もしも虎杖悠仁と夏目貴志が出会ったら
「見つけるって何をだ?俺に何をさせる気だ?」
「それよりも今はこの部屋から出るぞ。ここは血なまぐさい。」
「え?」
青い鳥の妖がそう言って、俺はそこでやっと自分のいる部屋を見回した。
窓から僅かに差し込む光がうっすらと部屋を照らす。最初は暗くてよく分からなかったが、目が暗闇に慣れてきたこともあって、俺は部屋の中を初めて確認した。
そして、見てしまった。俺はそれを後悔した。
「う……っ!」
壁一面に貼り付けられたそれを見た瞬間、俺は血の気が一気に引いた気がした。
それは皮だった。綺麗に剥ぎ取られたそれは、人の顔の形をしていた。
最近剥ぎ取ったような綺麗なものから、もはや肌色の名残すら残していないほど腐りきって、肌の色が変色した皮もあった。
それが、部屋の壁一面に貼り付けられている。
恐らくは有一がこれまで被害者から集めてきた顔の皮だろう。
そう頭が理解した瞬間、俺は喉から一気にせり上がってきた吐き気に逆らえず、吐き出してしまった。
「う……うえっ!……おぇっ!」
「ちっ、これしきのことで。これだから弱き人の子は…!」
青い鳥の妖が面倒くさそうに舌打ちをする。
今更になって、部屋に充満する血なまぐさい匂いに気づいて吐き気が止まらない。
気持ち悪い。そしてどうしようもなく恐ろしい。
死の匂いが充満するこの部屋は、これまで平穏な日々を送っていた夏目にとって恐怖でしかなかった。
床に手をついてオエオエと吐き続ける俺を、青い鳥の妖はやれやれと呆れたように見つめる。
「いつまでそうしているつもりだ。有一が戻ってくる前に早くここを出るぞ。」
「……っ、ああ、すまない。」
俺は口元を袖で乱暴に拭うと、ふらつきながらも立ち上がった。
確かにいつまでもこんな所にいるのは嫌だ。
俺は僅かな光を頼りに、なるべく壁を見ないようにして扉を目指した。
幸いにも部屋の扉に鍵は掛けられておらず、すんなりと部屋から脱出することができた。
あの血なまぐさい部屋から出られたことにほっと安堵の息を吐き出す。
すると青い鳥の妖は俺の肩にとまると、バサリとその美しい羽を広げた。
「さあ行け!人の子!」
「……何処に向かう気だ?」
「無論、我が運命の番!妻の元へだ!」
「お前、奥さんいるのか?」
「ああ!いるとも。有一に封印されてしまったがな。」
「え?」
封印された。という言葉に俺は思わず青い鳥の妖を見た。
すると青い鳥の妖は翼を自分の口元に持っていき、考えるような仕草をした。
「ふむ、お前には協力してもらうのだから話しておくべきか。良いだろう。歩きながら話してやろう。」
青い鳥の妖は、自分を蒼と名乗った。
そして彼はまるで御伽噺を語って聞かせるように、話し始めた。
それは残酷な哀しい御伽噺。
とある裕福な家庭に双子の兄弟が生まれた。
双子はとても美しい容姿をしていた。双子は両親にとってとても自慢の存在だった。
けれど双子の兄には一つだけ家族とは違うところがあった。
それは彼には妖が見えていたことであった。
彼はある日、屋敷の絵に封じ込められていた妖の封印を解いてしまい、友として仲良くなる。
それが蒼とその番である紅という二羽の妖であった。
二羽は絵の中を住処として渡る鳥の妖で、ある絵画の中に住んでいたところ、祓い屋に見つかりそのまま絵の中に封印されてしまったらしい。
そして時は流れて、たまたま流れ着いたのがこのお屋敷だったのだ。
二羽の妖と少年、有一はすぐに仲良くなった。
妖が見える有一は家族から気味悪がられていた。それでも、蒼と紅と仲良くしていた。
そんなある日、家政婦が盗みを働いた際に証拠隠滅のために家に火を放ち、その火事で有一は顔に火傷を負ってしまう。
そうして顔が醜くなった有一を両親は明らかに弟と差別するようになった。
顔の醜い有一を表では療養ということにして、部屋に閉じ込めて監禁するようになった。
始まった暴力と差別に、有一は弟を呪うようになる。
友の妖たちだけが心の支えだった。
そんなある日、弟と喧嘩をした有一を両親は激しく罵倒した。
そうして彼の心は完全に壊れてまう。
ある日両親が出かけている間に弟を殺して、その顔の皮を奪った。
