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・この小説は呪術廻戦×鬼滅の刃のクロスオーバー夢になります。
・夢主は堕姫(梅)の成り代わりになります。
・梅ちゃんの性格が少し原作と違うところがあります。あくまでも成り代わりということでこれじゃない感があるかもしれません。
・五条さんがクソです。そして扱いが可哀想なことになってます。ご注意ください。
・pixivで連載しているものなので、読みにくいところがあるかもしれません。
・広い心で読んでください。
********
私の家族はずっと、お兄ちゃんだけだった。
父親は酒とギャンブルにのめり込んで、家族に暴力を振るう典型的なクソ親父で、母親はそんな父親に嫌気がさして外でバレないように不倫してた。
父親も母親もどっちもクソ野郎。
だけど私にはお兄ちゃんがいた。毎日満足にご飯を与えらなくてお腹が空いた時には、お兄ちゃんは私に自分の分のご飯をくれた。
お金が無くて服すら買えなくて、いつもくたびれて伸びきったボロボロの古い服を着ていた。周りの同い年の女の子たちが綺麗な服を着て、お洒落をしていたのが羨ましかった。
そんな私にお兄ちゃんは綺麗な髪飾りをプレゼントしてくれた。
嬉しかった。それがお店から盗んだものだったって私は知ってたけど、本当は悪いことだけど、それでもお兄ちゃんが私のためにしてくれたことは嬉しかった。
どんなに辛いことがあっても、お兄ちゃんがいれば耐えられた。お兄ちゃんさえいればそれだけで良かった。
だけどクソ親共はそんな囁かな私の幸せさえも奪おうとしてきた。
父親が借金をした。そのお金を返しきれなくなったとかで、子供に恵まれなかったという資産家の家に養子として私を売ったのだと言われた。
私はお兄ちゃんと離れるなんて絶対に嫌だと叫んだ。
そしたらクソ親父に犯されそうになった。よりによってお兄ちゃんがいない時に。
必死に抵抗して、近くにあったボールペンをあいつの左目に突き刺していた。
だって無我夢中だったんだもん。痛がるあいつを放って逃げようとしたら、騒ぎを聞き付けてやってきた母親に捕まって、半狂乱になっている母親に馬乗りにされて首を絞められた。
苦しかった。今度こそ本当に殺されるって思った。
だけどその瞬間に、母親が不意に倒れた。母親の後ろには、椅子を持ったお兄ちゃん。
お兄ちゃんは肩で荒い息を呼吸をして、私を必死に助けてくれた。
その姿はヒーローみたいにかっこよかった。ぐったりと動かなくなった母親を転がして、今度こそ本当に逃げようと思ったの。
なのに、今度は父親が包丁を持って私たちを殺そうとしてきた。
ふざけるなふざけるな。元々あんたが悪いんじゃないか!
そう叫んだら、父親はとち狂ったように叫びながらこっちに走ってきて、お兄ちゃんが私を守るように前に立った。
そして、お兄ちゃんは刺された。お兄ちゃんの背中がじわりと服に赤いシミをつくって広がる。
私は何が起こったのか分からなかった。お兄ちゃんが死んじゃうなんて、考えられなかった。
嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
そんなの嫌だ。お兄ちゃんがいなくなるなんて嫌だ。
倒れて動かなくなったお兄ちゃんに縋り付きながら、私は強く強く願った。
お兄ちゃんとはどんな時も一緒にいる。これからだって、死ぬ時だって。絶対に離れたりなんかしない。
それはお兄ちゃんも同じ気持ちだったみたい。私を一人残していけないからって。
その時、私たち兄妹の心は、魂は一つになった。
ピクリとも動かなくなったお兄ちゃんは、突然大きなお兄さんの姿に成長したかと思えば、お兄ちゃんは父親の体を爪で引き裂いた。
その瞬間に理解した。お兄ちゃんは、私のために生き返ったんだって。
私のために、人間をやめてまで帰ってきてくれたんだって。
嬉しかった。本当に嬉しかったんだよお兄ちゃん。
母親や父親が死んだことなんてどうでも良かったの。だから、そんな悲しい顔しないでよ。
お兄ちゃんが人間をやめた日、お兄ちゃんは両親の遺体の前で私を抱き締めて泣いていた。
何度も何度も「ごめんな」って言いながら。
その日から、私は人に見えないものが見えるようになった。
*****
あれから私は、私たち兄妹は。警察にでは無く、真っ黒なスーツを着た人達に捕まった。
その人たちは自分たちを呪術師だと名乗った。クソみたいな親だったけど、人を殺してしまった私たちは警察に捕まるんだと思ってた。
だけどどうやらそうじゃないらしい。呪力というのに目覚めた私と、呪霊という人ではない存在になってしまったお兄ちゃんは、そういうよく分からない専門の所で保護されることになったらしい。
表向きは保護だけど、実際は監視のためだろう。主に私よりもお兄ちゃんの。
当時まだ11歳だった私は子供だから生かされたのか、その頃の私たちがどういう処分をされることになったのかは分からない。
だけど、どうやら処刑されずに監視の下保護されることになったらしかった。
「今日から私が君の……いや、君たちの保護者だ。」
夜蛾正道と名乗ったそのおっさんはそう言って私の前に現れた。
呪霊になったお兄ちゃんは本来なら即死刑……この呪術界で言う祓う対象になるらしい。
だけどどうやら私とお兄ちゃんは強い縛りで魂を結んでいるらしく、お兄ちゃんを祓うには私とお兄ちゃん両方を殺さないといけないらしい。
逆にどちらか片方が生きている限り、私たちは死ぬことはない。
