このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

最高顧問と猫


今日の顧問はやたらと時計を見る。
頻度で言えば、30分に一回。いやもっとかもしれない。
普段はコンピュータとばかり睨めっこしている彼が、よほど時間が気になるのだろう、今日の睨めっこの相手は壁掛け時計や腕時計。とにかく時計だ。
しかもあからさまにそわそわとしている顧問のその態度に、研究員たちの間でさまざまな憶測が飛び交った。

「あれは確実に女ね」
「ホープさんは仕事が恋人でしょ?それはあり得ないって」
「いや、ついに出来たんだよ。彼女が」
「それで今日はその彼女とデートってわけね」

納得!と頷き、研究員AとBの会話に研究員Cが割り込んでくる。
人類の新たな箱舟のため、未だクリスタルの支柱の底に眠る仲間を救出するため、顧問は寝る間も惜しんで研究に勤しんでいる。
そんな彼を支え、癒すことの出来る存在が現れたというのであれば、それは喜ぶべきことなのではないか。
彼の追っかけをしている面々や密かに恋心を抱いている研究員たちの心は穏やかではないだろうが、顧問の身を案じる派の想いとしては非常に喜ばしいことだ。

「相手はどんな人なのかな」
「職場恋愛だったりして」
「受付嬢とか?」
「接点無くない?それなら同じ研究者の誰かだよ」
「だとしたらどのユニットだろう?」

それぞれが何かを探るような目で顔を見合わせる。
気になるなら顧問に直接聞いてみればいい。こんなに悶々とした気持ちのままでは研究に集中なんて出来ない。
研究員Bは意を決して顧問に近付いた。

「顧問、今日は一日落ち着かないですね」

研究員Bが訊ねると、顧問はハッと我に返り、すみませんと自らの体たらくを謝罪した。

「いえ、ただ珍しいなと。いつもは時間なんて気にせず夜中までアカデミーに残っているので。この後用事でもあるんですか?」
「用事というか、そのーー子猫が家で待ってるんです」
「こ、こねこ......ですか」
「ええーーとても可愛いんですよ」
「......かわいい」
「ワガママなところもありますけどね」

そう苦笑する顧問の表情がとても柔らかくて、優しくて。ああ、これは完全に女だ。と、確信してしまった。
女を子猫と表現するだなんて顧問じゃなければドン引きレベルだが、こんなにも嬉しそうな顔で惚気られてしまったらもはや笑うしかない。
ついに最高顧問に恋人が出来てしまった。今夜はその可愛くてワガママな子猫ちゃんを朝まで可愛がるつもりだ。

「ーー?どうしました?」
「......いえ。ちょっとイケナイ妄想を」
「......は?」

比喩でも何でもなく本物の子猫のことだとは思いもせず勝手にショックを受ける研究員Bと妄想を繰り広げて興奮している研究員AとC。
本物の子猫のことで頭がいっぱいなアカデミー最高顧問・ホープ・エストハイム。
そんなすれ違いコントのような光景を傍らで見ていた研究員DとEは、昨夜顧問に猫を飼ってみたらどうかと勧めた二人だ。

「誤解、解いたほうがいいかな?」
「いいんじゃない?このままで」
3/3ページ