しかし、両親はそれでも両親は愛してくれなかった。
それどころか自分を殺そうとしてきた。
その恨みは呪いとなって、彼は呪霊へと変貌した。
以来、有一は屋敷に訪れた美しい顔を持つ男の顔を奪うようになる。
それ以外の人間は美しさを保つための生贄として血を抜いていた。
死体から呪いの気配がしなかったのは、妖たちが手を貸していたから。
蒼たちは呪霊となった有一から逃げようとしたが、紅を人質に取られて協力させられていたという事らしい。
その紅は、この屋敷の何処かの絵画の中に封印されているのだとか。
それが、この屋敷で起こっている謎の死亡事件の真相だった。
「有一はもはや我等の知る優しい心を持った有一ではない。だから我等は逃げようとした。
しかし、この屋敷から離れることができない有一は紅を盾に我に協力しろと言ってきたのだ。」
「それで、お前が協力して人を襲ったのか?」
「……ああ、この屋敷を一度でも訪れた人間には有一がマーキングをする。その後は我がそれを辿って人を襲うという流れだ。」
「そうか。人を直接襲ったのは妖である蒼だから、現場に呪力が残らなかったのか。だから最初は祓い屋である名取さんが……」
「そう言えば、少し前にやけに面のいい祓い屋が来たな。有一が気に入っていたが……」
「名取さんを知っているのか!?」
蒼が何気なく呟いた一言に、俺は過敏に反応する。
だって今、聞き捨てらないことを言っていたから。
やけに面のいい祓い屋と言った。それはまさか名取さんのことではないか?
俺が血相を変えて尋ねたからか、蒼が「なんだ、知り合いだったのか?」と呑気に聞いてきた。
「友人なんだ!教えてくれ、名取さんは無事なのか!?」
「生きていはいるんじゃないか?」
「案内してくれ!」
「それよりも我が妻をだな!」
「名取さんを助ける方が先だ!」
「……ふむ、良いだろう。案内する代わりに、我妻を助けると約束しろ。」
「……分かった。約束するから案内してくれ。」
俺が約束すると言うと、蒼は満足そうに頷いた。
そして蒼はこっちだと言って俺の肩から羽ばたこうと羽を広げた。その時……
「あっ!いたーーー!!」
「なっ?……虎杖!」
長い通路を歩いていると、少し先の曲がり角から虎杖たちが走ってくるのが見えた。
俺と目が合うと、虎杖は俺を指差して大声で叫んだ。
「夏目!無事か!?」
「あっ、ああ……俺は大丈夫だ!」
「つーか肩!あんた何でそいつと一生にいんのよ!?」
「あっ!!マジで!?何でそいつといんの!?」
「説明しろ夏目。」
「そーだ説明しろ、阿呆めが!」
「待ってくれ!一気に喋らないでくれー!」
俺が自分たちを襲った蒼と一緒にいたことで、釘崎たちは混乱したようだ。
全員に説明しろと迫られて、俺は仕方なく蒼に聞かされた話をみんなにも説明する羽目になった。
俺が話し終えると、釘崎、虎杖は複雑そうな表情を浮かべた。伏黒は何かを考えているのか、眉間に皺を寄せて険しい顔をしていた。
ニャンコ先生と的場さんに至っては無言だ。
「有一って子供、可哀想だな。」
「確かに境遇には同情するけど、だからって呪霊になって人を殺していい理由にはならないわよ。」
「まあそうだけどさ。」
「……この結界を作っている呪霊はその子供で間違いなさそうだな。気配からして特級……幸いなのはまだ呪霊になって間もないってことか?」
「この未熟な結界からして、まだ己の力の使い方を知らんのだろう。祓う(やる)なら早い方がいいぞ。」
「待ってくれ。まずその前に名取さんを助けたい。」
「そうだな!夏目の知り合いなんだっけ。」
「まあ、呪霊を倒したら領域も閉じるから、生きているなら早く助けた方がいいな。」
「よっし!じゃあ決まりね!」
釘崎が両手をパンっと叩くと、皆が一斉に頷いた。
まずは人命第一。ということで名取さんを助けることになった。
休戦協定を結んだとは言え、蒼は一度は俺たちを襲ってきた。
だから伏黒は蒼の言葉を信じられないと警戒して言ったのだが、いざとなれば釘崎が拾った羽根でとどめを刺すと脅したことでとりあえずは名取さんが囚われているだろう場所へと向かうことになった。