あの日、私たちの心と魂が一つになったのは、錯覚でもなんでもなく、私たちはお互いに呪いあったことでそうなったのだと聞かされた。
本当なら人を殺してしまった時点で私たちは死刑だったらしい。でもこの夜蛾さんと名乗った人がまだ子供の私を哀れに思って、上に掛け合ってくれたらしい。
そのお陰で私とお兄ちゃんは生きていられるらしい。この人の保護の元という条件つきではあるが。
こうして、私は夜蛾さんの養子として引き取られることになった。
――まっ、私の幼少期の話はこんなものだ。
そして現在、15歳になった私は今日から高専の生徒として入学した。
夜蛾さんこと、お父さんから聞いた話では、今年は相当優秀な人材が同級生になるらしい。
私を含めて生徒はたったの4人。そのうち2人は一般家庭の出らしく、もう一人は御三家の人間らしい。
名前は……確かごー……どうでもいいから忘れた。
まあ、特に覚える必要は無いだろう。てなわけで、めんどーだけど。お父さんのためにも少しは真面目に高専に通うことにしよう。
友達できるかなーなんて、内心ではちょっとだけワクワクしていた。
ガラッと勢いよく教室の扉を開ける。すると既に教室には二人の生徒がいた。
一人は黒髪ショートの女。そしてもう一人はなんか身長がでかくて前髪が変な男。
私はその二人をちらりと見ると、適当に空いている席に座った。
するとすかさず男の方が声をかけてきた。まあ私って美人だもんね。仕方ないわね。
「やあ、私は夏油傑。今日から同級生だ。よろしく。」
「……夜蛾ナナシよ。」
男の方を見ないで名前だけ名乗る。無視しても良かったけど、お父さんに仲良くしなさいと言われていたから仕方なく名乗る。
すると今度は女の方が私に声をかけてきた。こいつ等さてはコミュ力高いわね。
「私は家入硝子。まあ、よろしく?」
「まあ、仲良くしてもいいわよ?あんた美人だし!」
「そ?ありがとう。」
上から目線でものを言ったのに、家入とかいう女は笑顔でお礼を言ってきた。
あんたいい子ね。気に入ったわ。今日から友達ね。
そう言ったら、硝子は「ん!私のことは硝子でいいよ。私もナナシって呼ぶわ。」と返してくれた。
やっぱりいい子だ。好きになれそう。
美人な友達ができたのは素直に嬉しい。今度何処かに遊びに誘ってみよう。
なんて内心ホクホクとしていると、ガラッと乱暴に扉が開いた。
そして中に入ってきたのは、夏油よりも長身で真っ白な髪をして、目元をサングラスで隠したいかにもガラの悪そうな男。
そいつは私たちが見ていると、不機嫌そうに顔を歪めた。
「あっ?見てんじゃねーよ。」
「あ"?」
なんだこいつ。私よりもガラ悪いな。
私も人のこと言えないけど、コイツ嫌いだ。絶対に仲良くなれない。本能でそう直感した。
「うっさいわよブサイク。自意識過剰なんじゃない?」
「あ"あ"ん?」
私がそう口にした瞬間、白髪男は私をギロリと睨んできた。
サングラス越しから見えた青色の瞳は綺麗だと思ったけど、持っている奴が最悪なので残念だ。
「うっせーよブス!お前、俺が誰か知らねーの?」
「誰がブスですって?あんたの目は節穴か!あんたなんて知らないわよ!」
「こっちのセリフだバーカ!俺のこの顔を見てよくそんなこと言えんな!目ェ腐ってんじゃねーの?こんなイケメン他にいねーだろ!いいか?よく聞けよ。俺は五条悟だ!」
「はんっ!あんたレベルの男なんてたかが知れてるっての!それにあんたの名前なんてどーでもいいわよ!」
「ぶっ殺すぞ?」
私たちがそんな喧嘩をしていると、夏油と名乗った前髪が変な男が「まあまあ、そこら辺にしたらどうだい?」と仲裁に入ってきた。
硝子は巻き込まれたくないのか、完全に傍観を決めていた。
そういうの嫌いじゃないわよ硝子。やっぱり私たちいい友達になれそうね。
仲裁に入られた白髪男は「あん?邪魔すんじゃねーよ!お前、前髪変だぞ!」とか言っていた。
こいつと意見なんて合いたくもないが、その点に関しては同意してしまった。
「私の前髪のことはどうでもいいだろう?」
「人の喧嘩に口挟むなよ前髪!」
「そうよ黙ってなさいよ前髪!」
「……よし、表に出ようか二人とも。」
「はん!いーぜ!お前はそこそこ楽しめそーだ。そこのクソムカつく女なんて雑魚じゃん!」
「はあ!?誰が雑魚ですって!?」
聞き捨てならないことを聞いた。私が雑魚だと?ムカつくわ。
白髪男は私のことを鼻で笑いやがった。
「お前の呪力量大したことねーじゃん。2級?良くて準1級くらいか?」
「ああ?やっぱあんたの目って節穴ね!私は特級よ!」
「はあ!?うっそだろ?お前も特級?俺と同じ?ありえねーわ!」
「おや、君たちも特級なのかい?私もだよ。」
「げっ!お前もかよ?」
白髪男は心底嫌そーな顔で「こいつ等と同じ扱いとかねーわ!雑魚すぎんじゃん!」と言いやがった。
やっぱこいつムカつくわ。よし殺そう。
それは夏油も同じだったようで、私たちの心はこの瞬間に一つになった。
お互いに目と目を合わせて頷く。
よし、あんたも今日から特別に友達にしてあげるわ。コイツをぶっ殺したらご飯奢りなさい。
「あんたってブサイクだけど性格もクソね!そんで偉そーに言ってるけど、案外雑魚なのはあんたじゃないの?」
「あ"っ?」
「そうだね。それだけ言うならさぞ強いんだろうね?五条家の家の坊ちゃんは。」
「あん?お前ら俺のことナメてんの?ぶっ殺す。」
「「こっちのセリフだ!」」
カーンっと3人の脳内でゴングが鳴った。
夏油がなんか気持ち悪い生き物を出してきて、私は体から帯を顕現させる。
白髪男はよゆーそうにニヤニヤと笑みを浮かべて構えることなく立っていた。
やっぱこいつムカつく!
