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翌日の朝になり、桑島の家を後にした小羽が蝶屋敷に帰ってきたのは、昼過ぎになってからであった。
*
昨日の朝一に出かけていった小羽が、翌日の昼過ぎになっても帰って来ない。
善逸は心配で心配でいても立ってもいられずに、外へと飛び出した。
じっとしていられずに、先程から外をうろうろとうろつき、時折空を見上げてはため息をつくということを繰り返している。
「あ~~、小羽遅いなぁ!何かあったのかなぁ?……はっ!まさか道中鬼に襲われて……いやいや、それかもしくはあまりにも可愛いから、小羽狙いの男共に誘拐されたんじゃ……いっ……いやぁぁぁぁぁぁーーーー!!小羽ーーーー!!」
小羽の身を心配するあまり、悪い方悪い方へと考えが向かってしまい、善逸は自分の想像にショックを受けて絶叫した。
蝶屋敷中に善逸の汚い高音が響き渡る。
ここでいつもなら炭治郎やアオイが「うるさい」と言って注意しに来るのだが、今日は違っていた。
人の声の代わりに、「チュンチュン」と可愛らしい小鳥の鳴き声が善逸の耳に入ってきたのだ。
その声を聞いて、パッと弾かれたように顔を上げる。
すると善逸の肩に小さな雀が一羽降り立ったのである。
そう……待ちに待った小羽が帰ってきたのだ。
「小羽!遅かったじゃないか!心配したんだよ!」
「チュンチュン!(ただいま善逸!)」
「……うーん、やっぱり俺には雀姿の小羽の言葉が分からないなぁ~。炭治郎が羨ましい!」
チュンチュンと可愛らしく鳴く小羽の言葉は、善逸には分からない。
恋人の言葉はどんな言葉でも理解したいと思う善逸は、こんな時、小羽の言葉を理解できる炭治郎が羨ましかった。
しょんぼりと項垂れる善逸を励ますように、小羽はもう一度「チュン」と鳴いた。
そして善逸の肩から飛び立つと、すぐに元の人間の姿へと戻る。
小さな雀の体が大きく膨らんで、あっという間に人の形へと変化した。
いつもの見慣れた小羽の姿に戻ったことに、善逸は嬉しそうに笑顔を浮かべるが、彼女の髪を結い上げている髪紐を見て、笑顔のまま固まった。
善逸の目の前でひらひらと風に揺れるその黄色いリボンを一点に凝視する。
小羽が身につけているリボンが何なのか分かると、善逸はプルプルと震える指を小羽の頭に向けて口を開いた。
「#name4#っ……小羽、それ……」
「ん?ああ、気付いた?これ善逸の羽織の切れ端で作ったんだよ。桑島さんからもらったんだぁ~!」
「おっ、俺のぉ!?」
「そう。前のリボンがちょっと切れちゃってね。」
小羽は獪岳と一悶着あった際にリボンが切れてしまったことは伏せて、そう説明した。
獪岳を庇う訳ではないが、余計な心配をさせて、善逸と兄弟子との仲を更に拗れさせたくなかったのだ。
「おおお、俺の羽織ぃぃぃぃ!?」
「えへへ、善逸とお揃いだね。似合う?」
「似合う似合う!もう!超絶可愛いよ!日本一!いや、世界一可愛いよ!女神かな!?俺とお揃いなんて!これはもう結婚かな!?」
「まだ結婚はしないからね。というか、年齢的にできないよ。」
「あーー!法律が憎い!」
善逸がうっとりと目をハートにして、それはもう小羽にメロメロになって褒めちぎってくれるものだから、小羽も照れくさいが嬉しくなる。
好きな人に可愛いと言われて、気分はちょっぴり有頂天だった。
しかし、小羽は言わなければならない。
リボンのことは黙っていられても、これだけはちゃんと伝えなければならないのだ。
「もう、本当に可愛いよ~~!さっすが俺の恋人!未来のお嫁さん!えへへへへへ!」
「うふふ、ありがとう、善逸。ちょっと恥ずかしいけど、喜んでもらえて嬉しい。……あのね、善逸。」
「うふふふふふ、なぁに?小羽?」
