タキモル♀
「おや、カフェ。上客のようだ。当然君をご指名だろうよ」
「タキオンさんこそ、お得意様のようですよ。粗相のないようにお願いしますね」
「おや、おかえりなさいませ。お嬢様」
今年のファン感謝祭、タキオンのクラスの出し物はまさかの執事喫茶だった。彼女がファンの人に余計なことをしていないかチェックするため、わたしは準備周到に変装して教室に入ったのだが……
「お嬢様、本日は可愛らしいお召し物でございますね。まるで、お忍びの姫君のようだ」
タキオンはわたしの変装を見抜いているのかいないのか、歯の浮くような台詞を口にして、わたしの手を取って席へと案内した。というか、敬語で話すタキオンは初めて見たな……先輩や教員に対してもタメ口のタキオンが、へりくだる口調で完璧に「かしずく者」をロールプレイしている。それはとても新鮮で……つい、ドキドキしてしまった。
「久々のご帰宅で、緊張されているご様子。よろしければ、わたくしのお茶でリラックスなどされてはいかが?」
スレンダーな体つきを活かす、黒の燕尾とスラックスに白いシャツ。右目にはモノクル。いつもボサボサの髪の毛は、後ろで束ねられてワックスで固めているようだ。
テーブルに着くと、執事のタキオンは紅茶をカップに注ぐ。そして、シュガーポットからモリッとスプーンで砂糖をすくった。
「お砂糖は何杯が好みでしたかな?」
うーん、今ので減点かな! タキオンらしいといえばらしいけど!
「あら、わたくしはストレートが好みでしてよ」
彼女の完璧なロールプレイに、ついわたしも口調が変わってしまった。何やってんだ、わたし。
わたしは、紅茶に余計なものが混ざっていないか匂いや色で確認して、一口すする。美味しい。特に刺激感も謎の味もしない、セイロンティーだ。
「ふふ……お嬢様、落ち着かれたようですね」
執事のタキオンは微笑んで、わたしに顔を近づける。
あ、めちゃくちゃかっこいいな……タキオンって、ああいうマッドサイエンティストな振る舞いが鳴りをひそめると、こんなにイケメン(ウマ娘だけど)だったんだ。
執事の口が、わたしの耳に近づく。耳たぶが赤くなる音が聞こえてしまいそうだ。
執事は、わたしに耳打ちした。
「トレーナー君、聞いておくれよ。今回の出し物、カフェが監修監視しているせいで、私は実験ひとつできなくて不自由で困るんだよ〜。まぁ、普段と異なる私に動揺するファンの様子が見られるのは面白いがね。早く解放されたいよ〜」
よかった。いつものタキオンだった。安心して、わたしはつい軽く吹き出してしまった。
「な、なんだよ〜そんなにヘンかい?」
タキオンがいつもの不満気な顔をする。わたしは、面白くなってきてロールプレイで返した。
「いえ、貴方がいつも通りで安心しました。いつもフランクにわたくしと接してくださいますものね、タキオンは」
「肩肘張らない普段通りのわたくしが好み、でございますか。それはそれは……ハッハッハ! 安心したよ!」
タキオンの口調が戻る。澄ましたイケメン執事から一転、そこには執事の姿をしたいつものタキオンがいた。彼女は、近くの席で接客をしていたカフェに堂々と声を掛ける。
「カフェ、そろそろシフト交代の時間だろ? 私はトレーナー君と失礼させてもらうよ」
「タキオンさん!せめて着替えて……」
「面倒だからパスだ! さて、オプションサービスだぞモルモット君! お代は明日の実験と君の手作り菓子にしてくれたまえ!」
タキオンは、白手袋を嵌めたままの手でわたしの手を取り、教室から出た。
え、何。オプション頼んでない。とんだぼったくり店だ、この執事喫茶。
そう思いつつも、いつもと違った姿のタキオンのエスコートに胸を躍らせるわたしがいた。
