機能回復訓練
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「小羽ちゃん、もうすぐ着くからね。」
「……あのね、善逸くん。」
「うん?」
「私はいつまでこのままなのかな?」
そう言った小羽の言葉に善逸は「もちろん目的地に着くまでだよ」と当たり前のように答える。
その声はとても楽しそうに弾んでおり、本当に嬉しそうに言うものだから、小羽は諦めたように小さくため息をつくしかなかった。
今小羽は、善逸に抱っこされていた。
「小羽ちゃんに見せたい場所があるんだ。」そう言って彼は小羽を何処かに連れて行きたがった。
小羽が二つ返事で頷くと、善逸は何故か小羽に目隠しをするようにお願いしてきたのである。
これには流石に小羽もドン引きした。
お前は何をする気なのかと。
大好きな小羽に引かれて、善逸は慌てて「目的地に着くまでは内緒にしておきたい」「びっくりさせたいだけだから、何もしないから」と必死にお願いしてくるものだから、小羽も渋々了承した。
そして今、彼女は目隠しをされて、善逸にどこかへと運ばれている。
いつかの夜に小羽が善逸にしたような姫抱きをされて……
目が見えないと危ないからと、恥ずかしがって何とか自力で歩こうとする小羽を半場無理やり説得して、善逸は彼女を横抱きして運ぶと言って頑なに譲らず、仕方なく小羽が折れてこうして恥ずかしい思いをしながら大人しく運ばれているという訳である。
「……はあ」
「小羽ちゃん疲れた?本当にもうすぐ着くからね!」
小羽が小さくため息をつけば、すぐに善逸が気付いて声を掛けてくれる。
気遣ってくれるのは素直に嬉しい。有難いと思う。
けれど善逸くんよ。
この格好は正直ものすごく恥ずかしいのだ。
幸いにも善逸は、流石に人目を避けているのか、さっきから人とすれ違った様子はない。
まあ、誰かに見られたら確実に誘拐か何かと勘違いされるだろう。
そして何も見えないし、足元がずっと地面から浮いているせいで、浮遊感がすごく怖い。
鳥の姿で空を飛んでいる時とはまったく違う浮遊感。
足場のないふわふわとした不安定な感覚に早く地面に降りたいと心の中で願う。
それは数十分くらいだっただろう。
けれど小羽には何時間もの間のことのように思えた。
「――着いたよ。」
やがて善逸が足を止めると、そう囁いた。
ゆっくりと地面に降ろされる。
漸く不安定な浮遊感から解放されて、地面に足をつけることができた。
ほっと一息つくと、善逸はそっと目隠しを外してくれた。
途端に視界が白くなって、眩しさに顔をしかめる。
少しして細めていた目が明るさに慣れてくると、視界いっぱいに映った光景に思わず息を呑んだ。
「――きれい。」
思わずそんな言葉と共にほうっと息を吐いた。
目の前には野原一面を覆うような美しい花畑が広がっていた。
白詰草に蒲公英、たくさんの春の花々たちがそこには美しく凛と咲き誇っていた。
「すごい……裏山にこんな所があったんだ。」
「すごいでしょ?訓練をサボっている時に偶然見つけたんだ。ここを見つけた時、絶対に小羽ちゃんを連れてきたいって思ったんだ。」
息を飲んで目の前の美しい光景に目を奪われている小羽に、善逸は嬉しそうににこにこと笑いながらそう説明した。
「そう、なんだ……ん?サボってって……まあいいけど……」
訓練をサボっていたのは正直褒められたことではないが、こんな素敵な場所に自分を連れて来てくれたのは素直にとても嬉しかった。
だから小羽は、精一杯の感謝の気持ちを込めて満面の笑みでお礼を言ったのである。
「ありがとう、善逸くん。」
「あっ……えっと……えへへ。」
小羽が笑顔を向けてお礼を言うと、善逸は何故かピンっと背筋を伸ばして固まり、照れくさそうにはにかんだ。
後ろ頭を掻きながら耳まで真っ赤にして照れている、善逸が小羽はとても可愛く思えた。
つい口元に手を当ててクスクスと笑ってしまうと、善逸はますます顔を赤らめて慌てた様子で、というよりも少しテンパった感じで口を開いた。
