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最高顧問と猫



飼い主が見つかるまでの一時的な期間とはいえ、これまで動物を飼ったことがないホープは全く知識がない分野を任され戸惑った。
まさか自分が猫と同居する時が来ようとは。

アカデミー付近で見つけた子猫。あれから研究員の一人が保護する流れになっていたのだが、子猫は何故かホープから離れようとはしなかった。
離れるどころか帰路を急ぐホープの後ろをちょこちょこと付いて来る。
気になって後ろを振り返ると子猫はぴたりと足を止め、ホープが歩き出すとまたちょこちょこと付いてくるのだ。
子猫とのダルマさんが転んだ状態が数回続いた後で、ついにホープのほうが折れた。
元の場所からだいぶ離れてしまい、このままでは更に迷い子になって探すことが困難になるだろうと危惧し、飼い猫が見つかるまでという条件をつけた上で、保護することにしたのだ。
しょうがないなぁ。と苦笑し、子猫を抱きかかえると、子猫は再びホープの肩によじ登った。






自宅のリビングに子猫を降ろすと、見知らぬ場所に警戒しているのか、子猫は硬直したまま目だけをキョロキョロとさ迷わせている。
少し距離を置いたところで屈みながら"おいで"と声を掛けるが、子猫はただホープを見つめてピクピクと耳を動かすだけで、その場から動こうとはしなかった。
ーーさっきまでは肩に乗るくらい懐いてくれてたのにな
やはり環境が変わると警戒心が強くなるのだろう。保護したつもりが人間の住処は却ってストレスになるのかもしれない。

通信端末でアカデミア全域の迷い猫情報を検索してみるが、今のところ子猫を探しているという情報は流れていない。
数日は様子を見るしかなさそうだが、ホープ自身週に数回しか帰らない不在がちの部屋に猫を住まわせるわけにもいかず、なるべく早く飼い主を見つける必要があった。

「喉乾かないか?お腹も空いてるよな」

キッチンへと向かい、小皿に水を入れて、床に置く。
子猫が牛乳を飲む姿はテレビや本などで見たことはあったが、人間用の物は与えてはいけないらしい。
だからと言って子猫用のミルクなんてものは家には無いし、この時間だと動物病院やホームセンターも閉まっている。
キャットフードは26時間営業のストアで買えたが、猫の年齢に合わせたフードが何種類も置かれていて頭を悩ませた。
見た目や手のひらに乗っかるサイズであることから子猫用を選んだが、食べてくれるのだろうか。

「ほら、ご飯だよ」

小皿に出したキャットフードを水の隣に置くと、その匂いに釣られて子猫が恐る恐ると近づいてくる。
クンクンとフードの匂いを嗅ぎ、それが食べられる物だと認識した瞬間、ガツガツとものすごい勢いで食べ始めた。
よほどお腹を空かせていたのだろう。



「......おまえの名前は何て言うんだろうな」

その見事な食べっぷりを眺めながら、ホープは呟く。

最初から野良であるなら名前はないのだろうが、飼い猫の可能性も捨てきれない。
此方が勝手に名前を付けていいものか悩みどころだが、呼び名が無いというのも不便だ。

真っ白な毛色をしているからシロ、だろうか。
ーー安易過ぎるか?それならスノーとか?と思考を巡らせたあとで、セラさんが飼い猫にスノウと名付けたと言っていたことを思い出し、苦笑する。
あの男は猫というより大型犬だ。
スノウの名は却下したが、滑らかな毛並みからサッズさんでもない。
最初の人懐っこさはヴァニラさんっぽい気もしたが、目が鋭くなるとライトさんっぽくもあり、牙の鋭さからファングさん......なんて考えながら仲間のことを思い出すが、彼女たちの名で呼んだら後で何を言われるか分からない。やめておこう。


ーーそういえばこの子猫のほわほわとした見た目はいつかどこかで見た白い羽根の形をした"アレ"に似ているような気がする

あの武器の名は確か......

今はあまり毛並みが揃ってないが、それでも撫でたら羽根のようにふわふわで、柔らかい。

「......エールブラン」

猫というより馬に付けられそうな名前だが、悪くない。と、心の中で納得していると、いつのまにかご飯を食べ終わっていた猫がホープの足元に擦り寄ってきた。
お腹も満たされ、少しは警戒も解けたのだろう

「全部食べたんだな。いい子だ」

「みゃう」

ホープが顎を撫でると、たった今武器の名を付けらてしまったとは知らず、子猫は気持ち良さそうに目を細め、喉をごろごろと鳴らした。


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