第24章「羽衣狐編」
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
2人に何があったのか……それは遡ること数時間前。
リクオが目覚めたと報告を受けてから、イタクは指導係としてリクオの監視をしていた。
与えられた洗濯の仕事を放り出して里から脱出しようとしていたリクオを助け出したのまでは良かったのだが、問題はその後であった。
「おめー、この遠野の里を本当に知らねんだな。」
橋の幻に騙されて崖から落ちそうになったリクオを助けたイタクは、リクオ見下ろしながら言葉を続ける。
「ここは”隠れ里”……言ってしまえばこの里全体が『妖怪』。畏れを断ち切る力がなけりゃ死ぬまでここから出られねぇ!」
「畏れを断ち切る力……だと?」
「そーだよ。なんだ?まだ逃げる気か!?バッカでねーか?”今の”お前じゃ無理だよ!」
「じじい……そうか。その為に俺はここにつっこまれたのか!」
リクオは何か納得したような表情を浮かべると、ニヤリと口角を釣り上げた。
そして目の前にいるイタクを見据えると言った。
「……おい。鎌鼬のなんとか!さっきの詳しく教えてくれ!」
「イタクだ!いーけど、ちゃんと自分の仕事もしろよ。」
「ああ!ありがとうな!」
ニカッと嬉しそうに笑うリクオに、イタクはやれやれと肩をすくめる。
どうやら奴良組の若頭という奴は根は素直な奴らしい。
「……ところで、ここに人間の女が来てる筈なんだが、知らねぇか?」
「……彩乃ことか。」
「彩乃を知ってるのか!?」
「ああ、俺はあいつに頼まれてお前を迎えに来たからな。」
「会わせてくれ!」
リクオがあまりにも嬉しそうにそう言うので、イタクの目は無意識に鋭く細められる。
「お前は彩乃の”友人”なんだったな。あいつからお前のことは少し聞いた。」
ここに来る少し前、イタクは彩乃にリクオの事を尋ねていた。
『ーーなあ、奴良組の若頭ってどんな奴なんだ?』
『ーーえっ?リクオくん?そうだな……真面目で仲間想いで、すごく優しい子だよ。私のことも友人帳のことで色々と助けてくれるし、すごく頼りになる大切な友人だよ。』
『ふぅん……』
そう当たり障りのないことを言う彩乃だったが、心做しかその笑顔が嬉しそうに見えた。
だから無意識にイタクはムッと眉をしかめてしまう。
なんとなく面白くないと感じてしまったからだ。
なんとなくだが、イタクはリクオのことをこの時から気に入らないと感じていた。
「”友人”……ね。彩乃はお前に俺の事をそう話したんだな。」
「だったらなんなんだ?」
「いや……俺から一つだけ訂正しておくと、俺は彩乃の”友人”で終わるつもりはない。……俺は彩乃に惚れてるんだ。」
「ーーは?」
リクオのその言葉に、イタクの眉間にシワが寄った。
心做しか口から出た声は想像以上に低く、不機嫌なものになっていた。
そんなイタクの変化にリクオは気付かない。
「……彩乃もお前が好きなのか?」
「どうだろうな。告白はしたが、返事はまだ貰ってない。」
「ふーん……」
リクオの言葉にイタクは少しだけ安堵したように表情を緩めた。
それに妙な勘が働いてしまったリクオは、余計な地雷を踏み抜いてしまう。
「なんか機嫌悪そうだな。」
「……別に。」
「……おいまさか、イタクも彩乃が好きとか言わねぇよな?」
「あっ?なんでお前にそんなこと答えなきゃなんねぇ。」
「……おいおいマジかよ。」
「まだ何も言ってねぇだろ。」
「その態度が分かりやすいわ!……マジかよ。」
イタクの態度で彼の気持ちを汲み取ってしまったリクオは、手で顔を覆って困ったように項垂れた。
そんなリクオの態度にイタクの眉間のシワは更に増える。
「彩乃は俺の命の恩人なんだ。半端な気持ちであいつに近づくな。」
「半端じゃねぇよ。本気に決まってんだろ!先に言っとくが、彩乃を守んのは俺だかんな!」
「ーーはっ、お前みたいな弱い奴に彩乃が守れるかよ。」
「あ?言ったなこいつ……」
リクオも流石に彩乃に関しては我慢できなかったのか、頭にカチンと来てしまった様で、額に青筋が浮かぶ。
