第24章「羽衣狐編」
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誰もがその場から動けずにリクオに注目していると、突然魔魅流が首無の紐をちぎって飛び出した。
目的は百鬼夜行の主であるリクオである。
リクオを滅することだけを考え、その感情の読めない表情が今はうっすらと笑みを浮かべていた。
「妖怪ぬらりひょん……滅すべし!」
もう少しで魔魅流の伸ばした手がリクオに届こうとしたその瞬間、青田坊と黒田坊が2人がかりで魔魅流を止めた。
それでも魔魅流は力を出して抵抗し、抗おうとする。
「昨日の続き……ここでやるか?」
「やめろ魔魅流!そこらへんにしとけ!」
青田坊が牽制なのか本気なのかはわからないが、魔魅流を刺激するような言葉を吐く。
けれどそれを止めたのは意外にも竜二だった。
流石にこの数では分が悪いと思ったのだろうか。
しかし魔魅流はそうは思わないのか、腕の力を抜くどころか余計に抵抗しようとしていた。
「やめない。妖怪は見逃さない。」
「……冷静になれよ。この数に勝てると思うのか?」
「勝てる。」
魔魅流がそう言った瞬間、いつの間に仕込んだのか、魔魅流の口に入った餓狼が魔魅流の口の中で暴れる。
思わず呼吸ができなくなり、魔魅流はむせる。
それを見下ろしながら竜二は言葉を続けた。
「やめろって言ってんだ……2人じゃキツイ。」
そう言って魔魅流への攻撃をやめると、今度はリクオへと視線を向ける。
「そーだ“ぬらりひょん“に会ったらと……じいさんから言伝を頼まれた。」
そう言うと、何故か竜二はリクオの顔に自分の顔をぐっと近づけるとギロリと睨みつけた。
「“二度と家には来んじゃねぇ。来ても飯は食わさん!“……以上!」
「………」
「その刀、祢々切丸だろ?大事にしろよ。」
そう言うと竜二はささっとリクオから離れた。
そしてちらりと彩乃を一瞥する。
「……夏目。今日のところは帰ってやる。だがお前も必ず京都に来い。友人帳に羽衣狐の名がある以上、京妖怪は必ず名を取り返しにお前を狙ってくる。……死にたくなければ京都に来ることだな。」
「…………」
竜二さんは脅しなのか警告なのかわからない言葉を私に残して、魔魅流さんとその場を後にした。
最後に彼はぽつりと「人間の血に敬意を払うのはこれが最後だ」と呟いて、ゆらちゃんを置き去りにして去っていった。
私はそんな竜二さんの背中をただ見送りながら、これからどうすればいいのかと考えていた。
*
「ふがいないふがいない……ふがいない……」
「ゆらちゃん……」
ここは奴良組本部。
私たちはあれから奴良組本部であるリクオくんの家に向かうことになり、私はゆらちゃんの手当てをしていた。
ゆらちゃんはずっと自分のことをふがいないと責めていて、私はそんなゆらちゃんの傷の手当てをしながら彼女と話をしていた。
ーーゆらちゃんにはあれから全部話した。以前から勘違いされていた私が本当は祓い屋なんかじゃなくて、ただの見えるだけの一般人だってこと。
友人帳のこと。レイコさんのこと。私と奴良組のことやリクオくんとの関係を……
「ぬらりひょんがこんな身近にいたのに気付かなかったなんて……しかもやっぱりこの屋敷妖怪だらけやし。」
「ゆらちゃん……」
ずっとゆらちゃんは自分の未熟さを悔いて、ふがいないと自分を責めていた。
あまりにも落ち込むものだから、なんて声をかけたらいいのかわからない。
ゆらちゃんの体は竜二さんとの戦いで負った傷だけじゃなくて、修行によって受けたものだけでも体中傷だらけだった。
(……すごく、がんばってるんだなぁ〜……)
妖を大切に思うようになって、奴良組のみんなと関わるようになってからは特に、陰陽師や祓い屋にはあまりいい印象はなかった。
的場さんのように妖を道具にのように扱う人も沢山見てきた。
けれどゆらちゃんのように人々を妖から守るために必死に戦っている人たちがいるのだ。
それは素直にすごいと思うし、尊敬できると思った。
まだ中学生の女の子が、こんなに自分の体を傷だらけにして、人々のために必死になって修行に打ち込み、強くなろうとしている。
それはすごく偉いし、誰にでもできる事じゃない。