なお、タキオンはこの勝手な行動で翌日カフェにしこたま叱られたらしい。
「タキオンさんこそ、お得意様のようですよ。粗相のないようにお願いしますね」
「おや、おかえりなさいませ。お嬢様」
今年のファン感謝祭、タキオンのクラスの出し物はまさかの執事喫茶だった。彼女がファンの人に余計なことをしていないかチェックするため、わたしは準備周到に変装して教室に入ったのだが……
「お嬢様、本日は可愛らしいお召し物でございますね。まるで、お忍びの姫君のようだ」
タキオンはわたしの変装を見抜いているのかいないのか、歯の浮くような台詞を口にして、わたしの手を取って席へと案内した。というか、敬語で話すタキオンは初めて見たな……先輩や教員に対してもタメ口のタキオンが、へりくだる口調で完璧に「かしずく者」をロールプレイしている。それはとても新鮮で……つい、ドキドキしてしまった。
「久々のご帰宅で、緊張されているご様子。よろしければ、わたくしのお茶でリラックスなどされてはいかが?」
スレンダーな体つきを活かす、黒の燕尾とスラックスに白いシャツ。右目にはモノクル。いつもボサボサの髪の毛は、後ろで束ねられてワックスで固めているようだ。
テーブルに着くと、執事のタキオンは紅茶をカップに注ぐ。そして、シュガーポットからモリッとスプーンで砂糖をすくった。
「お砂糖は何杯が好みでしたかな?」
うーん、今ので減点かな! タキオンらしいといえばらしいけど!
「あら、わたくしはストレートが好みでしてよ」
彼女の完璧なロールプレイに、ついわたしも口調が変わってしまった。何やってんだ、わたし。
わたしは、紅茶に余計なものが混ざっていないか匂いや色で確認して、一口すする。美味しい。特に刺激感も謎の味もしない、セイロンティーだ。
「ふふ……お嬢様、落ち着かれたようですね」
執事のタキオンは微笑んで、わたしに顔を近づける。
あ、めちゃくちゃかっこいいな……タキオンって、ああいうマッドサイエンティストな振る舞いが鳴りをひそめると、こんなにイケメン(ウマ娘だけど)だったんだ。
執事の口が、わたしの耳に近づく。耳たぶが赤くなる音が聞こえてしまいそうだ。
執事は、わたしに耳打ちした。
「トレーナー君、聞いておくれよ。今回の出し物、カフェが監修監視しているせいで、私は実験ひとつできなくて不自由で困るんだよ〜。まぁ、普段と異なる私に動揺するファンの様子が見られるのは面白いがね。早く解放されたいよ〜」
よかった。いつものタキオンだった。安心して、わたしはつい軽く吹き出してしまった。
「な、なんだよ〜そんなにヘンかい?」
タキオンがいつもの不満気な顔をする。わたしは、面白くなってきてロールプレイで返した。
「いえ、貴方がいつも通りで安心しました。いつもフランクにわたくしと接してくださいますものね、タキオンは」
「肩肘張らない普段通りのわたくしが好み、でございますか。それはそれは……ハッハッハ! 安心したよ!」
タキオンの口調が戻る。澄ましたイケメン執事から一転、そこには執事の姿をしたいつものタキオンがいた。彼女は、近くの席で接客をしていたカフェに堂々と声を掛ける。
「カフェ、そろそろシフト交代の時間だろ? 私はトレーナー君と失礼させてもらうよ」
「タキオンさん!せめて着替えて……」
「面倒だからパスだ! さて、オプションサービスだぞモルモット君! お代は明日の実験と君の手作り菓子にしてくれたまえ!」
タキオンは、白手袋を嵌めたままの手でわたしの手を取り、教室から出た。
え、何。オプション頼んでない。とんだぼったくり店だ、この執事喫茶。
そう思いつつも、いつもと違った姿のタキオンのエスコートに胸を躍らせるわたしがいた。
なお、タキオンはこの勝手な行動で翌日カフェにしこたま叱られたらしい。