第23章「いつかくる日編」
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翌日、彩乃と葵は手紙に書かれた住所に向かっていた。
場所は小さな教会で、香はそこで待っている。
葵は緊張した面持ちでネクタイを締め直すと、手ぐしで髪を何度も整える。
「ーーおい、歪んでないか?寝癖は?」
「大丈夫、男前だよ。」
「……なあ、あんた……何か隠してないか?」
「ーーえ?」
葵さんの言葉に思わずぎくりとする。変に反応したせいで、葵さんは私を訝しげな目で睨んでくる。
「何だ。言いたいことがあるなら言え!」
「……葵さんが素直になってくれたらいいなって思って。」
「何を訳の分からなんことを……」
私が笑って誤魔化すと、葵さんは意味がわからないと言いたげに眉をしかめるのであった。
「ーーしかし本当に世話になったな。やはり心残りだったのだ。ただ香を傷つけただけではないかと……でも新しい相手に出会えていたなら、幸せそうに笑うあいつを見られたなら……俺はきっとどこへでも行ける。」
そう言ってふわりと微笑む葵さんはどこか吹っ切れたようで、けれど何かを諦めたようなそんな頼りない笑顔にも見えた。
そんな時、バザバサと大きな羽音が聞こえてきたかと思えば、空から「おお、いたぞ」と声が降ってきた。
嫌な予感がして上を見上げると、そこにはいつかの葵さんを襲ってきた鳥の妖が何十匹も集まっていた。
「銅鷹の生意気な末弟子め!」
「この前はよくもやってくれたな!」
「そうだそうだ覚悟しろ!」
(……!こんな時に!)
「ーー下がってろ夏目。」
葵さんが私を背に庇おうとするが、それより先にニャンコ先生が本来の姿に戻って妖たちの前に立ちはだかった。
「下がっているのはお前も同じだ葵!」
カッ!!
「ぎゃぁぁ!眩しい!」
「ーーちっ、鳥共に光はあまり効かんか。」
「先生!」
「ニャンコ師匠!」
どうやらこの鳥の妖たちに先生の光はあまり効果がないようで、多少怯みはするが逃げようとはしなかった。
先生は大きな前足でなんとか鳥の妖たちをけちらそうとしている。
「ええい、うっとうしい!」
「ぎゃあぎゃあ」
ピュ!
「ぎゃっ!」
その時、不意に何処からか石が投げ込まれ、一匹の鳥の妖に小ぶりくらいの小さな石が当たった。
ハッとして私たちがそちらを見ると、香さんが立っていた。
どうやら石を投げたのは香さんだったようで、息を荒くして肩で息を吸っている様子を見ると、騒ぎを聞きつけてやって来てしまったらしい。
ここに来ては行けない人が来てはいけないタイミングで来てしまい、私たちは青ざめる。
「ーー香さん!?」
「香!?なんで……!」
「アオイちゃんたちに何するのよ!この!」
香さんは腕いっぱいに小石を持ってがむしゃらに妖たちに石を投げる。
しかしそれはあまり当たらずに、逆に鳥の妖たちの神経を逆撫でしてしまう結果になった。
「何だこの小娘!」
「きゃあ!痛い!」
「香!」
「香さん!」
鳥の妖の一匹が香さんの髪に掴みかかる。
思わず葵さんが駆けつけようとするが、それに気付いた妖が香さんの髪を掴んだまま警告する。
「動くな!余計なことをしたらこの小娘の目玉を抉りとるぞ!」
「香さん!」
「……っ、ふざけるなよ……香は関係ないだろ雑魚共が!」
「葵さんダメだ!」
「香はこれから幸せになるんだ!お前らなんかに……大事なそいつの邪魔はさせない!」
「アオイ…ちゃん……」
葵さんの言葉に香さんがくしゃりと顔を歪め、泣きそうな顔をする。
ぶわりと葵さんの髪が妖気でなびく。
葵さんから尋常でない殺気が溢れ、鳥の妖はビクリと羽を振るわせた。
「ひっ!ここ、小娘がどうなっても……」
「どうにかなるのはあなたの方よ!呪いの吹雪 "雪化粧" !」
ビュオオオ!
