もしも虎杖悠仁と夏目貴志が出会ったら

注意書き

・この作品では妖怪と呪霊は別物としています。又、それを祓う祓い屋と呪術師も違う組織となっています。

・呪術師の使う呪力と呪術は祓い屋の使う術とは異なるものとしています。

・今回のお話の説明で色々と分かりにくいところや矛盾な点があるかもしれません。
作者の乏しい知識で懸命に考えた世界観でも宜しければご覧になってください。



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神と呼ばれるモノが人間の信仰心から生まれる存在なら、呪霊は真逆の存在である。
呪霊というのは、恨みや後悔、恥辱など、人間の身体から流れた負の感情が具現し意思を持った異形の存在。
相手を恨み、憎む気持ちや妬む気持ち。それらの負の感情が呪いという形となって具現化する。呪霊もその一種である。
こんなオバケがいたら怖いな。こんなのがいたら不気味だなとか、かの有名なトイレの花子さんや口裂け女、人面犬などの人々が怪異と呼ぶ存在はそんな噂や人々の恐怖心から生まれた呪霊である。
又、九尾の狐や河童、鬼などの古来より妖や妖怪と呼ばれる存在は、自然発生した異形の物の怪である。
人間の負の感情から生まれる呪霊は子を作れないのに対して、妖怪は人間と同じように親から子へと血を、子孫を残していくことが出来る。
呪霊と同じように人ならざる異形の存在ではあるが、呪霊と大きく異なるのは何よりその知性である。
呪霊には人を殺す力のない蠅頭(ようとう)と呼ばれる階級から特級と呼ばれる天災クラスのやばいモノが存在するが、特級呪霊以外の呪霊は、人語を理解する知能はあっても、人語を話せないのだ。
それに対して妖怪は低級でも人の言葉が話せるのだ。
まれに上級の妖怪でも知能がなく、人の言葉を解せずに話すこともできない大妖もいるが、殆どは低級上級に限らずに人語を話す知性を妖怪は持っている。それは人型も獣型も変わらず同様にである。
それ等の知能の高さから、祓い屋などの妖専門の退治屋は、死霊以外に妖を式として使役する者が多い。
呪術師と祓い屋。どちらも異形の存在を退治することを生業とする人間の組織である。
呪術師が呪術を用いて呪霊を退治する組織なら、祓い屋は妖怪専門の退治屋だと言える。
それぞれの専門の術を持っており、それは家系によって特殊なものもあると言う。


「――という訳だ。」
「……なる、ほど?」
「ああ、よく分かったよ。」
「夏目は理解出来たようだな。虎杖は怪しいが。」
「いや、なんとなくは分かったぜ。なんとなくは。」
「そうかよ。」

なんだかはっきりしない虎杖の言葉に、伏黒は呆れたように返す。

「妖と呪霊の違いは理解出来たが、呪術師と祓い屋の違いはなんだ?」
「呪霊は呪術でしか祓えない。だが妖怪は呪術でも祓える。それでも祓い屋なんて妖怪専門の組織があるのは、呪術師になれる術師が少ないからだ。霊力があっても、それを呪力に変換できる力がなければ呪術師にはなれないからな。そもそも、祓い屋と呪術師では扱う力が根本的に違うんだよ。妖怪や霊は霊力がある人間なら誰でも見れるが、呪霊は呪力を持つ人間にしか見えない。死に際とか、呪霊の力が高まってる時は別としてな。呪力は怒りとか憎しみとか、人間の負の感情を呪いとして捻出した力のことだ。だから呪いは呪いでしか祓えない。呪術師の使う呪術は、霊力を感情で呪力に変質させ、術式として発動させる力なんだ。それは多様多種であり、呪術が使えるかはほぼ天性の素質によるものが大きい。だから呪術師になるのはほぼ生まれた時から呪霊が見えてる奴が多い。たまに何らかの影響で後天的に呪力に目覚める奴もいるけどな。その点、祓い屋の使う術式は霊力がある人間なら誰でも使える。だから祓い屋と呪術師は別物なんだ。」
「へ〜、そうだったんだ。でもさあ、妖怪と呪霊って見分けつかなくね?」
「見た目だけならどっちも化け物だからな。言葉を話せるか否かで判断するか、後は力の本質を見抜くしかない。」
「本質?」
「呪霊は呪力。妖怪は妖力を持ってる。神なら神力とかな。気配が違うんだよ。」
「伏黒は区別つくのか?」
「まーな。」
「すげー!あっ、でも。確かにこいつから感じるのってなんかいつも見てる呪霊とは違うって感じがするかも。呪霊はさ、なんかゾワゾワ〜ってすんのに、こいつはザワザワってなる!」
「何言ってるのかわっかんねーわ!」