「それよりも今はこの部屋から出るぞ。ここは血なまぐさい。」
「え?」
青い鳥の妖がそう言って、俺はそこでやっと自分のいる部屋を見回した。
窓から僅かに差し込む光がうっすらと部屋を照らす。最初は暗くてよく分からなかったが、目が暗闇に慣れてきたこともあって、俺は部屋の中を初めて確認した。
そして、見てしまった。俺はそれを後悔した。
「う……っ!」
壁一面に貼り付けられたそれを見た瞬間、俺は血の気が一気に引いた気がした。
それは皮だった。綺麗に剥ぎ取られたそれは、人の顔の形をしていた。
最近剥ぎ取ったような綺麗なものから、もはや肌色の名残すら残していないほど腐りきって、肌の色が変色した皮もあった。
それが、部屋の壁一面に貼り付けられている。
恐らくは有一がこれまで被害者から集めてきた顔の皮だろう。
そう頭が理解した瞬間、俺は喉から一気にせり上がってきた吐き気に逆らえず、吐き出してしまった。
「う……うえっ!……おぇっ!」
「ちっ、これしきのことで。これだから弱き人の子は…!」
青い鳥の妖が面倒くさそうに舌打ちをする。
今更になって、部屋に充満する血なまぐさい匂いに気づいて吐き気が止まらない。
気持ち悪い。そしてどうしようもなく恐ろしい。
死の匂いが充満するこの部屋は、これまで平穏な日々を送っていた夏目にとって恐怖でしかなかった。
床に手をついてオエオエと吐き続ける俺を、青い鳥の妖はやれやれと呆れたように見つめる。
「いつまでそうしているつもりだ。有一が戻ってくる前に早くここを出るぞ。」
「……っ、ああ、すまない。」
俺は口元を袖で乱暴に拭うと、ふらつきながらも立ち上がった。
確かにいつまでもこんな所にいるのは嫌だ。
俺は僅かな光を頼りに、なるべく壁を見ないようにして扉を目指した。
幸いにも部屋の扉に鍵は掛けられておらず、すんなりと部屋から脱出することができた。
あの血なまぐさい部屋から出られたことにほっと安堵の息を吐き出す。
すると青い鳥の妖は俺の肩にとまると、バサリとその美しい羽を広げた。
「さあ行け!人の子!」
「……何処に向かう気だ?」
「無論、我が運命の番!妻の元へだ!」
「お前、奥さんいるのか?」
「ああ!いるとも。有一に封印されてしまったがな。」
「え?」
封印された。という言葉に俺は思わず青い鳥の妖を見た。
すると青い鳥の妖は翼を自分の口元に持っていき、考えるような仕草をした。
「ふむ、お前には協力してもらうのだから話しておくべきか。良いだろう。歩きながら話してやろう。」
青い鳥の妖は、自分を蒼と名乗った。
そして彼はまるで御伽噺を語って聞かせるように、話し始めた。
それは残酷な哀しい御伽噺。
とある裕福な家庭に双子の兄弟が生まれた。
双子はとても美しい容姿をしていた。双子は両親にとってとても自慢の存在だった。
けれど双子の兄には一つだけ家族とは違うところがあった。
それは彼には妖が見えていたことであった。
彼はある日、屋敷の絵に封じ込められていた妖の封印を解いてしまい、友として仲良くなる。
それが蒼とその番である紅という二羽の妖であった。
二羽は絵の中を住処として渡る鳥の妖で、ある絵画の中に住んでいたところ、祓い屋に見つかりそのまま絵の中に封印されてしまったらしい。
そして時は流れて、たまたま流れ着いたのがこのお屋敷だったのだ。
二羽の妖と少年、有一はすぐに仲良くなった。
妖が見える有一は家族から気味悪がられていた。それでも、蒼と紅と仲良くしていた。
そんなある日、家政婦が盗みを働いた際に証拠隠滅のために家に火を放ち、その火事で有一は顔に火傷を負ってしまう。
そうして顔が醜くなった有一を両親は明らかに弟と差別するようになった。
顔の醜い有一を表では療養ということにして、部屋に閉じ込めて監禁するようになった。
始まった暴力と差別に、有一は弟を呪うようになる。
友の妖たちだけが心の支えだった。
そんなある日、弟と喧嘩をした有一を両親は激しく罵倒した。
そうして彼の心は完全に壊れてまう。
ある日両親が出かけている間に弟を殺して、その顔の皮を奪った。
しかし、両親はそれでも両親は愛してくれなかった。
それどころか自分を殺そうとしてきた。