「……手紙……また読んでもらえなかった。ごめんね。」
「――あっ。」
小羽がそう言った瞬間、善逸から笑顔が消えた。
さっきまでうっとりと可愛い恋人に浮かれていた顔を引っ込めて、途端に真剣な顔つきになった。
そんな善逸の表情の変化に、小羽は手紙をちゃんと渡してあげられなかったことを後悔した。
やはり、何としても受け取ってもらえば良かった。
きっと善逸はまた獪岳に手紙を読んでもらえなくてショックを受けただろうから……
そんな善逸の心の心境を思って小羽が落ち込んでいると、善逸が小羽の肩を掴んで顔を覗き込んできた。
「――あいつに、何か酷いことされなかった!?」
「へ?」
何故か自分の身を心配してくる善逸に、小羽はきょとりと目を丸くする。
ポカンとほうけた顔で間抜けな声を上げる彼女に、善逸は酷く心配そうな顔でもう一度問いかける。
「獪岳に乱暴なことされなかった!?」
「えっ、えっ、だっ、大丈夫……」
「……本当に?」
「……手紙、破かれちゃった。」
「それはいいんだよ!どうせ獪岳のことだから、俺の手紙なんて素直に受け取る筈ないだろうし!それよりも、あの馬鹿に小羽が酷いことされなかったかが心配で!……もしかして、そのリボンって、獪岳が関係してたりする?」
「うっ!」
「小羽~~?ちゃんと正直に話して。俺に嘘ついたり、隠し事はしないでよ。」
善逸は、何故かこういうことには勘が働く。
音で分かるのだろうか?
それとも私のことだから分かるのかな。善逸には悪いけど、そうだったら嬉しい。
小羽は善逸の剣幕に気圧されながら、降参とばかりに肩を竦めた。
「……はあ、何で分かっちゃうかなぁ。 」
「小羽のことだからに決まってるでしょ!」
そう言ってとても真剣な顔をする善逸に、小羽はキュンっと胸が高鳴った。
善逸に恋をしてからは、馬鹿みたいに彼にときめいてしまうことが増えた気がする。
「――で、何があったの?」
「えっ、言わなきゃダメ?」
「ダメ!」
「う~~」
善逸にじっと見つめられて、小羽は困ったように唸る。
こうして小羽は洗いざらい事の顛末を説明させられたのであった。
………………
………
「――あの野郎!!ぶっ殺してやる!!」
「どうどう、落ち着いて!」
案の定というか、小羽が獪岳に乱暴されたと聞いて、善逸は怒り狂った。
額や握り締めた拳に血管が浮き出るほどに青筋を浮かべ、今ここに獪岳がいたらすぐにでも殴りかかりそうな勢いで目を血走らせてキレていた。
そんな善逸を慌てて宥めようとするが、善逸の怒りは収まりそうにない。
「私のことは本当にいいんだってば!」
「良くない!小羽に怪我させて、しかも小羽の大切なリボンまでボロボロにするなんて!」
「だから、それは大丈夫だから!私ももう気にしてないし!」
「小羽が良くても俺が許せない!……というか!何で小羽は嬉しそうな音させてるの!?」
「えへへ、だって~~……」
善逸が真剣に怒っているというのに、小羽からは何故か嬉しいという感情の音が伝わってくる。
心なしか彼女の顔も笑いを堪えているような……
思わずジト目で睨みつけると、小羽は「ごめんごめん」とすかさず謝ってきた。
「だって、善逸が私のためにそんなに真剣に怒ってくれるのが嬉しくて……ごめんね。」
「怒るよ!怒るに決まってる!だって、大切な女の子のことなんだよ!」
「善逸はそうやっていつも私を特別扱いしてくれるよね。」
小羽がそう言うと、善逸は当たり前だとばかりに頷く。
「当然だよ!だって、俺にとって小羽は誰よりも大切な女の子なんだから!心配するのは当たり前!特別扱いだってするよ!」
「うん……私にとっても、善逸は一番大切な人だよ。」
「う、ん……#name4#っ、小羽?」