「え…!?」
聞き覚えのある声がしたと思えば、鳥の妖は次の瞬間には氷漬けになって粉々に砕け散った。
間違いない、この技は……
「氷麗ちゃんにリクオくん!?なんで??」
「葵さんたちが気になって来てみたんだ。間に合ってよかった。」
なんていいタイミングで来てくれたんだと彩乃は顔を輝かせる。
自由になった香さんはリクオくんたちに助けられ、ぽかんとしていた。
そんな香さんたちの元へ葵さんと私は慌てて駆け寄る。
「香、大丈夫か!」
「う、うん。」
「リクオ様、一気に片付けます!」
「頼んだ氷麗!」
そこからは氷麗ちゃんの無双だった。
鳥の妖を一気に何匹も吹雪で氷漬けにすると、勝ち目はないと思ったのか蜘蛛の子を散らすように鳥の妖たちは一目散に逃げていった。
「リクオ様!見てくれました?この氷麗の活躍!」
「うん、見た見た!ありがとう!」
「ーーちっ、余計なことを……」
つまらなそうにする先生。敬愛するリクオくんの前で大活躍できたのが余程嬉しかったのか、氷麗ちゃんは嬉しそうにはしゃぐ。
だけどそんな空気を壊すように怒声が響く。
それは葵さんだった。危うく怪我をするどころか命すら危なかったのだ。
葵さんが怒るのも無理はなかった。
「ーーバカか!なんで来た!それにお前、結婚式は……」
「えっ、あっ!ええと、それは……」
「…………騙したんだな?」
これから結婚するという割に、香さんの姿は私服のままだ。
それに流石にここで姿を見られて、葵さんに怪しまれてしまっては、誤魔化すのは難しかった。
葵さんが悔しげにギリっと歯を食いしばる。それに香さんは気まずそうに俯いた。
「……ごめんなさい。でも聞いてアオイちゃん!」
「帰る。もう二度と会うこともない。」
「そんな!待って葵さん!」
「ーーダメ!!」
葵さんが羽を広げて飛び立とうとすると、香さんは顔面蒼白になって葵さんに抱きついた。
それに葵さんは腹立たしげに舌打ちすると、無理やりにでも香さんを引き剥がそうとした。
「はなせバカ女!」
「ーーヤダ!」
「これで分かっただろ!俺とお前は違う存在なんだ!俺といたらまたこんな危険な目にあうぞ!」
「だから何よ!そんなの私が葵ちゃんより強くなればいいじゃない!」
「むちゃくちゃ言うな!はなせよ!俺は……!」
「はなさないわよ!はなすもんか!二度と……!やっと会えたのに!」
「っ!」
「もう逃げないで話をしようよ。」
「俺は……「妖でもアオイちゃんがいい!」……香……」
「アオイちゃん!アオイちゃん!アオイちゃん!…………そばにいて。」
涙を浮かべながら懇願するその願いはとても小さな声で、でもしっかりと葵の耳に届いた。
ぴたりと葵の動きが止まる。
「ーーきっと……後でもっと泣くことになるのに……」
「……そんなことない。……そんなことないよ。……私が……きっとそんなの、追い払ってやるわ。」
俯いて髪に隠れた顔さんの表情は見えない。
けれど、葵さんはゆっくりと香さんの肩から手を離すと、その手を背中に回して優しく抱き締めた。
「ーーわかってないな香。だから、嫌なんだ。だから……」
「大好き、葵ちゃん……」
「……ああ、俺もだよ。」
2人の選んだ応えがどんな結末になるかなんて誰にもわからない。
だけどその時吹いた一陣の風は、まるで二人のこの先の未来を祝福しているかのように……私には思えた。
ーーこうして、葵さんは香さんの元へ残ることになった。
*
「ーーあれから銅鷹様に会いに行って、門下を出た。破門にはしないから、気が変わったらいつでも戻ってきていいと仰ってくださったが……俺はもう戻らない。」
「そっか……」
「葵さえ良かったらいつでも奴良組に歓迎するよ。」
「それは……」
「まあ、なんにせよ。困ったことがあれば組の者じゃなくても訪ねてきてよ。」
「はは、ありがとうございます。リクオ様。」
