タキモル♀

「爪を立てないようにして、指のお腹の部分で頭皮をマッサージするように洗うの。ほら、気持ちいいでしょ」
まさか、わたしの担当バが全身をボディソープで「なんかこう、適当にガシガシと」洗っているとは思わなかった。わたしはそのものぐささん……タキオンを引っ張るようにして店に連れて行き、彼女の多め柔らか猫っ毛に合うシャンプーとトリートメントを買ったのだ。
そうして、わたしは寮の浴室で、タキオンのために正しい頭の洗い方を教えてあげている。
「ククッ。いい香りだねぇ……極楽極楽とはまさに今のことを言うのかな」
最初は、実演するつもりはなかったのだ。タキオンが「頭髪を洗うのは三日に一度くらいかな?」と言うまでは。彼女、わたしが思った以上にものぐさだった。わたしは急遽彼女を浴室に連れて行き、毎日頭を洗うように指導するため今に至る。
わしゃわしゃ。しゅわしゅわ。あわあわ。栗毛を白く染め、泡だらけの頭になったタキオンはかわいい。
「耳の後ろも、汚れやすいから忘れずにね」
「待て、そこは自分で、ひゃんっ!」
耳の後ろを洗うと、珍しく高い悲鳴が上がって、彼女は思い切り睨みつけてきた。
「トレーナー君……耳には触れるなと言っただろう……」
「あ、ごめん! あとで何でも言うこと聞くよ」
つい、実家の犬と同じ感覚で耳の後ろを洗ってしまったなんて、言ったら火に油だろう。タキオンの要求は、可愛らしいものだった。
「アイスクリーム。ホイップクリーム載せたやつ」
「分かった分かった。アイスね。あー、わたしのダッツ……」
シャワーを出し、手で温度を確かめる。彼女はぬるめが好みだ。
「シャンプー流すよ。目閉じて耳伏せて」
シャワーを掛けて、タキオンの髪に指を通しながら、シャンプーが残らないように流す。頭の癖っ毛も濡れてぺしょ……としていて、面白い。
「次はトリートメントね」
「まだあるのかい!?」
あからさまに面倒そうな顔をしたお姫様に、わたしはトリートメントの重要性と使い方を教えた。この積み重ねが、ライブで輝くお姫様を生むのだ。
「トレーナー君、楽しそうだね」
「そうね。貴方がもっと綺麗になるのは嬉しいし、貴方のお世話をするのは楽しいよ」
「酔狂だねぇ」
「貴方ほどじゃないけどね」
トリートメントを流す。サラサラツヤツヤの栗毛を輝かせたタキオンは、きっと誰が見ても綺麗なお姫様だった。

 
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