このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

ウマ娘 タキモル♀以外

URAファイナルズも終わり、タマモと私は正月休みを三日間だけ取った。
去年の「秋天」「有マ」でオグリキャップに勝利したタマモは、いまや各メディアにオグリと共に引っ張りだこだ。そして、これからのレースのためにもトレーニングは日数をあまり空けないようにしたい。けれど、私がタマモのご家族にご挨拶したかったのだ。彼女にそう相談すると、「前回はお父ちゃんが大変やったからな……」と承諾してくれた。
そうして、私は今、タマモの実家にいる。
「わぁ、本物のトロフィーだ! タマねぇねの『春天』のトロフィー!」
「どや? ピッカピカやろ? ウチが毎日磨いとったさかい」
「トレーナー、びじんだねー! タマねぇねの二倍ある!」
「ウチのどこが二分の一や! けど、べっぴんは違いあらへんな……」
小さな男の子とウマ娘のきょうだい。とても元気で、かわいらしい。壁には、クレヨンで描かれたタマモの似顔絵や、きょうだいが手を繋いだ絵が大事そうに飾られている。
「すまんなトレーナー。家は狭いし、チビたちはやかましいし……」
「そうかな? トレセンにいる時と面積以外は変わらないと思うけど」
「確かにクリークっちゅう保育士さんもおるし……ってトレセンは幼稚園ちゃうわ! けど良かったわ。こうやって、少し落ち着いてからアンタを実家連れて来れて」
タマモが言うと、彼女の父親は私に深々と頭を下げた。
「前回はご心配お掛けして、すみません。おかげさまで、私も家内も今はバリバリ元気ですわ」
台所で夕飯の支度をしている彼女の母親も、嬉しそうな声で父親に続く。
「トレーナーさんには、ホンマお世話になりっぱなしやねぇ。こんな料理で何だけど、ぎょうさん食べてってね。まだまだお若いんやから」
「いえいえ、育ち盛りのお子さんたちの分も食べちゃうのは悪いですから……」
タマモがレース娘として有名になり、彼女の仕送りで豊かになった実家であっても、ここには私ではなく育ち盛りが三人いるのだ。彼女らの栄養を奪ってはいけない。けれど。
「遠慮すんなやトレーナー。今更他人行儀もあらへんやろ。ウチら家族なんやから」
タマモの言葉に、去年のクリスマスを思い出す。あの時も、彼女は私を「家族」と言ってくれた。彼女にとって、「家族」とは彼女自身が頑張れる最大の理由になる関係性のことだ。タマモに、そこまで慕われるのはトレーナーとして喜ばしい。
「あ、そうだ! トレーナー、タマねぇねとけっこんしなよ!」
「そしたら、トレーナーとタマねぇねはずーっといっしょだよ!」
子供とは、無邪気で恐ろしいものだ。タマモの頬だけではなく、顔全体が真っ赤に染まった。
「姉ちゃん、まだそんな歳やあらへん!!」
私は、タマモが弟妹たちに突っ込んだ後に、小さく独り言をこぼしたのを聞き逃さなかった。
「……けど、ウチが走れんようなって、卒業して、成人したら……そん時なら、まぁ悪くないなぁ……なーんて」
今はまだ、その時じゃないから。私は、彼女の独り言を聞かなかったことにする。この言葉にいま応えてしまっては、トレーナー失格だから。答えは、彼女が卒業するその時まで、胸の奥にとっておこう。
「お母ちゃん、料理手伝ったる! トレーナーはそこでどっしり待っとってな! チビたちも大人しくしとること!」
「はーい!」
「ねぇ、トレーナーはタマねぇねとけっこんするよね? ね?」
「あはは……そうだ、私カードゲーム持ってきたんだ!三人で遊ぼっか!」
卒業して、貴方が大人になったその時は、この話を掘り返してやろう。きっと彼女は、激しくツッコミを入れてくるだろうけれど。
4/4ページ
スキ