もしも虎杖悠仁と夏目貴志が出会ったら
領域の中の薄暗い屋敷の通路を歩くと、ギシギシと年月で劣化した木材の床が軋む音が大きく響く。
領域内のせいか屋敷の内部はとても広くなっており、一度進んだ道は戻って来れそうにはなかった。
しかし夏目たちを誘導するように前を飛ぶ蒼に迷いはなく、どこへ向かえばいいのか分かるようだった。
名取さんは無事だろうか。蒼が言うには生きていると言っていたが、それが無事であるかはまだ分からない。
もう行方不明になって二週間も経過しているのだ。名取の状態が心配であった。
「ーーここだ。」
やがて蒼が一つの扉の前でそう言葉を発した。
ここに名取さんがいる。そう思うとはやる気持ちで夏目は扉に手をかけた。
するとピリリという紙が破ける音と共に扉は開かれた。
バンっ!
「ーー名取さん!」
「うわぁぁぁ!………………夏目!!?」
扉を開け放つと同時に部屋に飛び込めば、中にいた名取が叫び声を上げる。
驚いたように目を大きく見開いて叫んだが、相手が夏目だとわかると、明らかにほっとしたように息を吐いて夏目の名を呼んだ。
「……なんだ夏目か……びっくりしたじゃないか……てっきりアイツが来たのかと身構えってしまったよ。」
「名取さん無事だったんですね!」
てっきり有一が襲ってきたのかと思ったのか、名取は余程警戒していたらしく、手には札が数枚握られていた。
部屋に入ってきたのが知り合いの夏目だとわかると、明らかに安堵したように肩の力を抜いたのがわかった。
けれどここに本来いるはずのない夏目がいることに考えが至ったようで、名取は焦ったように夏目の肩を掴むと問いただしてきた。
「いや……なんで夏目がここにいるんだ!?それに的場さんに……見知らぬ子供まで!?」
こんな所にいる夏目に焦ってオロオロとする名取は、二週間も屋敷に隔離されていたとは思えない程元気そうで、夏目は安心したように息を吐く。
名取からしたら、的場は兎も角、夏目や明らかに普通の高校生の少年少女がこんな危険な場所にいることが信じられなかった。
まさか自分を助けに来たとは思わなかったのだろう。その顔色には焦りが見えていた。
見かねた的場が名取に落ち着くように声をかける。
「落ち着いなさい名取。夏目くんは私が連れてきたんですよ。」
「的場さん!何を考えているんだ!こんな危険な所に夏目を連れてくるなんて!それにこんな子供もまで……」
「彼等は呪術高専の生徒ですよ。」
「!?、呪術師か!」
「ええ、貴方が二週間も行方をくらましていたので、夏目くんや彼等に協力を依頼したんです。」
「二週間だって!?」
的場が名取を落ち着かせるように説明すると、名取は的場の言葉にひどく驚いたように反応した。
「何を言ってるんだ的場さん。私はこの屋敷に閉じ込められて3日くらいのはずだ。流石に二週間も経ってるなんてそんなこと……」
「おや、名取の体感では3日ほどでしたか。どうりでそれだけ元気なはずだ。」
「……どういうことですか?」
「名取にとって屋敷に閉じ込められていた感覚は3日ほどでも、実際には貴方が行方をくらませて二週間は経っているんです。つまり、この屋敷の中と外の時間の感覚は違うということでしょう。」
「そんなことが?」
名取が訳が分からずに尋ねると、的場さんはなんて事ないように答える。
それに俺が驚いて尋ねると、伏黒が「可能性はある」と答える。
「呪霊の結界で時間のズレが生じることはある。滅多に起きないが、たまにそういう事例が起きると報告はあるんだ。」
「そんなことになるのか……」
呪霊のことはよくわからないが、妖同様にとんでもない力があるらしい。
でも今回に関してはそのお陰で名取さんは助かったとも言えるので、今回は結界による時間のズレが生じたのは結果的に良かったのだろう。
俺はとにかく一番の懸念だった名取さんの安否が確認できてほっとしていた。
だけどまだ油断することはできない。少ししか関わっていないが、あの有一という子供の呪霊は恐ろしかった。
人を殺しているのだから危険なのは当たり前だが、得体の知れない恐怖というのもを感じた気がする。
(嫌なものを見てしまったしな……)
あの部屋の壁一面に貼り付けられた人の皮を思い出して、また吐き気が戻ってきそうになって、俺は慌てて忘れようと頭を振った。
「兎に角、名取さんが無事で良かったです。」
「ああ、ありがとう夏目。心配をかけてしまったね。」
「いいんです、それよりも早くここから出る方法を考えないと……」
「ちょっと待て!紅を助けるのが先だ!」
「ああ、それも忘れてないさ。」
「紅?赤い鳥の妖のことかい?」
「そうです!なんで名取さんが知って……」