虎杖が身振り手振りでなんとか自分の感覚を伝えようとするが、釘崎は分かりにくいとツッコミを入れていた。
そんな二人を伏黒は呆れた眼差しで静かに見つめるだけで、会話に入る気は無いらしい。
そんな三人をどうしたもんかと困りながら眺めていると、倒れていた一つ目の妖がのそりと起き上がった。
それに気づいた俺は咄嗟にハッとして叫んだ。

「危ない!」
ドカッ!
「ぐぎゃぁ!」
「「あっ!」」

一つ目の妖の動きにいち早く気づいたのは虎杖であったが、それよりも一番妖の近くにいた夏目が先に拳を振り上げていた。
夏目が渾身の力を込めて振り上げた拳は、妖の顔面に深くめり込んだ。妖は堪らずに顔を両手で抑えて蹲る。

「いたぁい!」
「夏目すげぇ!」
「……あんなに細いのに。」
「やるわね。ヒョロいから非力なのかと思ってたわ。」

女の子のように華奢な体つきの細い夏目の腕から、まさかこんな威力のパンチが出てくるとは思わなかった三人は、ギョッとその様子を見ていた。
しかし、夏目が強いと分かるや否や、虎杖は目を輝かせてすごいと感激し、伏黒は唖然とし、釘崎は意外そうに感心していた。
一つ目の妖は「ぅぅ、痛い」と唸りながら悶えた後、ヨロヨロと立ち上がって何処かへと逃げるように走り出した。

「あっ!待て!」
「虎杖、待ってくれ!」
「夏目!?何でだよ!」

逃げようとする妖を虎杖が追いかけようとすると、夏目が彼の肩を掴んで止めた。
それに虎杖は何故止めるのかと言いたげに見つめる。

「あの妖は見逃してやってくれ。」
「けどよ!」
「何でよ。人を襲う妖怪なら殺すべきでしょ!?」
「俺が嫌なんだ!」

そうこう揉めているうちに、妖は山の方へと逃げ去ってしまった。
それを目で追っていた伏黒は、はあっと深いため息をついて夏目を見る。

「お前、なんであの妖を庇ったんだ?」
「何でって……殺すことないだろ?」
「人を襲う妖怪なんだぞ。」
「だけど!」
「お前、甘いな。」
「っ!」
「あの妖を見逃したことで、別の誰かが襲われたらどうする?お前のせいで死ぬことになるんだぞ。」
「そ、れは……」

伏黒はまるで責めるように真っ直ぐに夏目の目を見据えてくる。
それに思わず夏目は気まずくて目を逸らしてしまった。
重い空気が張り詰める中、釘崎がパンパンと気持ちを切り替えるように手を叩く。

「はいはい、もういいじゃない。夏目は一般人なんだから化け物でも殺すとか躊躇うのはしょうがないでしょ?そういうのは私等の領分なんだから。伏黒もマジになんないの。」
「……わりぃ。」
「いや……」

伏黒はバツが悪そうに謝ってきた。それに夏目は気まずそうに頷くしか出来なかった。
彼等の言うことは理解できるのだ。それでも、妖を簡単に殺していいと思えないのは、夏目が妖との関係を大切に想っているからである。
妖は確かに人を襲うし、食べてしまう恐ろしい存在だ。けれど、妖だから、化け物だからとそれだけの理由で殺してしまえるような、そんな危険な存在だけだと思いたくないのだ。
妖の中には、人を慈しみ、愛そうとしてくれる優しい者もいるのだから。
夏目はそれを知っているから。だから簡単に殺すなんてことはできないのだ。
例え自分を襲ってきた妖だとしても……

「それよりも、さっさと事件現場に行くわよ!」
「そうだっだ!伊地知さん待たせてた!」

釘崎の言葉に此処に来た本来の目的を思い出したのか、虎杖が慌てた様子で叫ぶ。
それに伏黒は呆れたようにため息をついた。

「わりぃ夏目!俺たち行かないと!あっ!スマホとか持ってる?LINE交換しねぇ?」
「えっ、いやすまない。俺は携帯を持ってなくて。」
「えっ、マジで!?じゃあどこ高?後で会いに行くわ!」
「え?ああ、いいけど……古内高等学校だ。」
「りょ!またな!」
「たくもう!じゃあね!」
「さっきは悪かった。じゃあな。」
「あっ、ああ。」

それぞれが夏目に別れの言葉を言うと、虎杖たちは慌ただしく走り去って行った。
それをまるで嵐が過ぎ去ったような気持ちで夏目は呆然と見送ったのであった。
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