やがて漸く眠気がやってきたのか、彩乃がウトウトとし始めた頃に、名取が不意に口を開いた。

「今の……保護者の人達とはうまくいっているのかい？」
「――はい。とても優しくしてもらってます。」
「……そうか。」
「はい。」
「でも……嘘をつくのに疲れたら私のところにおいで。」
（……うそ……？）
「私達なら嘘をつかずに付き合っていけるかもしれないね。」

……うそ……？ 
ああ、小さい頃はいつも妖を見るせいで嘘つきだって言われてた。

『うそつき』
『うそつき』

最近はあの頃の夢をよく見るようになった。

『うそつき』
『うそつき』

嘘なんかついてなかったのに、今では……
いつの間にか嘘をつくのが癖になっていたのかもしれない。
そんなの慣れちゃいけないのに、嘘なんかつきたくないのに………
嘘なんか……

『『うそつき』』 

「――っ！！」
「大丈夫ですか？彩乃さん。うなされていましたよ。」

ハッとして目が覚めると、視界に心配そうに自分を見下ろす氷麗と先生がいた。

「……ここは……」
（いつの間に布団で寝てたんだろ。……名取さんが運んでくれたのかな？）

だとしたら申し訳ないことをしてしまった。
そんなことをぼんやりと思いながら彩乃は起き上がると、頬が何故か冷たかった。

「……あれ？なんで……」
「……彩乃さん……」

ポタポタと頬をつたって零れ落ちる涙に漸く気付いた彩乃。
どうやら寝ながら泣いていたらしい。
氷麗が心配そうに自分を見ている。

「ごめん、氷麗ちゃん。」
「……」
「……ごめんね。」

ごしごしと目を擦り続ける彩乃を、氷麗は黙って泣き止むまで側に居てくれた。
――夢から覚める直前に自分を嘘つきと呼んだのは、大好きな塔子さんと滋さん。
そして……信じたいと思う名取さんだった。

（……うそつきか……）

どうして嘘をつかないといけないのか。
彩乃は晴れない心のまま、もう一度寝直そうと無理矢理目を閉じるのだった。