「あっ、あのさ!白詰草で花の輪っか作ってあげるよ!俺、本当にうまいの作れるんだ!」
「花の……輪っか?」
こてんっと、首を傾げて不思議そうな顔をする小羽。
「花で輪っかなんて作れるの?どうやって?」
「あっ、えっと……ちょっと待ってて!」
不思議そうに首を傾げたまま問いかける小羽。
それに善逸は慌ててしゃがみ込むと、いそいそと花を摘み始めた。
その様子を横からひょっこりと顔を覗かせて見ていると、善逸は摘んだシロツメ草を器用に編んでいく。
花の茎と茎を丁寧に編み込んで、徐々に出来上がっていく輪っか。
善逸の手先の器用さに感心したように、小羽はほうっと息を吐く。
「こうやって花を編んでいって、輪っかにするんだ。」
「へぇ~すごい。善逸くんって手先が器用なんだね。」
「いやぁ~、まあね!俺、弱いし泣き虫だし、何もいいとこないけど、これだけは昔から得意なんだ。」
「善逸くん。自分をそんな風に卑下しないで?私は善逸くんの良いところ、いっぱい知ってるよ。」
「えっ。」
「それで、その輪っかはどうするの?」
小羽の言葉に一瞬手を止めて顔を上げた善逸であったが、彼女の問いかけに思考を戻して、慌てて説明する。
「えっと……小羽ちゃんはこういう遊びしたことないの?」
「うん。というか、同年代の子と遊んだこと自体ないかな。子供の頃から鎹一族としての修業ばかりしてて、遊ぶ暇なんてなかったし、両親が亡くなってからは鬼殺隊になる為の修業に明け暮れて、その後はずっとお兄ちゃんの鎹雀として働いてたし……だから遊びってよく知らないかな。花札とかおはじき?は知ってるけどやったことはないし。」
「えっ……そ、そうなんだ?」
小羽の言葉にどう返したらいいのか分からずに、善逸は言葉を詰まらせる。
だけど何か言わなくてはと、まごまごと手を動かして花輪作りを再開しながら口を開く。
「俺も……さ、ずっと友達なんていなかったから、遊んだことあんまりないんだ。この花輪作りだって、女の子達がやってたのを見て一人で覚えたし。」
「そうなの?」
「うん。花輪ってさ、色々あるんだ。冠だったり、首輪だったり、指輪だったりね。はいこれ。」
そう言って善逸は小羽の頭にできあがった花の冠を乗せてやった。
「――えっ。」
「うん。やっぱりすごく似合う。……綺麗だなぁ」
「……っ」
蕩けるように甘く、熱を帯びた視線を小羽に向けて、うっとりと、恍惚とした表情でそう呟く。
いつかの時のような、蜂蜜のような甘い瞳で見つめられ、ドクリと心臓が大きく跳ねる。
――ああ、まただ。
この瞳に見つめられると、目が逸らせなくなる。
冷静でいられなくなる。心がざわつく。心臓の音がうるさい。
この音が善逸くんに聴かれているのかと思うと、酷く居た堪れなくなる。
落ち着け。落ち着け私。
このままだと私の気持ち、善逸くんにバレる。
小羽は何とか誤魔化すように慌てて口を開く。
「あっ、えっと……これ、貰っていいの?」
「勿論だよ!だって小羽ちゃんのために作ったんだから!」
にっこりと可愛らしい笑顔でそう言われ、小羽は嬉しそうにはにかむ。
「私の……ため?」
「うん!小羽ちゃんのことを想って編んだんだ!」
「そっ、そっか……ありがとう。」
頭に被せられた花の冠に愛おしげに触れる。
善逸くんが私を想って、私のために作ってくれたもの。
初めて彼から貰った物が、そんな風に想われながら作られたと思うと、人から見ればただの植物の冠でも、私にとっては何よりも大切な、愛おしいものに思えてくる。
(……後でこれ、栞にしよう。大切にする。)
植物だから、どうしてもいずれ枯れてしまう。
それはとても残念だけど、何か形にして残しておきたいなと小羽は思った。
――私、やっぱり善逸くんのこと……
ふと、そんな考えが頭の中を過ぎった。
一瞬よぎった想いを断ち切るように頭を振る。
「――小羽ちゃん。」
「えっ、何? 」
