第5章「雛編」
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「……ん?ぬぉっ!?何じゃこれはーー??!!」
「あ、先生おはよう。どうせ暇でしょ?そのまま卵あっためといて!」
朝になり、彩乃が制服に着替えて学校の支度をしていると、先生が目を覚ました。
お腹の下に固い感触がして、先生は飛び起きたのだった。
「何!?お前、阿呆極まれリだな!捨てられた時点で卵なんてもんは死んどるもんなんだぞ!!」
「雛が孵ったら美味しいかもしれないでしょ?」
「なるほど。」
「いってきまーす!」
上手いこと先生を説得して卵を任せると、彩乃は学校へと向かうのだった。
「……あれ?」
家を出ると、表札の文字が『弐』になっていた。
(……昨日までは参だったのに……)
その文字が何を意味するのかわからなかったが、彩乃は気になりつつも学校へと向かった。
*****
「おはよう。」
「ああ、おはよう。夏目!」
「おはよう、彩乃ちゃん!」
「おはよ、夏目さん!」
「夏目さんおはよう。」
学校に行くと、田沼や多軌、西村や北本が既に教室に来ていた。
「みんなおはよう。……あのさ、突然だけど……卵の孵し方って知らない?」
「「卵?」」
「あ、うん……昨日家の庭に巣を作っていた親鳥が一つだけ卵を置いて巣立っちゃって……」
「俺知ってる!まずは鶏卵用のランプを用意して、それから……」
「西村、詳しいな。」
******
――また次の日――
多軌と隣の県のショッピングモールに出かける約束をしていた彩乃は、門柱の文字が壱になっているのに気づく。
「……また、文字が変わってる……」
「……娘、その文字が見えるのか?」
「……っ!」
文字に気をとられていた彩乃は、突然背後から声をかけられ、慌てて振り返った。
するとそこには、菅笠を被った長髪の着物の男が立っていた。
「……あなた……妖、よね?この文字を書いたのもあなたなの?」
「左様。――お主、この家の者か。そこの黐の木の巣にあった卵を知らぬか?」
(卵……あれのこと?)
「我が主があれの雛をご所望なのだ。遂にこの地に見出だし、孵る日を計っていたのだ。」
「……ご所望って……雛をどうするの?」
「無論、喰うのだ。」
「……っ!」
鼠の妖の男から告げられた言葉に、彩乃は顔色を変える。
しかし、鼠はそれには気づかずに話を続けた。
「何でもその肉は類無き程美味。絞った血は不老の効果があると言う。」
「……っ。」
「そして角には……」
「つ、角!?」
「――む。お主、よもや……卑しい人の身でありながら横奪したのではあるまいな。小娘。」
鋭い眼差しで見据えられ、彩乃の首筋に冷や汗がつたう。
(……大丈夫、落ち着いて。まだ卵の事完全にはバレてない。)
「……卵なんて知らないわ。」
「嘘をついてはおるまいな?」
「……たかが卵の為に妖なんかに嘘ついて、私に何か特でも?」
「……それも一理あるな。わかった。では私はこれで失礼する。」
鼠は踵を返すと、風と共に何処かへと行ってしまった。
*****
ドタドタパタパタ
パシーンっ!!
「先生っっ!!」
「うおぅ!何だぁ!!??」
卵の安否を心配した彩乃は、大慌てで部屋に戻って来た。
******
「――成る程な。」
「どうしよう先生!」
「どうするもこうするも、渡してしまえ。」
「……やっぱりそうなるんだ。」
「当たり前だ。面倒なことになるだけだからな。」
ニャンコ先生と出会って一年近く経つが、予想通りの返答に彩乃はどうすれば先生の興味を卵に向けられるか考えた。
(先生と言えば食べ物……食べ物と言えば……そうだ!)
「……そう言えば、雛はすごく美味だってあの鼠が言ってたなぁ……」
ぴくり
ちらりと横目でニャンコ先生の耳が反応したのを、彩乃は見逃さなかった。
「……確か、表札のカウントダウンの文字は今日で壱だったから、明日にはその雛が孵るんだよねぇ~。」
「何とぉ!ならば私が喰ってやる!!」
「……でも、渡すって……」
「そんな珍味と聞いてグルメな私が黙っておれるかぁ!鼠なんぞに卵は渡さん!!」
「……じゃあ先生。今日一日、卵を守ってくれる?」
「まっかせとけぇ!」
「ありがとう!(……よしっ!)」
巧みにニャンコ先生を味方につけることに成功した彩乃は、パアッと顔を輝かせる。
「そうと決まれば、今日は二人係で卵を守ろう!」
「……ん?お前、今日は多軌と出掛けると言ってなかったか?」
「……残念だけど、断るよ。卵を放っておけないもの。」
「……」
ニャンコ先生は、彩乃が今日と言う日をどれだけ楽しみにしていたか知っていた。
日頃妖に狙われる事の多い彩乃は、年頃の娘のようにあまり友人と遊ぶことはない。
それ故に、今日をとても心待ちにしていた。
「……はあ。行ってこい。卵は私が守ってやる。」
「えっ、でも……」
「行きたかったのだろう?」
ニャンコ先生から意外な事を言われ、彩乃は少し驚く。
しかし、先生に卵を押し付けて一人だけ出掛けるのも忍びない彩乃は、躊躇った後、首を横に振った。
「……いいよ。」
「いいから行ってこい!そして私に感謝して旨い高級菓子でも買ってこい!」
「……先生……うん!とびっきり美味しいお菓子買ってくるね!!」
「……ふん。」