イタクもイタクでリクオが気に入らないらしく、眉間のシワがより深くなった。
「だったらイタクなら彩乃を守れんのかよ!?」
「はん!お前よりは強いぜ!」
「ふん!彩乃は強いとか弱いとかで人を選ぶ奴じゃないぜ!」
「そんなこと知ってる!彩乃はそんな器の小さい女じゃない!優しい奴だ!」
「お前より俺の方が彩乃を知ってるっての!」
「ああ!?」
「てか、やっぱりお前彩乃のこと好きだろ!?」
「だったらなんだ!?」
「認めやがったなコノヤロウ!」
イタクとリクオは激しい言い争いをしながらお互いを睨みつける。
バチバチとまるで火花を散らし合いながら睨み合いは続く。
「「上等だツラ貸せ!!」」
そしてすっかり頭に血が上った2人は、その言葉を同時に叫んだのを合図に、殴り合いの喧嘩を始めることになったのであった。
*
ーーと、ここまでが事の経緯である。
「……2人ともなんで喧嘩したの?」
「「…………」」
先程から無言でそっぽを向く2人は彩乃の問いかけには答えない。
答えたくないというよりは、答えられないのだ。
まさか自分が2人の喧嘩の原因になっているなんて全く思っていない彩乃は沈黙を守る2人に困り果てたように眉を下げだ。
「もう……なんでこんな事になったの?」
「……言いたくない。」
「おう、これは男同士の問題だ。」
「いや……何があったのか言いたくないなら無理に聞かないけど……リクオくんが喧嘩するなんて珍しいね。」
「まあ……ちょっとな。」
「?」
歯切れの悪いリクオに、彩乃は不思議そうに首を傾げる。
一体2人は何が原因で喧嘩をしたのだろうか……
真面目で面倒見のいい2人はきっと本当なら気が合いそうだと思っていたのだが、予想に反して仲が悪い2人に彩乃はため息をつく。
それに冷麗はクスクスと口元に手を当てて優雅に微笑むと、何故か可笑しそうに笑う。
「ふふ、彩乃には言えないわよね?」
「えっ、なんで?」
「男の子って馬鹿なのよ。」
「まあ、彩乃には言えねーよなぁ?」
「???」
冷麗と淡島の言葉の意味がわからず、不思議そうに首を傾げる彩乃。
困惑したようにイタクとリクオを見つめれば、2人共気まずそうに彩乃から目を逸らすのだった。
彩乃が困っていると、助け舟を出すように冷麗がパンパンと手を叩いて場の空気を変えようと前へ出る。
「はいはい、2人が喧嘩した件は一旦置いておきましょう。それよりもイタク、その子ね?イタクが指導係にさせられたっていう子は。」
「バッ……!言うなよ!」
「イタクが指導してくれるのか?」
「……ちっ、そうだよ!言っとくが少しでも弱音吐いたら俺は降りるからな!」
「ああ!頼む!」
「あら、喧嘩した割に素直な子ね。」
「イタクは気に入らねぇが、それと修行は別問題だ!」
「……ふん!俺だってお前が嫌いだ。」
「イタク……」
「あらあら、仲悪いわね。まあしょうがないのかしら……」
ちらりと冷麗は彩乃を見つめる。
イタクと奴良組の子が喧嘩した理由はなんとなく察しがつく。
きっと奴良組の子も彩乃に好意を抱いてるのだろう。
やはり同じ女の子を好きな者同士互いに気に入らないと感じてしまうのは仕方ないのだろう。
冷麗はふうっと小さくため息をつくと、場の空気を変えるように口を開く。
「私は雪女の冷麗。この子は座敷童子の紫よ。お風呂を沸かしてくれる子が来てくれて助かるわ。」
「オイラは沼河童の雨造だ。オイラの代わりに風呂掃除してくれるんだって?」
「薪割りもだ……オレは天邪鬼の淡島だ!」
「基本は掃除洗濯よ。……お前、ぬらりひょんの孫なんだって!?オレは経立の土彦だ。」
「……奴良リクオだ。よろしく。」
「……もしかして、リクオくんがこの里の全部の雑務を引き受けてるの!?」
みんなの自己紹介の言葉の端々から出てきた説明にリクオが雑務を全部押し付けられていることを察して彩乃は驚く。
それにみんなはなんてことのないように頷く。
「新人なんだから当然だろ。」
「でも……リクオくん1人じゃ大変だよ。私も手伝う。」
「甘やかすな彩乃。こいつの仕事なんだ手を貸すな。」
「でも!私だってここの居候な訳だし……」
