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最高顧問と猫



比較的何時もより早く仕事が片付き、ホープはアカデミー本部を出た。
高層ビルが立ち並ぶ大都市の夜は建物や街灯の灯りで明るく、人通りも絶えることはない。
それでも普段よりメインストリートが賑やかだと感じるのは、ちょうど今が一般的な帰宅時間帯だからだろう。
本部が目の前にあるので当然ではあるが、周囲はアカデミーの制服を着た研究員の姿が目立つ。その中に見知った研究チームの面々を見つけ、ホープはふと足を止めた。
彼女らは何かを囲むようにしてその場に屈み込み、通信端末で写真を撮っている。何か珍しいものでもあるのだろうか。
気になって思わずその輪の後ろから足元を覗き込むと、ホープに気付いた研究員達は驚いた顔で立ち上がった。普段は深夜まで本部に詰めているホープとこんな時間帯に外で出くわすとは思わなかったのだろう。

「ほ、ホープさん!?お疲れさまです!!今日は早いですね?」
「ええ、たまにはゆっくり休もうと思いまして。それより、何か気になるものでも?」
「猫ですよ」
「猫?」

見てくださいと研究員が促す視線の先には、手のひらサイズの真っ白な子猫がいた。人馴れしているらしく、これだけの人間に囲まれても我関せずというようにぺろぺろと毛繕いをしている。飼い猫だろうか。それにしてはあまり毛並みが良くないような気がする。

「首輪もないし、捨て猫でしょうか?」
「どうでしょう。元々野良の可能性もありますがーー」

と呟いて、ホープはふとある人物を思い出す。
俺たちノラは軍隊よりも強い!そう声を上げていたチームとそのリーダーであった仲間のスノウ。そして、その名を持つ自分の母親の顔を。
その響きが少しだけ懐かしく、ホープは目を細めた。

「みゃう」
「ーーえ?」

遠い過去に一瞬だけ思いを馳せていると、くりっとした大きな目と視線が合い、ホープは我に返った。子猫特有の幼い鳴き声に、再び研究員達の可愛い~!という甲高い声が上げる。

......確かに可愛い。

目が合ったと思ったら今度はホープの足元にすりすりと擦り寄ってきた。

「あれ?私達には全然寄ってこなかったのに!顧問、懐かれてますね」
「面食いなのね、子猫ちゃん」

くすくすと笑う彼女たちに苦笑しつつも、ホープはその場に屈み、ふわふわ柔らかそうな体を撫でてみた。
勿論、その手触りを堪能するため、グローブを外すのも忘れずに。





「......参ったな」

まさかこんなにも懐かれるとは思わなかった。
ホープに撫でられた子猫は、ごろごろと喉を鳴らし、もっと撫でてと言わんばかりにお腹を見せている。
ここまで無防備だと、飼い猫である可能性が高くなってきた。

「顧問が飼われたらどうですか」

研究員の一人がそう提案するが。

「実は僕動物を飼ったことがなくて」
「嫌いなんですか?」
「そんなことないですよ」

むしろ子どもの頃にグラン=パルスで出会ったチョコボや羊は触り心地が良くいつまでも撫でていられた。どちらかというと動物は好きなほうだと思う。
思うのだがーー

「わ、こら...!」

子猫はすかさずホープの膝にぴょんと飛び乗り、ネクタイに爪を掛けると、ホープの体を素早くよじ登っていく。
アカデミーの制服は生地が厚手なので、爪が刺さって痛いということはないのだが、いきなり体をよじ登られたら誰だって驚くだろう。
子猫はホープの肩に乗るなり、ホープの頬をぺろぺろと舐め始めた。

「はは。そこはダメだ、くすぐったいだろ?」

ホープが笑い、子猫に声を掛けた瞬間。

「......っ!!こ、顧問!!あの!写真撮らせてください!!」
「......は!?」
「わ、私にも撮らせてください!」
「えっと私も!!」

イケメンと猫が戯れている。
その組み合わせがあまりにも破壊力がありすぎてホープがアカデミー最高顧問という立場も忘れて研究員たちは荒ぶり始めた。こぞって通信機内蔵のカメラまで起動し始めている。

「落ち着いてください!そんなに興奮することですか!」
「興奮するに決まってるじゃないですか!はい!顧問!カメラ目線!」
「ちょっ......何なんですか、一体!?」

反射的にカメラに目を向けると、カシャカシャという複数のシャッター音が飛び交い、ホープはもはや呆然とするしかない。もうどうにでもしてくれというのが正直な思いだ。

「みゃう」

ホープを不思議そうに見つめる子猫は、未だホープの肩から降りる気配はなく、左肩と右肩をちょこちょこ行き来している。さて、どうしたものか。

「とりあえず、飼い主が見つかるまで顧問の家で保護するというのはいかがです?」

困り果てたホープにそう提案したのは研究員の誰だっただろう。


ホープはこの後、子猫を肩に乗せたまま自宅へ帰ることになる。





*最高顧問と猫
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