こうして、彩乃は先生に卵を託して多軌と出掛けたのだった。
そして子狐と出逢い、現在に至る。
「あ、先生おはよう。どうせ暇でしょ?そのまま卵あっためといて!」
朝になり、彩乃が制服に着替えて学校の支度をしていると、先生が目を覚ました。
お腹の下に固い感触がして、先生は飛び起きたのだった。
「何!?お前、阿呆極まれリだな!捨てられた時点で卵なんてもんは死んどるもんなんだぞ!!」
「雛が孵ったら美味しいかもしれないでしょ?」
「なるほど。」
「いってきまーす!」
上手いこと先生を説得して卵を任せると、彩乃は学校へと向かうのだった。
「……あれ?」
家を出ると、表札の文字が『弐』になっていた。
(……昨日までは参だったのに……)
その文字が何を意味するのかわからなかったが、彩乃は気になりつつも学校へと向かった。
*****
「おはよう。」
「ああ、おはよう。夏目!」
「おはよう、彩乃ちゃん!」
「おはよ、夏目さん!」
「夏目さんおはよう。」
学校に行くと、田沼や多軌、西村や北本が既に教室に来ていた。
「みんなおはよう。……あのさ、突然だけど……卵の孵し方って知らない?」
「「卵?」」
「あ、うん……昨日家の庭に巣を作っていた親鳥が一つだけ卵を置いて巣立っちゃって……」
「俺知ってる!まずは鶏卵用のランプを用意して、それから……」
「西村、詳しいな。」
******
――また次の日――
多軌と隣の県のショッピングモールに出かける約束をしていた彩乃は、門柱の文字が壱になっているのに気づく。
「……また、文字が変わってる……」
「……娘、その文字が見えるのか?」
「……っ!」
文字に気をとられていた彩乃は、突然背後から声をかけられ、慌てて振り返った。
するとそこには、菅笠を被った長髪の着物の男が立っていた。
「……あなた……妖、よね?この文字を書いたのもあなたなの?」
「左様。――お主、この家の者か。そこの黐の木の巣にあった卵を知らぬか?」
(卵……あれのこと?)
「我が主があれの雛をご所望なのだ。遂にこの地に見出だし、孵る日を計っていたのだ。」
「……ご所望って……雛をどうするの?」
「無論、喰うのだ。」
「……っ!」
鼠の妖の男から告げられた言葉に、彩乃は顔色を変える。
しかし、鼠はそれには気づかずに話を続けた。
「何でもその肉は類無き程美味。絞った血は不老の効果があると言う。」
「……っ。」
「そして角には……」
「つ、角!?」
「――む。お主、よもや……卑しい人の身でありながら横奪したのではあるまいな。小娘。」
鋭い眼差しで見据えられ、彩乃の首筋に冷や汗がつたう。
(……大丈夫、落ち着いて。まだ卵の事完全にはバレてない。)
「……卵なんて知らないわ。」
「嘘をついてはおるまいな?」
「……たかが卵の為に妖なんかに嘘ついて、私に何か特でも?」
「……それも一理あるな。わかった。では私はこれで失礼する。」
鼠は踵を返すと、風と共に何処かへと行ってしまった。
*****
ドタドタパタパタ
パシーンっ!!
「先生っっ!!」
「うおぅ!何だぁ!!??」
卵の安否を心配した彩乃は、大慌てで部屋に戻って来た。
******
「――成る程な。」
「どうしよう先生!」
「どうするもこうするも、渡してしまえ。」
「……やっぱりそうなるんだ。」
「当たり前だ。面倒なことになるだけだからな。」
ニャンコ先生と出会って一年近く経つが、予想通りの返答に彩乃はどうすれば先生の興味を卵に向けられるか考えた。
(先生と言えば食べ物……食べ物と言えば……そうだ!)
「……そう言えば、雛はすごく美味だってあの鼠が言ってたなぁ……」
ぴくり
ちらりと横目でニャンコ先生の耳が反応したのを、彩乃は見逃さなかった。
「……確か、表札のカウントダウンの文字は今日で壱だったから、明日にはその雛が孵るんだよねぇ~。」
「何とぉ!ならば私が喰ってやる!!」
「……でも、渡すって……」
「そんな珍味と聞いてグルメな私が黙っておれるかぁ!鼠なんぞに卵は渡さん!!」
「……じゃあ先生。今日一日、卵を守ってくれる?」
「まっかせとけぇ!」
「ありがとう!(……よしっ!)」
巧みにニャンコ先生を味方につけることに成功した彩乃は、パアッと顔を輝かせる。
「そうと決まれば、今日は二人係で卵を守ろう!」
「……ん?お前、今日は多軌と出掛けると言ってなかったか?」
「……残念だけど、断るよ。卵を放っておけないもの。」
「……」
ニャンコ先生は、彩乃が今日と言う日をどれだけ楽しみにしていたか知っていた。
日頃妖に狙われる事の多い彩乃は、年頃の娘のようにあまり友人と遊ぶことはない。
それ故に、今日をとても心待ちにしていた。
「……はあ。行ってこい。卵は私が守ってやる。」
「えっ、でも……」
「行きたかったのだろう?」
ニャンコ先生から意外な事を言われ、彩乃は少し驚く。
しかし、先生に卵を押し付けて一人だけ出掛けるのも忍びない彩乃は、躊躇った後、首を横に振った。
「……いいよ。」
「いいから行ってこい!そして私に感謝して旨い高級菓子でも買ってこい!」
「……先生……うん!とびっきり美味しいお菓子買ってくるね!!」
「……ふん。」
こうして、彩乃は先生に卵を託して多軌と出掛けたのだった。
そして子狐と出逢い、現在に至る。