「彩乃には無理だと思うわよ?だって……この里の移動すら1人では無理でしょう?」
「うっ!」
そうなのだ。断崖絶壁の崖、険しい山道。
この遠野の里の地形は人間にはとてもじゃないが暮らすことはおろか移動すらままならないくらいのとんでもなく険しい土地である。
1人で移動することすら困難な彩乃にはリクオのお手伝いをするにしても足でまといにしかならなかった。
彩乃もそれを分かってはいたが、自分だけ何もしなくていいというわけにはいかないと思う訳で……
「まあでもそうねぇ〜、いくら難しいとは言え、ここは遠野の里。働くもの食うべからずだし……彩乃には私たちのお手伝いをしてもらおうかしら。」
「冷麗たちの?」
「ええ、料理や掃除とか、できることを手伝ってくれればいいわ。」
「冷麗……ありがとう!」
「どういたしまして。」
自分にできることが見つかり、嬉しそうに顔を輝かせる彩乃に、冷麗はにっこりと優しく微笑む。
「ーーさて、俺も修行に加わろうかね。」
「ーーあっ!そうだ!鎌鼬のイタク!さっきの教えてくれよ!」
「……お前、畏のしくみもわかってねーんだろ?」
「マジで!?」
「奴良組の若頭がぁー?」
「ありえないわ。妖怪なら。」
「おぼっちゃんなんだろ。」
「………(ムカ)」
皆の自己紹介が落ち着き、イタクが修行を再開しようと鎌を構えたところで、リクオが思い出したように声をかける。
するとイタクが発した言葉に皆がリクオをバカにしたような、哀れみを含んだ目でリクオを見つめてきたので、流石にリクオもムッとして不機嫌そうに眉を寄せた。
「……畏の発動くらいならできるぜ。」
「へぇ、お前が?やってみろよ。俺が相手になってやる。」
「イタク、また喧嘩とかは……」
「わーてるよ。自分より弱い奴をいじめる趣味はねぇよ。さっきの殴り合いだって畏は使わなかったしな。……俺は本気を出さねぇ。」
「ーー言いやがったな。ぜってー本気出させてやる!」
イタクの言葉がかんに障ったらしく、苛立った様子で好戦的な目でイタクを見据えるリクオ。
彩乃は少し離れたところで心配そうに2人の戦闘を見守ることになったのだった。
リクオが目覚めたと報告を受けてから、イタクは指導係としてリクオの監視をしていた。
与えられた洗濯の仕事を放り出して里から脱出しようとしていたリクオを助け出したのまでは良かったのだが、問題はその後であった。
「おめー、この遠野の里を本当に知らねんだな。」
橋の幻に騙されて崖から落ちそうになったリクオを助けたイタクは、リクオ見下ろしながら言葉を続ける。
「ここは”隠れ里”……言ってしまえばこの里全体が『妖怪』。畏れを断ち切る力がなけりゃ死ぬまでここから出られねぇ!」
「畏れを断ち切る力……だと?」
「そーだよ。なんだ?まだ逃げる気か!?バッカでねーか?”今の”お前じゃ無理だよ!」
「じじい……そうか。その為に俺はここにつっこまれたのか!」
リクオは何か納得したような表情を浮かべると、ニヤリと口角を釣り上げた。
そして目の前にいるイタクを見据えると言った。
「……おい。鎌鼬のなんとか!さっきの詳しく教えてくれ!」
「イタクだ!いーけど、ちゃんと自分の仕事もしろよ。」
「ああ!ありがとうな!」
ニカッと嬉しそうに笑うリクオに、イタクはやれやれと肩をすくめる。
どうやら奴良組の若頭という奴は根は素直な奴らしい。
「……ところで、ここに人間の女が来てる筈なんだが、知らねぇか?」
「……彩乃ことか。」
「彩乃を知ってるのか!?」
「ああ、俺はあいつに頼まれてお前を迎えに来たからな。」
「会わせてくれ!」
リクオがあまりにも嬉しそうにそう言うので、イタクの目は無意識に鋭く細められる。
「お前は彩乃の”友人”なんだったな。あいつからお前のことは少し聞いた。」
ここに来る少し前、イタクは彩乃にリクオの事を尋ねていた。
『ーーなあ、奴良組の若頭ってどんな奴なんだ?』
『ーーえっ?リクオくん?そうだな……真面目で仲間想いで、すごく優しい子だよ。私のことも友人帳のことで色々と助けてくれるし、すごく頼りになる大切な友人だよ。』