「2人まとめてかかってこいよ。相手してやるから。」
「くっそムカつくわこいつ!死ね!」
「コラコラ、女の子が中指を立てちゃ駄目だよ。だけどその意見には同意するよ。」
私と夏油は目配せすると、ドガーンっと派手な音を立てて教室の壁を破壊した。
グラウンドに降り立つと、そのまま大乱闘になった。
そして騒ぎを聞き付けたお父さんにしこたま怒られた。
*****
「お前たちは入学早々に問題を起こすんじゃない!」
半壊した教室で3人仲良く正座させられた。
頭にたんこぶができた白髪男と夏油。私はデコピンをもらった。
手加減してくれたみたいだけど、ちょっと痛かった。
男共はエコヒーキだとか騒いでたけどうるせーわ。
「私悪くないもん!お父さんのバカ!」
「学校では先生と呼びなさい!」
「つーかこいつセンセーの娘なの?贔屓じゃん!」
「私は可愛いんだから何しても許されんのよ!ブサイクなあんだと違ってね!」
「……人のことを何度も何度もブサイクって……俺はブサイクじゃねーわ!お前より顔いいわ!」
「はんっ!自覚ないってかわいそー!」
「お前いい加減にしねーと犯すぞ!くそビッチ!」
「あ"?やれるもんならやってみなさいよ童貞!」
「お前処女だろ絶対!」
「いい加減にしろ!なんつー会話をしてるんだお前等は!!」
そんなこんなで、入学初日は最悪な思い出になった。
それから奴とは毎日顔を合わせる度に喧嘩をするようになった。
入学初日はあんなに喧嘩していたのに、いつの間にか傑と五条(バカ)は仲良くなっていた。
「……裏切り者め。傑なんてもう友達じゃないわよ。」
「そんなこと言わないでくれよ。」
「しょーこー!私にはあんただけよ!」
「おーよしよし、可哀想になー。」
硝子に抱きついて甘えれば、私の頭を優しく撫でてくれる。
やっぱり硝子優しい好き!傑なんてもういらねーわ。
そんなこと会話をしていたら、奴が教室に戻ってきた。
「すぐるー、今日桃鉄やらねー?……げっ!ナナシ!お前もいたの?」
「あん?気安く人の名前呼ぶんじゃないわよ。誰の許可得てると思ってんの?バカが!」
「お前いい加減にしろよ?人のことをバカバカと……1度も俺の名前呼んだことねーじゃん!」
「呼ぶことなんて永遠にないわ!」
「……あー!そうかよ!ブス!!」
バンッと勢いよく扉を閉めてバカは何処かへと行ってしまった。
そんなバカの様子を、硝子と傑はやれやれと呆れた様子で見送った。
「ナナシ、五条の名前くらい呼んでやったら?あいつ拗ねてたよ。」
「嫌よ!ぜーたいに嫌!」
「未だに喧嘩してるの君たちくらいだよ。悟はナナシと仲良くしたいみたいだけどな。」
「はあ?あのバカが?有り得ないわ!」
「やれやれ、これは難しいな。」
「そうね。あのバカが素直にでもならない限り無理そうね。」
「何の話よ?」
「片思いの話だよ。」
「???」
硝子たちが何を言っているのかまったく分からなかった。
それから3日後、ついに私とあのバカは正面衝突した。
「おい、ナナシ。」
「…………」
「シカトすんなブス!」
「話しかけんなブサイク!」
「「…………」」
「あーもう限界だわ!」
「あ?」
「お前いい加減に人の名前覚えろよ!」
バンッっと突然私の机を叩くバカ。いきなりのことに私もキレた。
「いきなり何すんのよバカ!」
「お前が悪いんだろ!?」
「あんたの名前なんて覚えたくもないし、口にするのも嫌よ!つーか視界にも入ってくんな!」
「……泣かす!」
今まで聞いたこともないような、地を這うような低い声でバカはそう呟いた。
私も私で頭に血が上って、等々、私たちは本気の本気でブチ切れた。
*****
「あんたなんて大っ嫌いよ!ブサイク!!」
「だからブサイクじゃねーわ!俺のこの顔見てよくそんなこと言えんな!!」
「あんたなんかより、お兄ちゃんの方が何百億倍もかっこいーんだから!」
「はっ!ブラコンかよ!」
グラウンドに激しい砂埃が舞う。ナナシが帯で五条を攻撃すれば、それは無限によって弾かれる。
おびただしい数の無数の帯を操って見せるナナシは決して弱くはないのたが、いかせん相手が悪い。
五条は余裕の笑みを浮かべながら、無限で全ての帯を弾き、梅に近づいていく。
そして一瞬で瞬間移動し、ナナシの目の前にまでやって来た。
一瞬で間合いを詰められたナナシは反応が遅れ、気が付いたら五条に馬乗りにされて押し倒されていた。
「はっ!どーしたよ。やっぱお前くそ弱いなぁ!」
「…………」
ニヤリと悪どい笑みを浮かべて、五条は笑う。
それにナナシは悔しげに歯を食いしばって五条を睨みつけた。
「なーに?泣いてもいいんだぜ?」
「うっさい馬鹿野郎!さっさとどけ!」
「俺の名前覚える気になった?」
「知らねーよ!バカは一生バカだ!」
「ふーん、あっそ。マジでムカついたわ。」
そう言うと、五条はナナシの制服の襟首を掴んで無理矢理引き寄せた。
五条は自分の唇をナナシの唇に押し当てて、無理矢理キスをしてきたのである。
「んーーっ!!」と声にならない悲鳴がナナシから漏れ出る。
じたばたと、手を、脚を動かして抵抗するが、五条はあろうことかナナシの下唇を噛んだのだ。
痛みで口を開くと、すかさず舌をねじ込んで舌と舌を絡めてきた。
ぬるりとした気持ち悪い感触に、ナナシは悲鳴を上げて半泣きになった。
五条の舌を力いっぱいに噛んでやった。すると勢いよく五条がナナシから離れた。
「いってー!噛むなよ!血が出ただろ!」
「死ね死ねバカ!!うう……初めてだったのにぃ~!」
ナナシはこう見えて、ロマンチストであった。ファーストキスは絶対に好きな人と。そんな恋に恋する女の子であった。
無慈悲にも奪われた初キス。あまりの事にショックで涙がボロボロと溢れてきた。
ナナシの泣き顔を見て、一瞬たじろいだ五条だったが、すぐのニヤリと意地悪げに笑みを浮かべて言った。
「へぇー、初キスだったわけ。やっぱお前処女じゃん!見た目はビッチそうなのになー!」
「…………っ!」
その言葉がトドメになった。ナナシの大きな瞳から、ポロリと大粒の涙が零れ落ちる。
うるうると目を潤ませて、ナナシは叫んだ。
「おっ、お兄ちゃーーーん!!うえーーーーん!!」
号泣するナナシの顔はぐしゃぐしゃで、まるで子供のようにギャン泣きし始めた。
流石にやり過ぎたかと、五条が何が言おうとナナシに手を伸ばそうとした瞬間、ナナシの呪力が跳ね上がった。
いや、正確にはナナシの中から何かが出てくる。
さっきまで感じなかったその気配は、梅の帯からズルリと浮き上がるようにして這い出てきた。
「俺の妹を泣かした奴は……お前かぁ?」
ずるりと帯から出てきたのは人の形をしていた。真っ黒な長い髪をだらりと垂らし、顔には大きな痣。
身に纏う呪力は禍々しく、ねっとりとした薄気味悪さがあった。
ナナシよりも遥かに強い。五条は確信した。
そして弱いナナシが何故特級なのか分かった気がした。絶対にコイツのせいだ。
ナナシを守ろうと彼女を背に庇うその姿はまるで式神のようだが、気配は完全に呪霊だ。
ナナシのやつ、こんなのを隠し持ってたのか。こいつは間違いなく特級呪霊。それも、五条がこれまで倒してきたどの特級よりも遥かに強い。
そして帯から出てきたのはそれだけじゃなかった。
「あれ〜?ナナシちゃん泣いてるの?可哀想に。よしよし、慰めてあげよう。」
帯から出てきたのは、頭から血を被ったように真っ赤な装束に身を包んだ男。
泣いているナナシを抱き締めて、よしよしと労わるように頭を撫でる。
おいなんだアイツ、ナナシに触んなよ。
ちょっとイラついた。
こいつからは呪霊の気配はしない。式神か?でもあの黒い男よりもずっとずっと格上だ。
黒い呪霊だけでも強いのに、同等以上の式神がもう一体出てきた。
ナナシの奴、マジでどうやってこんな呪霊手懐けたんだ?