不意に名を呼ばれ、小羽は善逸の方を見る。
すると彼と目が合った。
ドクンッと、また心臓が跳ねる。
善逸はとても優しい目で小羽を見ていた。
愛おしげに。何よりも小羽が大切だと、愛していると、その熱を帯びた眼差しが全てを語っていた。
「――俺ね。すっげぇ弱いの。雷の呼吸だって壱の型しか使えないし、すぐ泣くし、情けないし。でもさ……」
善逸がそう言って小羽の手をそっと取る。
刀だこまみれでがさついていて、少し細くて、でもちゃんと男の子の手で、誰かを守るための優しい手。
その手で小羽の手をぎゅっと包み込みながら、小羽の目をじっと覗き込む。
「俺……小羽ちゃんを守るよ。誰よりも大切で、大好きな君のことを、俺が守りたい。
小羽ちゃんが好きです。大好きです。俺に……小羽ちゃんの傍にいる権利をください。」
耳まで真っ赤にして、真剣な目で私をまっすぐ見つめてくる。
私の手を強く握る善逸くんの手は、緊張からなのか震えていた。
本気なんだ。本気で……私をちゃんと想ってくれてる。
ドクンドクンと、自分の心臓の音がうるさいくらいに鼓動を奏でる。
嬉しかった。すごくすごく、嬉しかった。
――私は、善逸くんが好きなんだと思う。
いや、好きなんだ。
でもね、その気持ちを素直に認めることができない。
受け入れるのが怖いの。
だって……認めてしまったら、私が善逸くんの気持ちを受け入れてしまったら、私はきっと、もう……
少しだけ、考えてみたんだ。
私と善逸くんがお互いに想い合って、恋仲になって、二人で手を繋いだりして、微笑んでいる未来を……
とても、幸せだった。同時に湧き上がってきたゾワリとする寒気。
これは恐怖だ。
――ああ、やっぱり駄目。
「……ごめん……なさい。」
「――えっ。」
気付けばそう、口にしていた。
瞬間、善逸くんの表情が絶望に凍りつく。
私は激しい罪悪感に包まれながら、もう一度その言葉を口にする。
「ごめんなさい。私は……善逸くんの気持ちに応えることはできない」
今度ははっきりと、自分の言葉で彼の想いを拒絶したのだった。
「……あのね、善逸くん。」
「うん?」
「私はいつまでこのままなのかな?」
そう言った小羽の言葉に善逸は「もちろん目的地に着くまでだよ」と当たり前のように答える。
その声はとても楽しそうに弾んでおり、本当に嬉しそうに言うものだから、小羽は諦めたように小さくため息をつくしかなかった。
今小羽は、善逸に抱っこされていた。
「小羽ちゃんに見せたい場所があるんだ。」そう言って彼は小羽を何処かに連れて行きたがった。
小羽が二つ返事で頷くと、善逸は何故か小羽に目隠しをするようにお願いしてきたのである。
これには流石に小羽もドン引きした。
お前は何をする気なのかと。
大好きな小羽に引かれて、善逸は慌てて「目的地に着くまでは内緒にしておきたい」「びっくりさせたいだけだから、何もしないから」と必死にお願いしてくるものだから、小羽も渋々了承した。
そして今、彼女は目隠しをされて、善逸にどこかへと運ばれている。
いつかの夜に小羽が善逸にしたような姫抱きをされて……
目が見えないと危ないからと、恥ずかしがって何とか自力で歩こうとする小羽を半場無理やり説得して、善逸は彼女を横抱きして運ぶと言って頑なに譲らず、仕方なく小羽が折れてこうして恥ずかしい思いをしながら大人しく運ばれているという訳である。
「……はあ」
「小羽ちゃん疲れた?本当にもうすぐ着くからね!」
小羽が小さくため息をつけば、すぐに善逸が気付いて声を掛けてくれる。
気遣ってくれるのは素直に嬉しい。有難いと思う。
けれど善逸くんよ。
この格好は正直ものすごく恥ずかしいのだ。
幸いにも善逸は、流石に人目を避けているのか、さっきから人とすれ違った様子はない。
まあ、誰かに見られたら確実に誘拐か何かと勘違いされるだろう。
そして何も見えないし、足元がずっと地面から浮いているせいで、浮遊感がすごく怖い。