あれから数日が経ち、私たちは葵さんに再会した。
葵さんの顔はどこかスッキリした様子で、色々と悩んでいたのが吹っ切れたようだった。
もしかしたら色々と諦めただけかもしれないけれど……
「……葵さんには悪いけど、私はなんだか嬉しいよ。」
「ーー夏目の家からそう近くはないが、悩みができたら相談くらいは乗ってやる。尋ねてこい。」
「ありがとう。……ごめんね葵さん。私、本当は招待状のこと……」
「ああ、いいさ。」
多分、葵さんは私が隠し事をしていたのは最初から分かっていたのだろう。
それでも詳しく問いたださずにいてくれた。
本当に優しい妖 だ。
「ーーそうだ。これ香から。あんたとリクオ様に礼だってさ。」
「……えっ、ありがとう。」
「おお!それは七辻屋限定のおはぎの包み!」
「ふふ、人の作る物の味を覚えると面倒ですね。」
そう言って葵さんから包みを奪い取る先生に呆れた目を向けつつ、葵さんはニャンコ先生に優しげな目を向けて言った。
「ーーニャンコ師匠もご苦労されますね。」
「阿呆め。感傷などまだまだガキだな。私は面白おかしく暇つぶしを楽しんでおるのだ!」
そう言っておはぎの包みを勝手に開けて食べ始める先生。
「ーーあっ!ちょっと先生!」
「ふふん!……葵よ、今はやりたいように生きるがいい。出会ってしまったならば。」
「ーーはい。」
そう言って、葵さんは羽を広げて何処かへと飛び去って行った。
きっと香さんの元へ戻ったのだろう。
ーー葵さんが言った。
泣くことになる、のはどちらのことだろうとふと思った。
いつか私も……
別れに怯えることより、誰かと一緒にいられることを想えるようになれるだろうか。
いつか……
それは……それはもしかしたら……
「ん?どうしたの彩乃ちゃん。」
「ううん、なんでもないよ。リクオくん。」
ーーリクオくんだったらいいなって、ほんの少しだけ思ったの。
場所は小さな教会で、香はそこで待っている。
葵は緊張した面持ちでネクタイを締め直すと、手ぐしで髪を何度も整える。
「ーーおい、歪んでないか?寝癖は?」
「大丈夫、男前だよ。」
「……なあ、あんた……何か隠してないか?」
「ーーえ?」
葵さんの言葉に思わずぎくりとする。変に反応したせいで、葵さんは私を訝しげな目で睨んでくる。
「何だ。言いたいことがあるなら言え!」
「……葵さんが素直になってくれたらいいなって思って。」
「何を訳の分からなんことを……」
私が笑って誤魔化すと、葵さんは意味がわからないと言いたげに眉をしかめるのであった。
「ーーしかし本当に世話になったな。やはり心残りだったのだ。ただ香を傷つけただけではないかと……でも新しい相手に出会えていたなら、幸せそうに笑うあいつを見られたなら……俺はきっとどこへでも行ける。」
そう言ってふわりと微笑む葵さんはどこか吹っ切れたようで、けれど何かを諦めたようなそんな頼りない笑顔にも見えた。
そんな時、バザバサと大きな羽音が聞こえてきたかと思えば、空から「おお、いたぞ」と声が降ってきた。
嫌な予感がして上を見上げると、そこにはいつかの葵さんを襲ってきた鳥の妖が何十匹も集まっていた。
「銅鷹の生意気な末弟子め!」
「この前はよくもやってくれたな!」
「そうだそうだ覚悟しろ!」
(……!こんな時に!)
「ーー下がってろ夏目。」
葵さんが私を背に庇おうとするが、それより先にニャンコ先生が本来の姿に戻って妖たちの前に立ちはだかった。
「下がっているのはお前も同じだ葵!」
カッ!!
「ぎゃぁぁ!眩しい!」
「ーーちっ、鳥共に光はあまり効かんか。」
「先生!」
「ニャンコ師匠!」
どうやらこの鳥の妖たちに先生の光はあまり効果がないようで、多少怯みはするが逃げようとはしなかった。
先生は大きな前足でなんとか鳥の妖たちをけちらそうとしている。
「ええい、うっとうしい!」
「ぎゃあぎゃあ」
ピュ!
