠しながら問うと、青年は微笑みどこか楽しそうに言った。
「俺は桐島秋斗いうんや。この辺にずっと気ままに住んどる男や」
「……ずっと?」
「せやなぁ。もう長いことここにおるで」
「でもそれ、関西弁ですよね?」
眞城が何気なく問うと、桐島と名乗る男はクスリと笑う。
「生まれは大阪なんやけど、こっちに移ってきてもう長いんや」
「ああ、そういうことですか」
納得しながらも、眞城は緩々と解けていく警戒心を感じた。
国都のような堅苦しさや威圧感はない。軽い冗談さえ言いそうな気さくで柔らかい桐島の雰囲気は、どこか話しやすさを感じる。
槐の花が、ひらりと舞う。
眞城が見上げると、桐島は側に歩み寄り、一緒になって槐の木を見上げる。
「ここら一帯は神域でな。禁足地なんや」
「……禁足地?」
桐島は眞城をまっすぐ見つめ、軽く肩をすくめた。
「この槐の木はただの木やない。この辺一帯を守る御神木や」
眞城は、再び槐の木を見つめた。
白い花がゆっくりと風に踊る。
舞い散る花びらは、まるで葬送だ。
ーー確かに、この木はただの木ではない気がする。しかし、それが”守る”とは、一体どういう意味なのか。
「そんくらい大事な木やから、気軽に触れん方がええで」
「……それは知りませんでした。教えてくれてありがとうございます」
「そんな礼なんていらんって。律儀やな」
風が、小さな渦を巻いた。ふんわりと花の甘い香りが二人を包んだ瞬間、桐島がぼそりと呟いた。
「……ええにおいやな」
「え?」
反射的に、眞城が槐の木を見上げる。
白い花は一層風に乗って散り、空気には柔らかな香りが漂っている。
「確かに、いいにおいですね」
花びらが舞うのを見ながら、眞城はうっとりと呟く。桐島はそんな眞城を見つめながら、微かに微笑んだ。そのさりげない笑みに、眞城はほっとする。
しかし―― 眞城は気づいていなかった。
桐島の言葉が、槐の花ではなく眞城自身に注がれていることを。
「キミ、名前は?ここには何しに来たん?」
桐島に軽い調子で問いかけられた眞城は、一瞬戸惑いながらも、桐島のどこか親しみやすい雰囲気に安心し素直に答えた。
「俺は眞城 史哉って言います。この山に祖母の遺した家があって、それを相続することになったので、下見に来たんです」
「あぁ、確かに家がポツンと一軒あったなぁ」
桐島は顎に手を当て、思い出すように呟いた。
「知ってるんですか?」
「まぁ、こっちに住んどるからな。山の中にあるし、誰も住んどらんみたいやけど……ほな、案内したろか?」
桐島の提案に、眞城は少し迷った。
本当は一人で行くつもりだった。だが、道に自信があるわけではない。それに、国都と日が暮れる前に旅館に戻る約束もしている。早めに目的地に着いた方がいいと考えた眞城は、結局桐島の申し出を受けることにした。
「じゃあ、お願いしてもいいですか?」
頼めば、桐島はにこりと笑う。
「ええで。ほな、そこまで連れてったるわ。行こか、史哉」
自然に『史哉』と自分の名前を呼ばれ、眞城は思わず驚く。
「えっ……?」
同い年の国都とは苗字で呼び合っているのに、桐島はまるで昔からの知り合いのように距離を縮めてくる。
(こんなに気軽に下の名前で呼ばれるの、初めてかも……)
だが、少し戸惑いながらも、呼ばれることに悪い気はしなかった。
「お願いします、えっと……」
どう呼べばいいか迷い、言葉を詰まらせる。桐島はその様子を見て、微笑みながら言った。
「苗字あんま好きやないねん。名前で呼んでくれるか?」
「じゃあ……秋斗さん?」
眞城がそう呼ぶと、桐島が満足げに頷く。
「うん、それでええよ。ほな行こか」
軽やかに山道を歩き出す桐島の後ろ姿を見つめながら、眞城はふと胸の奥に違和感を覚えた。
ーー初めて会ったばかりなのに、距離が近すぎるんじゃないか?
しかしそれを深く気にするより前に、桐島は振り返り、眞城を促す。
「早よ来んと置いてくで?」
「あ、待ってください!」
そうして、眞城は桐島とともに、祖母の屋敷へと向かうのだった。
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