鳥の姿で空を飛んでいる時とはまったく違う浮遊感。
足場のないふわふわとした不安定な感覚に早く地面に降りたいと心の中で願う。
それは数十分くらいだっただろう。
けれど小羽には何時間もの間のことのように思えた。
「――着いたよ。」
やがて善逸が足を止めると、そう囁いた。
ゆっくりと地面に降ろされる。
漸く不安定な浮遊感から解放されて、地面に足をつけることができた。
ほっと一息つくと、善逸はそっと目隠しを外してくれた。
途端に視界が白くなって、眩しさに顔をしかめる。
少しして細めていた目が明るさに慣れてくると、視界いっぱいに映った光景に思わず息を呑んだ。
「――きれい。」
思わずそんな言葉と共にほうっと息を吐いた。
目の前には野原一面を覆うような美しい花畑が広がっていた。
白詰草に蒲公英、たくさんの春の花々たちがそこには美しく凛と咲き誇っていた。
「すごい……裏山にこんな所があったんだ。」
「すごいでしょ?訓練をサボっている時に偶然見つけたんだ。ここを見つけた時、絶対に小羽ちゃんを連れてきたいって思ったんだ。」
息を飲んで目の前の美しい光景に目を奪われている小羽に、善逸は嬉しそうににこにこと笑いながらそう説明した。
「そう、なんだ……ん?サボってって……まあいいけど……」
訓練をサボっていたのは正直褒められたことではないが、こんな素敵な場所に自分を連れて来てくれたのは素直にとても嬉しかった。
だから小羽は、精一杯の感謝の気持ちを込めて満面の笑みでお礼を言ったのである。
「ありがとう、善逸くん。」
「あっ……えっと……えへへ。」
小羽が笑顔を向けてお礼を言うと、善逸は何故かピンっと背筋を伸ばして固まり、照れくさそうにはにかんだ。
後ろ頭を掻きながら耳まで真っ赤にして照れている、善逸が小羽はとても可愛く思えた。
つい口元に手を当ててクスクスと笑ってしまうと、善逸はますます顔を赤らめて慌てた様子で、というよりも少しテンパった感じで口を開いた。
「あっ、あのさ!白詰草で花の輪っか作ってあげるよ!俺、本当にうまいの作れるんだ!」
「花の……輪っか?」
こてんっと、首を傾げて不思議そうな顔をする小羽。
「花で輪っかなんて作れるの?どうやって?」
「あっ、えっと……ちょっと待ってて!」
不思議そうに首を傾げたまま問いかける小羽。
それに善逸は慌ててしゃがみ込むと、いそいそと花を摘み始めた。
その様子を横からひょっこりと顔を覗かせて見ていると、善逸は摘んだシロツメ草を器用に編んでいく。
花の茎と茎を丁寧に編み込んで、徐々に出来上がっていく輪っか。
善逸の手先の器用さに感心したように、小羽はほうっと息を吐く。
「こうやって花を編んでいって、輪っかにするんだ。」
「へぇ~すごい。善逸くんって手先が器用なんだね。」
「いやぁ~、まあね!俺、弱いし泣き虫だし、何もいいとこないけど、これだけは昔から得意なんだ。」
「善逸くん。自分をそんな風に卑下しないで?私は善逸くんの良いところ、いっぱい知ってるよ。」
「えっ。」
「それで、その輪っかはどうするの?」
小羽の言葉に一瞬手を止めて顔を上げた善逸であったが、彼女の問いかけに思考を戻して、慌てて説明する。
「えっと……小羽ちゃんはこういう遊びしたことないの?」
「うん。というか、同年代の子と遊んだこと自体ないかな。子供の頃から鎹一族としての修業ばかりしてて、遊ぶ暇なんてなかったし、両親が亡くなってからは鬼殺隊になる為の修業に明け暮れて、その後はずっとお兄ちゃんの鎹雀として働いてたし……だから遊びってよく知らないかな。花札とかおはじき?は知ってるけどやったことはないし。」
「えっ……そ、そうなんだ?」
小羽の言葉にどう返したらいいのか分からずに、善逸は言葉を詰まらせる。
だけど何か言わなくてはと、まごまごと手を動かして花輪作りを再開しながら口を開く。
「俺も……さ、ずっと友達なんていなかったから、遊んだことあんまりないんだ。この花輪作りだって、女の子達がやってたのを見て一人で覚えたし。」