彼女は本当に心が強いんだ。私と違って……
「ーーゆらちゃんはすごいね。毎日こんなに傷だらけになるまで修行して、がんばって……偉いよ。」
「……そんなことないです。私はまだまだ未熟なんや。お兄ちゃんにまったく歯が立たんかった……」
「でも、諦めずに努力するゆらちゃんは……やっぱりすごいと思うよ。」
「彩乃先輩……私、もっと強くなります。もっと……私が羽衣狐を倒すんや!」
「羽衣狐……」
意気込むゆらちゃんに微笑みながら、私は違うことを考えていた。
羽衣狐とはどんな妖なのだろう。
奴良組に戻ってから、奴良組の妖たちに友人帳の名を探してもらったが、羽衣狐の名は何故か見つからなかったのだ。
ゆらちゃんから羽衣狐の本名は「葛の葉」と聞かされて、妖の文字がわかる妖たちにその名が書かれた頁も探してもらったが、何故か見つからない。
本当に友人帳に羽衣狐の名などあるのだろうか。
ゆらちゃんも祖父からの手紙以外に手がかりがないのだと言う。
ーーもしも、レイコさんが名を奪ったというのが本当なら、羽衣狐はレイコさんとは友人だったのだろうか。
そんなことゆらちゃんには聞けないけれど、竜二さんが言っていた「器」とはどういう意味だろう。
私の祖父だという花開院家の人。羽衣狐と関係のあるレイコさん。
私にはまだまだ知らないことが多すぎるようだ。
(……やっぱり一度京都に行くべきなのかな……)
「彩乃さんお疲れ様です。あとは代わりますよ!」
「氷麗ちゃん」
「なっ!及川さん……いや!雪女やな!妖怪なんかの世話になるかーー!」
私がそんなことを考えていると、氷麗ちゃんがお茶を持って部屋に入ってくる。
するとゆらちゃんは嫌そうに顔を歪めると部屋を飛び出していってしまった。
「ゆらちゃん!?…………行っちゃった。」
「まったく……本当に落ち着きのない子なんだから……」
「氷麗ちゃんもありがとうね。リクオくんを助けに来てくれて。」
「そんなの当たり前じゃないですか!……それにしても彩乃さんがあの花開院家の血筋だったなんて……話を聞いた時には驚きました。」
「私もだよ。」
「……行かれるんですか?京都に。」
「うーん、どうかな。」
なんとも歯切れの悪い返事をする私を、氷麗ちゃんは心配そうに見つめてくる。
きっと妖怪である氷麗ちゃん的には行って欲しくないのだろう。
すごく不安そうな顔をしている。
「……私もどうしたいのか分からないの。祖父のことは気になる。でも……妖を絶対の悪だと決めつける陰陽師の思想は理解できない。もちろん、陰陽師全員がそんな思想の人ばかりだとは思ってないけど……」
「行くべきじゃありませんよ!それに今、京都は危険な場所になってるんでしょう?わざわざそんな所に彩乃さんが行く必要はありません!」
「……そう……だね。」
氷麗ちゃんの言葉はもっともなのに、どうしても祖父への思いが迷いを産む。
私はどうしたいんだろう。ここ最近の私はずっと迷ってばかりだな。
そんなことを思っていると、外の方でばしゃーんと池の方で大きな水音がした。
慌てて外に2人で出てみれば、そこには話し込むリクオくんとゆらちゃんがいた。
どうやら2人は2人で色々と話し込んでいたらしい。
リクオくんは一体ゆらちゃんに何をしたのか、ゆらちゃんは池の中でびしょ濡れだし、リクオくんは木の上で悠々と高みの見物をしている。
「まったく!なんて奴や!やっぱり妖怪は悪や!」
「ゆらちゃん大丈夫?」
「大丈夫です!……私は明日には京都に戻ります。先輩も一緒にどうですか?」
「え……」
突然のゆらちゃんからの誘いに私は戸惑う。
きっとゆらちゃんも私を心配してくれての言葉だろう。でも……
「ありがとうゆらちゃん……でも、私は……」
「……今すぐじゃなくてもええんです。……でも、先輩の力がきっと必要になる。……そんな気がするんや。だから……これ、家の住所です!!」
そう言うとゆらちゃんは私に花開院家の住所を書いたであろうメモを押し付けるように私の手に握らせると、元気よく立ち上がった。
「私はもう帰ります!」
「えっ、もう?」
「こんな所長居したないし!それじゃあ!」
「あ……」
そういうとゆらちゃんはさっさっと奴良組から逃げるように走り去っていった。