お前の術式は呪霊操術じゃないだろ!なんで呪霊なんて付き従えてんだよ!
流石の俺も、特級呪霊とそれ以上の実力を持つ式神相手に冷や汗が出てきた。
黒の呪霊と赤の式神は、五条を見据える。殺気の籠ったその鋭い視線は、完全に五条を敵として判断したようだ。
「妹を泣かせたんだ。殺されても文句ねーよなぁ?」
「そうだね。殺してしまおうか。女の子ならもっと良かったんだけど、しょーがないね。ナナシちゃんのためだ。」
「ナナシ、お前なんつーもん飼ってんだ!」
「飼ってないもん!死ねバカ!あんたなんて絶対に悟なんて呼んでやらないんだから!!」
わぁぁぁん!と泣き叫ぶナナシ。
五条は不覚にも、ナナシがさりげなく呼んでくれた「悟」に敏感に反応して頬を赤らめていた。
それを見て何かを察する呪霊たち。
「おいまさか……」
「おやおや、これは……」
「童磨さん、言わないでください。妹の前です。」
「おやぁ、すまないね。でもそっかあ~、君は随分と子供だねぇ~。女の子には優しくしないと。特に好きな子には!」
「あ"っ?式神が偉そうに説教すんな!」
「否定しないんだねー!」
ケラケラと笑う赤い式神に、五条は血管が浮き出るくらいに額に青筋を浮かべた。
こいつ等祓う。絶対に祓う。そう心に誓った瞬間だった。
*****
◆謝花ナナシ→夜蛾ナナシ
お兄ちゃんが大好き。この世で1番好き。
世界中の誰よりも1番カッコイイと本気で思ってる。
美人なのにブラコンなせいで彼氏を作ろうとしない。
我儘だけど心を許した人にはめっちゃ懐く。
この世で一番嫌いな人間は五条悟。世界でたった2人だけになっても、こいつとだけは結婚しないと思うくらいに嫌い。死ねばいいのにと本気で思ってる。
特級呪術師ではあるが、それは兄の手助けあってのこと。ナナシ自身の実力は準1級くらい。
術式「帯」
無数の帯を顕現して操る。
その帯の中になんでも収納出来る。一度中に入るとナナシの許可なしには出てこれない。(獄門疆にも負けない厳重封印だよ☆)
意識がない間も術式は発動し続け、ナナシが死なない限り解除されることはない。
帯を他者に携帯させれば連絡も取れるし、様子も見れる。ついでに離れていてもナナシの意思で帯を介して呼び寄せることが出来る。逆も然り。別名「万能帯」
式神「鬼」
ナナシちゃんの帯から出てくる鬼たち。みんな特級クラスだよ☆
呼ばれる鬼たちは本人ではなく、飽くまでも似た姿をした別物。みんなナナシが好き。
◆謝花妓夫太郎
特級過呪怨霊。お互いに離れたくないと呪ったら里香ちゃんみたいな感じになってしまった兄妹。
里香ちゃんと違うのはナナシは妓夫太郎を呪い、妓夫太郎はナナシを呪ったので、お互いに解放を望まなければ解呪されない。
そして魂を繋いだことで、ナナシと妓夫太郎の二人を同時に殺さない限り二人は死ぬことは無い。
妹が大好き。ナナシが可愛くってしょうがない。五条悟は死ねと思ってる。
呪霊だがナナシと魂が繋がっているために夏油の呪霊操縦では取り込めない。
◆五条悟
呪術師最強の男。でも性格はクソ野郎。
ナナシとよく喧嘩する。でも本当は入学初日に自分に喧嘩をふっかけてきたナナシに一目惚れした。
素直になれずに好きな子をいじめちゃう小学生男子。きっとこれから先も永遠の小学生。
ナナシちゃんの容赦ない暴言に実は結構傷ついてた。そして自分を嫌う女なんていないと思っていたので、プライドも傷ついた。
この後お兄ちゃんたちに負けるので余計にプライドへし折れる。
ナナシのファーストキスを奪ってその好感度は氷点下にまで下がった。
いつか名前を呼んでもらいたい。
◆夏油傑
ナナシの同級生。五条の親友になった。
ナナシとは名前で呼び合うくらいには仲がいいが、五条と親友になったことで裏切り者扱いされた。
しばらくの間拗ねたナナシに「前髪野郎」としか呼んでもらえなかった。
五条の恋心には気付いているが、応援する気はない。
◆家入硝子
ナナシとはよく出かけるくらいに仲良しになった。ナナシは勝手に親友だと思っている。そして硝子も満更ではない。
基本的に面倒事は避けたいので傍観者に徹している。
五条の恋心に気付いているが応援する気はさらさらない。いつも自滅している五条を馬鹿だなーとか思ってる。
◆夜蛾正道
ナナシちゃんの義父。娘かわいい。娘Love。
近づく野郎は生徒だろうと排除したい精神である。
五条の恋心にはまだ気付いていない。
*****
――数分後、グラウンドには一体の氷像が出来上がった。
その名も最強様負けやがったよ。プークスクスである。
ナナシは「ざまーみろばァァか!!あっははは!!」と大声でゲラゲラと笑いながら携帯でこれでもかと記念写真を撮りまくっている。
一方、お兄ちゃんと童磨は流石に疲労困憊でナナシの帯の中へと戻って休んでいる。
お兄ちゃん、妹のために何回も死んでがんばったよ。
そしてその様子を教室の窓から見ていた夏油と家入はこりゃあ後で荒れるなーと、この後暴れまくる最強様の未来を予想してため息をついた。
だけど梅にはよくやったと褒めてやりたい。"あの"五条悟が負けるなんて滅多にお目にかかれる事じゃないからだ。
面白いもんが見れたと二人ともまったく五条の心配はしていなかった。
家入はともかくそれでいいのか親友よ。
かなり油断していたとはいえ、まさか五条悟が負けるなんて前代未聞なことである。
この事はあっという間に全学年に広まることになった。そしてナナシは密かにあの五条悟を倒した女として、関わったらやべー奴として名が知れ渡ることになるのであった。