「ぎゃっ!」
その時、不意に何処からか石が投げ込まれ、一匹の鳥の妖に小ぶりくらいの小さな石が当たった。
ハッとして私たちがそちらを見ると、香さんが立っていた。
どうやら石を投げたのは香さんだったようで、息を荒くして肩で息を吸っている様子を見ると、騒ぎを聞きつけてやって来てしまったらしい。
ここに来ては行けない人が来てはいけないタイミングで来てしまい、私たちは青ざめる。
「ーー香さん!?」
「香!?なんで……!」
「アオイちゃんたちに何するのよ!この!」
香さんは腕いっぱいに小石を持ってがむしゃらに妖たちに石を投げる。
しかしそれはあまり当たらずに、逆に鳥の妖たちの神経を逆撫でしてしまう結果になった。
「何だこの小娘!」
「きゃあ!痛い!」
「香!」
「香さん!」
鳥の妖の一匹が香さんの髪に掴みかかる。
思わず葵さんが駆けつけようとするが、それに気付いた妖が香さんの髪を掴んだまま警告する。
「動くな!余計なことをしたらこの小娘の目玉を抉りとるぞ!」
「香さん!」
「……っ、ふざけるなよ……香は関係ないだろ雑魚共が!」
「葵さんダメだ!」
「香はこれから幸せになるんだ!お前らなんかに……大事なそいつの邪魔はさせない!」
「アオイ…ちゃん……」
葵さんの言葉に香さんがくしゃりと顔を歪め、泣きそうな顔をする。
ぶわりと葵さんの髪が妖気でなびく。
葵さんから尋常でない殺気が溢れ、鳥の妖はビクリと羽を振るわせた。
「ひっ!ここ、小娘がどうなっても……」
「どうにかなるのはあなたの方よ!呪いの吹雪 "雪化粧" !」
ビュオオオ!
「え…!?」
聞き覚えのある声がしたと思えば、鳥の妖は次の瞬間には氷漬けになって粉々に砕け散った。
間違いない、この技は……
「氷麗ちゃんにリクオくん!?なんで??」
「葵さんたちが気になって来てみたんだ。間に合ってよかった。」
なんていいタイミングで来てくれたんだと彩乃は顔を輝かせる。
自由になった香さんはリクオくんたちに助けられ、ぽかんとしていた。
そんな香さんたちの元へ葵さんと私は慌てて駆け寄る。
「香、大丈夫か!」
「う、うん。」
「リクオ様、一気に片付けます!」
「頼んだ氷麗!」
そこからは氷麗ちゃんの無双だった。
鳥の妖を一気に何匹も吹雪で氷漬けにすると、勝ち目はないと思ったのか蜘蛛の子を散らすように鳥の妖たちは一目散に逃げていった。
「リクオ様!見てくれました?この氷麗の活躍!」
「うん、見た見た!ありがとう!」
「ーーちっ、余計なことを……」
つまらなそうにする先生。敬愛するリクオくんの前で大活躍できたのが余程嬉しかったのか、氷麗ちゃんは嬉しそうにはしゃぐ。
だけどそんな空気を壊すように怒声が響く。
それは葵さんだった。危うく怪我をするどころか命すら危なかったのだ。
葵さんが怒るのも無理はなかった。
「ーーバカか!なんで来た!それにお前、結婚式は……」
「えっ、あっ!ええと、それは……」
「…………騙したんだな?」
これから結婚するという割に、香さんの姿は私服のままだ。
それに流石にここで姿を見られて、葵さんに怪しまれてしまっては、誤魔化すのは難しかった。
葵さんが悔しげにギリっと歯を食いしばる。それに香さんは気まずそうに俯いた。
「……ごめんなさい。でも聞いてアオイちゃん!」
「帰る。もう二度と会うこともない。」
「そんな!待って葵さん!」
「ーーダメ!!」
葵さんが羽を広げて飛び立とうとすると、香さんは顔面蒼白になって葵さんに抱きついた。
それに葵さんは腹立たしげに舌打ちすると、無理やりにでも香さんを引き剥がそうとした。
「はなせバカ女!」
「ーーヤダ!」