私はゆらちゃんから手渡されたメモを握りしめながら、これから先のことに不安を抱えていた。
目的は百鬼夜行の主であるリクオである。
リクオを滅することだけを考え、その感情の読めない表情が今はうっすらと笑みを浮かべていた。
「妖怪ぬらりひょん……滅すべし!」
もう少しで魔魅流の伸ばした手がリクオに届こうとしたその瞬間、青田坊と黒田坊が2人がかりで魔魅流を止めた。
それでも魔魅流は力を出して抵抗し、抗おうとする。
「昨日の続き……ここでやるか?」
「やめろ魔魅流!そこらへんにしとけ!」
青田坊が牽制なのか本気なのかはわからないが、魔魅流を刺激するような言葉を吐く。
けれどそれを止めたのは意外にも竜二だった。
流石にこの数では分が悪いと思ったのだろうか。
しかし魔魅流はそうは思わないのか、腕の力を抜くどころか余計に抵抗しようとしていた。
「やめない。妖怪は見逃さない。」
「……冷静になれよ。この数に勝てると思うのか?」
「勝てる。」
魔魅流がそう言った瞬間、いつの間に仕込んだのか、魔魅流の口に入った餓狼が魔魅流の口の中で暴れる。
思わず呼吸ができなくなり、魔魅流はむせる。
それを見下ろしながら竜二は言葉を続けた。
「やめろって言ってんだ……2人じゃキツイ。」
そう言って魔魅流への攻撃をやめると、今度はリクオへと視線を向ける。
「そーだ“ぬらりひょん“に会ったらと……じいさんから言伝を頼まれた。」
そう言うと、何故か竜二はリクオの顔に自分の顔をぐっと近づけるとギロリと睨みつけた。
「“二度と家には来んじゃねぇ。来ても飯は食わさん!“……以上!」
「………」
「その刀、祢々切丸だろ?大事にしろよ。」
そう言うと竜二はささっとリクオから離れた。
そしてちらりと彩乃を一瞥する。
「……夏目。今日のところは帰ってやる。だがお前も必ず京都に来い。友人帳に羽衣狐の名がある以上、京妖怪は必ず名を取り返しにお前を狙ってくる。……死にたくなければ京都に来ることだな。」
「…………」
竜二さんは脅しなのか警告なのかわからない言葉を私に残して、魔魅流さんとその場を後にした。
最後に彼はぽつりと「人間の血に敬意を払うのはこれが最後だ」と呟いて、ゆらちゃんを置き去りにして去っていった。
私はそんな竜二さんの背中をただ見送りながら、これからどうすればいいのかと考えていた。
*
「ふがいないふがいない……ふがいない……」
「ゆらちゃん……」
ここは奴良組本部。
私たちはあれから奴良組本部であるリクオくんの家に向かうことになり、私はゆらちゃんの手当てをしていた。
ゆらちゃんはずっと自分のことをふがいないと責めていて、私はそんなゆらちゃんの傷の手当てをしながら彼女と話をしていた。
ーーゆらちゃんにはあれから全部話した。以前から勘違いされていた私が本当は祓い屋なんかじゃなくて、ただの見えるだけの一般人だってこと。
友人帳のこと。レイコさんのこと。私と奴良組のことやリクオくんとの関係を……
「ぬらりひょんがこんな身近にいたのに気付かなかったなんて……しかもやっぱりこの屋敷妖怪だらけやし。」
「ゆらちゃん……」
ずっとゆらちゃんは自分の未熟さを悔いて、ふがいないと自分を責めていた。
あまりにも落ち込むものだから、なんて声をかけたらいいのかわからない。
ゆらちゃんの体は竜二さんとの戦いで負った傷だけじゃなくて、修行によって受けたものだけでも体中傷だらけだった。
(……すごく、がんばってるんだなぁ〜……)
妖を大切に思うようになって、奴良組のみんなと関わるようになってからは特に、陰陽師や祓い屋にはあまりいい印象はなかった。
的場さんのように妖を道具にのように扱う人も沢山見てきた。
けれどゆらちゃんのように人々を妖から守るために必死に戦っている人たちがいるのだ。
それは素直にすごいと思うし、尊敬できると思った。
まだ中学生の女の子が、こんなに自分の体を傷だらけにして、人々のために必死になって修行に打ち込み、強くなろうとしている。
それはすごく偉いし、誰にでもできる事じゃない。
彼女は本当に心が強いんだ。私と違って……
「ーーゆらちゃんはすごいね。毎日こんなに傷だらけになるまで修行して、がんばって……偉いよ。」