担任であり、父でもある夜蛾正道は今日も今日とでキリキリと痛む胃を抑えながら、大量の胃薬を飲み込むのであった。
・夢主は堕姫(梅)の成り代わりになります。
・梅ちゃんの性格が少し原作と違うところがあります。あくまでも成り代わりということでこれじゃない感があるかもしれません。
・五条さんがクソです。そして扱いが可哀想なことになってます。ご注意ください。
・pixivで連載しているものなので、読みにくいところがあるかもしれません。
・広い心で読んでください。
********
私の家族はずっと、お兄ちゃんだけだった。
父親は酒とギャンブルにのめり込んで、家族に暴力を振るう典型的なクソ親父で、母親はそんな父親に嫌気がさして外でバレないように不倫してた。
父親も母親もどっちもクソ野郎。
だけど私にはお兄ちゃんがいた。毎日満足にご飯を与えらなくてお腹が空いた時には、お兄ちゃんは私に自分の分のご飯をくれた。
お金が無くて服すら買えなくて、いつもくたびれて伸びきったボロボロの古い服を着ていた。周りの同い年の女の子たちが綺麗な服を着て、お洒落をしていたのが羨ましかった。
そんな私にお兄ちゃんは綺麗な髪飾りをプレゼントしてくれた。
嬉しかった。それがお店から盗んだものだったって私は知ってたけど、本当は悪いことだけど、それでもお兄ちゃんが私のためにしてくれたことは嬉しかった。
どんなに辛いことがあっても、お兄ちゃんがいれば耐えられた。お兄ちゃんさえいればそれだけで良かった。
だけどクソ親共はそんな囁かな私の幸せさえも奪おうとしてきた。
父親が借金をした。そのお金を返しきれなくなったとかで、子供に恵まれなかったという資産家の家に養子として私を売ったのだと言われた。
私はお兄ちゃんと離れるなんて絶対に嫌だと叫んだ。
そしたらクソ親父に犯されそうになった。よりによってお兄ちゃんがいない時に。
必死に抵抗して、近くにあったボールペンをあいつの左目に突き刺していた。
だって無我夢中だったんだもん。痛がるあいつを放って逃げようとしたら、騒ぎを聞き付けてやってきた母親に捕まって、半狂乱になっている母親に馬乗りにされて首を絞められた。
苦しかった。今度こそ本当に殺されるって思った。
だけどその瞬間に、母親が不意に倒れた。母親の後ろには、椅子を持ったお兄ちゃん。
お兄ちゃんは肩で荒い息を呼吸をして、私を必死に助けてくれた。
その姿はヒーローみたいにかっこよかった。ぐったりと動かなくなった母親を転がして、今度こそ本当に逃げようと思ったの。
なのに、今度は父親が包丁を持って私たちを殺そうとしてきた。
ふざけるなふざけるな。元々あんたが悪いんじゃないか!
そう叫んだら、父親はとち狂ったように叫びながらこっちに走ってきて、お兄ちゃんが私を守るように前に立った。
そして、お兄ちゃんは刺された。お兄ちゃんの背中がじわりと服に赤いシミをつくって広がる。
私は何が起こったのか分からなかった。お兄ちゃんが死んじゃうなんて、考えられなかった。
嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。
そんなの嫌だ。お兄ちゃんがいなくなるなんて嫌だ。
倒れて動かなくなったお兄ちゃんに縋り付きながら、私は強く強く願った。
お兄ちゃんとはどんな時も一緒にいる。これからだって、死ぬ時だって。絶対に離れたりなんかしない。
それはお兄ちゃんも同じ気持ちだったみたい。私を一人残していけないからって。
その時、私たち兄妹の心は、魂は一つになった。
ピクリとも動かなくなったお兄ちゃんは、突然大きなお兄さんの姿に成長したかと思えば、お兄ちゃんは父親の体を爪で引き裂いた。
その瞬間に理解した。お兄ちゃんは、私のために生き返ったんだって。
私のために、人間をやめてまで帰ってきてくれたんだって。
嬉しかった。本当に嬉しかったんだよお兄ちゃん。
母親や父親が死んだことなんてどうでも良かったの。だから、そんな悲しい顔しないでよ。
お兄ちゃんが人間をやめた日、お兄ちゃんは両親の遺体の前で私を抱き締めて泣いていた。
何度も何度も「ごめんな」って言いながら。
その日から、私は人に見えないものが見えるようになった。
*****
あれから私は、私たち兄妹は。警察にでは無く、真っ黒なスーツを着た人達に捕まった。
その人たちは自分たちを呪術師だと名乗った。クソみたいな親だったけど、人を殺してしまった私たちは警察に捕まるんだと思ってた。
だけどどうやらそうじゃないらしい。呪力というのに目覚めた私と、呪霊という人ではない存在になってしまったお兄ちゃんは、そういうよく分からない専門の所で保護されることになったらしい。
表向きは保護だけど、実際は監視のためだろう。主に私よりもお兄ちゃんの。
当時まだ11歳だった私は子供だから生かされたのか、その頃の私たちがどういう処分をされることになったのかは分からない。
だけど、どうやら処刑されずに監視の下保護されることになったらしかった。
「今日から私が君の……いや、君たちの保護者だ。」
夜蛾正道と名乗ったそのおっさんはそう言って私の前に現れた。
呪霊になったお兄ちゃんは本来なら即死刑……この呪術界で言う祓う対象になるらしい。
だけどどうやら私とお兄ちゃんは強い縛りで魂を結んでいるらしく、お兄ちゃんを祓うには私とお兄ちゃん両方を殺さないといけないらしい。
逆にどちらか片方が生きている限り、私たちは死ぬことはない。
あの日、私たちの心と魂が一つになったのは、錯覚でもなんでもなく、私たちはお互いに呪いあったことでそうなったのだと聞かされた。