『ふぅん……』
そう当たり障りのないことを言う彩乃だったが、心做しかその笑顔が嬉しそうに見えた。
だから無意識にイタクはムッと眉をしかめてしまう。
なんとなく面白くないと感じてしまったからだ。
なんとなくだが、イタクはリクオのことをこの時から気に入らないと感じていた。
「”友人”……ね。彩乃はお前に俺の事をそう話したんだな。」
「だったらなんなんだ?」
「いや……俺から一つだけ訂正しておくと、俺は彩乃の”友人”で終わるつもりはない。……俺は彩乃に惚れてるんだ。」
「ーーは?」
リクオのその言葉に、イタクの眉間にシワが寄った。
心做しか口から出た声は想像以上に低く、不機嫌なものになっていた。
そんなイタクの変化にリクオは気付かない。
「……彩乃もお前が好きなのか?」
「どうだろうな。告白はしたが、返事はまだ貰ってない。」
「ふーん……」
リクオの言葉にイタクは少しだけ安堵したように表情を緩めた。
それに妙な勘が働いてしまったリクオは、余計な地雷を踏み抜いてしまう。
「なんか機嫌悪そうだな。」
「……別に。」
「……おいまさか、イタクも彩乃が好きとか言わねぇよな?」
「あっ?なんでお前にそんなこと答えなきゃなんねぇ。」
「……おいおいマジかよ。」
「まだ何も言ってねぇだろ。」
「その態度が分かりやすいわ!……マジかよ。」
イタクの態度で彼の気持ちを汲み取ってしまったリクオは、手で顔を覆って困ったように項垂れた。
そんなリクオの態度にイタクの眉間のシワは更に増える。
「彩乃は俺の命の恩人なんだ。半端な気持ちであいつに近づくな。」
「半端じゃねぇよ。本気に決まってんだろ!先に言っとくが、彩乃を守んのは俺だかんな!」
「ーーはっ、お前みたいな弱い奴に彩乃が守れるかよ。」
「あ?言ったなこいつ……」
リクオも流石に彩乃に関しては我慢できなかったのか、頭にカチンと来てしまった様で、額に青筋が浮かぶ。
イタクもイタクでリクオが気に入らないらしく、眉間のシワがより深くなった。
「だったらイタクなら彩乃を守れんのかよ!?」
「はん!お前よりは強いぜ!」
「ふん!彩乃は強いとか弱いとかで人を選ぶ奴じゃないぜ!」
「そんなこと知ってる!彩乃はそんな器の小さい女じゃない!優しい奴だ!」
「お前より俺の方が彩乃を知ってるっての!」
「ああ!?」
「てか、やっぱりお前彩乃のこと好きだろ!?」
「だったらなんだ!?」
「認めやがったなコノヤロウ!」
イタクとリクオは激しい言い争いをしながらお互いを睨みつける。
バチバチとまるで火花を散らし合いながら睨み合いは続く。
「「上等だツラ貸せ!!」」
そしてすっかり頭に血が上った2人は、その言葉を同時に叫んだのを合図に、殴り合いの喧嘩を始めることになったのであった。
*
ーーと、ここまでが事の経緯である。
「……2人ともなんで喧嘩したの?」
「「…………」」
先程から無言でそっぽを向く2人は彩乃の問いかけには答えない。
答えたくないというよりは、答えられないのだ。
まさか自分が2人の喧嘩の原因になっているなんて全く思っていない彩乃は沈黙を守る2人に困り果てたように眉を下げだ。
「もう……なんでこんな事になったの?」
「……言いたくない。」
「おう、これは男同士の問題だ。」
「いや……何があったのか言いたくないなら無理に聞かないけど……リクオくんが喧嘩するなんて珍しいね。」
「まあ……ちょっとな。」
「?」
歯切れの悪いリクオに、彩乃は不思議そうに首を傾げる。
一体2人は何が原因で喧嘩をしたのだろうか……
真面目で面倒見のいい2人はきっと本当なら気が合いそうだと思っていたのだが、予想に反して仲が悪い2人に彩乃はため息をつく。
それに冷麗はクスクスと口元に手を当てて優雅に微笑むと、何故か可笑しそうに笑う。
「ふふ、彩乃には言えないわよね?」
「えっ、なんで?」
「男の子って馬鹿なのよ。」
「まあ、彩乃には言えねーよなぁ?」
「???」
冷麗と淡島の言葉の意味がわからず、不思議そうに首を傾げる彩乃。
困惑したようにイタクとリクオを見つめれば、2人共気まずそうに彩乃から目を逸らすのだった。