「と言うよりも私はさっきから夏目の肩に乗っている鳥が気になっているんだが……そいつは敵じゃないのかい?」
「蒼は今は俺たちの味方です。それよりも、名取さんはどうして紅を知って……」
「ワタクシが話したからですわ。」
「「!?」」
突然この部屋にいないはず誰かの声がして、夏目たちはハッとして警戒する。
高い女性の声だった。この中に女性は釘崎しかいない。けれどさっきの声は釘崎ではなかった。
新たな存在の声に皆が警戒して部屋の中をキョロキョロと見回す。
けれど部屋には別段変わった様子はなかった。
あるのは名取の背にある壁画くらいで……
その瞬間、皆がハッとして壁画に目を向ける。
そこには美しい庭園と木に止まる赤い鳥が描かれていた。
確か蒼は絵の中を旅する妖だと言っていた。そして彼が探している紅は赤い鳥だったと……
「……君が紅なのか?」
「ーーそうでございます。」
俺が壁画にそっと手を当てて声をかけると、壁画から先程の女性と同じ声が聞こえてきた。
凛とした柔らかくも美しい声だった。
壁画から返事が返ってきて、真っ先に反応したのは蒼であった。
「紅!そんな所にいたのか!」
「この絵が紅が封印されていた絵だったのか……どうやったら封印が解けるんだ?」
「……どうやら夏目はその肩に乗ってる青い鳥と親しくなったようだね?私には屋敷に入って早々に攻撃してきたくせに。」
「ふん!あれは貴様が屋敷に侵入してきたからだ。侵入者は有一に見つかるとすぐに目をつけられる。だからその前に私が追い出してやろうとしたのに……」
「その有一に関してことや、君たちの事情はここにいる紅からある程度聞いたさ。呪霊に手を貸してる時点で同情はしないよ。」
「ーーふん!なんとでも言え!私にとって紅が一番大事なのだ!」
「その為なら人を殺していいとおも……「あの!」
段々と2人の口喧嘩がヒートアップしていくのを遮るように、虎杖か声を上げた。
「まーまー、落ち着いて。今はそれどころじゃないっスよ。」
「……すまない。」
「……ふん!」
虎杖がニコッと笑顔で宥めると、その笑顔に毒気を抜かれたのか、名取さんと蒼は気まずそうに目を逸らした。
「順を追って説明するよ。」
そう言って名取さんはこほんと咳払いすると、紅と出会うまでの経緯を語り始めたのであった。
領域内のせいか屋敷の内部はとても広くなっており、一度進んだ道は戻って来れそうにはなかった。
しかし夏目たちを誘導するように前を飛ぶ蒼に迷いはなく、どこへ向かえばいいのか分かるようだった。
名取さんは無事だろうか。蒼が言うには生きていると言っていたが、それが無事であるかはまだ分からない。
もう行方不明になって二週間も経過しているのだ。名取の状態が心配であった。
「ーーここだ。」
やがて蒼が一つの扉の前でそう言葉を発した。
ここに名取さんがいる。そう思うとはやる気持ちで夏目は扉に手をかけた。
するとピリリという紙が破ける音と共に扉は開かれた。
バンっ!
「ーー名取さん!」
「うわぁぁぁ!………………夏目!!?」
扉を開け放つと同時に部屋に飛び込めば、中にいた名取が叫び声を上げる。
驚いたように目を大きく見開いて叫んだが、相手が夏目だとわかると、明らかにほっとしたように息を吐いて夏目の名を呼んだ。
「……なんだ夏目か……びっくりしたじゃないか……てっきりアイツが来たのかと身構えってしまったよ。」
「名取さん無事だったんですね!」
てっきり有一が襲ってきたのかと思ったのか、名取は余程警戒していたらしく、手には札が数枚握られていた。
部屋に入ってきたのが知り合いの夏目だとわかると、明らかに安堵したように肩の力を抜いたのがわかった。
けれどここに本来いるはずのない夏目がいることに考えが至ったようで、名取は焦ったように夏目の肩を掴むと問いただしてきた。
「いや……なんで夏目がここにいるんだ!?それに的場さんに……見知らぬ子供まで!?」
こんな所にいる夏目に焦ってオロオロとする名取は、二週間も屋敷に隔離されていたとは思えない程元気そうで、夏目は安心したように息を吐く。
名取からしたら、的場は兎も角、夏目や明らかに普通の高校生の少年少女がこんな危険な場所にいることが信じられなかった。
まさか自分を助けに来たとは思わなかったのだろう。その顔色には焦りが見えていた。
見かねた的場が名取に落ち着くように声をかける。
「落ち着いなさい名取。夏目くんは私が連れてきたんですよ。」
「的場さん!何を考えているんだ!こんな危険な所に夏目を連れてくるなんて!それにこんな子供もまで……」
「彼等は呪術高専の生徒ですよ。」