本当なら人を殺してしまった時点で私たちは死刑だったらしい。でもこの夜蛾さんと名乗った人がまだ子供の私を哀れに思って、上に掛け合ってくれたらしい。
そのお陰で私とお兄ちゃんは生きていられるらしい。この人の保護の元という条件つきではあるが。
こうして、私は夜蛾さんの養子として引き取られることになった。
――まっ、私の幼少期の話はこんなものだ。
そして現在、15歳になった私は今日から高専の生徒として入学した。
夜蛾さんこと、お父さんから聞いた話では、今年は相当優秀な人材が同級生になるらしい。
私を含めて生徒はたったの4人。そのうち2人は一般家庭の出らしく、もう一人は御三家の人間らしい。
名前は……確かごー……どうでもいいから忘れた。
まあ、特に覚える必要は無いだろう。てなわけで、めんどーだけど。お父さんのためにも少しは真面目に高専に通うことにしよう。
友達できるかなーなんて、内心ではちょっとだけワクワクしていた。
ガラッと勢いよく教室の扉を開ける。すると既に教室には二人の生徒がいた。
一人は黒髪ショートの女。そしてもう一人はなんか身長がでかくて前髪が変な男。
私はその二人をちらりと見ると、適当に空いている席に座った。
するとすかさず男の方が声をかけてきた。まあ私って美人だもんね。仕方ないわね。
「やあ、私は夏油傑。今日から同級生だ。よろしく。」
「……夜蛾ナナシよ。」
男の方を見ないで名前だけ名乗る。無視しても良かったけど、お父さんに仲良くしなさいと言われていたから仕方なく名乗る。
すると今度は女の方が私に声をかけてきた。こいつ等さてはコミュ力高いわね。
「私は家入硝子。まあ、よろしく?」
「まあ、仲良くしてもいいわよ?あんた美人だし!」
「そ?ありがとう。」
上から目線でものを言ったのに、家入とかいう女は笑顔でお礼を言ってきた。
あんたいい子ね。気に入ったわ。今日から友達ね。
そう言ったら、硝子は「ん!私のことは硝子でいいよ。私もナナシって呼ぶわ。」と返してくれた。
やっぱりいい子だ。好きになれそう。
美人な友達ができたのは素直に嬉しい。今度何処かに遊びに誘ってみよう。
なんて内心ホクホクとしていると、ガラッと乱暴に扉が開いた。
そして中に入ってきたのは、夏油よりも長身で真っ白な髪をして、目元をサングラスで隠したいかにもガラの悪そうな男。
そいつは私たちが見ていると、不機嫌そうに顔を歪めた。
「あっ?見てんじゃねーよ。」
「あ"?」
なんだこいつ。私よりもガラ悪いな。
私も人のこと言えないけど、コイツ嫌いだ。絶対に仲良くなれない。本能でそう直感した。
「うっさいわよブサイク。自意識過剰なんじゃない?」
「あ"あ"ん?」
私がそう口にした瞬間、白髪男は私をギロリと睨んできた。
サングラス越しから見えた青色の瞳は綺麗だと思ったけど、持っている奴が最悪なので残念だ。
「うっせーよブス!お前、俺が誰か知らねーの?」
「誰がブスですって?あんたの目は節穴か!あんたなんて知らないわよ!」
「こっちのセリフだバーカ!俺のこの顔を見てよくそんなこと言えんな!目ェ腐ってんじゃねーの?こんなイケメン他にいねーだろ!いいか?よく聞けよ。俺は五条悟だ!」
「はんっ!あんたレベルの男なんてたかが知れてるっての!それにあんたの名前なんてどーでもいいわよ!」
「ぶっ殺すぞ?」
私たちがそんな喧嘩をしていると、夏油と名乗った前髪が変な男が「まあまあ、そこら辺にしたらどうだい?」と仲裁に入ってきた。
硝子は巻き込まれたくないのか、完全に傍観を決めていた。
そういうの嫌いじゃないわよ硝子。やっぱり私たちいい友達になれそうね。
仲裁に入られた白髪男は「あん?邪魔すんじゃねーよ!お前、前髪変だぞ!」とか言っていた。
こいつと意見なんて合いたくもないが、その点に関しては同意してしまった。
「私の前髪のことはどうでもいいだろう?」
「人の喧嘩に口挟むなよ前髪!」
「そうよ黙ってなさいよ前髪!」
「……よし、表に出ようか二人とも。」
「はん!いーぜ!お前はそこそこ楽しめそーだ。そこのクソムカつく女なんて雑魚じゃん!」
「はあ!?誰が雑魚ですって!?」
聞き捨てならないことを聞いた。私が雑魚だと?ムカつくわ。
白髪男は私のことを鼻で笑いやがった。
「お前の呪力量大したことねーじゃん。2級?良くて準1級くらいか?」
「ああ?やっぱあんたの目って節穴ね!私は特級よ!」
「はあ!?うっそだろ?お前も特級?俺と同じ?ありえねーわ!」
「おや、君たちも特級なのかい?私もだよ。」
「げっ!お前もかよ?」
白髪男は心底嫌そーな顔で「こいつ等と同じ扱いとかねーわ!雑魚すぎんじゃん!」と言いやがった。
やっぱこいつムカつくわ。よし殺そう。
それは夏油も同じだったようで、私たちの心はこの瞬間に一つになった。
お互いに目と目を合わせて頷く。
よし、あんたも今日から特別に友達にしてあげるわ。コイツをぶっ殺したらご飯奢りなさい。
「あんたってブサイクだけど性格もクソね!そんで偉そーに言ってるけど、案外雑魚なのはあんたじゃないの?」
「あ"っ?」
「そうだね。それだけ言うならさぞ強いんだろうね?五条家の家の坊ちゃんは。」
「あん?お前ら俺のことナメてんの?ぶっ殺す。」
「「こっちのセリフだ!」」
カーンっと3人の脳内でゴングが鳴った。
夏油がなんか気持ち悪い生き物を出してきて、私は体から帯を顕現させる。
白髪男はよゆーそうにニヤニヤと笑みを浮かべて構えることなく立っていた。
やっぱこいつムカつく!