彩乃が困っていると、助け舟を出すように冷麗がパンパンと手を叩いて場の空気を変えようと前へ出る。
「はいはい、2人が喧嘩した件は一旦置いておきましょう。それよりもイタク、その子ね?イタクが指導係にさせられたっていう子は。」
「バッ……!言うなよ!」
「イタクが指導してくれるのか?」
「……ちっ、そうだよ!言っとくが少しでも弱音吐いたら俺は降りるからな!」
「ああ!頼む!」
「あら、喧嘩した割に素直な子ね。」
「イタクは気に入らねぇが、それと修行は別問題だ!」
「……ふん!俺だってお前が嫌いだ。」
「イタク……」
「あらあら、仲悪いわね。まあしょうがないのかしら……」
ちらりと冷麗は彩乃を見つめる。
イタクと奴良組の子が喧嘩した理由はなんとなく察しがつく。
きっと奴良組の子も彩乃に好意を抱いてるのだろう。
やはり同じ女の子を好きな者同士互いに気に入らないと感じてしまうのは仕方ないのだろう。
冷麗はふうっと小さくため息をつくと、場の空気を変えるように口を開く。
「私は雪女の冷麗。この子は座敷童子の紫よ。お風呂を沸かしてくれる子が来てくれて助かるわ。」
「オイラは沼河童の雨造だ。オイラの代わりに風呂掃除してくれるんだって?」
「薪割りもだ……オレは天邪鬼の淡島だ!」
「基本は掃除洗濯よ。……お前、ぬらりひょんの孫なんだって!?オレは経立の土彦だ。」
「……奴良リクオだ。よろしく。」
「……もしかして、リクオくんがこの里の全部の雑務を引き受けてるの!?」
みんなの自己紹介の言葉の端々から出てきた説明にリクオが雑務を全部押し付けられていることを察して彩乃は驚く。
それにみんなはなんてことのないように頷く。
「新人なんだから当然だろ。」
「でも……リクオくん1人じゃ大変だよ。私も手伝う。」
「甘やかすな彩乃。こいつの仕事なんだ手を貸すな。」
「でも!私だってここの居候な訳だし……」
「彩乃には無理だと思うわよ?だって……この里の移動すら1人では無理でしょう?」
「うっ!」
そうなのだ。断崖絶壁の崖、険しい山道。
この遠野の里の地形は人間にはとてもじゃないが暮らすことはおろか移動すらままならないくらいのとんでもなく険しい土地である。
1人で移動することすら困難な彩乃にはリクオのお手伝いをするにしても足でまといにしかならなかった。
彩乃もそれを分かってはいたが、自分だけ何もしなくていいというわけにはいかないと思う訳で……
「まあでもそうねぇ〜、いくら難しいとは言え、ここは遠野の里。働くもの食うべからずだし……彩乃には私たちのお手伝いをしてもらおうかしら。」
「冷麗たちの?」
「ええ、料理や掃除とか、できることを手伝ってくれればいいわ。」
「冷麗……ありがとう!」
「どういたしまして。」
自分にできることが見つかり、嬉しそうに顔を輝かせる彩乃に、冷麗はにっこりと優しく微笑む。
「ーーさて、俺も修行に加わろうかね。」
「ーーあっ!そうだ!鎌鼬のイタク!さっきの教えてくれよ!」
「……お前、畏のしくみもわかってねーんだろ?」
「マジで!?」
「奴良組の若頭がぁー?」
「ありえないわ。妖怪なら。」
「おぼっちゃんなんだろ。」
「………(ムカ)」
皆の自己紹介が落ち着き、イタクが修行を再開しようと鎌を構えたところで、リクオが思い出したように声をかける。
するとイタクが発した言葉に皆がリクオをバカにしたような、哀れみを含んだ目でリクオを見つめてきたので、流石にリクオもムッとして不機嫌そうに眉を寄せた。
「……畏の発動くらいならできるぜ。」
「へぇ、お前が?やってみろよ。俺が相手になってやる。」
「イタク、また喧嘩とかは……」
「わーてるよ。自分より弱い奴をいじめる趣味はねぇよ。さっきの殴り合いだって畏は使わなかったしな。……俺は本気を出さねぇ。」
「ーー言いやがったな。ぜってー本気出させてやる!」
イタクの言葉がかんに障ったらしく、苛立った様子で好戦的な目でイタクを見据えるリクオ。
彩乃は少し離れたところで心配そうに2人の戦闘を見守ることになったのだった。
8/8ページ