「!?、呪術師か!」
「ええ、貴方が二週間も行方をくらましていたので、夏目くんや彼等に協力を依頼したんです。」
「二週間だって!?」
的場が名取を落ち着かせるように説明すると、名取は的場の言葉にひどく驚いたように反応した。
「何を言ってるんだ的場さん。私はこの屋敷に閉じ込められて3日くらいのはずだ。流石に二週間も経ってるなんてそんなこと……」
「おや、名取の体感では3日ほどでしたか。どうりでそれだけ元気なはずだ。」
「……どういうことですか?」
「名取にとって屋敷に閉じ込められていた感覚は3日ほどでも、実際には貴方が行方をくらませて二週間は経っているんです。つまり、この屋敷の中と外の時間の感覚は違うということでしょう。」
「そんなことが?」
名取が訳が分からずに尋ねると、的場さんはなんて事ないように答える。
それに俺が驚いて尋ねると、伏黒が「可能性はある」と答える。
「呪霊の結界で時間のズレが生じることはある。滅多に起きないが、たまにそういう事例が起きると報告はあるんだ。」
「そんなことになるのか……」
呪霊のことはよくわからないが、妖同様にとんでもない力があるらしい。
でも今回に関してはそのお陰で名取さんは助かったとも言えるので、今回は結界による時間のズレが生じたのは結果的に良かったのだろう。
俺はとにかく一番の懸念だった名取さんの安否が確認できてほっとしていた。
だけどまだ油断することはできない。少ししか関わっていないが、あの有一という子供の呪霊は恐ろしかった。
人を殺しているのだから危険なのは当たり前だが、得体の知れない恐怖というのもを感じた気がする。
(嫌なものを見てしまったしな……)
あの部屋の壁一面に貼り付けられた人の皮を思い出して、また吐き気が戻ってきそうになって、俺は慌てて忘れようと頭を振った。
「兎に角、名取さんが無事で良かったです。」
「ああ、ありがとう夏目。心配をかけてしまったね。」
「いいんです、それよりも早くここから出る方法を考えないと……」
「ちょっと待て!紅を助けるのが先だ!」
「ああ、それも忘れてないさ。」
「紅?赤い鳥の妖のことかい?」
「そうです!なんで名取さんが知って……」
「と言うよりも私はさっきから夏目の肩に乗っている鳥が気になっているんだが……そいつは敵じゃないのかい?」
「蒼は今は俺たちの味方です。それよりも、名取さんはどうして紅を知って……」
「ワタクシが話したからですわ。」
「「!?」」
突然この部屋にいないはず誰かの声がして、夏目たちはハッとして警戒する。
高い女性の声だった。この中に女性は釘崎しかいない。けれどさっきの声は釘崎ではなかった。
新たな存在の声に皆が警戒して部屋の中をキョロキョロと見回す。
けれど部屋には別段変わった様子はなかった。
あるのは名取の背にある壁画くらいで……
その瞬間、皆がハッとして壁画に目を向ける。
そこには美しい庭園と木に止まる赤い鳥が描かれていた。
確か蒼は絵の中を旅する妖だと言っていた。そして彼が探している紅は赤い鳥だったと……
「……君が紅なのか?」
「ーーそうでございます。」
俺が壁画にそっと手を当てて声をかけると、壁画から先程の女性と同じ声が聞こえてきた。
凛とした柔らかくも美しい声だった。
壁画から返事が返ってきて、真っ先に反応したのは蒼であった。
「紅!そんな所にいたのか!」
「この絵が紅が封印されていた絵だったのか……どうやったら封印が解けるんだ?」
「……どうやら夏目はその肩に乗ってる青い鳥と親しくなったようだね?私には屋敷に入って早々に攻撃してきたくせに。」
「ふん!あれは貴様が屋敷に侵入してきたからだ。侵入者は有一に見つかるとすぐに目をつけられる。だからその前に私が追い出してやろうとしたのに……」
「その有一に関してことや、君たちの事情はここにいる紅からある程度聞いたさ。呪霊に手を貸してる時点で同情はしないよ。」
「ーーふん!なんとでも言え!私にとって紅が一番大事なのだ!」
「その為なら人を殺していいとおも……「あの!」
段々と2人の口喧嘩がヒートアップしていくのを遮るように、虎杖か声を上げた。
「まーまー、落ち着いて。今はそれどころじゃないっスよ。」
「……すまない。」
「……ふん!」
虎杖がニコッと笑顔で宥めると、その笑顔に毒気を抜かれたのか、名取さんと蒼は気まずそうに目を逸らした。
「順を追って説明するよ。」
そう言って名取さんはこほんと咳払いすると、紅と出会うまでの経緯を語り始めたのであった。
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