「2人まとめてかかってこいよ。相手してやるから。」
「くっそムカつくわこいつ!死ね!」
「コラコラ、女の子が中指を立てちゃ駄目だよ。だけどその意見には同意するよ。」
私と夏油は目配せすると、ドガーンっと派手な音を立てて教室の壁を破壊した。
グラウンドに降り立つと、そのまま大乱闘になった。
そして騒ぎを聞き付けたお父さんにしこたま怒られた。
*****
「お前たちは入学早々に問題を起こすんじゃない!」
半壊した教室で3人仲良く正座させられた。
頭にたんこぶができた白髪男と夏油。私はデコピンをもらった。
手加減してくれたみたいだけど、ちょっと痛かった。
男共はエコヒーキだとか騒いでたけどうるせーわ。
「私悪くないもん!お父さんのバカ!」
「学校では先生と呼びなさい!」
「つーかこいつセンセーの娘なの?贔屓じゃん!」
「私は可愛いんだから何しても許されんのよ!ブサイクなあんだと違ってね!」
「……人のことを何度も何度もブサイクって……俺はブサイクじゃねーわ!お前より顔いいわ!」
「はんっ!自覚ないってかわいそー!」
「お前いい加減にしねーと犯すぞ!くそビッチ!」
「あ"?やれるもんならやってみなさいよ童貞!」
「お前処女だろ絶対!」
「いい加減にしろ!なんつー会話をしてるんだお前等は!!」
そんなこんなで、入学初日は最悪な思い出になった。
それから奴とは毎日顔を合わせる度に喧嘩をするようになった。
入学初日はあんなに喧嘩していたのに、いつの間にか傑と五条(バカ)は仲良くなっていた。
「……裏切り者め。傑なんてもう友達じゃないわよ。」
「そんなこと言わないでくれよ。」
「しょーこー!私にはあんただけよ!」
「おーよしよし、可哀想になー。」
硝子に抱きついて甘えれば、私の頭を優しく撫でてくれる。
やっぱり硝子優しい好き!傑なんてもういらねーわ。
そんなこと会話をしていたら、奴が教室に戻ってきた。
「すぐるー、今日桃鉄やらねー?……げっ!ナナシ!お前もいたの?」
「あん?気安く人の名前呼ぶんじゃないわよ。誰の許可得てると思ってんの?バカが!」
「お前いい加減にしろよ?人のことをバカバカと……1度も俺の名前呼んだことねーじゃん!」
「呼ぶことなんて永遠にないわ!」
「……あー!そうかよ!ブス!!」
バンッと勢いよく扉を閉めてバカは何処かへと行ってしまった。
そんなバカの様子を、硝子と傑はやれやれと呆れた様子で見送った。
「ナナシ、五条の名前くらい呼んでやったら?あいつ拗ねてたよ。」
「嫌よ!ぜーたいに嫌!」
「未だに喧嘩してるの君たちくらいだよ。悟はナナシと仲良くしたいみたいだけどな。」
「はあ?あのバカが?有り得ないわ!」
「やれやれ、これは難しいな。」
「そうね。あのバカが素直にでもならない限り無理そうね。」
「何の話よ?」
「片思いの話だよ。」
「???」
硝子たちが何を言っているのかまったく分からなかった。
それから3日後、ついに私とあのバカは正面衝突した。
「おい、ナナシ。」
「…………」
「シカトすんなブス!」
「話しかけんなブサイク!」
「「…………」」
「あーもう限界だわ!」
「あ?」
「お前いい加減に人の名前覚えろよ!」
バンッっと突然私の机を叩くバカ。いきなりのことに私もキレた。
「いきなり何すんのよバカ!」
「お前が悪いんだろ!?」
「あんたの名前なんて覚えたくもないし、口にするのも嫌よ!つーか視界にも入ってくんな!」
「……泣かす!」
今まで聞いたこともないような、地を這うような低い声でバカはそう呟いた。
私も私で頭に血が上って、等々、私たちは本気の本気でブチ切れた。
*****
「あんたなんて大っ嫌いよ!ブサイク!!」
「だからブサイクじゃねーわ!俺のこの顔見てよくそんなこと言えんな!!」
「あんたなんかより、お兄ちゃんの方が何百億倍もかっこいーんだから!」
「はっ!ブラコンかよ!」
グラウンドに激しい砂埃が舞う。ナナシが帯で五条を攻撃すれば、それは無限によって弾かれる。
おびただしい数の無数の帯を操って見せるナナシは決して弱くはないのたが、いかせん相手が悪い。
五条は余裕の笑みを浮かべながら、無限で全ての帯を弾き、梅に近づいていく。
そして一瞬で瞬間移動し、ナナシの目の前にまでやって来た。
一瞬で間合いを詰められたナナシは反応が遅れ、気が付いたら五条に馬乗りにされて押し倒されていた。
「はっ!どーしたよ。やっぱお前くそ弱いなぁ!」
「…………」
ニヤリと悪どい笑みを浮かべて、五条は笑う。
それにナナシは悔しげに歯を食いしばって五条を睨みつけた。
「なーに?泣いてもいいんだぜ?」
「うっさい馬鹿野郎!さっさとどけ!」
「俺の名前覚える気になった?」
「知らねーよ!バカは一生バカだ!」
「ふーん、あっそ。マジでムカついたわ。」
そう言うと、五条はナナシの制服の襟首を掴んで無理矢理引き寄せた。
五条は自分の唇をナナシの唇に押し当てて、無理矢理キスをしてきたのである。
「んーーっ!!」と声にならない悲鳴がナナシから漏れ出る。
じたばたと、手を、脚を動かして抵抗するが、五条はあろうことかナナシの下唇を噛んだのだ。
痛みで口を開くと、すかさず舌をねじ込んで舌と舌を絡めてきた。
ぬるりとした気持ち悪い感触に、ナナシは悲鳴を上げて半泣きになった。
五条の舌を力いっぱいに噛んでやった。すると勢いよく五条がナナシから離れた。
「いってー!噛むなよ!血が出ただろ!」
「死ね死ねバカ!!うう……初めてだったのにぃ~!」
ナナシはこう見えて、ロマンチストであった。ファーストキスは絶対に好きな人と。そんな恋に恋する女の子であった。
無慈悲にも奪われた初キス。あまりの事にショックで涙がボロボロと溢れてきた。
ナナシの泣き顔を見て、一瞬たじろいだ五条だったが、すぐのニヤリと意地悪げに笑みを浮かべて言った。
「へぇー、初キスだったわけ。やっぱお前処女じゃん!見た目はビッチそうなのになー!」
「…………っ!」
その言葉がトドメになった。ナナシの大きな瞳から、ポロリと大粒の涙が零れ落ちる。
うるうると目を潤ませて、ナナシは叫んだ。
「おっ、お兄ちゃーーーん!!うえーーーーん!!」
号泣するナナシの顔はぐしゃぐしゃで、まるで子供のようにギャン泣きし始めた。
流石にやり過ぎたかと、五条が何が言おうとナナシに手を伸ばそうとした瞬間、ナナシの呪力が跳ね上がった。
いや、正確にはナナシの中から何かが出てくる。
さっきまで感じなかったその気配は、梅の帯からズルリと浮き上がるようにして這い出てきた。
「俺の妹を泣かした奴は……お前かぁ?」
ずるりと帯から出てきたのは人の形をしていた。真っ黒な長い髪をだらりと垂らし、顔には大きな痣。
身に纏う呪力は禍々しく、ねっとりとした薄気味悪さがあった。
ナナシよりも遥かに強い。五条は確信した。
そして弱いナナシが何故特級なのか分かった気がした。絶対にコイツのせいだ。
ナナシを守ろうと彼女を背に庇うその姿はまるで式神のようだが、気配は完全に呪霊だ。
ナナシのやつ、こんなのを隠し持ってたのか。こいつは間違いなく特級呪霊。それも、五条がこれまで倒してきたどの特級よりも遥かに強い。
そして帯から出てきたのはそれだけじゃなかった。
「あれ〜?ナナシちゃん泣いてるの?可哀想に。よしよし、慰めてあげよう。」
帯から出てきたのは、頭から血を被ったように真っ赤な装束に身を包んだ男。
泣いているナナシを抱き締めて、よしよしと労わるように頭を撫でる。
おいなんだアイツ、ナナシに触んなよ。
ちょっとイラついた。
こいつからは呪霊の気配はしない。式神か?でもあの黒い男よりもずっとずっと格上だ。
黒い呪霊だけでも強いのに、同等以上の式神がもう一体出てきた。
ナナシの奴、マジでどうやってこんな呪霊手懐けたんだ?
