ウマ娘 タキモル♀以外

「黄金の船」の名を持つ私の担当ウマ娘は、とんだじゃじゃウマで大嵐だ。

「トレーナー! 海行くぞ海! ダイオウイカとろーぜ!!」

まず、意味不明な言動が多くて、一秒後に何が起こるかすら予想できない。

「よーし! オメーがルアーだ! 大物とれっといいな! オラァ!」

次に、力が強いから、抵抗してもだいたい無駄。
今日は、海釣りがしたいと唐突に言い出していつもの海に連れて行かれ、なぜかルアー代わりに投げ込まれた。
まぁ、この程度は序の口だし……慣れてしまった私も私だが。水面に突っ込まれても、泳ぐことくらいできる。少し泳いで満足させたら上がって、いつも通り叱ってやろう。服の下に水着着ておいてよかった……

「おーいトレーナー! 獲物見つけたか!? イルカとかシャチとかクジラとか、何でもいいぞー!」
「いや、そんなでかいのはムリ……せめてウニ……ってウニは密猟になるわ!!」

いつも通り支離滅裂なボケにツッコミを入れ、泳いで見せる。
そのとき、私の脚に違和感が走った。

「あっ……!」

やばい。これは、足が吊った!?

「ごぼっ……!」
「トレーナー? おい、ちょっ……!」

頭の中が、どんどん白くなって行く。
明日の新聞には、「ゴールドシップのトレーナー、謎の溺死体で発見」って記事が載るかな……なんて呑気に考えながら、私の意識はぷつりと切れた。

――静かな波の音が聞こえる。
三途の川って、海みたいに広いんだな。そして、川の向こうって意外と殺風景だ。口元が、温かい。ああ、寂しいな。これが、死後の世界か……

「トレーナー!! トレーナー!! おい、起きろよ!!」

ゴールドシップの声が聞こえる。そういえば、彼女は女神ゴルシでもあったっけ。私にとっては、閻魔大王でもあるけど……

「……あれ。私、いきてる?」
「トレーナー!! やっと起きたかよ!! 心配させやがって!! オマエが目を覚ますまで、ゴルシちゃんの魂ゲージは閉店ギリギリまで減っちまったぞ!!」
「……太鼓の凡人はね、ゲージ減っても閉店しないよ……」
「その様子だと、意識が戻ったみてーだな」

はっと起き上がる。
私は砂浜に寝かされていて、目の前には制服のままずぶ濡れのゴルシ。その顔は、珍しく狼狽しきっていた。

「ゴルシ……? 貴方、助けてくれたの?」
「あったりめーだろ! 溺れたトレーナーを無視する漁師がどこにいるってんだよ!」

ゴルシの耳がしゅんと垂れている。初めて見た。彼女、元気がないときも耳が垂れたりしないのだ。

「その……ごめん、な? 溺れさせちまって……せめて準備運動させてから、投げ込むべきだったよな」
「いや、そもそも海に投げ込む時点でおかしいから」

珍しい。ゴルシが素直に謝ってきた。そんなに、私はやばい状態だったんだろうか。

「しかし、救急救命講座まともに受けといてよかったなー。役に立つとは思わなかったぜ」
「……えっ?」

えっ。つまり、私が感じたあの口元の温もりは、ゴルシの……

「ゴルシ。その……もしかして……」

ゴルシは、私を見てウインクし、ペロッと舌を出して見せた。

「ゴルシちゃんのファーストキス、捧げちゃった☆ オトメの唇を奪った責任、取れよ☆」
「あ、貴方って人はーー!! 元はと言えば貴方のせいでしょーが!!」

私は立ち上がって、逃げ出し準備をする暴れ不沈艦を追いかけた。ウマ娘の脚力にヒトが追いつくわけ、ないのだけれど。彼女と私の追いかけっこは、最早定番のオチだ。

「おーほほほ! アタシを捕まえてごらんなさーーい!」
「こぉらーー!! 止まれぇこの問題児!!」

もしかすると、本当にファーストキスの責任、取らされるかもなぁ。
それはそれで、嫌じゃない私も私だ。すっかり、この大嵐に慣れてしまった、というか。
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