「……そんなことないです。私はまだまだ未熟なんや。お兄ちゃんにまったく歯が立たんかった……」
「でも、諦めずに努力するゆらちゃんは……やっぱりすごいと思うよ。」
「彩乃先輩……私、もっと強くなります。もっと……私が羽衣狐を倒すんや!」
「羽衣狐……」
意気込むゆらちゃんに微笑みながら、私は違うことを考えていた。
羽衣狐とはどんな妖なのだろう。
奴良組に戻ってから、奴良組の妖たちに友人帳の名を探してもらったが、羽衣狐の名は何故か見つからなかったのだ。
ゆらちゃんから羽衣狐の本名は「葛の葉」と聞かされて、妖の文字がわかる妖たちにその名が書かれた頁も探してもらったが、何故か見つからない。
本当に友人帳に羽衣狐の名などあるのだろうか。
ゆらちゃんも祖父からの手紙以外に手がかりがないのだと言う。
ーーもしも、レイコさんが名を奪ったというのが本当なら、羽衣狐はレイコさんとは友人だったのだろうか。
そんなことゆらちゃんには聞けないけれど、竜二さんが言っていた「器」とはどういう意味だろう。
私の祖父だという花開院家の人。羽衣狐と関係のあるレイコさん。
私にはまだまだ知らないことが多すぎるようだ。
(……やっぱり一度京都に行くべきなのかな……)
「彩乃さんお疲れ様です。あとは代わりますよ!」
「氷麗ちゃん」
「なっ!及川さん……いや!雪女やな!妖怪なんかの世話になるかーー!」
私がそんなことを考えていると、氷麗ちゃんがお茶を持って部屋に入ってくる。
するとゆらちゃんは嫌そうに顔を歪めると部屋を飛び出していってしまった。
「ゆらちゃん!?…………行っちゃった。」
「まったく……本当に落ち着きのない子なんだから……」
「氷麗ちゃんもありがとうね。リクオくんを助けに来てくれて。」
「そんなの当たり前じゃないですか!……それにしても彩乃さんがあの花開院家の血筋だったなんて……話を聞いた時には驚きました。」
「私もだよ。」
「……行かれるんですか?京都に。」
「うーん、どうかな。」
なんとも歯切れの悪い返事をする私を、氷麗ちゃんは心配そうに見つめてくる。
きっと妖怪である氷麗ちゃん的には行って欲しくないのだろう。
すごく不安そうな顔をしている。
「……私もどうしたいのか分からないの。祖父のことは気になる。でも……妖を絶対の悪だと決めつける陰陽師の思想は理解できない。もちろん、陰陽師全員がそんな思想の人ばかりだとは思ってないけど……」
「行くべきじゃありませんよ!それに今、京都は危険な場所になってるんでしょう?わざわざそんな所に彩乃さんが行く必要はありません!」
「……そう……だね。」
氷麗ちゃんの言葉はもっともなのに、どうしても祖父への思いが迷いを産む。
私はどうしたいんだろう。ここ最近の私はずっと迷ってばかりだな。
そんなことを思っていると、外の方でばしゃーんと池の方で大きな水音がした。
慌てて外に2人で出てみれば、そこには話し込むリクオくんとゆらちゃんがいた。
どうやら2人は2人で色々と話し込んでいたらしい。
リクオくんは一体ゆらちゃんに何をしたのか、ゆらちゃんは池の中でびしょ濡れだし、リクオくんは木の上で悠々と高みの見物をしている。
「まったく!なんて奴や!やっぱり妖怪は悪や!」
「ゆらちゃん大丈夫?」
「大丈夫です!……私は明日には京都に戻ります。先輩も一緒にどうですか?」
「え……」
突然のゆらちゃんからの誘いに私は戸惑う。
きっとゆらちゃんも私を心配してくれての言葉だろう。でも……
「ありがとうゆらちゃん……でも、私は……」
「……今すぐじゃなくてもええんです。……でも、先輩の力がきっと必要になる。……そんな気がするんや。だから……これ、家の住所です!!」
そう言うとゆらちゃんは私に花開院家の住所を書いたであろうメモを押し付けるように私の手に握らせると、元気よく立ち上がった。
「私はもう帰ります!」
「えっ、もう?」
「こんな所長居したないし!それじゃあ!」
「あ……」
そういうとゆらちゃんはさっさっと奴良組から逃げるように走り去っていった。
私はゆらちゃんから手渡されたメモを握りしめながら、これから先のことに不安を抱えていた。