お前の術式は呪霊操術じゃないだろ!なんで呪霊なんて付き従えてんだよ!
流石の俺も、特級呪霊とそれ以上の実力を持つ式神相手に冷や汗が出てきた。
黒の呪霊と赤の式神は、五条を見据える。殺気の籠ったその鋭い視線は、完全に五条を敵として判断したようだ。
「妹を泣かせたんだ。殺されても文句ねーよなぁ?」
「そうだね。殺してしまおうか。女の子ならもっと良かったんだけど、しょーがないね。ナナシちゃんのためだ。」
「ナナシ、お前なんつーもん飼ってんだ!」
「飼ってないもん!死ねバカ!あんたなんて絶対に悟なんて呼んでやらないんだから!!」
わぁぁぁん!と泣き叫ぶナナシ。
五条は不覚にも、ナナシがさりげなく呼んでくれた「悟」に敏感に反応して頬を赤らめていた。
それを見て何かを察する呪霊たち。
「おいまさか……」
「おやおや、これは……」
「童磨さん、言わないでください。妹の前です。」
「おやぁ、すまないね。でもそっかあ~、君は随分と子供だねぇ~。女の子には優しくしないと。特に好きな子には!」
「あ"っ?式神が偉そうに説教すんな!」
「否定しないんだねー!」
ケラケラと笑う赤い式神に、五条は血管が浮き出るくらいに額に青筋を浮かべた。
こいつ等祓う。絶対に祓う。そう心に誓った瞬間だった。
*****
◆謝花ナナシ→夜蛾ナナシ
お兄ちゃんが大好き。この世で1番好き。
世界中の誰よりも1番カッコイイと本気で思ってる。
美人なのにブラコンなせいで彼氏を作ろうとしない。
我儘だけど心を許した人にはめっちゃ懐く。
この世で一番嫌いな人間は五条悟。世界でたった2人だけになっても、こいつとだけは結婚しないと思うくらいに嫌い。死ねばいいのにと本気で思ってる。
特級呪術師ではあるが、それは兄の手助けあってのこと。ナナシ自身の実力は準1級くらい。
術式「帯」
無数の帯を顕現して操る。
その帯の中になんでも収納出来る。一度中に入るとナナシの許可なしには出てこれない。(獄門疆にも負けない厳重封印だよ☆)
意識がない間も術式は発動し続け、ナナシが死なない限り解除されることはない。
帯を他者に携帯させれば連絡も取れるし、様子も見れる。ついでに離れていてもナナシの意思で帯を介して呼び寄せることが出来る。逆も然り。別名「万能帯」
式神「鬼」
ナナシちゃんの帯から出てくる鬼たち。みんな特級クラスだよ☆
呼ばれる鬼たちは本人ではなく、飽くまでも似た姿をした別物。みんなナナシが好き。
◆謝花妓夫太郎
特級過呪怨霊。お互いに離れたくないと呪ったら里香ちゃんみたいな感じになってしまった兄妹。
里香ちゃんと違うのはナナシは妓夫太郎を呪い、妓夫太郎はナナシを呪ったので、お互いに解放を望まなければ解呪されない。
そして魂を繋いだことで、ナナシと妓夫太郎の二人を同時に殺さない限り二人は死ぬことは無い。
妹が大好き。ナナシが可愛くってしょうがない。五条悟は死ねと思ってる。
呪霊だがナナシと魂が繋がっているために夏油の呪霊操縦では取り込めない。
◆五条悟
呪術師最強の男。でも性格はクソ野郎。
ナナシとよく喧嘩する。でも本当は入学初日に自分に喧嘩をふっかけてきたナナシに一目惚れした。
素直になれずに好きな子をいじめちゃう小学生男子。きっとこれから先も永遠の小学生。
ナナシちゃんの容赦ない暴言に実は結構傷ついてた。そして自分を嫌う女なんていないと思っていたので、プライドも傷ついた。
この後お兄ちゃんたちに負けるので余計にプライドへし折れる。
ナナシのファーストキスを奪ってその好感度は氷点下にまで下がった。
いつか名前を呼んでもらいたい。
◆夏油傑
ナナシの同級生。五条の親友になった。
ナナシとは名前で呼び合うくらいには仲がいいが、五条と親友になったことで裏切り者扱いされた。
しばらくの間拗ねたナナシに「前髪野郎」としか呼んでもらえなかった。
五条の恋心には気付いているが、応援する気はない。
◆家入硝子
ナナシとはよく出かけるくらいに仲良しになった。ナナシは勝手に親友だと思っている。そして硝子も満更ではない。
基本的に面倒事は避けたいので傍観者に徹している。
五条の恋心に気付いているが応援する気はさらさらない。いつも自滅している五条を馬鹿だなーとか思ってる。
◆夜蛾正道
ナナシちゃんの義父。娘かわいい。娘Love。
近づく野郎は生徒だろうと排除したい精神である。
五条の恋心にはまだ気付いていない。
*****
――数分後、グラウンドには一体の氷像が出来上がった。
その名も最強様負けやがったよ。プークスクスである。
ナナシは「ざまーみろばァァか!!あっははは!!」と大声でゲラゲラと笑いながら携帯でこれでもかと記念写真を撮りまくっている。
一方、お兄ちゃんと童磨は流石に疲労困憊でナナシの帯の中へと戻って休んでいる。
お兄ちゃん、妹のために何回も死んでがんばったよ。
そしてその様子を教室の窓から見ていた夏油と家入はこりゃあ後で荒れるなーと、この後暴れまくる最強様の未来を予想してため息をついた。
だけど梅にはよくやったと褒めてやりたい。"あの"五条悟が負けるなんて滅多にお目にかかれる事じゃないからだ。
面白いもんが見れたと二人ともまったく五条の心配はしていなかった。
家入はともかくそれでいいのか親友よ。
かなり油断していたとはいえ、まさか五条悟が負けるなんて前代未聞なことである。
この事はあっという間に全学年に広まることになった。そしてナナシは密かにあの五条悟を倒した女として、関わったらやべー奴として名が知れ渡ることになるのであった。
担任であり、父でもある夜蛾正道は今日も今日とでキリキリと痛む胃を抑えながら、大量の胃薬を飲み込むのであった。