自分から大切だと口にするのは平気でも、人から、それも小羽から好意を向けられることに慣れていない善逸は、まっすぐに向けられる小羽の熱い視線に恥ずかしそうに目を逸らしてしまう。
照れくさいのか、真っ赤な顔で恥ずかしそうにもじもじと手を動かす。
そんな善逸が愛おしくて愛おしくて、堪らない。
恋は落ちるものだと言うけれど、本当にそうだなって思う。
あんなに色恋なんて絶対にしないと鬼殺隊に入った時に固く誓ったのに、一度でも落ちてしまえば、こんなにも世界が色づいて見える。
目の前にいるこの人が、こんなにも愛おしいと思えるのだ。
「――ねぇ、善逸。」
「何?言っとくけど、隠そうとしてたことは怒って……んむっ!」
小羽はそっぽを向いている善逸の頬に手を添えると、彼の名を呼んだ。
そして善逸がこちらに顔を向けた瞬間に、ぐっとその距離を縮めたのである。
善逸と小羽の距離がゼロになって、二人の影が一つに重なり合った。
触れ合っていた時間はほんの一瞬だったような気がする。
或いは永遠とも言えるような時間だったかもしれない。
世界がその瞬間だけ、止まったように感じたのだ。
小羽がそっと唇を離すと、善逸はポカンと間抜けにもほうけて固まっていた。
そんな彼に、やっぱり善逸はこうでないとと、妙に安心感を覚えた。
「えっ、えっ!?えええーーー!!?なっ、どっ、わっ、うえ!?」
「あはは!言葉になってないよ善逸!」
最近はこちらばかりがドキドキさせられていたので、たまには仕返ししてやりたかったのだ。
「今日も訓練がんばらないとね!」
未だに真っ赤な顔で慌てふためき、何か言いたそうにこちらを見てくる善逸に、小羽はにっこりと満面の笑みを浮かべてそう言った。
善逸はきっと、私には踏み込めないような何かを抱えているのかもしれない。
その一つが獪岳さんのことであったとしたら、これ以上私のことで彼に怒りを向けて欲しくなかった。
だって、私の存在が善逸の妨げになるようなことだけは絶対に嫌だったから。
善逸には幸せになって欲しい。
できることなら、その未来でも彼の傍にいられたら嬉しいと思う。
今はそんな囁かな未来を思い描けるようになった。
少し前の自分では有り得なかった考えだ。
こんな風に思えるようになったのも、全部善逸のお陰。
だからこれからは、私も彼を支えていける存在になりたいと思う。
私が善逸にたくさん支えられたように、彼の助けになりたいから。
――澄んだ青空の下、足元には小さな蒲公英が咲いていた。
それがほんの少しだけ善逸に似ているなって思ったのは、私だけのひみつだ。
*
昨日の朝一に出かけていった小羽が、翌日の昼過ぎになっても帰って来ない。
善逸は心配で心配でいても立ってもいられずに、外へと飛び出した。
じっとしていられずに、先程から外をうろうろとうろつき、時折空を見上げてはため息をつくということを繰り返している。
「あ~~、小羽遅いなぁ!何かあったのかなぁ?……はっ!まさか道中鬼に襲われて……いやいや、それかもしくはあまりにも可愛いから、小羽狙いの男共に誘拐されたんじゃ……いっ……いやぁぁぁぁぁぁーーーー!!小羽ーーーー!!」
小羽の身を心配するあまり、悪い方悪い方へと考えが向かってしまい、善逸は自分の想像にショックを受けて絶叫した。
蝶屋敷中に善逸の汚い高音が響き渡る。
ここでいつもなら炭治郎やアオイが「うるさい」と言って注意しに来るのだが、今日は違っていた。
人の声の代わりに、「チュンチュン」と可愛らしい小鳥の鳴き声が善逸の耳に入ってきたのだ。
その声を聞いて、パッと弾かれたように顔を上げる。
すると善逸の肩に小さな雀が一羽降り立ったのである。
そう……待ちに待った小羽が帰ってきたのだ。
「小羽!遅かったじゃないか!心配したんだよ!」
「チュンチュン!(ただいま善逸!)」