「そうなの?」
「うん。花輪ってさ、色々あるんだ。冠だったり、首輪だったり、指輪だったりね。はいこれ。」
そう言って善逸は小羽の頭にできあがった花の冠を乗せてやった。
「――えっ。」
「うん。やっぱりすごく似合う。……綺麗だなぁ」
「……っ」
蕩けるように甘く、熱を帯びた視線を小羽に向けて、うっとりと、恍惚とした表情でそう呟く。
いつかの時のような、蜂蜜のような甘い瞳で見つめられ、ドクリと心臓が大きく跳ねる。
――ああ、まただ。
この瞳に見つめられると、目が逸らせなくなる。
冷静でいられなくなる。心がざわつく。心臓の音がうるさい。
この音が善逸くんに聴かれているのかと思うと、酷く居た堪れなくなる。
落ち着け。落ち着け私。
このままだと私の気持ち、善逸くんにバレる。
小羽は何とか誤魔化すように慌てて口を開く。
「あっ、えっと……これ、貰っていいの?」
「勿論だよ!だって小羽ちゃんのために作ったんだから!」
にっこりと可愛らしい笑顔でそう言われ、小羽は嬉しそうにはにかむ。
「私の……ため?」
「うん!小羽ちゃんのことを想って編んだんだ!」
「そっ、そっか……ありがとう。」
頭に被せられた花の冠に愛おしげに触れる。
善逸くんが私を想って、私のために作ってくれたもの。
初めて彼から貰った物が、そんな風に想われながら作られたと思うと、人から見ればただの植物の冠でも、私にとっては何よりも大切な、愛おしいものに思えてくる。
(……後でこれ、栞にしよう。大切にする。)
植物だから、どうしてもいずれ枯れてしまう。
それはとても残念だけど、何か形にして残しておきたいなと小羽は思った。
――私、やっぱり善逸くんのこと……
ふと、そんな考えが頭の中を過ぎった。
一瞬よぎった想いを断ち切るように頭を振る。
「――小羽ちゃん。」
「えっ、何? 」
不意に名を呼ばれ、小羽は善逸の方を見る。
すると彼と目が合った。
ドクンッと、また心臓が跳ねる。
善逸はとても優しい目で小羽を見ていた。
愛おしげに。何よりも小羽が大切だと、愛していると、その熱を帯びた眼差しが全てを語っていた。
「――俺ね。すっげぇ弱いの。雷の呼吸だって壱の型しか使えないし、すぐ泣くし、情けないし。でもさ……」
善逸がそう言って小羽の手をそっと取る。
刀だこまみれでがさついていて、少し細くて、でもちゃんと男の子の手で、誰かを守るための優しい手。
その手で小羽の手をぎゅっと包み込みながら、小羽の目をじっと覗き込む。
「俺……小羽ちゃんを守るよ。誰よりも大切で、大好きな君のことを、俺が守りたい。
小羽ちゃんが好きです。大好きです。俺に……小羽ちゃんの傍にいる権利をください。」
耳まで真っ赤にして、真剣な目で私をまっすぐ見つめてくる。
私の手を強く握る善逸くんの手は、緊張からなのか震えていた。
本気なんだ。本気で……私をちゃんと想ってくれてる。
ドクンドクンと、自分の心臓の音がうるさいくらいに鼓動を奏でる。
嬉しかった。すごくすごく、嬉しかった。
――私は、善逸くんが好きなんだと思う。
いや、好きなんだ。
でもね、その気持ちを素直に認めることができない。
受け入れるのが怖いの。
だって……認めてしまったら、私が善逸くんの気持ちを受け入れてしまったら、私はきっと、もう……
少しだけ、考えてみたんだ。
私と善逸くんがお互いに想い合って、恋仲になって、二人で手を繋いだりして、微笑んでいる未来を……
とても、幸せだった。同時に湧き上がってきたゾワリとする寒気。
これは恐怖だ。
――ああ、やっぱり駄目。
「……ごめん……なさい。」
「――えっ。」
気付けばそう、口にしていた。
瞬間、善逸くんの表情が絶望に凍りつく。
私は激しい罪悪感に包まれながら、もう一度その言葉を口にする。
「ごめんなさい。私は……善逸くんの気持ちに応えることはできない」
今度ははっきりと、自分の言葉で彼の想いを拒絶したのだった。