「これで分かっただろ!俺とお前は違う存在なんだ!俺といたらまたこんな危険な目にあうぞ!」
「だから何よ!そんなの私が葵ちゃんより強くなればいいじゃない!」
「むちゃくちゃ言うな!はなせよ!俺は……!」
「はなさないわよ!はなすもんか!二度と……!やっと会えたのに!」
「っ!」
「もう逃げないで話をしようよ。」
「俺は……「妖でもアオイちゃんがいい!」……香……」
「アオイちゃん!アオイちゃん!アオイちゃん!…………そばにいて。」
涙を浮かべながら懇願するその願いはとても小さな声で、でもしっかりと葵の耳に届いた。
ぴたりと葵の動きが止まる。
「ーーきっと……後でもっと泣くことになるのに……」
「……そんなことない。……そんなことないよ。……私が……きっとそんなの、追い払ってやるわ。」
俯いて髪に隠れた顔さんの表情は見えない。
けれど、葵さんはゆっくりと香さんの肩から手を離すと、その手を背中に回して優しく抱き締めた。
「ーーわかってないな香。だから、嫌なんだ。だから……」
「大好き、葵ちゃん……」
「……ああ、俺もだよ。」
2人の選んだ応えがどんな結末になるかなんて誰にもわからない。
だけどその時吹いた一陣の風は、まるで二人のこの先の未来を祝福しているかのように……私には思えた。
ーーこうして、葵さんは香さんの元へ残ることになった。
*
「ーーあれから銅鷹様に会いに行って、門下を出た。破門にはしないから、気が変わったらいつでも戻ってきていいと仰ってくださったが……俺はもう戻らない。」
「そっか……」
「葵さえ良かったらいつでも奴良組に歓迎するよ。」
「それは……」
「まあ、なんにせよ。困ったことがあれば組の者じゃなくても訪ねてきてよ。」
「はは、ありがとうございます。リクオ様。」
あれから数日が経ち、私たちは葵さんに再会した。
葵さんの顔はどこかスッキリした様子で、色々と悩んでいたのが吹っ切れたようだった。
もしかしたら色々と諦めただけかもしれないけれど……
「……葵さんには悪いけど、私はなんだか嬉しいよ。」
「ーー夏目の家からそう近くはないが、悩みができたら相談くらいは乗ってやる。尋ねてこい。」
「ありがとう。……ごめんね葵さん。私、本当は招待状のこと……」
「ああ、いいさ。」
多分、葵さんは私が隠し事をしていたのは最初から分かっていたのだろう。
それでも詳しく問いたださずにいてくれた。
本当に優しい
「ーーそうだ。これ香から。あんたとリクオ様に礼だってさ。」
「……えっ、ありがとう。」
「おお!それは七辻屋限定のおはぎの包み!」
「ふふ、人の作る物の味を覚えると面倒ですね。」
そう言って葵さんから包みを奪い取る先生に呆れた目を向けつつ、葵さんはニャンコ先生に優しげな目を向けて言った。
「ーーニャンコ師匠もご苦労されますね。」
「阿呆め。感傷などまだまだガキだな。私は面白おかしく暇つぶしを楽しんでおるのだ!」
そう言っておはぎの包みを勝手に開けて食べ始める先生。
「ーーあっ!ちょっと先生!」
「ふふん!……葵よ、今はやりたいように生きるがいい。出会ってしまったならば。」
「ーーはい。」
そう言って、葵さんは羽を広げて何処かへと飛び去って行った。
きっと香さんの元へ戻ったのだろう。
ーー葵さんが言った。
泣くことになる、のはどちらのことだろうとふと思った。
いつか私も……
別れに怯えることより、誰かと一緒にいられることを想えるようになれるだろうか。
いつか……
それは……それはもしかしたら……
「ん?どうしたの彩乃ちゃん。」
「ううん、なんでもないよ。リクオくん。」
ーーリクオくんだったらいいなって、ほんの少しだけ思ったの。