「……うーん、やっぱり俺には雀姿の小羽の言葉が分からないなぁ~。炭治郎が羨ましい!」
チュンチュンと可愛らしく鳴く小羽の言葉は、善逸には分からない。
恋人の言葉はどんな言葉でも理解したいと思う善逸は、こんな時、小羽の言葉を理解できる炭治郎が羨ましかった。
しょんぼりと項垂れる善逸を励ますように、小羽はもう一度「チュン」と鳴いた。
そして善逸の肩から飛び立つと、すぐに元の人間の姿へと戻る。
小さな雀の体が大きく膨らんで、あっという間に人の形へと変化した。
いつもの見慣れた小羽の姿に戻ったことに、善逸は嬉しそうに笑顔を浮かべるが、彼女の髪を結い上げている髪紐を見て、笑顔のまま固まった。
善逸の目の前でひらひらと風に揺れるその黄色いリボンを一点に凝視する。
小羽が身につけているリボンが何なのか分かると、善逸はプルプルと震える指を小羽の頭に向けて口を開いた。
「#name4#っ……小羽、それ……」
「ん?ああ、気付いた?これ善逸の羽織の切れ端で作ったんだよ。桑島さんからもらったんだぁ~!」
「おっ、俺のぉ!?」
「そう。前のリボンがちょっと切れちゃってね。」
小羽は獪岳と一悶着あった際にリボンが切れてしまったことは伏せて、そう説明した。
獪岳を庇う訳ではないが、余計な心配をさせて、善逸と兄弟子との仲を更に拗れさせたくなかったのだ。
「おおお、俺の羽織ぃぃぃぃ!?」
「えへへ、善逸とお揃いだね。似合う?」
「似合う似合う!もう!超絶可愛いよ!日本一!いや、世界一可愛いよ!女神かな!?俺とお揃いなんて!これはもう結婚かな!?」
「まだ結婚はしないからね。というか、年齢的にできないよ。」
「あーー!法律が憎い!」
善逸がうっとりと目をハートにして、それはもう小羽にメロメロになって褒めちぎってくれるものだから、小羽も照れくさいが嬉しくなる。
好きな人に可愛いと言われて、気分はちょっぴり有頂天だった。
しかし、小羽は言わなければならない。
リボンのことは黙っていられても、これだけはちゃんと伝えなければならないのだ。
「もう、本当に可愛いよ~~!さっすが俺の恋人!未来のお嫁さん!えへへへへへ!」
「うふふ、ありがとう、善逸。ちょっと恥ずかしいけど、喜んでもらえて嬉しい。……あのね、善逸。」
「うふふふふふ、なぁに?小羽?」
「……手紙……また読んでもらえなかった。ごめんね。」
「――あっ。」
小羽がそう言った瞬間、善逸から笑顔が消えた。
さっきまでうっとりと可愛い恋人に浮かれていた顔を引っ込めて、途端に真剣な顔つきになった。
そんな善逸の表情の変化に、小羽は手紙をちゃんと渡してあげられなかったことを後悔した。
やはり、何としても受け取ってもらえば良かった。
きっと善逸はまた獪岳に手紙を読んでもらえなくてショックを受けただろうから……
そんな善逸の心の心境を思って小羽が落ち込んでいると、善逸が小羽の肩を掴んで顔を覗き込んできた。
「――あいつに、何か酷いことされなかった!?」
「へ?」
何故か自分の身を心配してくる善逸に、小羽はきょとりと目を丸くする。
ポカンとほうけた顔で間抜けな声を上げる彼女に、善逸は酷く心配そうな顔でもう一度問いかける。
「獪岳に乱暴なことされなかった!?」
「えっ、えっ、だっ、大丈夫……」
「……本当に?」
「……手紙、破かれちゃった。」
「それはいいんだよ!どうせ獪岳のことだから、俺の手紙なんて素直に受け取る筈ないだろうし!それよりも、あの馬鹿に小羽が酷いことされなかったかが心配で!……もしかして、そのリボンって、獪岳が関係してたりする?」
「うっ!」
「小羽~~?ちゃんと正直に話して。俺に嘘ついたり、隠し事はしないでよ。」
善逸は、何故かこういうことには勘が働く。
音で分かるのだろうか?