その恨みは呪いとなって、彼は呪霊へと変貌した。
以来、有一は屋敷に訪れた美しい顔を持つ男の顔を奪うようになる。
それ以外の人間は美しさを保つための生贄として血を抜いていた。
死体から呪いの気配がしなかったのは、妖たちが手を貸していたから。
蒼たちは呪霊となった有一から逃げようとしたが、紅を人質に取られて協力させられていたという事らしい。
その紅は、この屋敷の何処かの絵画の中に封印されているのだとか。
それが、この屋敷で起こっている謎の死亡事件の真相だった。
「有一はもはや我等の知る優しい心を持った有一ではない。だから我等は逃げようとした。
しかし、この屋敷から離れることができない有一は紅を盾に我に協力しろと言ってきたのだ。」
「それで、お前が協力して人を襲ったのか?」
「……ああ、この屋敷を一度でも訪れた人間には有一がマーキングをする。その後は我がそれを辿って人を襲うという流れだ。」
「そうか。人を直接襲ったのは妖である蒼だから、現場に呪力が残らなかったのか。だから最初は祓い屋である名取さんが……」
「そう言えば、少し前にやけに面のいい祓い屋が来たな。有一が気に入っていたが……」
「名取さんを知っているのか!?」
蒼が何気なく呟いた一言に、俺は過敏に反応する。
だって今、聞き捨てらないことを言っていたから。
やけに面のいい祓い屋と言った。それはまさか名取さんのことではないか?
俺が血相を変えて尋ねたからか、蒼が「なんだ、知り合いだったのか?」と呑気に聞いてきた。
「友人なんだ!教えてくれ、名取さんは無事なのか!?」
「生きていはいるんじゃないか?」
「案内してくれ!」
「それよりも我が妻をだな!」
「名取さんを助ける方が先だ!」
「……ふむ、良いだろう。案内する代わりに、我妻を助けると約束しろ。」
「……分かった。約束するから案内してくれ。」
俺が約束すると言うと、蒼は満足そうに頷いた。
そして蒼はこっちだと言って俺の肩から羽ばたこうと羽を広げた。その時……
「あっ!いたーーー!!」
「なっ?……虎杖!」
長い通路を歩いていると、少し先の曲がり角から虎杖たちが走ってくるのが見えた。
俺と目が合うと、虎杖は俺を指差して大声で叫んだ。
「夏目!無事か!?」
「あっ、ああ……俺は大丈夫だ!」
「つーか肩!あんた何でそいつと一生にいんのよ!?」
「あっ!!マジで!?何でそいつといんの!?」
「説明しろ夏目。」
「そーだ説明しろ、阿呆めが!」
「待ってくれ!一気に喋らないでくれー!」
俺が自分たちを襲った蒼と一緒にいたことで、釘崎たちは混乱したようだ。
全員に説明しろと迫られて、俺は仕方なく蒼に聞かされた話をみんなにも説明する羽目になった。
俺が話し終えると、釘崎、虎杖は複雑そうな表情を浮かべた。伏黒は何かを考えているのか、眉間に皺を寄せて険しい顔をしていた。
ニャンコ先生と的場さんに至っては無言だ。
「有一って子供、可哀想だな。」
「確かに境遇には同情するけど、だからって呪霊になって人を殺していい理由にはならないわよ。」
「まあそうだけどさ。」
「……この結界を作っている呪霊はその子供で間違いなさそうだな。気配からして特級……幸いなのはまだ呪霊になって間もないってことか?」
「この未熟な結界からして、まだ己の力の使い方を知らんのだろう。祓う(やる)なら早い方がいいぞ。」
「待ってくれ。まずその前に名取さんを助けたい。」
「そうだな!夏目の知り合いなんだっけ。」
「まあ、呪霊を倒したら領域も閉じるから、生きているなら早く助けた方がいいな。」
「よっし!じゃあ決まりね!」
釘崎が両手をパンっと叩くと、皆が一斉に頷いた。
まずは人命第一。ということで名取さんを助けることになった。
休戦協定を結んだとは言え、蒼は一度は俺たちを襲ってきた。
だから伏黒は蒼の言葉を信じられないと警戒して言ったのだが、いざとなれば釘崎が拾った羽根でとどめを刺すと脅したことでとりあえずは名取さんが囚われているだろう場所へと向かうことになった。
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