それとも私のことだから分かるのかな。善逸には悪いけど、そうだったら嬉しい。
小羽は善逸の剣幕に気圧されながら、降参とばかりに肩を竦めた。
「……はあ、何で分かっちゃうかなぁ。 」
「小羽のことだからに決まってるでしょ!」
そう言ってとても真剣な顔をする善逸に、小羽はキュンっと胸が高鳴った。
善逸に恋をしてからは、馬鹿みたいに彼にときめいてしまうことが増えた気がする。
「――で、何があったの?」
「えっ、言わなきゃダメ?」
「ダメ!」
「う~~」
善逸にじっと見つめられて、小羽は困ったように唸る。
こうして小羽は洗いざらい事の顛末を説明させられたのであった。
………………
………
「――あの野郎!!ぶっ殺してやる!!」
「どうどう、落ち着いて!」
案の定というか、小羽が獪岳に乱暴されたと聞いて、善逸は怒り狂った。
額や握り締めた拳に血管が浮き出るほどに青筋を浮かべ、今ここに獪岳がいたらすぐにでも殴りかかりそうな勢いで目を血走らせてキレていた。
そんな善逸を慌てて宥めようとするが、善逸の怒りは収まりそうにない。
「私のことは本当にいいんだってば!」
「良くない!小羽に怪我させて、しかも小羽の大切なリボンまでボロボロにするなんて!」
「だから、それは大丈夫だから!私ももう気にしてないし!」
「小羽が良くても俺が許せない!……というか!何で小羽は嬉しそうな音させてるの!?」
「えへへ、だって~~……」
善逸が真剣に怒っているというのに、小羽からは何故か嬉しいという感情の音が伝わってくる。
心なしか彼女の顔も笑いを堪えているような……
思わずジト目で睨みつけると、小羽は「ごめんごめん」とすかさず謝ってきた。
「だって、善逸が私のためにそんなに真剣に怒ってくれるのが嬉しくて……ごめんね。」
「怒るよ!怒るに決まってる!だって、大切な女の子のことなんだよ!」
「善逸はそうやっていつも私を特別扱いしてくれるよね。」
小羽がそう言うと、善逸は当たり前だとばかりに頷く。
「当然だよ!だって、俺にとって小羽は誰よりも大切な女の子なんだから!心配するのは当たり前!特別扱いだってするよ!」
「うん……私にとっても、善逸は一番大切な人だよ。」
「う、ん……#name4#っ、小羽?」
自分から大切だと口にするのは平気でも、人から、それも小羽から好意を向けられることに慣れていない善逸は、まっすぐに向けられる小羽の熱い視線に恥ずかしそうに目を逸らしてしまう。
照れくさいのか、真っ赤な顔で恥ずかしそうにもじもじと手を動かす。
そんな善逸が愛おしくて愛おしくて、堪らない。
恋は落ちるものだと言うけれど、本当にそうだなって思う。
あんなに色恋なんて絶対にしないと鬼殺隊に入った時に固く誓ったのに、一度でも落ちてしまえば、こんなにも世界が色づいて見える。
目の前にいるこの人が、こんなにも愛おしいと思えるのだ。
「――ねぇ、善逸。」
「何?言っとくけど、隠そうとしてたことは怒って……んむっ!」
小羽はそっぽを向いている善逸の頬に手を添えると、彼の名を呼んだ。
そして善逸がこちらに顔を向けた瞬間に、ぐっとその距離を縮めたのである。
善逸と小羽の距離がゼロになって、二人の影が一つに重なり合った。
触れ合っていた時間はほんの一瞬だったような気がする。
或いは永遠とも言えるような時間だったかもしれない。
世界がその瞬間だけ、止まったように感じたのだ。
小羽がそっと唇を離すと、善逸はポカンと間抜けにもほうけて固まっていた。
そんな彼に、やっぱり善逸はこうでないとと、妙に安心感を覚えた。
「えっ、えっ!?えええーーー!!?なっ、どっ、わっ、うえ!?」
「あはは!言葉になってないよ善逸!」
最近はこちらばかりがドキドキさせられていたので、たまには仕返ししてやりたかったのだ。
「今日も訓練がんばらないとね!」
未だに真っ赤な顔で慌てふためき、何か言いたそうにこちらを見てくる善逸に、小羽はにっこりと満面の笑みを浮かべてそう言った。
善逸はきっと、私には踏み込めないような何かを抱えているのかもしれない。
その一つが獪岳さんのことであったとしたら、これ以上私のことで彼に怒りを向けて欲しくなかった。
だって、私の存在が善逸の妨げになるようなことだけは絶対に嫌だったから。
善逸には幸せになって欲しい。
できることなら、その未来でも彼の傍にいられたら嬉しいと思う。
今はそんな囁かな未来を思い描けるようになった。
少し前の自分では有り得なかった考えだ。
こんな風に思えるようになったのも、全部善逸のお陰。
だからこれからは、私も彼を支えていける存在になりたいと思う。
私が善逸にたくさん支えられたように、彼の助けになりたいから。
――澄んだ青空の下、足元には小さな蒲公英が咲いていた。
それがほんの少しだけ善逸に似ているなって思ったのは、私だけのひみつだ。